福岡で市立中の制服を変えた弁護士。「制服を着る着ないを選ぶ権利は生徒にある」

福岡で市立中の制服を変えた弁護士。「制服を着る着ないを選ぶ権利は生徒にある」

福岡市立中学校の新たな標準服の概要

◆校則は、「積極的に見直しを行うことが大切」と文科大臣

 ブラック校則は最近、映画やテレビドラマの素材にもなり、生徒や保護者を中心に大きな関心事になっている。天然の髪の色まで否定して黒髪を強要したり、必要な生徒にまでブラジャーを禁止したりするなど、多くの人が疑問を覚えるほどの校則が少なくない。

 しかも、教育基本法でも校則の正当性を担保する法的根拠があいまいであるため、人権侵害に相当するブラック校則も多々あり、「学校は治外法権」と指摘する向きもある。そもそも校則について、文科省は以下のように明記している。

「校則とは、児童生徒が健全な学校生活を営み、より良く成長・発達していくため、各学校の責任と判断の下にそれぞれ定められる一定の決まりです。校則自体は教育的に意義のあるものですが、その内容・運用は、児童生徒の実態、保護者の考え方、地域の実情、時代の進展などを踏まえたものとなるよう、積極的に見直しを行うことが大切です」(文科省のHPより)

 2018年3月29日、当時の文科相・林芳正氏は参議院の文教科学委員会で、日本共産党の吉良佳子・議員の質問に答える形で、校則の内容についてこう述べた。

「最終的には校長の権限により適切に判断されるべき事柄でありますが、児童生徒が話し合う機会を設けたり、保護者の意見を聴取するなど、児童生徒や保護者が何らかの形で参加した上で決定するのが望ましい」

 とはいえ、生徒には自治組織が認められず、生徒たち自身が学校と対等に交渉する権利が与えられていない。そのため、校則は民主的な手続きにおける合意内容とは言えず、学校側が生徒に対して一方的に指導・監督するための指標の域を出ない。

 そうした現状について深く考えることもなく、学校が生徒の下着の色まで強いるようでは、生徒の自尊感情を著しく傷つけることは避けられない。その点では、見た目で男女差を決定づける制服にも同じリスクがある。

 生徒の中には、「体の性」と「心の性」が異なる性的マイノリティの当事者もいる。一つのジェンダーに押し込められたくない生徒もいる。そもそも制服の選択可能性がないこと自体に大きな違和感やストレスを覚える子もいる。そうした生徒の人権に配慮する必要がある、と考える人も増えてきている。

◆教員・生徒・保護者の3者で制服を変えた公立中学

 そこで、近年では従来の制服の規定を見直す学校も増えつつある。2018年4月に開校した千葉県柏市立柏の葉中では、生徒自身が性別に関係なく自由に選べる制服を導入。スカートとスラックス、ネクタイとリボンなどの組み合わせを自由化した。

 東京都でも、中野区と世田谷区の全ての区立中学校で2019年春から女子生徒がスカート以外にスラックスの制服を選べるようになった。このように制服の選択制を採用する動きは、全国に広まりつつある。

 2017年に福岡市中央区にある市立警固(けご)中学校のPTA会長、そして中央区中学校PTA連合会会長になった弁護士の後藤富和さんは、「詰め襟は首が苦しい」「夏のセーラー服は暑い」という不満が生徒から噴出していたことをきっかけに、同年6月から制服の見直しに動いた。

 中学時代にセーラー服を着るだけで激しい苦痛を覚えていたトランスの当事者からも話を聞いていた後藤さんは、「指定の制服を着られないだけで通学も勉強も部活もできなかった」という切実な声をふまえ、教員と生徒会役員、保護者でつくる検討委員会を校長に提案。

 発足にこぎつけると、LGBTの当事者、支援団体、市議、PTA、制服メーカーなど幅広い市民からも意見を聞いた。そして、2018年3月、検討委員会は新制服と選択制への移行を決定。同年4月入学の新1年生から男女共通のブレザータイプの標準服にし、生徒が性別に関係なくズボンとスカートを自由に選べるようにしたのだ。

 たった1校から始まったこの変革の動きは、やがて福岡市全体に及んだ。

 同年6月、中学校長会の代表や保護者代表、PTA関係者や有識者などが招集され、市立中学校の制服を見直す検討委員会が発足。今年2019年5月には新たな標準服の案がまとまり、生徒が男女に関係なく、ズボン、キュロット、スカートのいずれを着るか選べるようにもした。

 10月1日、福岡市は全69校のうち4校がジェンダーフリーの独自学生服を採用し、残り65校も福岡市が準備した新たな標準服を採用した。つまり、市内の69校全校がスラックスとスカートを自由に選べる選択式の標準服を採用したのだ。

 もっとも、生徒側が学校と対等な立場で交渉できる権利を法的に保証されていないままでは、自治を基礎とする民主主義マインドは育てにくく、18歳で選挙権を持っても、権利行使の意味がわからないままだ。

◆物言うPTAが学校を変え、生徒の人権を守る

 そこで後藤弁護士は、市民と弁護士が行っている地元の憲法学習会で制服や校則、PTA活動をめぐる疑問について語り、「教育を受ける権利」「表現の自由」「自己決定権」に関する啓発活動を続けている。そんな後藤さんに、校則をめぐる疑問をぶつけてみた。

―――校則の正当性には、法的根拠があるのですか?

