地方創生にゆるく携わる人を増やす。マグマシティ・鹿児島市の取り組みとは

地方創生にゆるく携わる人を増やす。マグマシティ・鹿児島市の取り組みとは

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◆地方創生の「関わりしろ」。鹿児島市の事例

 鹿児島市は人口約60万人が暮らす都市。西郷隆盛や大久保利通など、日本の近代化に大きく貢献した偉人の生誕地として知られる。また、「名山」と称されるほどの雄大な桜島はもとより、約270もの数を誇る源泉や、さつま揚げ、黒豚、焼酎に代表される食やお酒など、観光地としても国内外のツーリストから親しまれている都市である。

 さらに、都市機能が中心地に集中しながらも、郊外へ車を走らせれば、豊かな自然の恵みが豊富だ。そんな薩摩の歴史と桜島に代表される風光明媚な景観を持つ鹿児島市だが、2019年3月には「あなたとわくわく マグマシティ」をコンセプトに、市内外問わず「鹿児島ファンを増やす」ための取り組みやまちづくりを推進している。

 その一環で企画されたのが「かごコトアカデミー」だ。以前、取材した「『地域外の人との交わり』がないと地方は死ぬ。生き残りを賭けた飛騨市の取り組み」の中で語られていた関係人口を育成するための講座や、鹿児島市現地のフィールドワークを通して「関わりしろ」を発見するプログラムが用意されている。

 今回は筆者が現地フィールドワークに参加し、鹿児島で行われているまちづくりの事例をもとに、鹿児島市との関わりしろについて考察していきたいと思う。

◆人間関係の希薄化をなくしたい。「騎射場のきさき市」の取り組み

 鹿児島中央駅から市電を使って10〜20分ほどで「騎射場」駅に着く。この辺り一帯は、かつて薩摩藩が騎乗して弓を射る場として使っていたことから、この名が付いたとのこと。

 騎射場「のきさき市」は、軒先やガレージ、空き店舗を使ったフリーマーケットイベント。2015年から開催されている。騎射場の魅力を、より多くの人に知ってもらいたいという想いから企画がなされてきた。京都・五条で行われている「のきさき市」から着想を得たと話すのは、騎射場「のきさき市」 代表の須部貴之氏。

「京都の五条で開催される『のきさき市』を訪れた際、空いた軒先やスペースなどの遊休資産をうまく活用して出店していたことに着目した。休日になるとシャッターが下りてしまったり、空き店舗になっていたりする場所を利用し、マルシェを開催すれば騎射場に人が集うようになって交流が生まれると考えた」

 騎射場周辺には、志學館大学や鹿児島大学、その他専門学校などが点在しているため、大学生や留学生が多く住んでいる。また、騎射場を拠点に長年営業している個人経営のお店もある一方で、地域に住む人同士が交流する機会を作れていないことに課題を感じていたのだという。

 そこで、騎射場の商店街会長や鹿児島市の協力を仰ぎながら、遊休資産を抱えているオーナーらに軒先を貸してもらうことで、騎射場「のきさき市」の開催に至ったのである。

 会を重ねるごとに参加者やボランティア、実行委員会の規模が大きくなっていき、騎射場に住む学生や主婦、転勤族といった地域住民同士の繋がりが醸成されていった。

「人なくして地域なし。地域なくして事業なし。騎射場という場所で人の心が通い合い、地域を愛するようになれば様々な化学反応が起きて街の活性化に繋がる。そう信じてこれからも騎射場のきさき市を続けていきたい」(須部氏)

◆名山町の小さな古民家から生まれた「バカンス」

 名山町は、鹿児島市の中心街である天文館から少し外れたエリアに位置し、昭和レトロな雰囲気を醸し出す家屋が集まる場所だ。

 江戸時代には、交易のために堀が整備されていて、水面に映る桜島を「名山」と称したことから、名山町という呼び名になったといわれている。

 そんな昭和の下町らしさを残し、情緒あふれる名山町に「バカンス」という場所が存在する。ここはもともと空き家だった古民家を改装してできた場所。今では、地域の人同士の交流や、仲間が気軽に集まれる場所へと生まれ変わった。

