一発ヒットを出し、その後描けなくなった漫画家宅で見た人生の明暗<不動産執行人は見た44>

一発ヒットを出し、その後描けなくなった漫画家宅で見た人生の明暗<不動産執行人は見た44>

Naoaki / PIXTA(ピクスタ)

◆「一発屋」という人生

 冷静に考えると“一発”でもヒットを飛ばしているということは、宝くじに当たると同等の幸運であり、更にその幸運を作品の持つ力が引き寄せたとあれば偉業にほかならない。だが、どうも嘲笑の対象とされがちなのが「一発屋」である。

 かく言う筆者自身も2005年にファミリーコンピュータ向け大ヒットゲーム「スーパーマリオブラザーズ」の楽曲を利用した、『B-dash!』にてスマッシュヒットを飛ばした経験を持つ「一発屋」の1人だ。

 筆者の場合は幸運が幸運と重なり、さらなる幸運を呼び寄せたという稀な事例でもあるため、実力の部分が影響を及ぼしたヒットでないことを自認している。

 そのため今では「一発屋」を自虐的な名刺代わりとして使わせてもらっている程度だ。

 そんな耳慣れた「一発屋」という言葉に、差し押さえ・不動産執行の現場で出会うという事案もあった――。

「うちの旦那、一発屋なんですよ」

◆一発当てた後は、工場でバイト

 まだ10年も経っていない新興住宅地、日当たりもよく、女性受けのよさそうな可愛らしい建売住宅でそんな話を聞いている。

 「それまではコツコツ真面目に描いてたんですけど、一発当たってからは調子に乗って全然描かなくなっちゃって」

 債務者である“旦那”はどうやら漫画家らしい。

 “一発”当てたまでは良かったが次作制作へのハードルを自身で上げてしまったためか、筆は進まずそこからの収入は細る一方。

 漫画やイラストに対して中途半端な関わり方も出来なくなってしまった債務者は、細々と工場のバイトで稼いだカネを家計の足しにしていたようだが、それでも住宅ローン返済が追いつかなくなり今回の事態に至っている。

 数ヶ月前より現実逃避のような別居状態がスタート、この日の執行にも立ち会うことはなかった。

 債務者宅はどこもキレイに整頓されており掃除も行き届いている。

 かつては債務者の作業場として使われていたのであろう部屋には、彼の手掛けたヒット作がテレビアニメ化された際に撮られたとみられるスタッフ集合写真、テレビドラマ化の際に出演者や関係者から送られたとみられる寄せ書きなどが誇らしげに飾られていた。

 この部屋にも整頓や清掃は行き届いており、“作業場”との言葉がふさわしくないほどに“作業”の痕跡は見られなかった――。

◆突然訪れた身に余る幸運は、やがて不幸へと着地する

 突然“一発”当てることが出来ると、これまでの延長線上では考え難い金・人が目まぐるしく動き出すことになる。

 これらは渦中の人が持つ思想や生活を吸い込み、破壊しながら勢力を増す台風のようにやってくる。

 そして台風は去る。

 どこか温かみの感じられるこの強風に煽られ心地よく舞い上がってしまうと、その直後には冷たい地面へと叩きつけられることになる。必要とされるのは、舞い上げられない姿勢のとり方だ。

 今回の事例では“一発”の当たりが差し押さえ・不動産執行という不運を招く形となってしまった。これは何も、作品作りをしている人間に限った話ではない。

 宝くじでの当選、保険金受取、遺産相続、FX投資、万馬券。

 昨今ではインターネット上への動画やSNS投稿が脚光を浴び一躍時の人にという事例もあれば、一般的な人物を取り上げる番組から突然有名人にという事例すらある。

 不幸や不運がある日突然やってくるのと同じように、当たりや幸運もある日突然にやってくる。

 せっかく訪れた幸運に舞い上がってしまうと、これまで地道に築いてきた生活から遠く離れ、最終的には不運という着地点に落下してしまう事例も少なくない。

◆良くも悪くも生活が一変する可能性は誰にでもある

 一時の不運や幸運も人生の通過点でしか無い。

 たとえ差し押さえ・不動産執行に見舞われるほどの債務不履行に陥ろうとも意識を切り替え新たな生活を送るより他ない。

 幸運が不運の起因となってしまうケースが多いように、不運が幸運の起因になったという事例が増えてくれればよい。このような事例は年に1〜2例あるかないかだが。

 突然降りかかる不幸・不運に備えるという意識は重要。

 ところが幸運に備えることは冒頭に登場した“一発屋”同様、「捕らぬ狸の皮算用」と嘲笑の対象とされがちだ。

 突然降りかかる不運にせよ幸運にせよ、これまでの生活を一変させる可能性は十分にある。そんな可能性について家族や同居人と意見を交換しておくことは、大切な備えと言えるのではないだろうか。

<文/ニポポ>

【ニポポ】

ニポポ(from トンガリキッズ)●2005年、トンガリキッズのメンバーとしてスーパーマリオブラザーズ楽曲をフィーチャーした「B-dash!」のスマッシュヒットで40万枚以上のセールスとプラチナディスクを受賞。また、北朝鮮やカルト教団施設などの潜入ルポ、昭和グッズ、珍品コレクションを披露するイベント、週刊誌やWeb媒体での執筆活動、動画配信でも精力的に活動中。

Twitter:@tongarikids

オフィシャルブログ:団塊ジュニアランド!

動画サイト:超ニポポの怪しい動画ワールド!

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