合意なき決定で、負担を押しつけられ、批判までされる状況に北海道出身者が思うこと

合意なき決定で、負担を押しつけられ、批判までされる状況に北海道出身者が思うこと

小池都知事は「移転そのものにすんなり合意ということは難しい」と語ったが、IOCのジョン・コーツ調整委員長は「会場変更の権限はIOCにある」とし、“合意なき決定”に。移転経費負担の問題などもあるなか、札幌開催は間に合うだろうか(写真/時事通信社)

◆開催1年を切って突然の押しつけ

「たいへんだ、マラソンが来るみたい!」

 札幌在住の弟から電話が来たのは、10月16日のことだった。’20年東京オリンピックの男女マラソンと競歩について、国際オリンピック委員会(IOC)が「暑さ対策として会場を東京から北海道札幌市へ移すことを検討している」と発表したのだ。

 それを知った直後、私は「無理だ」と思った。実は私は産業医としてオリンピック実行委員会に携わる職員に面談する機会があるのだが、彼らは東京開催が決定以来、たいへんな激務の中、準備を続けてきた。開催まで1年を切った今になってバトンタッチされる北海道や札幌市の職員はどうなるのか。

 また、現在、北海道はたいへんな経済危機に直面している。JRの路線は次々に廃線となり、つい最近、政府が再編を要請した全国の424の公的病院のうち、北海道はなんと54病院を占めている。交通手段も医療も奪われる中、とてもオリンピックに余計な経費を出すことなどできないのだ。

◆押し付けられた上に恨み言まで言われる札幌

 それでも、どうしても札幌で、となったら東京都や全国の関係者がこぞって協力してくれるはずだ。そう思いながら事態の推移を見守っていた私は、4者協議で札幌開催が正式に決定したあとの情報番組を見て仰天した。

 小池都知事は「マラソンコースが見えるところにマンションを買った方もいるのに」、キャスターは「札幌のコースは見どころがない」と、こぞって未練がましく東京開催にこだわり、札幌を批判までしているのだ。

 「これはひどい」と北海道出身者としてやるせない気持ちになったが、現地はそれほどこだわっていないように見える。何人かの札幌の知人に連絡してみたが、「やるなら見には行くけど」「もう雪がちらついてきたし、これからコース整備なんて間に合わないんじゃないの」とどこか他人事だ。「大通り公園が発着場になってビアガーデンの期間が短くなるのは困る。毎年10回は行くんで」と自分の飲むビールのことにだけこだわっている人もいる。

 ローカル新聞のネット版やテレビ番組の告知などにも目を通しているが、さすがに当初は「コースが単調? どうしてそこまで言われないといけないの!?」といった見出しもあったが、長くは続かなかった。

◆北海道出身者として心配のタネが尽きない

 これはなぜか。やはりそこには、よく言われる北海道の道民気質が関係しているだろう。もちろん人によって違いはあるのだが、県民気質本にある「サバサバしている」「熱しやすく冷めやすい」「楽天的だが無責任」などの特徴は、元住民として納得せざるをえない。

 よく言えば「おおらか」だが「アバウトすぎる」のだ。地元の方言で「いいんでないかい」と言うのだが、多少問題があっても「ま、なんとかなる」と深く考えずにやりすごしてしまう面がある。

 おそらくその「いいんでないかい精神」から、今は「マラソン?やれば?」という心境になっている道民が多いのだろう。しかし、半分は東京都民になっている私は、やはり「今からできるの? 余計な負担を押しつけられるのでは? 成功しても失敗しても、結局、札幌が非難されるのでは?」と心配の種は尽きない。なんとか首尾よく開催されることを祈るばかりである。

<文/香山リカ>

【香山リカ】

’60年、北海道生まれ。東京医科大学卒業。立教大学現代心理学部教授も務める。豊富な臨床経験を生かし、現代人の心の問題を中心にさまざまなメディアで発言を続ける。音声アプリ「ヒマラヤ」で「香山リカのココロのほぐし方」を配信中。最新刊『オジサンはなぜカン違いするのか』

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