高級マンション居室の床を覆い尽くす髪の毛と異臭。「好きを仕事に」の夢の残滓<不動産執行人は見た45>

高級マンション居室の床を覆い尽くす髪の毛と異臭。「好きを仕事に」の夢の残滓<不動産執行人は見た45>

Benjamin Balazs via Pixabay

◆中高生のあこがれの職業「YouTuber」

 ソニー生命保険が中学生や高校生を対象に行う「中高生が思い描く将来についての意識調査」。

 今夏発表されたその調査結果が一部で話題を集めた。

「具体的な将来の夢」として男子中学生が回答した職業人気ランキングの上位が、親世代には馴染みの薄いものとなっていたのだ。

1位「YouTuberなどの動画投稿者」(30%)

2位「プロeスポーツプレイヤー」(23%)

3位「ゲームクリエイター」(19%)

 同調査で男子高校生から得られた回答を見てみても3位に「YouTuberなどの動画投稿者」(12.8%)、4位に「ゲームクリエイター」(12.3%)と並んでいる。

 このように昨今の男子中高生が憧れる「夢の職業」。そんな夢の職業とは無縁と思われる差し押さえ・不動産執行の現場にも、夢の残骸が足元に散らばる事案があった――。

◆「夢の高級マンション」に不動産執行人が訪れるとき

 ポエムとともに夢を売る。

 昨今の時流に乗った、少々“夢先行”感の否めない高級志向マンション。そこまで広いわけでもないエントランスには、誰が弾くわけでもないグランドピアノがポツンと置かれ、暇を持て余している。

 一歩外へ出てみると、人影もまばらな街並みに大型スーパーが一つ。

 付近に背の高い建物はなく、利用客の乏しい小さな駅が遠目に見えている程度と、描かれる夢は敷地内に留まっていた。

 それでも分譲価格帯は“夢の対価”と言わんばかりの掴みにくいもの。

 このような価格帯の中でもさらに “ワンランク上”とされる一室に、我々差し押さえ・不動産執行人がゾロゾロと顔を連ねている。

 全員が玄関先で強制解錠の行方を見守っているのは、当初の段階から債務者の応答が一切なく、現在の居場所もつかめていないため。

 夢の高級マンションではあるが、施錠の構造的抜け穴は庶民派マンションと何ら変わりはない。いつも通りに、ものの数分で扉はこじ開けられることになった。

 ここから“いつも通り”と行かなかったのは、扉が開いた瞬間に広がる異臭と不思議な光景が原因だった。

◆筆者が目にした、床を覆い尽くす「髪の毛」

 見渡す限りの床に、おびただしく長い髪の毛が散乱している。白髪または銀髪ともとれるのだが、問題はその量や根本の状況。ブチブチと頭皮から引き抜かれていたことが伺えるのだ。

 また、髪の毛と同様に散乱となっていたのは、使用済みのトイレットペーパー。

 どうやら大便を漏らしては拭き、それらをそのまま周囲に投げ捨てるという荒廃生活が続いていたようだ。

 進む廊下にはインスタント食品の残骸や生活ゴミが散らばり、壁やドアには債務者に蹴破られたのであろう穴あきが散見される。

 キッチンには嘔吐物の付着がそのまま残されており、トイレには何回分かも把握できない大便が溜め込まれ、床にまで溢れかえっていた。

 いずれの痕跡からも債務者が強いストレスに晒され、セルフネグレストに近い状況に陥っていたことが見て取れる。

 そんな債務者女性の生業、それが“夢の職業”「ゲーム実況者」だ。

 どこも惨状の続く室内ではあったが、配信部屋だけは大便ゴミに侵されていなかった――。

◆「好きを仕事に」の厳しい現実

 ゲーム実況者を取り巻く環境として、大手サイトが収益化に関するレギュレーションを厳しく改め、2018年後半より2019年前半にかけ人気ゲーム実況者が相次いで収益化の対象外措置を受けるという動きがあった。

 この非収益化を嫌気したゲーム実況者の引退宣言が相次ぐという派生騒動もあったが、今回の債務者も同様にこの改定を起因とする破綻に陥ったのかどうかは定かでない。

 ただ、タイミング的な要素はこれらを連想させるものだった――。

「YouTuberなどの動画投稿者」「プロeスポーツプレイヤー」……。

 確かに一時期は高級マンションの最上グレードを購入出来るほどの実入りがあったのであろう。

 しかし、“好きなことで生きていく”が長続きすることはなく、最終的には激しいストレスに晒され悪夢のような破綻。

 芽を出すことも難しく、芽が出たところでプラットフォームの急激な舵取りに翻弄され続ける過酷で儚い職業。これが“夢の職業”「YouTuberなどの動画投稿者」の見えにくい正体でもある。

 12月10日、渦中の大手動画サイトが“独自の裁量で採算が合わないと判断したアカウントを閉鎖できる”よう利用規約を改めるとの情報もあり、動画投稿者の間に不安が広がっている。

 安易にぶら下げられる夢。掴まんと飛びつくもなかったことにされる夢。

 マンション販売、動画プラットフォーム。いずれも夢を提示しユーザーや消費者の行動を促している部分がある以上、夢をぶら下げる側にもリスク説明の徹底や生活者の保護という責任を負わせるべきではないだろうか。

<文/ニポポ>

【ニポポ】

ニポポ(from トンガリキッズ)●2005年、トンガリキッズのメンバーとしてスーパーマリオブラザーズ楽曲をフィーチャーした「B-dash!」のスマッシュヒットで40万枚以上のセールスとプラチナディスクを受賞。また、北朝鮮やカルト教団施設などの潜入ルポ、昭和グッズ、珍品コレクションを披露するイベント、週刊誌やWeb媒体での執筆活動、動画配信でも精力的に活動中。

Twitter:@tongarikids

オフィシャルブログ:団塊ジュニアランド!

動画サイト:超ニポポの怪しい動画ワールド!

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