「胎内記憶」医師の登壇中止でも立教大スピリチュアル・シンポが不思議でいっぱいだった件

「胎内記憶」医師の登壇中止でも立教大スピリチュアル・シンポが不思議でいっぱいだった件

池川氏の「胎内記憶の講義」で学生のスピリチュアリティが上がる?

◆スピリチュアル用語だけでなく不謹慎なジョークも飛ぶ

 12月8日、立教大学内で「立教大学ウェルネス研究所」主催の公開シンポジウムが開催された。タイトルは「霊性(スピリチュアリティ)と現代社会」。事前に、科学的根拠がないと批判を浴びている「胎内記憶」(子供が胎児やそれ以前の状態だった頃の記憶を持っているとする主張)の提唱者・池川明医師の講演が予定されていたことで批判を浴び、池川氏の講演を取りやめてシンポジウムそのものは開催された。

 ところが、池川氏抜きで行なわれたシンポジウムも、「胎内記憶」「在日宇宙人」「2025年に人類滅亡」「神の声を聴く詩人」「木や花と話せる」といった単語や主張が飛び交うトンデモ講演会だった。講演者が「統合失調症」を冗談のネタにして来場者たちともども笑い声を上げる場面もあった。

 池川氏が批判された主な理由は、虐待される子供は虐待されるために生まれてきたのだとする主張を常々行っており、これが虐待の正当化や容認にあたるのではないか、とされていた点だ。にもかかわらずシンポジウムは、池川氏講演の中止に言及した主催者が「(虐待とは)逆たい!」とダジャレで笑いを誘ってコメントを締めくくる、不謹慎極まりないものとなった。

 立教大学池袋キャンパス内で午後2時から行なわれたシンポジウムは、満席とはいかないまでも見たところ来場者200〜300人はいそうな盛況。入り口には、池川氏の名前を掲載したままのポスターが貼られていた。

◆「UFO」は「当たり前に見られるスピリチュアルな現象」!?

 冒頭、主催者である立教大学ウェルネス研究所の研究員・濁川孝志(同大コミュニティ福祉学部教授)が池川氏講演の中止について謝罪。「いきさつについては控えたい」とした。3月で定年退職となる濁川氏は、この日の講演がこれまでの活動の集大成だと語った。また来場者による会場での録音、撮影などの記録については「好きなようにやって下さい」とした。

 まずは「場を清める」(濁川氏)と称して和太鼓の演奏。続いて濁川氏の講演が始まった。うつ、自殺、引きこもり、異常気象、生物多様性の減少、環境問題の深刻化などは「スピリチュアリティの低下が関連」していると濁川氏が語る。自分の内なるスピリチュアリティに目覚めれば、人は謙虚になり、日々の出来事に対して感謝の気持を持って対照できるようになり、自分自身を最も幸せにするのだという。

 濁川氏が「当たり前に見られるスピリチュアルな現象」として、以下のものを挙げた。

”●UFO:多くの人が見ている

●霊力を備えた人達:未来の予想、多くの預言者

●夢の教え:エドガー・ケーシー

●時空を超えた影響:遠隔気功⇒科学的な実験

●生まれ変わり:多くの文献、退行催眠

●無からの物質化:サイババほか

●亡くなった魂とのコンタクト:多くの事例”(濁川氏の発表資料より)

 オカルトや精神世界に触れたことがない人にとっては聞いたこともないような単語も混じっているのではないだろうか。一般的には「当たり前に見られる」現象のようには思えない。

 しかしこれらを無下に否定する態度は非科学的であり、近年では「量子論」の分野でこうした現象について言及されるようになっているのだというのが、濁川の主張だ。

 これに続く濁川氏の話は、これらの現象についての科学的説明でもなければ「量子論」についての説明でもない。スピリチュアリティを重視する人々の間で人気が高い映画『地球交響曲(ガイアシンフォニー)』の龍村仁監督の「かつて人が、花や樹や鳥たちと本当に話ができた時代がありました」などとする言葉を紹介しただけだ。無碍に否定するのが非科学的だという主張はいいとして、自分が信じるものについて根拠も示さず主張するだけというのは科学的姿勢なのだろうか。

 濁川氏は、批判を浴び今回のシンポジウムでの登壇を取りやめた池川氏のことも持ち上げて見せた。立教大学に池川氏を招き学生たちに向けて「胎内記憶」について講義をしてもらったら、学生たちのスピリチュアリティが上がったというのだ。

 濁川氏自身が開発に関わった「日本人青年におけるスピリチュアリティ評定尺度」によって測定した結果で、様々な質問に答えさせることでスピリチュアリティを測定するのだという。池川氏の講義の前と後で学生に同じ測定を行ったところ、講義後のスコアが上がったというのである。

 科学的根拠のないスピリチュアルな講義を聞かせて学生を感化させてしまっただけとしか思えないが。大学の教員が学生にこんな「人体実験」をしていいものだろうか。

◆「在日宇宙人」が人類を救う!?

