「共通テスト記述式導入反対論」への難癖はここがおかしい。センター試験も知らずに政策決定する愚

「共通テスト記述式導入反対論」への難癖はここがおかしい。センター試験も知らずに政策決定する愚

出演した番組で「従来のマークシート式では、本当の思考力や判断力・想像力が育まれない」と発言したり、東大に圧力かけたり、「共通テスト」にご執心な下村博文元文科相(時事通信社)

 2021年1月から実施予定の大学入学共通テスト(以下、「共通テスト」)では、この試験の中で数学と国語に記述式の導入が問題になっています。

 この記述式の導入については、賛成、反対の意見が分かれていますが、賛成の方の中には現状がどのようになっているかをご存じないと思われる方も少なくないようなので、今回は疑問に答える形で説明します。

◆議論の出発点

 大学入試に限らず、「試験」と呼ばれるものの最大公約数は「公平に評価できるか」ということです。公平に評価できないものは試験ではなく、「くじ引き」と同じなのです。

 (注)ここでは、不自然な採点基準は問題にしません。不自然であっても、その採点基準で全員が採点されるのであれば平等と考えます。

 また、一部の私立大学は、慢性的な定員割れに悩み、しかも問題を作成するマンパワーも足りず、入試を行うことがかなり厳しい状況のところもあります。そのような大学を学生選抜が「できない大学」と定義することにします。「できない大学」ではない大学を「できる大学」と定義します。

◆記述式に賛成をする方に多い誤解

 共通テストの記述式の導入に「賛成」あるいは「問題がない」と考える方の意見を集約すると、この試験に対する誤解に基づくものが多くあります。数学の試験に関してその誤解を次のように分類しました。

TypeA:ほとんどの国公立の2次試験が論述形式の記述式であることを知らないタイプ

TypeB:共通テストの問題がすべて記述式の問題の試験であると思っているタイプ

TypeC:共通テストの記述式の問題が短答形式であることを知らないタイプ

TypeD:センター試験の内容を知らない、またはセンター試験がテクニック中心と考えるか何らかの苦い過去をもつことが理由のタイプ

 次に、共通テストの数学の記述式を誤解している人の主な意見をあげ、これがどのタイプになるかを記します。

【意見内容誤解のタイプ】

Q.1:数学の力をはかるには、記述式でなければはかれないのでは?:AとC

Q.2:センター数学は4択5択で解答するから思考力が育たない。(元文科大臣):AとD

Q.3:記述式はどんなマークシート方式よりも優れているものなんだ。(元文科大臣):C

Q.4:野党は、今のマークシート型主体の入試のままでよいと思ってるのだろうか。(政治評論家・雑誌編集者):BとD

Q.5:マークシートで本当の能力が測られる時代ではないことを認識すべき。(議員):AとBとC

Q.6:日本は詰込み式の教育から切り替えていくべき。そのためには記述式が必要。(ジャーナリスト):AとC

Q.7:(記述式の方が)技量が如実に現れる。:AとC

Q.8:マークシートなんかテクニックで勝負でき、条件から絞り込むことも可能。これでは入試の質は下がってしまう。センターで厳しいなら、各大学の二次試験で数学、国語の記述式を必須にしたらどうか。:AとCとD

Q.9:丸暗記の色塗りテストより記述の方が高度な試験だ:C

Q.10:センター試験はテクニック的なようなものばかりだから、記述試験で数学の力をきちんとはかってほしい。:CとD

 発言者が書かれていないものは、SNS等での意見を集約したものです。これらの中には同じような主張も含まれますが、次ページからそれぞれに対する回答を記します。

◆センター試験の問題を見たことがあるのか?

Q.1:数学の力をはかるには、記述式でなければはかれないのでは?

 その通りです。数学の力をはかるためにはマークシート方式でもある程度はできますが、より正確にはかるためには「論述形式」の記述式でなければなりません。しかし、共通テストの記述式は、答の数値、結果を書くものが主です。これは短答式と呼ばれるもので論述形式ではなく、数学の力をマークシート以上にはかれるものではありません。さらに、この短答式の問題はマークシートで問うことも可能です。であれば、記述式でもマークシートでもよいではないかと思われるかもしれませんが、記述式は実施するにあたって採点の公平性など多くのデメリットを伴います。

【記述式の問題点についてはこちらの記事を参照:大学入試共通テスト問題。「記述式」で生じる3つの大きな問題<短期連載:狙われた大学入試―大学入学共通テストの問題点―>】

