失踪した元技能実習生を直撃。彼らはなぜ「不法就労」に至ったのか?

失踪した元技能実習生を直撃。彼らはなぜ「不法就労」に至ったのか?

nhrnr / PIXTA(ピクスタ)

◆なぜ彼らは「失踪」したのか?

 1か月の給料がマイナス2万円の明細書という衝撃的な実態を描き、「低賃金」どころか「無賃金」という奴隷労働の実態を浮き彫りにした第一回は大きな衝撃を与えた保守言論誌『月刊日本』の連載、「ルポ 外国人労働者」。

 同連載では現行の技能実習制度や現役の技能実習生の問題を中心に伝えてきたが、劣悪な労働環境から逃れるために実習先から失踪する技能実習生が後を絶たない。それでは、実習先から姿を消した失踪者たちはどこへ行ったのか。実習先から失踪した不法滞在者、不法就労者たちはどのような生活を送っているのか。

 メディアの報道等により技能実習生や実習先の問題、「失踪前」の問題は広く知られるようになってきたが、元技能実習生や失踪先の問題、すなわち「失踪後」の問題は未だによく分かっていない。

『月刊日本 12月号』掲載の同連載は、失踪した技能実習生の一人と接触することができた。今月号では、知られざる失踪者の実態に迫りたい。

◆5か月間給料がもらえなかった

 本連載の初回で仙台の建設会社で技能実習を行っていたグエンさん(25歳男性・仮名)、ホアンさん(24歳男性・仮名)の話を紹介し、一か月の給料がマイナス2万円だったという実態を伝えた。その中で彼らは「自分たち以外に失踪した実習生がいる」と話していたが、この度、在日ベトナム人の支援活動に取り組む浄土宗寺院「日新窟」の協力を得て、その一人であるフンさん(23歳男性・仮名)と接触することができた。

 フンさんはベトナム南部のヴィンロン省出身。5人家族の三男で、家族を助けるために100万円の借金を背負って2016年9月に来日、翌月から仙台の建築会社で技能実習活動を行っていた。

「グエンさんとホアンさんが話したように、実習先の会社は酷かった。平日は仕事中に社員の人から『バカ』『アホ』『ベトナムに帰れ』と暴言を吐かれる、ヘルメットや角材で殴られる、安全靴で蹴られる。太ももを角材で殴られて傷ができ、痛みが数週間続いたこともあります。休日は社長に呼び出されて社長宅の建設を手伝わされる、社長の車を洗車させられる、社長の田んぼで田植えをさせられる。真夏の田植え作業では熱中症にかかりました」

「一か月のうち26〜28日働いても、15日分の給料しかもらえず、1か月の給料は7〜9万円。失踪前の数か月は働かせてももらえず、給料は一円ももらえませんでした。仕方なく日本に来ている友人たちに相談して、みんなから数万円ずつ銀行振り込みでお金を借りました。借金は全部で17万円くらい。給料がもらえない5か月間の食費は10万円。ずっと一日一食で過ごしていて、お肉が食べられるのは週に一回だけでした」

 暴言、暴行、低賃金、雑用、そして無給――渡航費用の借金を返すどころか、友人から借金をしなければ生きていけない状況に追い込まれたということだ。これでは誰もが逃げ出すことを考えるだろう。

「自分と同じように日本で技能実習をやっている友人に相談したら、『絶対に失踪した方がいい。うちの会社の寮に来い』と勧められました。それである晩、仙台の寮から逃げ出して友人がいる名古屋の寮へ移りました。もちろん会社には私が寮に住んでいることは内緒です」

 技能実習生の在留カードは失踪した時点で失効する。この時点でフンさんは不法滞在者になった。

◆技能実習より不法就労の方が稼げる

「実習先から逃げ出したものの、とにかく働かなければなりません。今はインターネット(SNS)上で在日ベトナム人向けの求人情報が出回っているので、仲介業者に連絡をとりました。後日、駅前でベトナム人の仲介業者と待ち合わせ、その場で仲介手数料の5万円を現金で手渡しました。それから紹介先の会社まで連れて行ってもらい、事前に渡された偽造在留カードを使ってフィリピン人とネパール人の社員から面接を受けました。それが終わると在留カードは返却させられてしまった。それから3日後に採用の連絡が来て、友人の寮から会社のアパートに引っ越しました」

 こうしてフンさんは不法就労に従事することになった。

「会社は自動車修理をやっていて、私は車にイスを取り付ける作業をやっていました。社員は数十人。ほとんどフィリピン人で、それ以外にはベトナム人、ネパール人、中国人がいた。おそらく皆不法就労者だったのだと思います。日本人は50〜60代の男性が一人だけで、社長はその人のようだった」

「仕事は基本的に月曜日から土曜日まで。日勤と夜勤があって、1日に8時間から12時間くらい働く。時給は1100円で、1か月の給料は15万円くらい。給料日は1か月に1回で、列に並んで手渡しで現金をもらう。技能実習よりも不法就労のほうが断然良い」