 続いて講演したのは、萩原孝一氏(桜美林大学非常勤講師、アフリカ協会特別研究員)。演題は「スピリチュアル系元国連職員から在日宇宙人へ」。

 大半の読者は意味がわからないだろう。だが安心してほしい。私にもわからない。

 萩原氏は国連職員時代、ぎっくり腰で病院に行った際、不思議な声を聞いたのだという。その第一声は「Save The Earth(地球を守れ)」。

「うわ。厄介なやつが来たなと。お前は統合失調症か? まあ、この会場の3分の1くらいの人はこのカテゴリー」(萩原氏)

 会場の人々が笑い声をあげる。

 萩原氏は声が聞こえても病院には行かなかったのか、そのまま「スピリチュアル系国連職員」になったのだという。そして、とんでもないスケールの持論を萩原氏はまくしたてる。「日本はこれから大変な時代を迎える」「でも日本は大丈夫、とにかく元気を出せ」「死ぬこと以外はかすり傷」「2025年に人類は滅亡する」「いまは第三次世界大戦前夜かもしれない」「これを食い止めることができるのは日本だけ」……。

 日本が人類を救うために、「在日宇宙人」によって国連に代わる組織「国連スピリチュアル機構(UNSO)」を作ろうというのだ。

 「宇宙人信奉」と「日本スゴイ」の夢のコラボレーションだ。やや日刊カルト新聞の若田部修記者によると、萩原氏が「在日宇宙人」や「国連スピリチュアル機構」などと口走るのはこれが初めてではない。過去にスピリチュアルの見本市「癒しフェア」で講演した際にも同様の話をしていたという。

 次の講演は長堀優氏(育生会横浜病院院長)。ノリノリで来場者の笑いを誘いながら話す萩原氏とは対照的に、静かな語り口調だ。

 「霊性に根ざした生き方を考える」と題して、「西洋科学と東洋哲学の融合」「お迎え現象」(臨死体験のようなものか?)の存在を主張。「量子論」などについても説明したが、それがスピリチュアリティとどんな関係があるのかは明確な説明がなかった。

 科学との関係については「科学的思考から見みて正しいか否か、を考えるより 大切な態度が看取りの現場にはあるのでは?」として、自身の持論が、人の死をめぐる癒やしにつながるとした。

◆第2の「奇跡の詩人」か

 休憩を挾んでトークセッション。先ほどの3人の講演者に「天の声を聴く詩人」こと神原康弥氏が加わる。

 康弥氏は幼少から重度の障害を抱え、8歳の時に「特別支援学校の教員に体罰を受けたことがきっかけで、宇宙根源の存在に気づ」いたという(公式サイトより)。話すことができないため、壇上で話すのは母のひで子氏だ。

 神原親子はヒーリングを2時間1万円のセミナーや30分1万8000円の「個人コンサル」などを行う活動をしており、「夜間特別コンサルティング」は60分10万8000円だ。ひで子氏はヒーリングのソロ活動も行っている。

「神原康弥と申します。どうぞよろしくお願いします。見ての通りぼくは重度障害者です。え〜、26歳かな?」(康弥氏?)

 一瞬、康弥氏ではなく母親の言葉が混じったようにも聞こえたが、気のせいか。

「6歳の頃に母がぼくにペンを持たせて、ノート虹を書く練習を初めて、いろんな過程を経て、いまこういう状態で、ぼくの体に触ることで、母がぼくの意識を読み取って通訳をしているという状態です」(ひで子氏)

 康弥氏の意識を読み取るため、ひで子氏はずっと康弥氏の腕に手を置いて話す。しかしトークセッションの終盤になると、ひで子氏は康弥氏から完全に手を話して手振りを交えて熱弁を振るっていた。話の内容概ね、死後の魂は宇宙に帰るとか、地球での生活はかりそめだとか、高級霊や守護霊がどうのといったものだ。

 2002年に起こった「NHK『奇跡の詩人』問題」を思い出す。

 重度の障害を抱えた日木流奈(ひき・るな)くん(当時11歳)を、文字盤を指すことで執筆活動を行っていると称する母子とともにNHKが「奇跡の詩人 〜11歳 脳障害児のメッセージ〜」と題するドキュメンタリー番組で取り上げ批判を浴びた問題だ。同番組の映像を見ても、流奈くんの手を持った母親の手が流奈くんの手を動かしているように見えるなど不自然な点が多かった。また、このコミュニケーション方法は、母親が流奈くんに行なわせていた「ドーマン法」と呼ばれるリハビリの一環でもあったが、これ自体に科学的根拠がないとされる点も問題視された。

