ロンドンにヴァギナ・ミュージアムがオープン。女性器にまつわる誤解とは?

ロンドンにヴァギナ・ミュージアムがオープン。女性器にまつわる誤解とは?

ロンドンにヴァギナ・ミュージアムがオープン。女性器にまつわる誤解とは?の画像

◆世界初のヴァギナ・ミュージアムがオープン

 2019年11月16日にロンドン、カムデン・マーケット内に新しくオープンしたヴァギナ・ミュージアム(Vagina Museum)は世界初の女性の性と婦人科の博物館だ。

「アイスランドに男性器の博物館はあるが、女性器の博物館は世界に1つもない。(オンライン上の博物館がオーストリアに2014年に設立されている)まさにそれ自体が性差別だ。それならば、新しく作ろう」というモットーのもと、28歳の若き創設者フローレンス・シェヒター氏は2017年からヴァギナ・ミュージアムの設立プロジェクトに着手。

 今回の設立に先立ち、シェヒター氏は英国、イングランド・ウェールズ各地で2年間にわたり企画展示やイベントを行い、クラウドファンディングにより1000人以上からの寄付金で50000ポンド(約725万円)を集め、今回の設立に至った。

 筆者が訪れたのは、平日水曜日の昼過ぎだが、多くの人で賑わい、中には子連れの女性もいた。ちなみに、このヴァギナ・ミュージアム、特に年齢制限を設けてはおらず、全ての老若男女に開かれている。全くもって、この博物館はポルノ的な文脈にはない。そこだけは強調しておきたい。

◆なぜ女性器はタブー視されるのか

 ミレニアル世代(2000年代に成人になる1980年以降に生まれた人。特にデジタル・ネイティブの世代)が抱える社会問題意識の1つとして、それまでの既存の家父長社会におけるジェンダーやセクシャリティに対するアンチの姿勢は日本を含め先進国では共通していると言っても過言ではないだろう。もちろん、様々な文化によって詳細の違いはあり、それはもちろん議論されるべきだろうが、大きな枠組みとしての家父長社会というのは日々、男女関係なく少なからず誰しも日々体感している筈だ。

 疑問に思ったことはないだろうか。

 男性器については、お笑いや冗談の場で言及しても笑いで収まるが、女性器の話になるとまるで禁忌に触れるかのように「笑い」にならない。ちなみに英語でも男性器を表す「Dick」は侮辱言葉としてスラングで頻繁に用いるが、女性器を表す「Cunt」の方がその侮蔑度は高く、相当な場面でない限り使われない。

 また、日本では若い女性が婦人科に通う事は、少し前までスティグマ視されていた。筆者が学部時代、女友達は人目を気にし、わざわざ地元から少し離れた婦人科を受診していたのもそれほど遠い昔の話ではない。また、自身のヴァギナを見たことも触れたこともないという女性は少なくはない。

 女性自身が家父長社会の圧力によって自身の身体について辱めを覚えることによって、潜在する様々な諸問題に無知・無関心であるということだ。女性の身体の中で子宮やそれに伴う器官はその人生の大半に影響するものであるにも関わらず。

◆黒人の奴隷女性を犠牲にして発展した婦人科医療

 蛇足ではあるが、婦人科の誕生の歴史自体もとても悲惨なものである。

 米国の「婦人科の父」と呼ばれるジェームズ・マリオン・シムズ(1813-1883年)は一般的にクスコと呼ばれる膣鏡を開発したとして知られているが、その研究方法は黒人奴隷女性に麻酔なしで手術を繰り返した残酷なものだ。

 出産後に膣と膀胱の間に瘻孔ができてしまう膀胱膣瘻を患った黒人奴隷女性アナルーシャ・ウェストコットはシムズにより計30回にも渡る外科手術を麻酔なしで行われ、その当時は鎮静作用が認可されていたアヘンを投与された。アナルーシャのその後は歴史的資料の欠如により何もわからないが、シムズはその後ニューヨークにわたり、初の女性向けの病院を設立した。もちろん、白人女性には麻酔付きの治療で。

 婦人科の歴史がそのような暗い歴史に基づいていること、そして長い間医療分野が男性中心だったことを考えると女性が自身の性を語ることの難しさは必ずしも完璧に是正はされてはいないだろう。無論、昨今日本の女性医療従事者の啓蒙活動には脱帽せざるを得ない。彼女たちの活躍はとても尊重されるべきだし、もっと多くの社会的注目を浴びるに値すると強く思う。

◆ヴァギナについての神話とそれに抗う方法

 話を元に戻そう。

 今現在でも婦人科、特に女性のヴァギナについては様々な社会的「神話」が蔓延し、それらの言説の多くはその真偽の有無に関わらず、私たち女性を惑わす。

 今回のヴァギナ・ミュージアムの第一回目の展示として「Muff Busters: Vagina Myths and How to Fight Them (間違い退治:ヴァギナについての神話とそれに抗う方法)」が開催された。ちなみに英語でMuff というとスラングで女性の膣を表す。この展示の会期は2020年2月28日までで入場は無料である。

 会場には11ものヴァギナや妊娠、陰毛についての「神話」が並べられ、その婦人科的見解が掲載されている。

 ここではいくつかその中でも印象的だったものを紹介したい。

◆神話「膣を持つ人が女性」/事実「そうでない場合もある」

 これはジェンダー(社会的性)と生まれながら持った性が一致しない場合も往々にしてある、ということである。例えば女性の体を持って生まれたとしても、男性としてのアイデンティティを持つ場合もあるし、その逆も然り。

