JR西日本、終電繰り上げ方針。追従する事業者や少ないものの、日本で終夜運転が難しい理由とは?

JR西日本、終電繰り上げ方針。追従する事業者や少ないものの、日本で終夜運転が難しい理由とは?

photo via Ashinari

 先月24日、JR西日本が明らかにした近畿エリア在来線の“終電繰り上げ”方針が話題になっている。新聞報道などによれば、2021年春のダイヤ改正を目標に京阪神エリアにおける終電の時刻を30分ほど早める方向だというのだ。

◆背景には保守作業員不足が

 これを受けて、飲食店などからは売り上げにマイナスの影響が出そうだという声が上がる一方で、「仕事を早く切り上げやすくなる」と歓迎する会社員の声なども報じられていた。この終電繰り上げの目的はどこにあるのか。鉄道ライターの境正雄氏は次のように語る。

「JR西日本の発表によると、深夜帯に行われている保守作業の作業員確保という目的が大きいようです。線路や架線の保守は鉄道の安全運行には欠かせない作業ですが、運転本数の多い都市部では日中の保守作業は難しい。そこで夜間、終電から始発までの3〜4時間程度を使って行われています。当然、楽な仕事ではなく、作業員の確保が厳しくなりつつあるようです」

 実際、JR西日本の発表ではここ10年で線路保守の作業員が20%以上減っているという。終電を繰り上げることによってこの保線作業に使える時間を増やし、結果として休日を増やすことで作業員の労働環境を改善、人員確保につなげたいというわけだ。

「夜間の保守作業は終電後すぐ取り掛かれるわけではなく、列車の運行が完全になく安全が確保されたことが確認されなければ始められません。同様に始発直前まで作業ができるわけでもないので、実際の作業時間は2〜3時間程度といいます。終電から始発までの時間が増えれば作業にもゆとりがでて、安全性にも寄与するのではないでしょうか」

◆深夜0時以降の利用者は減少中

 さらに近年の“働き方改革”の成果なのか、深夜0時以降の利用者数が大きく減少しているという。そうした事情も考えれば、終電時刻を繰り上げるというJR西日本の方針も無理はないと思える。ただ、現状ではJR西日本以外の事業者に追随する動きは見られない。

「国内の鉄道の終電時刻は首都圏や京阪神などの都市部で深夜1時前後、地方では23〜24時となっています。またJRと比べると私鉄の終電は早い傾向にあり、時間にすると30分ほどは早く設定されているケースが多いですね。ですから、今回のJR西日本の終電繰り上げは結果として私鉄各線と同じくらいの終電時刻になると考えられます」

◆首都圏では現状変わらず

 もともとJRに対して終電の早い私鉄があえて繰り上げに追従する必要もないということか。では、深夜1時を過ぎて終電が発車する首都圏ではどうか。JR東日本は終電繰り上げを検討していないという。

「深夜帯の利用者数の動向や保守作業員確保の状況がわからないと確かなことは言えませんが、少なくとも終電繰り上げは利便性を一定程度損なうことは間違いありません。ですから、簡単に終電繰り上げに踏み切れないのも致し方ないでしょう」(境氏)

 むしろ、首都圏では2012年に就任した当時の猪瀬直樹東京都知事が都営地下鉄・都営バスの終夜運転を打ち出すなど、終電繰り上げとは逆行した動きが見られたこともあった。実際、猪瀬元知事の旗振りで六本木と渋谷を結ぶ都営バスの終夜運転を曜日限定で実施している。

 しかし、このバスの終夜運転は利用者数の低迷や猪瀬元知事の辞職もあって尻すぼみ。2013年冬の開始から1年を待たずに終了している。

「猪瀬元知事は地下鉄の終夜運転にも積極的な姿勢を示していました。その際に先例として挙げられたのがニューヨークの地下鉄。確かにニューヨークでは地下鉄が終夜運転をしていますが、それは複々線の線路の半分だけを使って残りで保守作業をすることができるから。複線であるうえ、私鉄との相互直通運転をしている東京の地下鉄での終夜運転は現実的ではありません。そもそも終夜運転は保守作業の問題を横に置いても人件費等の問題であまり効率のいいものではなく、事業者の立場に立てば積極的になれないのは当たり前でしょう」

◆期間限定の終夜運転は継続か

 世界的に見れば、ロンドンの地下鉄が2017年から終夜運転を開始するなど、24時間運転に前向きな事例も見られる。ただ、少なくとも国内、さらに言えば京阪神エリアでは人件費の問題も考えれば終夜運転どころか終電繰り上げのほうが現実に即しているということなのだろう。

「もちろん今でも大晦日から元旦にかけては多くの事業者で終夜運転を行なっていますし、2002年のサッカーW杯でも終夜運転が行われています。来年の東京五輪でも終電を最大90分繰り下げることが決まっているように、今後も状況に応じた臨時の対応は続けられると思います。ですが、長い目で見れば全国的に終電は繰り上げられる方向に向かうのでは」

 そもそも、JR西日本がみどりの窓口の無人化を進めるなど、人口減少に伴う人員確保という問題は鉄道の世界でも顕在化しつつある。そうしたなかで安全性を損なわずに業務の効率化をすすめ、同時に職員の待遇を改善していくことは喫緊の課題といえるだろう。そうした視点に立てば、30分程度の終電繰り上げなら利用者も受け入れるしかなさそうである。

<取材・文/HBO編集部>

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