 この問題は国会でも取り上げられたが、NHKは謝罪や撤回は行なわず、番組内容は事実だと主張。番組の信憑性について検証することはなかった。

 今回の公開シンポジウムで登壇した神原康弥氏は、公式サイトによると1993年生まれで、日木流奈くん(1990年生まれ)と4歳差。母親との筆談でコミュニケーションを開始したのが6歳(1999年頃)、「宇宙根源の存在」に気づいたのが8歳(2001年頃)。母とともにセミナーなどを開催するようになったのは22歳(2012年頃)だが、世代も境遇も近い。

 その流奈くんは、いまどうしているのか。調べると、まだやっていた。今年9月にスピリチュアル系メディアに掲載されたインタビュー記事*があった。

〈*スターピープル・オンライン:日木流奈さんインタビュー/第1回 「何が起きても大丈夫!」という人が増えてほしい〉

 この問題については、批評すればするほど当人たち(あるいは親)を嘘つき呼ばわりするに等しくなってしまうので、さしあたっては控えたい。障害を持つ子供に特別な能力があるとなれば親としては励みになるだろうし、また別の誰かにとっても癒しや励ましになる場面はあるのかもしれない。

 とはいえ、これでいいのだろうか?と感じずにはおれない。

「いま、お母さんが話していますが、話しているのは康弥さんなんですね」(濁川氏)

 やはり、意味がわからない。

「みなさんこれを、どのように捉えられるか。もちろんファンタジーとして捉えてもいいと思いますし、全面的に受け入れられてもいいと思いますし。あるいは、否定的に捉えられてもいい。それはみなさんのご自由だと思いますね。でもぼくはですね、本を読ませていただいたり、あるいはお会いしてお話させていただいたりして。彼はさっき龍村仁監督が言た、花や樹や鳥たちとお話ができる人なんですね。ちっちゃい頃からそうだったみたいです。そういうふうな能力を実際にお持ちになっている方が、いままさにここでお話していただいた。というふうにぼくは捉えています」(濁川氏)

 信じるか信じないかはあなた次第!と言っておきながら、信じることが正解(あるいは批判しせず受け入れる人がいい人)であるかのように思いたくなる物言いで締めくくる。

◆池川氏擁護の大合唱

 続くトークセッションは結局、池川氏に関する内容になった。シンポジウムの冒頭では「いきさつについては控えたい」と語っていたはずの濁川氏が、登壇者たちに話を振る。

「やっぱり避けて通れないのは、池川明先生がね、本来ならここでしっかり語っていただく予定だったんですけど。それについて先生方から一言コメントをいただきたいんですね。ざっくばらんに言うと、池川先生のご著書とかこれまでの講演を、児童虐待を容認するように捉えられたんですね。ぼくは誤解だと思っていますけども。でもまあ、そういう風に捉えられた方が、『そういう人に大学の場で発言させるのはいかがなものか』というクレームが大学に来て、大学当局はそれを認めたわけではありません。最終的にぼくが説明をして(大学等当局は)わかってくれました。ただ、そういうことを新聞が書いたりすると、その影響は簡単に払拭できない部分があって、今回はご登壇(を中止?)していただいた」(濁川氏)

「そういう世界は嫌だとか気持ち悪いとかって人が、実はいた方がいい。みんなが『そうだ、そうだ』と言った方が却って気持ち悪い。それは社会的なバランスで、そういう意見をお持ちの方がいてぜんぜんオッケーだと思います。ただ、今回、そういう場を立教大学が作って頂いて、こういう考えもあるんだけどどうだろうかという場にできたと思うんですよね。そこのところが、順序が違っていたんではないかと。予見とか予測とか思い込みが先走っていて、ああいうことをもし言われるんだったら、この場に来ていただいて、けしからんということであれば話し合いができる。その話し合いの場をなくしてしまったということが口惜しいし残念」(萩原氏)

「池川先生のお人柄はよく存じ上げていますが、お金とかそういうもので動いている人じゃない。今回問題になったところも、本意は、池川先生は苦しむ人に救いとなる言葉を差し上げたいというところなんですね。(池川氏は)『ほんとに人のためにあえて危ないところに突っ込んでいく。それでもしバッシングを受けても、それは胎内記憶を広げるきっかけになるはずだ』と割り切っているところがあると思います。ただ、やはりこういったことを言われることは確かなんですが、それは当然です。ではどうしたらいいのか。こういったことは皆の集合意識、フロイトが言うところの集合的無意識ですね。それが全てを決めていきます。(略)ある程度認識が深まるとポーンと出てくるんですね。みんなの集合意識が認めてないことは出てこないと言われています。ですから胎内記憶であるとか、こういう霊性、それを受け入れる人が増えてくる。そうすると、そういったこと(批判)を言う人も、だんだん減っていくだろうと。(略)池川先生も納得してると思います。ですから、これから、皆さんの意識が大事になってくる。ひとりひとりの意識が大事になってくる」(長堀氏)

