「モラハラ妻」はモラ夫からの攻撃に耐えるために同化した結果<モラ夫バスターな日々36>

「モラハラ妻」はモラ夫からの攻撃に耐えるために同化した結果<モラ夫バスターな日々36>

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◆弁護士・大貫憲介の「モラ夫バスターな日々<36>

 「モラハラはお前だ」、「お前がモラ妻」と、主人から言われた――。

 法律相談に来た30代後半の女性は、そう言った。

 そして「私、料理下手だし、掃除もきちんとできません。主人から何か言われたら、言い返すし、子どもにきつく当たることもある」と説明した。

 女性は「私は、モラ妻でしょうか?」と私に訊いた。

◆モラ夫、モラハラの定義をおさらいする

 さて再度、モラ夫、モラハラの定義(大貫説)をいおう。

 モラ夫とは、「男尊女卑などの社会的文化的規範群(モラ文化)を背景に、妻に対する支配を確立、強化、維持しようとする夫」をいう。モラハラとは、「妻に対する支配を確立、強化、維持のために行うモラ夫の言動」をいう。

 そして残念ながら、日本の社会はいまだ、江戸中期に始まる女大学(おんなだいがく、未婚女性に対する人生訓・文化的規範)や、明治政府の推し進めた良妻賢母主義の強い影響下にあり、男尊女卑等の文化を背景に、モラ夫やモラハラが蔓延している。日本の男性の多くは、甘やかされて育ち、女性に対する優越を当然のこととして生きている。

 他方、女性は夫のため、子どものため、家庭の維持のため、我慢することを余儀なくされ、夫に従属している。

 モラ文化においては、男性が支配者であり、女性は従属者である。そして、男性は、社会化(幼少時、社会的文化的規範を取り込むこと)の過程で、モラ文化を内在化させ、モラ夫予備軍として育ち、女性は「女らしく」育てられる。

 以上、「モラ夫」には、その背景にモラ文化があり、モラ夫を支えているが、「モラ妻」にはそれを支える文化的背景はない。すなわち男女は非対称であって、「モラ夫」と「モラ妻」を並列させると本質を隠蔽してしまう。

◆「モラ夫」と「モラ妻」は非対称のものである

 以上を前提としてもなお、自らが「モラ妻」ではないかと悩む妻は少なくない。夫と妻のどちらがモラなのか?以下、いくつかの視点を示す。

視点1

 モラは他責的であり、被害者は自責的である。夫が、「お前(妻)が悪い」と言っていればほぼ間違いなく、夫はモラである。なお、「俺の言い方も厳し過ぎた」などの「反省」は、一見自責的ではあるが、その本質は、他責的である。すなわちこの「反省」は、「お前(妻)が悪い」を前提としている。

視点2

 モラ夫は妻に対して、自らを優越的地位におき、妻を「指導」する。掃除について、料理について、育児について、その他の家事や妻の言動等についてモラ夫は、妻を批判し、ディスるのである。もしも家事、育児について、日常的に夫の「指導」があれば、彼はモラ夫である。

 イコールパートナーであれば、平等な取決めやお願いになるはずであり、「指導」はしない。

視点3

 例えば夫に対して言い返し、子に対して厳しく叱っているとする。そして、それらが感情的な場合や、夫や子を非難するようなものであれば、妻による反撃自体もモラ(ないしモラ類似)の可能性がある。

 しかし殆どの場合、モラ被害に対する防御反応であり、モラ夫のモラ攻撃によって引き起こされていると言ってよい。 現にモラ夫と別居すると、モラ的反撃や八つ当たりは、急激に減っていく。

視点4

 モラ夫からモラ攻撃を受け続けるうちに、モラ夫に同化していく妻もいる。特に、自分が支配的立場に立てる子どもに対してモラ攻撃を始めることがある。誤解を恐れずに言えば、昭和時代、モラ夫に同化した妻は、ごくありふれた存在だったように思う。

 モラ文化の真髄である「妻はこうあるべき」「妻の義務」「夫を敬え、感謝しろ」をそっくり親子に適用して、妻が「子はこうあるべき」「子の義務」「親を敬え、感謝しろ」と考え、その考えに従って、叱責、「指導」しているとしたら、モラ夫に同化している可能性が高い。

 以上の各視点から、各事案を客観的に観察すれば、「(私は)モラ妻か」と悩んでいる妻の殆んどは、むしろ被害者である。

◆モラ化した両親から、子どもは二重の被害を受けることになる

 夫婦間モラは、男尊女卑を背景とする性加害の一類型である。痴漢が痴漢脳(「被害者は被害を喜んでいる」などといった、痴漢常習者にみられる認知の歪みが集積した状態)になるように、モラ夫はモラ脳(「俺が怒るのは妻が原因」などモラ夫特有の認知の歪みが集積した状態)になる。  

 モラハラでは、他の性加害同様、被害妻の人格や人権が無視される。

 また、モラハラは、他のハラスメントとも共通性を有する。パワハラや毒親ハラスメントと、モラ夫によるモラは、その手法やモラ加害者の考え方に類似性がある。

 冒頭の相談者の説明は自責的であり、モラ被害者とみてよい。おそらく料理や家事、育児について、モラ夫から、日々ディスられて自信を喪失し、自責しているのだろう。(子どもに対する)モラ的反撃を引き起こしていることから見ると、夫からのモラ被害を遮断するためにも、別居(そして離婚)に進むしかないと思われる。

 万が一婚姻状態が続くと、被害妻も、モラ夫に同化していく恐れがある。同化することにより精神の崩壊を免れ得るが、子どもは、両方の両親からモラ攻撃を受けることになる。子どもの福祉のためにも、子どもの被害について、真剣に向き合う必要がある。

<文/大貫憲介 漫画/榎本まみ>

【大貫憲介】

弁護士、東京第二弁護士会所属。92年、さつき法律事務所を設立。離婚、相続、ハーグ条約、入管/ビザ、外国人案件等などを主に扱う。著書に『入管実務マニュアル』(現代人文社)、『国際結婚マニュアルQ&A』(海風書房)、『アフガニスタンから来たモハメッド君のおはなし〜モハメッド君を助けよう〜』(つげ書房)。ツイッター(@SatsukiLaw)にてモラ夫の実態を公開中

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