田代まさし再逮捕報道の異常さ。メディアこそ「ゴシップ依存」離脱を

田代まさし再逮捕報道の異常さ。メディアこそ「ゴシップ依存」離脱を

Vidmir Raic via Pixabay

 覚せい剤取締法違反(所持)の疑いで田代まさし容疑者が宮城県警に逮捕された。5度目となる逮捕にネット上では「またか」「裏切られた気持ち」といったコメントが上がっているが、それだけではなくワイドショーなどのメディアも、大臣が早々に2人も辞任し、利権まみれの大学入試共通テスト問題など、社会に大きな影響がある現政権のことをそっちのけで延々とこのニュースを取り上げている。

◆厳罰化を訴えるコメンテーターまで……

 しかし、5回目の逮捕とは言え、その報道は極めて異常だ。そもそも、現段階ではあくまで容疑にしかすぎない。中立の立場にあるべきメディアが、容疑が確定する前から断罪し、専門家でもないコメンテーターが“感想”を述べるのは極めて不自然だ。

 例えば、TBSの情報番組「グッとラック!」では、落語家の立川志らく氏が「社会からの支援が必要なんだけど、最初から治るまである程度、刑務所に入れとくとか、ちょっと罪を重くするってことはできないんですかね。結構早く出てくるでしょ。出て来てまた捕まる。捕まるたびに一方ではとんでもない犯罪者だ、一方では病気だって議論になるわけですよね」と、厳罰化を訴えている。

 ワイドショーのコメンテーターについてはこれまでも疑問視する声は少なくなかったが、薬物治療の専門家ではない素人が公共の場で依存症を語るのは極めて危険なことだ。

◆お馴染みの自粛も

 こういった報道だけでなく、もはやお馴染みとなった放送・公開の自粛も行われている。今年7月に田代氏が出演したNHKの「バリバラ」の動画は公式サイトやYoutube上で公開されていたが、逮捕を受けて非公開にされてしまった。

 企業イメージを大切にするスポンサーのついた番組ならともかく、NHKは公共放送だ。さらに田代氏が出演する番組は薬物依存の実態について語ったもので、薬物の危険性や適切な治療の必要性について語ったものだった。

 一方では容疑の段階でバッシングを行い、もう一方では“なかったことにする”という報道の仕方には、薬物依存への対策という観点からも、報道のあり方という観点からも疑問を抱かずにはいられない。

◆ガイドラインから逸脱した報道

 こういったメディアの報道の仕方に対して、‘16年には依存症治療・回復関係団体と専門家によって「依存症問題の正しい報道を求めるネットワーク」が結成された。同団体が提案した薬物報道のガイドラインは、下記のような内容となっている。(参照:依存症問題の正しい報道を求めるネットワーク)

【望ましいこと】

・薬物依存症の当事者、治療中の患者、支援者およびその家族や子供などが、報道から強い影響を受けることを意識すること

・依存症については、逮捕される犯罪という印象だけでなく、医療機関や相談機関を利用することで回復可能な病気であるという事実を伝えること

・相談窓口を紹介し、警察や病院以外の「出口」が複数あることを伝えること

・友人・知人・家族がまず専門機関に相談することが重要であることを強調すること

・「犯罪からの更生」という文脈だけでなく、「病気からの回復」という文脈で取り扱うこと

・薬物依存症に詳しい専門家の意見を取り上げること

・依存症の危険性、および回復という道を伝えるため、回復した当事者の発言を紹介すること

・依存症の背景には、貧困や虐待など、社会的な問題が根深く関わっていることを伝えること

【避けるべきこと】

・「白い粉」や「注射器」といったイメージカットを用いないこと

・薬物への興味を煽る結果になるような報道を行わないこと

・「人間やめますか」のように、依存症患者の人格を否定するような表現は用いないこと

・薬物依存症であることが発覚したからと言って、その者の雇用を奪うような行為をメディアが率先して行わないこと

・逮捕された著名人が薬物依存に陥った理由を憶測し、転落や堕落の結果薬物を使用したという取り上げ方をしないこと

・「がっかりした」「反省してほしい」といった街録・関係者談話などを使わないこと

・ヘリを飛ばして車を追う、家族を追いまわす、回復途上にある当事者を隠し撮りするなどの過剰報道を行わないこと

・「薬物使用疑惑」をスクープとして取り扱わないこと

・家族の支えで回復するかのような、美談に仕立て上げないこと

 今回の報道については、このガイドラインと照らし合わせながら、どこがガイドラインを守ろうとしているか、無視しているかを見てみるのもいいだろう。

◆海外での報道はあくまで事実関係のみ

 同じ覚せい剤所持の容疑で逮捕されたことのある人物からは、次のような声もあがっている。取材に答えてくれたのは、藤本隆志氏(仮名・50代)だ。

「寄ってたかって晒し者にするような報道の仕方はどうかと思います。いまだに刑務所に入れれば自然と止められるような印象を持っている人が多いのも問題です。薬物依存で必要なのは治療であって、いくら罰を重くして無関係な人間がクスリの危険性を訴えたところで効果はありませんよ」

 こういった当事者の“声”を奪うことも報道の問題点なのかもしれない。海外では薬物依存に苦しんだ、苦しんでいることを積極的に発信するアーティストも少なくない。

 10月末には俳優マイケル・ダグラス氏の息子、キャメロン・ダグラス氏が、薬物依存の苦しさを打ち明けて大きなニュースとなった。(参照:VARIETY)

 また、9月には人気メタルバンドMETALLICAのフロントマン、ジェームズ・ヘットフィールドが依存症の治療をするためにツアーをキャンセルすることを発表した。この発表に対しても、ファンからは彼を気遣うようなコメントや回復を願うコメントが寄せられており、メディアも発表に対して是非を問うような報道はしていない。むしろ同業のミュージシャンからは、彼の依存症との戦いに勇気をもらった、その姿勢にインスパイアされたという声があがっているほどだ。(参照:RollingStone)

 薬物乱用の防止、そして当事者の治療をするためには、それを取り囲む社会も変わらなければいけない。ゴシップに依存したメディアにも早期の対策が求められる。

<取材・文/林 泰人>

【林泰人】

ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン

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