COP25閉幕。グテーレス国連事務総長の落胆と、閉会後のグレタさんを巡る騒動

COP25閉幕。グテーレス国連事務総長の落胆と、閉会後のグレタさんを巡る騒動

photo by John Englart via flickr(CC BY-SA 2.0)

◆COP25閉幕。アントニオ・グテーレス氏の「失望」声明

 スペインのマドリードで開催されていた地球温暖化対策のための国際会議COP25(第25回 国連気候変動枠組条約締約国会議)が、2日間の会期延長の後、15日に閉幕した。閉幕に伴い、国連事務総長のアントニオ・グテーレス氏が以下のような声明を発表したが、この内容からも分かるように、COP25の成果はあまり芳しいものではなかったようだ。

◆Statement by UN Secretary-General Ant?nio Guterres on the Outcome of the UN Climate Change Conference COP25 in Madrid

“COP25の結果には失望している。

 国際社会は、気候危機に立ち向かうための緩和策・適応策・資金提供に対する意欲の高まりを世に示す重要な機会を逃した。

 しかし、我々はあきらめてはいけない。そして私は、今後もあきらめないつもりだ。

 2020年が、2050年の炭素中立の達成と、気温上昇の1.5℃以下への抑制に必要な科学的要求に、すべての国が従うことを約束する年となるよう、私は動き続けることを今まで以上に強く決意した。” (※ 和訳は筆者による)

 なお、この声明に登場する「緩和策(mitigation)」、「適応策(adaptation)」、「炭素中立(carbon neutrality)」は地球環境分野で使われる専門用語で、それぞれ次のような意味を持っている。

・緩和策(mitigation)

 温室効果ガス(二酸化炭素やフロンなど)の排出量を減らすための対策。いわば、温暖化の原因を元から断つ対策のこと。

・適応策(adaptation)

 進んでしまった温暖化になんとか適応・順応しようとする対策。具体的には、今まで以上に涼しい服装にする、海面上昇にそなえ堤防を高くする、マラソンの開催地を北海道に変更する、極端な暑さにも耐えられる根性を身につける(嫌です)など。いわば、対処療法的な対策のこと。

・炭素中立(carbon neutrality)

 人為的活動によって排出される二酸化炭素と吸収される二酸化炭素が同じ量になること。つまり、排出と吸収でプラマイゼロとなり、二酸化炭素が増えないことを意味する。

 グテーレス氏の声明は多くのメディアによって報じられたが、上記の3つの用語のうち、「mitigation」と「adaptation」を専門用語と気づかずに翻訳したり解釈したりしている記事が幾つか見受けられた。この2つの用語について、より詳しくは以下の記事などを参考にされたい。

〈*地球環境豆知識29「緩和策と適応策」 地球環境研究センター 広兼克憲 主幹〉

  

◆アントニオ・グテーレス氏は何に失望したか

 会期を2日間も延長し、徹夜での多国間交渉までが行われたCOP25だが、その結果は上述のように失望の多いものとなってしまった。では、グテーレス氏は具体的に何に失望したのだろうか。

 まず挙げられるのが、温室効果ガスの削減目標を引き上げる案について、各国で意見が対立し、合意に至らなかったことだ。削減目標はすでに各国が持っているが、現状の目標値では温暖化が防げないと見られており、COP25では各国の削減目標を引き上げること、すなわち、温室効果ガスの排出量をもっと多く減らすことが検討された。

 しかし、EU諸国や温暖化の影響を受けやすい小さな島国(島嶼国。マーシャル諸島など)が積極的だったのに対し、米国、オーストラリア、サウジアラビア、中国、インド、ブラジルなどがこれに反発。結局、2020年のCOP26までに各国が新しい、より良い削減計画を用意する、という妥協策で合意がなされた。

 次に挙げられるのは、来年から本格施行される“パリ協定”(温室効果ガス排出削減等のための国際枠組み。2015年のCOP21で採択された)のルール作りについて、やはり各国が対立し、ルール決定にまで至らなかったことだ。

 パリ協定では、途上国に技術支援などを行うことで達成された途上国側の排出削減を、支援を行った先進国側の削減実績とすることができる「排出量取引」の仕組みを取り入れることになっているが、そのルール作りにおいて、先進国と途上国が対立し、妥協点を見出すことができないままとなってしまった。

 最後にもう一つ、日本の対応もグテーレス氏を失望させたポイントとして挙げておくべきだろう。まず、グテーレス氏がCOP25の開幕を宣言し、温暖化対策の強化を訴えた日(12月2日)の翌日、梶山弘志 経済産業大臣が日本での記者会見で、石炭火力発電を推進する旨の発言を行った。石炭火力発電は二酸化炭素の排出量が非常に多い発電方式だ。

 ついで、12月11日には小泉進次郎 環境大臣がCOP25の閣僚級会合にて演説を行ったが、彼の口からはついに脱炭素対策も削減目標引き上げも聞くことはできなかった。日本はこれらの“功績”により、「化石賞」を2つ授与された。この賞はもちろん栄誉ある賞ではなく、がっかり賞だ(国際NGO「気候行動ネットワーク」が出している)。(参照:日本が獲った「化石賞」とは? ドヤ顔でコメントした小泉進次郎環境相が失笑されたワケ|HBOL)

