問題だらけの「記述式」導入。なぜ文科省は固執するのか?<短期連載:狙われた大学入試―大学入学共通テストの問題点―>

問題だらけの「記述式」導入。なぜ文科省は固執するのか?<短期連載:狙われた大学入試―大学入学共通テストの問題点―>

Graphs / PIXTA(ピクスタ)

◆数学の切り口から共通テストの問題点を指摘

 2021年1月からこれまでのセンター試験から大学入学共通テストに移行します。

 この新しいテストには、いくつもの重要な問題点があると言われています。筆者の専門は数学ですので、この問題点を数学の切り口から解説します。

 共通テストの問題点に早くから気がついている人は5年以上前から指摘していますが、メディア等の報道が増えたのは最近ですので、最近になってこのことを知ったという方も多いことでしょう。最近知った人、以前から気になっていた人もここを読めばわかるように解説しますので、どうぞおつき合いください。

◆今、何が起こっているの?

 大学入試センター試験は、1990年1月から開始しおよそ30年間、1979年1月から開始した共通1次試験から数えると40年ほど継続して実施されてきました。この大学入試センター試験が、2020年度内の入試(実際は2021年1月実施予定)から「大学入学共通テスト」(以下、「共通テスト」と記します)という新しいテストに変わります。

 この新テストでは、数学と国語に「記述式」の試験が新たに導入されます。この記述式の試験が、その必要性、公平性、そして、それを行うことによって周辺に与える学習環境等の変化に問題点があると多くの専門家が指摘しています。ここでは、これまでに行われた2回の試行調査を参考にしながら、共通テストのこれまでを整理しましょう。

 まず、この新テストの数学と国語で実施される記述式試験の概要を説明しておきます。数学と国語の試験がすべて記述式になるわけではありません。どちらの教科も試験の一部が記述式になるのですが、形式面で違いがあります。

 国語は、200点満点の外に別枠として記述式の試験が設置され、それらは段階的(5段階)に評価されます。これに対し、数学は「数学I」「数学I・数学A」の2科目に導入され、100点満点のうちの3題15点分が記述式です。

「数学II」「数学II・数学B」の試験には記述式は出題されません。なお、受検者は「数学I」「数学I・数学A」のいずれかを選択し、そのほとんどは「数学I・数学A」を受検しますので、以下においては、「数学I・数学A」の方を考えることにします。「数学I」についても問題点は変わりません。

 なお、数学の記述式は3題で計15点分出題される予定で、試行調査通りであれば、各5点ずつの配点で、どれも0点か5点かで点を与えるもので中間点はありません。

 また、記述式の採点については、民間企業であるベネッセグループ傘下の学力評価研究機構が落札しています。

 この記述式試験の導入について、主に次のような問題点が指摘されています。

 ●公平な採点が可能か

 ●自己採点が可能か

 ●一つの民間業者に任せて大丈夫か

◆どのような経緯で記述式が導入されることになったの?

 大学入学共通テストの原型は、高大接続特別部会(2012年9月〜2014年10月)の審議により、中央教育審議会の答申が2014年12月22日にまとめられました。その後、高大接続システム改革会議(2015年3月〜2016年3月)の後、大学入学希望者学力評価テスト(仮称)検討・準備グループが発足し、2017年7月に大学入学共通テスト実施方針が出され、2019年6月に大学入学共通テスト実施大綱が出されています。

 一連の過程で現在の大学入試センター試験の問題点をとりあげ、記述式以外にも、

●英語の民間試験の利用

●1点刻みの試験からの脱却

●複数回受検

なども取り上げられました。共通テストについては、今現在、批判的な評価が多くなっていますが、当時の掲げた理想は実施の可能性などを考慮しなければ決して悪いことばかりではありませんでした。

 例えば、「複数回受検」については、次のような考えがありました。

”大学入試の受験生は、1年の中で試験日 (2 日)だけたまたま体調が悪く、 実力が出せないだけで1年を棒に振ることになる。体調不良以外にも実力がだせないこともあるであろう。そのような場合に次の1年を待たせるのは忍びない。1年の中で複数回チャンスを与えるべきだ。”

