「聞き上手」な人は何が違うのか? 表情を察し、表情で伝えることで変わるコミュニケーション

「聞き上手」な人は何が違うのか? 表情を察し、表情で伝えることで変わるコミュニケーション

イラスト/いらすとや

◆清水建二の微表情学第92回

 こんにちは。微表情研究家の清水建二です。みなさんの周りに「この人、聞き上手だな」「この人に話を聞いてもらいたいな」「相談するなら、この人!」という方はいらっしゃいますか。あるいは、「自分がよく相談される人です」という方もいるかも知れません。こうした方々はどんなスキルを持っているのでしょうか。聞くプロである心理療法のセラピストから学びます。

 心理療法中のセラピストとクライアントとの相互のやり取りを記録・分析した研究によると、クライアントの見せる表情の変化にセラピストが適切に対応できるとき、クライエントは自分のわだかまりを解消できるキッカケをつかむということがわかっています。

◆情緒的な関係が成り立つ聞き方

 具体的なプロセスは次の通りです。

 最初、クライアントはセラピストから顔を背けながらネガティブな出来事を話します。クライアントはセラピストの様子をさりげなく見ながら、一瞬だけ微笑んだり、声を出してわらったりしながら、顔をセラピストの方へ向けます。こうした変化に対し、セラピストは瞬きをしたあと、悲しみと幸福の混ざり合った表情を見せます。ときに声を出して笑い返すこともあります。その後、セラピストは具体的な言葉を紡ぎだしていきます。このようなプロセスが生じるとき、両者の間には情緒的な関係が成立し、セッションが上手くいくことがわかっています。

 一方で、このようなクライアントの変化にセラピストが先のような表情反応をせず、いきなり話を始めると、情緒的な関係が成立せず、セッションが上手く行かないことがわかっています。

 両者のセッションにおいて、クライアントとセラピストの心の中で何が起きているのでしょうか。

 ネガティブな話をするクライアントは、恥・罪悪感・落胆・悲しさ等ゆえに顔を背けていると考えられます。そして、セラピストがどんな様子で話を聞いているか、自分の話を受け入れてくれているかを確かめるべく、セラピストの様子を垣間見るのだと考えられます。笑顔の理由は惨めさからくることもあるでしょうし、クライアントが気を使い、ネガティブな空気を和らげるためになされることも考えられます。

◆話し手の想いを表情で代弁するセラピスト

 上手くいくセッションでのセラピストの反応の特徴は、悲しみと幸福の混ざり合った表情を見せる、というところでしょう。クライアントが話すネガティブな出来事に対し悲しみ表情で返すことで、クライアントが抱えている苦しい想いを理解していることや共感していることを伝えることが出来ます。そしてクライアントの笑顔に合わせ、幸福表情を見せることでクライアントに安心してよいことを伝えることが出来ます。

 問題解決のために具体的な方法を提案し、理性的な言葉を紡いでいく前にセラピストがしていることは、クライアントの気持ちに寄り添うということがわかります。クライアントの気持ちを理解し、感情を受け止める。感情が受け止められると、私たちは安心し、理性的な言葉を受け入れる準備が出来るのです。

◆本当に大切な情報は人を介してのみ流れる

 プロの心理セラピストのこうしたスキルを私たちのまわりの聞き上手の方々は持っているのではないかと想像出来ます。

 聞き上手は、私たちの話をただ単に聞いているだけではありません。私たちの話をよく聞き、適切なタイミングで適切に返答してくれるのです。言い換えるならば、私たちの感情を受け止め、共感してくれるです。そして私たちに「この人なら安心して心を開くことが出来る」と思わせてくれます。

 日頃から聞くことよりも話すことの多い方は、ときに聞き上手の役を演じることをおススメします。相手の表情の変化から感情の流れを読むことを意識し、その感情に沿った表情や言葉を、ここぞというタイミングで返す。あくまでも話し手が主役で自分がわき役と言う主従関係は崩さない程度で言葉を返します。

 聞き上手になることで、ときに相手がこんなにも深い存在なのだと気付くことがあります。また様々な人が相談してくることで多彩な情報が集まって来ます。どんなにIT技術が進歩しても最も大切な情報は人を介してしか交わされません。

 あなたが人事ならば、そうした情報を活かして、適切な人員配置が出来るでしょう。あなたがチームリーダーならば、メンバー一人一人をより理解することが出来、チームのモチベーションを刺激する材料を手に入れることが出来るでしょう。あなたが交流会によく出席する方ならば、誰と誰がタッグを組めば、ビジネスが進展しやすいかわかるようになるでしょう。

 様々な情報がネット空間を交錯する現代においてこそ、ネットにはない人を介してのみ得られる情報に価値が生まれるでしょう。そんな情報を得て伝えるために、相手の表情を直接観て、自分の表情で直接伝えられるスキルは今後、ますます重要性を帯びてくるのではないかと思います。

参考文献

B?nninger Huber, E.(1992). Prototypical affective microsequences in psychotherapeutic interaction. Psychotherapy Research, 2, p291-306.

<文/清水建二>

【清水建二】

株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役・防衛省講師。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16・19」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『ビジネスに効く 表情のつくり方』(イースト・プレス)、『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。

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