転職や異動でスキルが水の泡に!? 効果的に転用をする秘訣はあるのか?

転職や異動でスキルが水の泡に!? 効果的に転用をする秘訣はあるのか?

アステラス製薬株式会社研究本部研究プログラム推進部 プログラム推進グループ長 薬学博士 中原崇人氏(左)とモチベーションファクター株式会社代表取締役社長 山口 博氏(右)

 技術者や研究者として専門性を極めるか、組織を束ねる役割を担いリーダーシップを発揮するか……。キャリア形成する中で、ある時期にこの選択に直面するビジネスパーソンは少なくない。そしてたいていの場合、二者択一でどちらかを選ぶという思考に至る。

◆アイデアの創造と知恵の結集、両方に取り組む

 しかし、専門性とリーダーシップは両立しないのだろうか? 専門性をリーダーシップ発揮に活かすことはできないのだろうか? 今回は、アステラス製薬研究本部で研究プログラムを推進する中原崇人氏に本連載「分解スキル反復演習が人生を変える」でお馴染みの山口博氏が迫る。

 山口博氏(以下、山口):「中原さんは薬学博士として研究活動を極めた後、経営企画業務や研究プログラム推進業務に携わってこられました。大きな振れ幅でキャリア開発をされてきたように拝察します」

 中原崇人氏(以下、中原):「入社後、がん領域の研究者として、新薬候補の探索から臨床開発プロジェクト推進業務と幅広く従事してきました。入社してからの最初の3年間は見るもの聞くもの全てが新しい経験で、あっという間に時間が過ぎたことを覚えています。

 その後、主に研究・開発プロジェクトのリーダーとして、海外も含めて様々な領域の専門性を持つ社内外の方々と仕事を一緒にする多くの機会に恵まれました。経営企画部を経て、現在は研究本部の研究プログラム推進部 プログラム推進グループ長を務めています」

 山口:「なるほど、主にがん領域においてプロジェクトリーダーとして取り組まれてきたとのことですが、そこから経営企画、その後、研究プログラム推進部と、キャリアをジャンプされているのですね」

 中原:「元より、病で苦しむ人々を救う医学に高い興味がありました。そして、新薬を生み出すこことは今も昔も変わらない自分の強いモチベーションになっています。

 どのような業界・団体についても言えることかと思いますが、世の中に新しい価値を届けるためには、個人の独創的なアイデアと数多くの人々の知恵の結晶の両方が必要だと思っています。独創的なアイデアを求められる研究所からキャリアをスタートし、現在に至っていることは自分としては必然的な流れだったのかなと考えています」

 山口:「独創的なアイデアの創出に取り組んできたことをふまえて、知恵の結集を担ってこられたのですね。しかし、ステップアップする度に求められるビジネススキル、リーダーシップが異なるのではないでしょうか」

◆研究者としてのスキルはリーダーシップに活用できる

 中原:「研究者の時代には、専門領域での知識、創薬プロセスの習得が高いハードルになりました。それらはしかも日進月歩であり、老舗の秘伝のたれのように、少しずつ入れ替えて維持していかなければ使い物になりません。自らの専門性を見極める準備の時期であったと記憶しています。

 プロジェクトリーダーになってからは、自らの専門性を生かしながら、周囲を巻き込む力、状況を冷静に見つめる俯瞰力の重要性を痛感しました。経営企画部では研究本部の組織改革と全社のビジョン策定のリーダーに任命されました。それまでの創薬プロジェクトと比較して、求められる背景知識が異なり困惑しました」

 山口:「なるほど」

 中原:「しかしながら、問題点や課題を見極め、優先度順にマネジメントしていくこと、自らの考えをメンバーや上長に効率的に伝えて必要な支援を求めるスキルは過去の経験と似ていると気づき、視点はさらに拡がりました。

 組織マネージャーになった今では、メンバーそれぞれの個性を尊重し、モチベーションを保っていくために、繊細かつ大胆なリーダーシップが必要だと痛感しています。まだ答えは見つかりませんが、個々のメンバーの自己実現の機会を会社が提供できるよう調整するスキルを身に着けたいと思っています」