 ラジオ体操や新聞を読む朝活、フリーコーヒー、サイレントディスコなど、イベントを主催するオーナーによって趣向が違うのもまた特徴だ。

 発起人は名山町近くの鹿児島市役所で働く森満誠也氏。

「仕事柄、地域に根ざして住民のことを考える機会が多い中、もっと地域コミュニティを活性化できないかと考えていた。その時にたまたま通りかかった名山町の物件が空き家になっていたので、半ば勢いで借りることを決めた。ただ、一人でやるよりも同じ想いを持つ人同士で運営した方が面白いと思い、共同出資者を募る形式をとり、バカンスを運営してきた。日替わりでオーナーが変わることで、イベントを行うにしても集まる人の顔ぶれが変わるので、多様なコミュニティが生まれる。バカンスを起点に、地域活性化に繋がればと思う」

 バカンスに来れば、誰かと繋がれる。コミュニティ自体は小さいかもしれないが、空き家を生かした地域活性化の取り組みは、他の地域でも応用できそうだ。

◆後継者としての新たな挑戦である「LAGBAG MUSIC TOGO」

 鹿児島市の著名音楽家として知られる東郷和子氏が、1980年に創立した東郷音楽学院。以来約40年近くに渡って、次世代を担う音楽家の育成に貢献してきた。東郷氏のもとで教えを受けた生徒は4000人にも上るという。

 そんな、歴史と伝統ある東郷音楽学院だが、最近では東郷氏の体調悪化や学院内の老朽化に伴い、次第に生徒数が減少していく問題を抱えていた。

 もしかしたら、音楽学院がなくなるかもしれない。

 窮地に立たされた状況の中で、新たな担い手として運営を引き継いだのが、同院卒業生の上山紘子氏と夫でありピアノ調律師の上山大輔氏だった。東郷音楽学院は今年5月に「LAGBAG MUSIC TOGO」としてリニューアルしたのだ。

「LAGBAG MUSIC TOGOは、東郷音楽学院が築いてきた伝統を壊さずに新しい息吹を入れ、日常に音楽のある暮らしを提案していきたい。オーケストラを立ち上げることで、社会人になっても楽器を演奏する楽しさを伝えたり、またピアノ以外の楽器のレッスンをスタートさせたり。東郷先生の想いを背に、私たちだからこそできることで、音楽の普及に努めていきたい」

 音楽に造詣の深い卒業生を多く輩出した音楽学院を、地元にゆかりのある若い世代が引き継ぐ。後継者不足に苛まれる問題もある中で、LAGBAG MUSIC TOGOの取り組みは、創業者から次の世代へバトンをうまく引き渡せた好例なのかもしれない。

◆「天文館」の活気を再び取り戻すための取り組み

 いづろ商店街振興組合の青年会長である有馬明治氏は、100年以上続く老舗の宝石店「有馬明治堂」を天文館いづろ通り沿いで営んでいる。

 天文館は、様々な店が立ち並ぶ歓楽街として知られ、老若男女問わず親しまれているアーケード商店街。しかし、近年は鹿児島中央駅周辺で大型商業施設がオープンしたことにより、人の流れが分散し、かつての勢いに陰りが見え始めている。

 このような状況を少しでも改善し、商店街の活性化に向けて活動をしていると有馬氏は言う。

「鹿児島の祇園祭『おぎおんさぁ』や『おはら祭』など、天文館を中心とした催事は盛り上がりを見せるが、これからは色々な年代の人とどう関わっていくか、また、鹿児島の伝統文化をいかに活用していくかが大事になってくる。お店の人が講師となり、お客様に知識や情報などを無料で教える『まちゼミ』や、学校の枠を超えて交流を図る『天文館キャンパス』、地域ぐるみで子供を育てる伝統的な『郷中教育』など、地域密着型の商店街にしていこうと取り組みを行っている」

 地元商店街への想いや、もっと天文館を盛り上げていこうとする気概を感じる。小さな行いがやがて、商店街の活気を取り戻すきっかけになるかもしれない。

 今回、鹿児島の現地フィールドワークを通して感じたのは、どの事例を見ても「地元への愛着」をすごく持った人が多く集まっていること。現状に満足せず、どうしたら地域に貢献して、もっと興味を持ってもらい、好きになってもらえるか。このように考えて行動に移している様子がひしひしと伝わってきた。

 もし筆者が、鹿児島市のまちづくりに「関わりしろ」を求めるなら、どの事例においても何らかの形で携われそうだ。のきさき市やLAGBAG MUSIC TOGOでDJとして関わる。バカンスで簡単なダンスステップを教える。天文館でフォトスナップを撮る……。

 鹿児島市を盛り上げたいという想いが一致すれば、関係人口としてどう地元の人と関われば良いかが見えてくる。今後関係人口に注目が集まる中で、今回の事例が参考になれば幸いだ。

<取材・文/古田島大介>

【古田島大介】

1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている。

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