「微表情の犯罪者検知率はたったの1%」これでは使えないのか?

「微表情の犯罪者検知率はたったの1%」これでは使えないのか?

Gerd Altmann via Pixabay

 2018年10月2日付の投稿で「『微表情を読む技術は使えない』説の誤解を説く」と題した記事を書きました。その記事では、微表情を批判する論拠となっている有名な論文の問題点をあげ、微表情を読む技術が有効であることを論じました。

 今回は、微表情の有効性を否定する論拠としてよく取り上げられる別の事例、すなわち、空港警備における微表情検知の問題を通じて微表情の可能性について論じたいと思います。

◆微表情で犯罪者を検知できる割合は1%以下!?

 2010年に発表されたレポートによると、アメリカの161の空港で勤務する3,000人以上の空港警備に関わる職員が、微表情検知を含む乗客の異常行動を検知するプログラムを受けているとのことです。

 このプログラムを受けた職員が、2006年1月から2009年11月にかけて最初のスクリーニングをパスさせず第二スクリーニングに回すと判断した乗客の数は232,000人おり、そのうち実際に逮捕された乗客の数は、1,710人であったことがわかっています。

 逮捕に至っていない乗客を確実に無実の者と単純に考えると、職員が「おかしい」と判断した乗客の約0.7%だけが真におかしかった、つまり、本当の犯罪者だったということになります。

 このデータをもって、微表情は「使えない」と主張する方々がいます。しかし、私はそうは思いません。理由は2つあります。一つは、一つの事例から一般化をすることはおかしい、ということです。

◆誤判定の事例を広い角度で捉えることが不可欠

 もう一つは、検知対象者が極少数の場合、たとえ精度の高い検知ツールを用いたとしても誤判定は多く出る性質にある、ということです。

 一つ目の理由は単純です。「空港警備で微表情は使えない」が事実であったとしても、その一つの事例から「どこでも微表情は使えない」という一般化をすることはおかしい、ということです。

 これは微表情に限らず、様々な話題で観られ、議論に慣れていない方がよくする論法です。

 少数の事例を持って、「○○は使える」「▽▽は使えない」と断じます。広く全体を観ずに少数の事例だけを恣意的にピックアップすれば、何でも自分の考えにあった事例を見つけ出すことができます。

 代替療法、健康・美容器具、超常現象などなどでおなじみです。微表情が使える・使えないを一般化して論じたいならば、様々な状況別のデータを得、論じなくてはなりません。

 なお、私は、微表情の専門家であり、当然、微表情肯定派ですが、微表情がどんな状況でも有効であるとは思いません。

 どんなとき有効か有効ではないかは、大まかには過去記事「『微表情を読む技術は使えない』説の誤解を説く」で、より具体的には過去記事の様々な場面で論じてきましたので、ここでは繰り返しません。

◆悪意検知率90%のツールは何人誤検知するか?

 そして、二つ目の理由です。テロリストや犯罪者、危険人物といった空港での検知対象者は、何の問題もない普通の乗客に比べ極少数であるため、100%の検知ツールでない以上、誤判定・誤検知は多く出てしまう、ということです。簡単な数字を使ってシュミレーションしてみます。

 ある施設利用者が10,000人いるとします。その中で何らかの騒動を引き起こそうと悪意を抱いている犯罪者が10人いるとします。

 この犯罪者を捕まえるために、悪意検知率90%を誇る悪意発見器を施設の入場ゲートに設置します。この機器は、犯罪を行おうとする悪意を90%の精度で正しく検知し、その悪意の有無を10%の精度で間違えるというツールです。

 入場ゲートでアラームが鳴ったらその人物を捕まえます。果たして、何人の犯罪者を捕まえることが出来るでしょうか。

 正解は、もちろん9人の犯罪者を捕まえることが出来ます。しかし、悪意のない普通の施設利用者を間違えて、999人捕まえてしまうことになります。確率を計算すると次の表のようになります。

 悪意発見器が「おかしい」と検知した利用者の約0.9%(9/1,008人)が真におかしかった、つまり、本当の悪意がある犯罪者ということになります。こうした誤検知問題は、がん検診やドーピング検査でもおなじみです。検知対象者が少ないと起きてしまうのです。

 こうした弱点を認識した上で微表情の使いどころや使うか使わないかを議論するべきだと思います。

 誤検知された普通の人が被るコストと犯罪者を捕まえたときのベネフイットと比べたとき、社会的な幸福は向上するでしょうか。それとも低下するでしょうか。起きる犯罪のレベルによって結論は変わるでしょう。

 ハイジャックは爆発物を用いたテロなど、ひとたび発生すれば多大な被害が生じます。そんな場合、犯罪予備軍を捕まえるベネフイットはコストよりもずっと大きくなるでしょう。

◆完璧なツールなど存在しない

 また、そうであるからといって、誤検知によるコストを放置しておくことは良いことではなく、コストを減らす努力--微表情を含む様々な人の「心」を検知するツールやプログラムの精度向上や開発―は継続的に研究されるべきです。

 しかし、人間の心とその表出、そして行動が、単純な原因と結果という一直線で結べない複雑系である以上、100%の精度を持つウソ発見器やウソ検知法が開発されることは期待できません。複雑系の現象を100%明確に解明することは不可能だと言っても過言ではないでしょう。

 したがって、表面上に出てきた数値だけを見て、「完璧ではないツールは使えない」と切り捨て、可能性のある使い方を検討しないのは、考えることの放棄であると言わざるを得ないでしょう。

 微表情検知スキルは使えるか、使えないか。それは微表情が生じる状況を考慮せずには論じられません。

 また、単一事例だけでも判断出来ません。さらに微表情そのものの問題ではなく、原理的な問題にも目を向ける必要があります。完璧を求めることは出来ません。今、あるもので何が出来るか。工夫と考え方次第で、未来の安全は変わるでしょう。

参考文献

Weinberger, S. (2010, May 26). Airport Security: Intent to Deceive?. Nature, 456, 412-415

<文/清水建二>

【清水建二】

株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役・防衛省講師。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16・19」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『ビジネスに効く 表情のつくり方』(イースト・プレス)、『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。

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