 最近では、お茶ノ水女子大学が戸籍上男性であっても女性として性自認がある人も修学可能であると発表したことが話題になったが、このように生まれ持った性が自身の性自認と一致しないことも普通にある、ということだ。

 また、どのような性に生まれ持ったとしてもジェンダーは個人の選択によって選べる、ということも念頭に入れておきたい。昨今ではLGBTQIA と様々な性自認があるが、それらは個人の選択として尊重されるべきであるし、差別や侮辱の対象になることは許されるべきではないのである。

 このような前置きの後、展示はより婦人科系の話へと進む。

◆神話「女性器は膣(ヴァギナ)と呼ばれる」/事実「そんなこともない」

 膣という言葉が女性器を表す言葉のように使われているが、実は婦人科ではそれは女性器の一部でしかなく、詳しくは女性器の外側の部分は外陰部と呼ばれ、膣は外陰部と子宮頸を結ぶ器官の事を指すのである。

 展示内には外陰部と膣を表す模型が置かれていた。英国で行われた調査によると女性の半数以上の人々が膣の場所やその機能を理解していなかったという。

 国内の性教育の欠如の問題として提議されているが、これはもしかすると日本でも同様な問題があるのではないだろうか。

◆神話「コカコーラで性器を洗うと性行為の後妊娠しない」/事実「そんな避妊法は存在しない!」

 これは一番「神話」というか都市伝説性があり、興味深かった。実は筆者も学生時代にこの都市伝説は耳にしたことがある。これはもともと避妊法が現在のように確立されていなかったアメリカで1950年から1960年代にかけて流行した都市伝説とのこと。

 コーラの中の炭酸と砂糖が殺精子剤として機能すると信じられていた、とのことだが、根も葉もないデマである。もともと敏感な膣内にコーラのような炭酸水を入れてしまうとそれ自体が悪影響になりかねない。感染症や膣炎になる可能性もあるので絶対にそのようなことは行わないように、と注意喚起がされていた。

◆神話「膣は汚く臭うものだから清潔にしなければならない」/事実「膣は汚くない!」

 日本においてもそうであるように、薬局やごくたまに下着店に行くと売られているのが「膣洗浄剤」である。

 メディアやポップカルチャーの中で膣や外陰部を清潔に保つ方法は声高に提唱されるが、過度な洗浄は膣内のpHバランスを崩し、良質なバクテリアまでも殺してしまう。結果、感染症や膣炎にかかりやすくなってしまうということだ。むしろ膣が異様な悪臭を放つ場合はそれを市販の膣洗浄剤やデオドラントで消さないで、直ちに医療機関に行くことだ。

 自身の体の中で何が「正常」で何が「異常」か、知ることも自身のヘルスケアにとって大切なことである。会場には市販の膣洗浄剤が羅列され、その不必要性が強調されていた。

 以上、その他にも都市伝説的な神話から婦人科の解剖学的な解説まで様々な「神話」が並び、とても教育的側面が強い展示となっていた。

◆女性が自らの性を語ることの大切さを強調する展示

 展示会場の横にはジェンダー、フェミニズム、女性の性に関わる本やポストカード、スティッカー等が売られているショップがあった。ちなみにポストカードの中には女性器をモチーフにした春画のカードも売られていた。

 店内の壁には「今月のアーティスト」という題名で、英国在住のイラストレーター、シャーロット・ウィルコス氏のヴァギナをテーマにした絵画が飾られていた。

 2018年にアメリカのポップシンガー、ジャネール・モネイが「Pink」という曲のミュージックビデオの中で女性器を模したコスチュームが話題になったり、2019年のニューヨークのファッションの祭典でラッパー、カーディ・Bが女性器を模したドレスで登壇し、これもまた話題になったり、とヴァギナがキュートでポップな表象される機会が増えた。

 今まで男性主観のポルノ的な文脈以外で語られてこなかった女性器、女性の体についてこのように目に見える形で表象され、女性が自らの性を語ることの大切さが強調されてきている。

◆自分自身の身体について知ることの重要さ

 同伴したドイツ人、イラン人女性二人とその後話をした。

「今回のこの展示は教育的で、少しベーシックな印象を受けたが、このように女性の性について語る場所が目に見える形であるということに意義があると思う」

「初等教育の性教育の場でこういう話をきちんと聞きたかった。自分の身体のことなのに未知の部分が多いのは良くないことだと思う」

という意見が出てきた。やはり国をまたいで性教育の大切さは強調されるべきだ。

 性のこと、特に性器の話になるとどうしてもポルノ的視点、タブーの意識、「いやらしい」という感覚が付随してきがちだが、本質的なところを考えると、自分自身の身体についての知識は最低限身につけておくべきだと強く思う。

 性や性欲は多くの人が共通として持つものであり、よこしまな考え抜きに性をオープンに語らないと、性病や望まれない妊娠など、様々な不幸の温床になるだろう。

 このヴァギナ・ミュージアムでは展示の他、トークイベントやセミナー等の開催も予定されており、公の場所で性を語る機会を奨励している。今後の発展がとても楽しみな場所である。

 日本でもこのような場所が生まれることを強く願う。何度も言うが、性教育の話は国をまたいで共通の課題である。女性がオープンに性を語る大切さをここで強調しておきたい。

【参考文献】

Spettel,S and White, M (2011) The Portrayal of J. Marion Sims’ Controversial Surgical Legacy, the Division of Urology, Department of Surgery, Albany Medical College, Albany, New York

<取材・文/小高麻衣子>

【小高麻衣子】

ロンドン大学東洋アフリカ研究学院人類学・社会学PhD在籍。ジェンダー・メディアという視点からポルノ・スタディーズを推進し、女性の性のあり方について考える若手研究者。

関連記事(外部サイト)