「ぼくも永堀先生とほぼ同じ意見です。人間というのはマイナス的な発言、行動にジャッジしやすくなります。だから、楽しくないとか悲しいとか苦しいとかいう出来事に対して、人間は囚われてしまう傾向性があります。そこから早くプラスの方向、明るく楽しくいい考え方、善の考え方にしていくことが私たちの改善策ではないかなあと思います。それをすることによって人々はだんだん幸せになっていく。そういう流れになっていますので、マイナスにどうしてもジャッジして腹が立つとか悲しいとかそれ変とか言う人は、そのまま置いておきましょう。私たちは楽しく明るくしあわせな方法を考えていく。これが一番大事だと思っています(会場拍手)」(康弥氏?)

「池川先生はなんて言ってたか。バッシングをしている人たちに向けて『彼らは虐待を本当になくしていこうとしている、すごい心の優しい人なんだよ。だから攻撃的になるんだよ。だから本当は素晴らしい人なんだよ』って言うんですよ。すごいですよね、これって。自分をバッシングする人を。これが池川先生の本質なんです。彼は確かに『子供は親を選んで生まれてくる』と言う。これは子供の証言だからウソもホントもなくて、実際そういう子がいるんですね。その中には『虐待をする親でも選んで生まれてきた』という。これは証言だから。池川さんが言ってるわけじゃなくて。それを意味づけしてるんです、池川先生は」(濁川氏)

 先ほどまでの「信じるか信じないかはあなた次第!」のような態度はどこかに吹き飛んで、完全に「真実」であるかのように力説する濁川氏。

◆濁川氏の説明と異なる池川氏自身の見解

 さて、その頃、当の池川氏はどうしていたか。シンポジウムの真っ最中に、池川氏の有料メルマガの「増刊号」が配信されていた。タイトルは〈立教大シンポ、「胎内記憶」研究医師が登壇取りやめ〉。すでにやや日刊カルト新聞の若田部修記者が同紙上でリポート*している。

〈*やや日刊カルト新聞:胎内記憶擁護の研究者が立教大学で講演〉

”チラシには私の名前が出ていますが、私は不参加。

 なぜかというと、ネットにフェイクニュースが流れ、そのフェイクが拡散されたため

 某大新聞が大学トップに「こんな輩を出していいのか?」

「出すなら記事にするぞ」と脅しをかけたらしい(伝聞推定です)ので

ビビった当局が私の出演差し止めを行った、というのが私の理解です”(池川氏のメルマガより)

 講演中止に至る経緯の説明が、先ほどの濁川氏の説明と全く違う。

 このメルマガの内容を知ってか知らずか、濁川氏は池川氏に関する話題を、こう締めくくった。

「3日前から一生懸命考えてきたギャグが一つあるんです。ギャグですよ。いいですか。笑って下さいよ。何故か九州弁になって、『それは逆たい!』(会場、若干の笑いと拍手)。はい。池川先生は虐待をする人じゃなくて、『それは逆たい!』。はい。ありがとうございます。大してウケなかったですね」(濁川氏)

 登壇した人々の中の誰一人として、池川氏が指摘されている問題を問題だと考えてはいないようだ。そして池川氏抜きでも、「こんなシンポジウムが大学で、大学内組織の主催で行なわれていいのだろうか?」と首を傾げたくなるには十分なシンポジウムだった。

登壇者たちの池川氏問題に関する全発言はやや日刊カルト新聞のYou Tubeチャンネルに、立教大学ウェルネス研究所公開シンポジウムとしてアップされているのでそちらで確認可能だ。

<取材・文/藤倉善郎 取材協力:若田部修>

【藤倉善郎】

ふじくらよしろう●やや日刊カルト新聞総裁兼刑事被告人 Twitter ID:@daily_cult4。1974年、東京生まれ。北海道大学文学部中退。在学中から「北海道大学新聞会」で自己啓発セミナーを取材し、中退後、東京でフリーライターとしてカルト問題のほか、チベット問題やチェルノブイリ・福島第一両原発事故の現場を取材。ライター活動と並行して2009年からニュースサイト「やや日刊カルト新聞」(記者9名)を開設し、主筆として活動。著書に『「カルト宗教」取材したらこうだった』(宝島社新書)

関連記事(外部サイト)