 また、「記述式試験」の導入については、入試改革のキーワードである「思考力・判断力・表現力」を伸ばすための具体策として取り上げられ、最初は数学と国語以外の教科についても検討をされました。導入の理由は、

「マークシートでは、受検者の力は量れない」

というものでした。その理由の一つとして、

「マークシートでは、まぐれ当たりが起こってしまう」

というものもありました。これは、簡単に言えば、答がよくわからなくても4択であればとりあえずマークしておけば確率1/4で正答することになるということです。

「高校での学習内容を全く理解しない人が受けても、100点満点中25点がとれる試験とはいったい何なんだ!」

という指摘です。

 なお、数学に関しては、現行のセンター試験でも数値をマークする方式ですので、「まぐれ当たり」はほとんど起こりません。

 このような考えから、まず、数学と国語の試験に記述式を導入する方針が立てられました。

◆次々と変更・中止になる改革案

 なお、「英語の民間試験の利用」に関しては、2019年11月1日に延期が発表され、「1点刻みからの脱却」と「複数回受検」については、その後次のような流れを辿っています。

 まず、1点刻みからの脱却についての流れを見ましょう。

★ 1点刻みからの脱却のその後 ★

2017年の7月の実施方針までは段階別成績表示にするという記載あり

↓↓

その後の検討・準備グループにおいて、やはり素点がほしいという意見が出る

↓↓

1点刻みを残し、参考情報として段階別成績表示も行う

となり、1点刻みからは脱却せずに大学には素点を知らせ、必要があれば9段階に設定された段階別成績表示のどの位置にあるかも知らせることになっています。

 また、複数回受験については、次のような流れになっています。

★ 複数回受検のその後★

高大接続中間のまとめでは、CBT の技術がまだ確立していないことから検討が必要

↓↓

高大接続最終まとめのころでは、現実的に困難

↓↓

その後の会議で、英語の4技能評価や数学・国語の記述式試験を別の日程に設定すれば、複数回受検になるんじゃない?

↓↓

「いやいや、いくらなんでもそれはだめだ」

↓↓

2019年7月の実施方針で完全に消滅

 なお、これ以外にも小さな改革は残っていますが、この「記述式」が廃止となると、これまで30回程度開かれてきた会議の成果はほとんどなくなります。加えて、「記述式」問題の採点をすることで様々な効果をあてにして文科省と行動をともにしてきた民間業者も得るものがなくなります。

 一方、「記述式」を導入することで教育の崩壊を危惧する専門家は、この「記述式」を認めるわけにはいかず、教育を考える専門家vs自己の利益を優先する政財界の一部という構図に見える状況が現在です。

★ここまでのまとめ★

●文科省は、共通1次試験から数えて40回あまりの実績のある大学入試センター試験を廃止し、新たに大学入学共通テストを実施しようとしている。

●大学入学共通テストには、発案当初は多くの理想があり、その中には良いものもあった。

●しかし、実施に向けての計画があまいこともあり、多くは変更・中止を余儀なくされた。

●そんな中、最後に残ったのは、英語の「民間試験の活用」、数学と国語の「記述式問題の出題」であったが、英語の「民間試験の活用」は2019年11月1日に延期が決定された。その結果、残るは数学と国語の記述式問題の出題」だけになった。ここを譲ると結局、これまで何もしなかったのと同じになるから文科省としては譲れない案件である。

<文/清史弘>

【清史弘】

せいふみひろ●Twitter ID:@f_sei。数学教育研究所代表取締役・認定NPO法人数理の翼顧問・予備校講師・作曲家。小学校、中学校、高校、大学、塾、予備校で教壇に立った経験をもつ数学教育の研究者。著書は30冊以上に及ぶ受験参考書と数学小説「数学の幸せ物語(前編・後編)」(現代数学社) 、数学雑誌「数学の翼」(数学教育研究所) 等。 

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