 山口:「まさにキャリアに応じて、専門性、巻き込み力、それらをふまえたリーダーシップスキルを発揮されてこられたのですが、専門性を発揮するスキルは、組織を束ねるために必要なスキルと共通項がありますか?」

 中原:「これらには共通項があると思います。研究者には、自然科学の真理を探求するための論理的思考のスキルがあります。これは難解なパズルに挑戦したくなる傾向と言ってもいいのかも知れません。

 これらのスキルは一見すると、組織を束ねるために必要なスキルと異なるように感じられるかも知れません。しかし、このスキルは組織共通の問題の根本原因を見極め、あらゆる手段・専門性を駆使して解決する際に応用できると考えています」

◆伝える力が重要に

 山口:「専門性を発揮するスキルは、リーダーシップスキルとして転用できるのですね。そのスキルを身につけるために、若手研究者が早い時期から高めておきたいコアスキルのようなものがありますか」

 中原:「伝える力だと思います。『何故プロジェクトの魅力が伝わらないんだろう?』『何故メンバーは動かないんだろう?』、『相手の理解度が足りないのだから、もうこれ以上説明しても仕方がない』と思うのではなく、『相手は何を求めていただろうか?』『相手の要求にこたえる準備を自分はしていただろうか?』『こういう説明の仕方をしたら相手の理解は変わっただろうか?』と相手の立場で考え、伝える力を高めることは色々な場面で役に立つと思います」

 山口:「同感です。中原さんは、伝える力を発揮するプロセスを3つに分解しましたが、この考え方は、まさに私が提唱している、モチベーションファクターを梃にした分解スキル反復演習型能力開発プログラムの骨格です。

 私は、日本のビジネスパーソンがいつの間にか、スキル訓練を忘れてしまったと思えてなりません。身に付けたいスキルをパーツ分解してコアスキルとして見極めて修得すれば、コアスキル同士を連動させやすくなったり、組み合わせが容易になります。それは、技術者・研究者と組織のリーダーという、二者択一を迫られるという領域においても、スキルの転用を可能にするのだと思います。若手のビジネスパーソンや学生に対して、伝えたい思いを聞かせていただけますか」

◆異なる分野でもスキルは応用できる

 中原:「『応用問題に取り組む準備は出来ていますか?』と申し上げたいです。業界を問わず、時代が求めるスピード感はさらに早まっています。既存の専門性からのシフトや撤退を余儀なくされることも多いかと思います。

 しかし、ひとつのテーマを紐解いて探求する力、敢えて“科学力”と呼ばせて下さい、それを後押しする“情熱”、そして客観的に自らの考えを“伝える力”を意識して取り組んできた経験は、必ず次の新しい挑戦で皆さんを後押ししてくれると思っています」

 山口:「やはり、スキルは転用できるんですね」

 中原:「『そんな経験はまだ有りません』という方も心配には及びません。今あるいは次の新しい挑戦をご自身の専門性を磨く機会にしていけば良いのです。多様性が増し、応用問題の解決が求められる時代において、皆さんそれぞれの専門性で培った経験を柔軟に役立ててみては如何でしょうか」

 <対談を終えて>

 専門性を発揮するための真理を探究する論理的思考を発揮するスキルは、組織共通の課題の原理を見極め、さまざま手段や専門性を組み合わせて発揮するリーダーシップに役立つと中原さんは言う。私はこの考え方に同感だ。

 パーツ部分に分解して、その組み合わせや連動の仕方を見極めることは、科学力を発揮する領域でも、組織をハンドリングする立場においても、そしてスキル向上のためにも有効なのだ。(モチベーションファクター株式会社 山口 博)

【山口博[連載コラム・分解スキル・反復演習が人生を変える]第163回】

【山口博】

(やまぐち・ひろし)

グローバルトレーニングトレーナー。モチベーションファクター株式会社代表取締役。国内外企業の人材開発・人事部長歴任後、PwC/KPMGコンサルティング各ディレクターを経て、現職。近著に『チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社、2016年3月)、『クライアントを惹き付けるモチベーションファクター・トレーニング』(きんざい、2017年8月)がある

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