後藤:明確な根拠は難しいと思います。強いてあげれば、結社の自由が憲法で認められているため、団体活動の維持にとって最低限必要な決まりは認められます。しかし、学校は任意の参加者が集まった結社ではなく、教員にとっては必ず行かなければならない組織であり、保護者にとっても学習の機会の一つとして行かせる必要があるため、校則に法的根拠はほぼないと言っていいでしょう。

―――警固中学では、制服に関することが校則に明記されていたのでしょうか?

後藤:福岡市全体で標準服を準備するので、あとは校長の裁量次第でした。もっとも、これまで校長先生が裁量を発揮することはなく、校則に依拠した制服変更ではありません。標準服はあくまでも校長や自治体が希望する姿としての服なので、着ないで学校へ行ってもいいんです。着る着ないを選ぶ権利は生徒にあるので、標準服を着ないからといって学ぶ権利が奪われることはあってはなりません。

―――警固中学で制服を見直す際、一番、大変だったことは?

後藤:保護者の同意は、大変ではありませんでした。一番大変だったのは、教師の理解。校長などの管理職より、現場教師の抵抗が強かった。新しい制服を導入すると、新しいデザインや、どう着せるかなどを考えることも手間です。教師にとっては新しい仕事が増えるわけで、その余裕がないように感じました。学校では働き方改革が進んでいません。

◆子どもと学校が対等に話す場がない

―――たとえば、高校の校則にあるアルバイト禁止などは、労働権を保障した憲法に対する違反であり、人権侵害をしているのでは?労働基準法には、親権者または後見人の同意書を得ていれば、あとは「修学に差し支えないことを証明する学校長の証明書」さえあれば就労できるとあります。

後藤:侵害していると思います。全面禁止はかなり違反。アルバイトしないと進学費用もねん出できない経済的な事情をもつ家庭があるのに、本来なぜその決まりがあるのかに立ち上って考えず、校則の字面だけを守ろうとしているのは、おかしいです。

―――「不登校は親の育児放棄」と言う人もいますが、不登校は子どもの権利では?

後藤:権利ですよ! 学校以外で学ぶ権利を行使できれば、なじられる理由はありません。特に、いじめによる不登校などは学校や行政自身の問題です。

―――生徒たちが学校と対等に交渉できる自治組織を認められないのはなぜ?

後藤:学校は決まりごとに従わせることを重視していて、生徒に考える機会を与えないでいます。生徒自身のことは、生徒会や生徒総会で校則を議論すべきですが、そういう機会すらないですね。子どもと学校が対等に話す場がないんです。

 これでは、大人になっても選挙に行く意味もわからないまま。そういう人が教師になっても、生徒の権利や自治を大事に考えることはないでしょう。私がPTA会長をしてる時、中学生に「生意気な中学生になれ。大人に意見を言える生徒になれ」と言いました。すると、それを聞いた中学生が意見を言ってきたので、彼らの求める通り、バンドやダンスを体育館でできるチャンスを作りました。楽しかったのか、あとから「(参加枠に)卒業生枠を作ってくれ」とまで言ってくれました。

 本来あるべき姿は、生徒総会や生徒会長の立候補の際に公約を掲げて実行していくこと。でも、その決定を学校が握りつぶす可能性があります。しかも、子どもの声を代弁するPTAはまれで、学校に言われるがまま活動しているPTAが多いのです。

<取材・文/今一生>

【今一生】

フリーライター&書籍編集者。

1997年、『日本一醜い親への手紙』3部作をCreate Media名義で企画・編集し、「アダルトチルドレン」ブームを牽引。1999年、被虐待児童とDV妻が経済的かつ合法的に自立できる本『完全家出マニュアル』を発表。そこで造語した「プチ家出」は流行語に。

その後、社会的課題をビジネスの手法で解決するソーシャルビジネスの取材を続け、2007年に東京大学で自主ゼミの講師に招かれる。2011年3月11日以後は、日本財団など全国各地でソーシャルデザインに関する講演を精力的に行う。

著書に、『よのなかを変える技術14歳からのソーシャルデザイン入門』(河出書房新社)など多数。最新刊は、『日本一醜い親への手紙そんな親なら捨てちゃえば?』(dZERO)。

関連記事(外部サイト)