 さらに、論述形式の記述式の問題はすでに国公立大学の個別試験(2次試験)で出題されています。

Q.2:センター数学は4択5択で解答するから思考力が育たない。(元文科大臣)

 一度、今年のセンター試験の問題をご覧になってから発言されるとよいと思います。確かに、ある条件が「必要条件」か「十分条件」か等を選ぶ問題では4択から選ぶ問題ですが、問題のほとんどはそのようになっていません。そこから、センター試験の性格がわかります。

 それから、共通テストの試行調査の問題はご覧になっているでしょうか。共通テストの方が多岐選択式問題は増えています。残念なことに共通テストの方が思考力をはかる点では後退しました。

Q.3:記述式はどんなマークシート方式よりも優れているものなんだ。(元文科大臣)

 果たしてそうでしょうか。例えば、「さいころの目で3の倍数は何個あるか」という問題で、「2と書く」のと「2をマークする」のはどれほどの違いがあるのでしょうか。それは、公平性が失われることを犠牲にしても達成しなければならないことかは疑問です。

Q.4:野党は、今のマークシート型主体の入試のままでよいと思ってるのだろうか。(政治評論家・雑誌編集者)

 共通テストの試行調査の問題を見るとおわかりになることですが、共通テストになってもマークシート型主体であることには変わりはありません。記述試験は、「数学I」「数学I・数学A」にのみ課される試験で、「数学II」「数学II・数学B」の試験には出題されません。

Q.5:マークシートで本当の能力が測られる時代ではないことを認識すべき。(議員)

 まず、国公立大学に限れば82大学の中で81大学が2次試験に記述式、しかも共通テストよりもはるかに質の良い論述式の問題を出題しています。一方で、センター試験のみで合否を判断する大学も少なくないのは事実です。そのような大学は、本来2次試験などの個別試験で記述式の問題を出題した方がよい「できない大学」です。もしも、「できない大学」のために共通テストに記述式を導入するのなら、きちんとした論述型のものを実施しなければ意味がありません。もちろんそれには実施可能かという問題がつねに存在します。今の共通テストの記述式では役に立ちません。

 一方、「できる大学」には何のメリットもありません。それよりも質の良い試験を実施しているのですから。メリットはなく、公平性などのデメリットだけがある試験を押しつけることになります。

◆共通テストは難癖つける連中のいう問題点を増してるだけ

Q.6:日本は詰込み式の教育から切り替えていくべき。そのためには記述式が必要。(ジャーナリスト)

 まず、教育を詰込み式にするかどうかは、半分は教える側の問題です。教える人が詰込み方式にすればどんな問題を出題しても詰め込み教育になります。この場合は、教える側の問題で、記述式を出題すべきかどうかという問題とは別に議論する必要があります。

 次に、自前で入試問題を作ることができる「できる大学」が出題している入試問題をご覧ください。例えば、東京大学ほど入試問題に多くの対策がとられる大学はありません。しかし、目先の対策では解けるようにならない問題がほとんどです(時々、小手先のテクニックで解ける問題もあります)。

Q.7:(記述式の方が)技量が如実に現れる。

 一般には、その意見は正しいのですが、残念ながら共通テストで出題される問題は技量が如実に現れる問題ではないのです。また、マークシート方式でも技量が如実に現れる問題はある程度は作ることは可能で、これまでのセンター試験がそれを証明してくれています。

Q.8:マークシートなんかテクニックで勝負でき、条件から絞り込むことも可能。これでは入試の質は下がってしまう。センターで厳しいなら、各大学の二次試験で数学、国語の記述式を必須にしたらどうか。

 まず、「各大学の二次試験」という表現ですから、国立大学を指していると思われますが、国立大学は82大学中81大学が共通テストよりも良質の記述試験を課しています。

 また、「条件から絞り込むことは可能」とのことですが、それはセンター試験のすべての問題にあてはまるわけではなく、センター試験の数学の場合はそのようにできないものがほとんどです。しかし、共通テストでは、逆にそのように絞り込むことができる問題が増えました。

Q.9:丸暗記の色塗りテストより記述の方が高度な試験だ。

 出題の仕方にもよります。現在のセンター試験の問題は、大半が正しい数値がわからなければ、正しくマークができない仕組みになっています。まぐれで正答する可能性は限りなく小さく、数字を書くか、数字をマークするかの違いです。したがって、現在のセンター試験の問題は、内容的には記述の短答型の試験に匹敵すると言ってもよいものです。