 なお、COPの会期延長については特に驚く必要はない。COPではこれまで、ほとんど毎回のように会期が延長されている。ただし、まる2日間にもなる延長はこれまでで最長だったらしい。

◆ところで気になるグレタさんは

 ところでグレタ・トゥーンベリさん(16)だ。アメリカ東海岸から大西洋をヨットで横断するという長旅を無事に終え、その足でマドリードのCOP25会場まで直行したグレタさんは、まず、若者らによる座り込みデモと街頭デモに参加した。このうち、街頭デモには数千人の若者らが参加したと伝えられている。

 ついで、11日にはCOP25の関連イベントにパネリストとして参加、各国の閣僚らを前に演説と討論を行った。

 グレタさんはこの演説で、「本当の危機は、ずる賢い計算と創造的なPR活動くらいしか行っていない政治家やCEOたちが、あたかも現実の行動を起こしているかのように見せかけることなのです」という印象的な言葉を残している。

 COP25には、前の記事で紹介したテレサ・リベラ環境保護大臣(スペイン)も参加していたが、会期中、そのリベラさんがまるで母親かのようにグレタさんに寄り添う姿が幾度も見られた。リベラ大臣に以前から注目していた筆者には、その光景が何とも微笑ましかった。例えば以下のYouTube動画には、2人が並んで座り、リベラさんのスマートフォンで記念撮影しているらしい瞬間がとらえられている。〈*Greta Thunberg holds news conference in Madrid during COP 25(10:20頃)〉

◆帰路のグレタさん、ドイツ鉄道でちょっとしたトラブルに

 COP25での全ての役割を無事にこなしたグレタさんだったが、スペインから故郷スウェーデンへ帰る途中のドイツで、ちょっとしたトラブルに巻き込まれた。

 ドイツ鉄道の特急列車に乗ったグレタさん一行は、満員だったため、しばらく床に座っての乗車を余儀なくされた。グレタさんはそのことを写真付きでツイートしたが、すると、そのしばらく後、ドイツ鉄道のツイッターアカウントが「グレタさんらを1等席でもてなした」とする2つのツイート(1、2)を投稿したのだ。

 ドイツ鉄道によるこれらのツイートは、半分が本当で半分が嘘の、非常に誤解を招くものだったのだが、一部のグレタ・アンチな人物らがこれに飛びつき、「本当は席に座っていたグレタが、ポーズのため“床に座っている”と嘘を言った!」と騒いだのだ。この事態を重く見たドイツ鉄道は、プレスリリースを出して事の経緯を説明した。

 そのプレスリリースとグレタさんによる補足ツイート、そして、グレタさん一行と同じ列車に乗っていたジャーナリスト/弁護士の Alexandra Urisman Otto さんの証言によると、事実は次の通りらしい。

 グレタさんらはスイスのバーゼル(Basel)からドイツ鉄道の特急列車ICEに乗り、ドイツの南西部から北部へ進むルートをとった(参照:ICEの路線図 )。この時、まずバーゼルから乗るはずだった列車が運休となり、そこで恐らく、取っていた座席の予約がキャンセルになった。そのため、後続の満員電車に乗ることになり、バーゼルからしばらくは床に座っていた。

 その後、徐々に空き席ができ、まずグレタさんの同乗者がフランクフルト(Frankfurt)で、ついでグレタさんがカッセル(Kassel)からゲッティンゲン(G?ttingen)の間で、そして、Ottoさんがハノーファー(Hannover)で、やっと座席にありつくことができた。つまり、途中までは床に座っていたが、途中からは座席に座ることができた、というわけだ。

 グレタさんが席を得ることができた駅について、ドイツ鉄道側はカッセル、グレタさんとOttoさんはゲッティンゲンと証言しているが、カッセルからゲッティンゲンまではICEでたった一駅のため、両駅の間のどこかで席にたどり着き、そして、席について最初に到着した駅がゲッティンゲンだった、と考えれば何ら矛盾はないだろう。

 以上のように、この件は誤解を招くツイートをしてしまったドイツ鉄道に落ち度があったと言えるだろう。近年、ドイツ鉄道は列車の運休や遅延などが頻発しており、いささか評判が悪いようだ。その上さらに、有名なグレタさんを床に座らせたことで評判が地に落ちてしまったら…とでも考えたのだろうか、ドイツ鉄道のツイートやプレスリリースからは、いささかの焦りが感じられた。

 世界的な有名人となり、一挙手一投足までもが報じられるようになってしまったグレタさん。もうしばらくは何かと大変そうだ。

 そのグレタさん、その後、「Home!」と元気そうにツイートし、無事にスウェーデンの自宅に到着したことを報告している。この、めげない感じのグレタさんが、筆者はとても好きだ。

<文/井田真人>

【井田 真人】

いだまさと● Twitter ID:@miakiza20100906。2017年4月に日本原子力研究開発機構J-PARCセンター(研究副主幹)を自主退職し、フリーに。J-PARCセンター在職中は、陽子加速器を利用した大強度中性子源の研究開発に携わる。専門はシミュレーション物理学、流体力学、超音波医工学、中性子源施設開発、原子力工学。

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