 しかし、フンさんはこの仕事を3か月ほどで辞めてしまったという。

「アパート生活が辛かったんです。全部相部屋で、私の部屋は大体4〜5人、多い時で10人住んでいた。部屋には常に誰かがいて、一人になることもできない。それが段々苦しくなってきて、仕事を辞めて友人の寮に戻りました。一か月の家賃ですか? 3万円でした」

 不法滞在者は銀行口座を持てず、住居を借りられない。だから、仲介手数料や給料の支払いはすべて現金で済ませ、住居は会社が用意するということだ。それにしても地方のアパートで4〜5人と同居して家賃3万円とは高過ぎる。搾取から逃げ出しても、その先には新しい搾取が待っている。

「今年に入ってからは別の技能実習生の友人を頼って千葉の寮へ移り、またインターネット上で見つけた仲介業者に仕事を紹介してもらいました。今度は溶接加工の会社で、日本人、ベトナム人の同僚二人と働きました。月曜日から金曜日まで毎日8時から5時まで9時間労働で、月給は約15万円。給料は日本人の同僚から手渡しでもらっていました」

 しかし、この仕事も数か月で辞めたという。

「身体を壊しそうになったんです。溶接作業用のマスク(溶接面)はあったのですが、ヘルメットや手袋はなかったから、しょっちゅう火傷していました。作業音が大きかったり空気が悪かったりして、そのうち体の調子全体が悪くなってしまったんです」

 不法就労者は事故に遭っても保険を受けられない。それでもフンさんは技能実習よりも不法就労の方が良いという。

「自分で仕事を決められるから」。技能実習制度には「職業選択の自由」がないが、不法就労にはそれがあるということだ。

「でも、不法滞在はやっぱり辛いです。外で警察を見る度にビクッとして身体が硬くなります。捕まったらどうしようと考えると、コンビニやスーパーに行くのも怖い。逃亡者みたいな気持ちです」

◆日本社会が技能実習生を不法就労に追いやっている

 フンさんの話を聞くうちに、いくつかの側面が見えてきた。まず技能実習生は友人同士で繋がっており、比較的良い環境に恵まれた友人が不遇な友人を手助けする。フンさんの場合は技能実習生の友人からお金を借り、失踪するよう助言を受け、寮の部屋を間借りしていた。技能実習生の部屋に失踪者が住んでいるという事実には驚いたが、技能実習生と失踪者の関係は注目に値する。

 技能実習生は失踪後に不法就労者になるケースが多いが、改めて技能実習と不法就労が地続きであることにも気づかされた。技能実習生にとって技能実習から不法就労への「転職」は容易であり、言わば普通のことなのだ。

 実習先から失踪した技能実習生数は5058人(2016年)、7089人(17年)、9052人(18年)と年々増加している。また入管法違反として摘発された不法就労者の数も9003人(16年)、9134人(17年)、1万0086人(18年)と年々増加している。

 しかしこの数字は氷山の一角にすぎず、日本全体で不法就労者が何人いるのかを正確に把握することはできないだろう。しかし、すでに企業・仲介業者・不法滞在者のネットワークは出来上がっており、不法就労はビジネスとして定着しつつある。もはや外国人による不法就労は日本経済の一部として組み込まれたと言っても過言ではないのではないか。

 だが、この状況を放置してはならない。不法就労者は人権が保障されないまま働いており、非常に大きなリスクを背負っている。特に技能実習生の場合は本人の問題ではなく周りの問題から不法就労に走るケースが多い。彼らを実習先から失踪させ、不法就労に追いやり、過大なリスクに晒しているのが我々日本社会である以上、彼らの窮状を「自己責任」の一言で済ませることは許されない。

◆1人の実習生の挫折で日本は何を失ったのか?

 フンさんから話を聞いた時、彼はすでに入管に出頭し、送還が決定している状況だった。

「実は、1週間前に母から電話があったんです。私の父は以前から癌で入院していたのですが、『お父さんの容体が悪くなった。いつ亡くなるか分からない。早く帰ってきて』と泣きながら言われました。借金はまだ20万円ほど残っていますが、いまはお金よりもお父さんのことが大事です。一日でも早くベトナムに帰ってお父さんに会いたい」

 フンさんにとって日本はどういう国だったのだろうか。

「来日前は、ベトナムや中国、韓国は良い人も悪い人もいる『普通の国』だけど、日本は良い人しかいない『良い国』だと思っていました。でも、実際に来てみたら日本も他の国と同じ『普通の国』だということが分かりました。言われてみれば当たり前のことなんですが、それが分からなくなるくらい、日本は特別な国だと思っていたんです」

 別れ際に「もう一度日本に来たいか」と聞いたら、「ノー!」という即答が返ってきた。フンさんの背中を見送りながら、日本が何を失っているのかが分かったような気がした。

◆ルポ 外国人労働者第4回

<取材・文/月刊日本編集部>

【月刊日本】

げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。

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