Q.10:センター試験はテクニック的なようなものばかりだから、記述試験で数学の力をきちんとはかってほしい。

 センター試験を「テクニックで解決できる試験」とみなすかどうかは、受検する人の学力によります。学力が高い人は、「テクニック」などと意識せずに考えて正解に達します。しかし、数学が苦手な人は、「よくわからないけれど正解に達する魔法の方法」を期待して、実際にそれで問題が解けることもあります。なぜその方法で解けたのかがわからないで解けた場合、解いた人は「テクニック」とか「裏技」といいます。これがよいかどうかはここでは議論しませんが、それは、センター試験だから起こることではありません。

◆政策決定者は、もっとセンター試験のことを深く知るべき

 さて、共通テストの記述式の問題点は、最近知った方にとってはわかりにくい問題なのでしょう。

 それは、「記述式」という言葉の響きに多くの期待をもたせてしまうからかもしれません。この共通テストの「記述式」については、歴代の文科大臣さえもよく理解していないのではないか(個人の感想です)と思えることもあります。少なくとも政策決定者は、共通テストの試行調査の問題を解くくらいのことは実行してもらいたいと思います。もちろん満点をとらなければならないわけではありません。

 なお、今現在、およそ60代以上がこのような全国の共通テストは未経験であり、50代が共通一次世代、それ以下がセンター試験世代です。政策決定者が50代の場合、国立大学を受験する場合は共通一次を受けることになりますが、この共通一次と今のセンター試験では質の面でかなり異なるので、共通一次試験をイメージして政策を決めると誤った判断になります。

◆センター試験を受けたことのない安倍政権下の歴代文科相

 参考までに、安倍内閣における文部科学大臣とセンター試験受験の可能性をまとめてみました。

 次の表は、2012年12月に発足した第2次安倍内閣以降の6人の文部科学大臣と大学入試センター試験を受検した可能性です。1979年〜1989年までは厳密には共通1次試験(大学共通第1次学力試験)として実施されており、この6人の大臣は全員がこの共通1次試験かそれ以前の世代にあたります。

 共通1次試験は私立の大学には課せられません。しかし、入学した大学が私立大学であっても国立大学を受験した可能性はありますのでそのような場合は、「受けた試験」の欄には、括弧()つきで、(共通1次試験)と記してあります。各大臣がどの大学を受験したかについては手に入りにくい情報ですので、そのように記してあります。

氏名/生年月日/就任した期日/入学した大学と学部/受けた試験

下村博文/1954年5月23日/2012年12月26日/早稲田大学教育学部/(共通1次試験以前)

馳浩/1961年5月5日/2015年10月7日/専修大学文学部/(共通1次試験)

松野博一/1962年9月13日/2016年8月3日/早稲田大学法学部/(共通1次試験)

林芳正/1961年1月19日/2017年8月3日/東京大学文科1類/共通1次試験

柴山昌彦/1965年12月5日/2018年10月2日/東京大学文科1類/共通1次試験

萩生田光一/1963年8月31日/2019年9月11日/明治大学商学部/(共通1次試験)

 このように、各大臣経験者が今の共通テストを体験していないのは明らかですが、遅くはありません。なぜセンター試験を変えなければならないか、共通テストはどのような試験になってしまったかについては、今からでも十分に研究すればよいことです。少なくとも問題文を読んで考えるところまではやっていただけたらと思います。

 この大学入試改革は、人口減少社会において、学生募集に苦労した大学が、AO入試あるいは推薦試験などと称して事実上の無試験で入学できるような大学、いい加減な募集をする大学が増えたことも発端の一つでした。それを改革しようとしたことはよいことだと思いますが、途中から真の専門家の意見よりも民間業者を優先ししたことが現在地に到着した理由です。今一度、真の専門家を集めなおして、もう一度しっかりと意味のある実行可能な制度を作っていくことが望まれます。

<文/清史弘>

【清史弘】

せいふみひろ●Twitter ID:@f_sei。数学教育研究所代表取締役・認定NPO法人数理の翼顧問・予備校講師・作曲家。小学校、中学校、高校、大学、塾、予備校で教壇に立った経験をもつ数学教育の研究者。著書は30冊以上に及ぶ受験参考書と数学小説「数学の幸せ物語(前編・後編)」(現代数学社) 、数学雑誌「数学の翼」(数学教育研究所) 等。 

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