最先端[がん治療]、エビデンスがない「新しい治療法」には要注意

最先端[がん治療]、エビデンスがない「新しい治療法」には要注意

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「不治の病」から「治る病気」へと印象が変わりつつある、がん。そこにつけこんで「治せる治療法」が続々と登場している。本当に治せるものはどれなのか? 真贋の見分け方を医学の専門家に聞いた。

◆手術、放射線、抗がん剤以外にも湧いてくる治療法

 去る11月12日付朝日新聞朝刊にて『イタリア人医師が発見した ガンの新しい治療法』という題名の書籍広告が掲載された。その中には「重曹殺菌と真・抗酸化食事療法で多くのガンは自分で治せる」などの表現があったのだが、「エビデンス(科学的根拠)はない」などと指摘する専門家らの意見が、SNS上で拡散された。

 事態を重く見たのか、朝日新聞社広報部は同月14日に声明を発表。同社が調べたところ、その医師は独自の抗がん処置をした患者に多額の代金を支払わせたことでイタリア医学界を追放。さらには国外でがん患者を死なせて逮捕・服役していた人物だったとして、過失を認めたのである。

 今の日本では同様に「最先端のがん治療法」を謳った書籍や広告をよく見かける。その真贋を見分けるにはどうしたらいいのか。前述したエビデンスのありなしというのは、どういうことなのだろうか。厚生労働省の「『統合医療』に係る情報発信等推進事業」に携わっている島根大学医学部教授の大野智氏に聞いた。

「ここでいうエビデンス、科学的根拠とは、人に対して効果があるかどうか、つまり『効く』かどうかという裏付けのことを意味しています。具体的には人を対象とした臨床試験で有効性が証明され、その結果が第三者による査読審査を受けて学術雑誌に掲載されているのであればエビデンスとして十分というのが一般的な考えです」

 つまり学術書をどこで読んだらいいのかすらままならない、我々一般人には判断しかねるところ。そこで詳しい医師に聞こうにも、前述したとおり、曲がりなりにも医師の肩書を持っている人物がエビデンスのないものを出してくるので困ったものである。

◆“がん難民”救うため? それとも騙すため?

 そもそも怪しげながん治療法が蔓延しているのはなぜなのか。それは日本に“がん難民”があふれているからなのかもしれない。その“がん難民”とは何なのかを、愛知医科大学病院の先制・総合医療包括センター教授・部長であり、一般社団法人「日本先制臨床医学会」理事長である福沢嘉孝氏に聞いた。

「がん難民とはがんが進行しているのに治療を行っていない人です。日本におけるがんの3大療法である『手術』『抗がん剤治療』『放射線治療』で治らないことから医師や病院に不信感を持ってしまったり、緩和医療を勧められてどうしていいかわからなくなったりして、余計にがんが進行してしまうケースが多いのです。日本のがん死亡者数は年間130万人ほど。その2人に1人が治療をせずに亡くなっていることから、広義では65万人ほど。患者の実数予測から狭義では40万人程度いるといわれています」

 日本では3大療法で治しようがなくなると心と体を和らげる緩和ケアへ移行するしかなかった時代が長く、その中間に位置する医療がなかったから、これほど多くなってしまっているという。

「ドイツでは医師がハーブを処方できるし、オーストリアではラドン温泉を勧められる。米国では’77年に国民の食事目標としてまとめられた『マクガバンレポート』が発表されたことで、がんに食事療法が用いられている。日本にも鑑真が中国から持ち帰った後、研究を重ねられた伝統医療として漢方があったが、西洋医療一色になったため、弾圧されてしまったのです。しかしそれも近年は変わって、’01年から医学部でも講義に漢方が取り入れられるようになりました。日本でも効果のあるものは積極的に使っていこうという流れになっているのです」(福沢氏)

 そういった流れの中で真に効くものに交じり、偽物や詐欺まがいのものが散見されるようになったということだ。では、その中から正しいものだけを見分けるにはどうしたらいいのだろうか。

◆怪しい療法を見抜くポイントは?

「『保険診療かどうか』は線引きとして理解しやすいので、説明として用いています。3大療法以外でも、『造血幹細胞移植』『オプジーボなどの免疫療法』、それに『がんゲノム医療』の一部は保険診療として認められています。前述の“最先端”については言葉の定義にもよるのですが、『最近、保険適用となった』という意味ならば免疫療法の一種である『CAR −T細胞療法』や放射線治療の一種『陽子線・重粒子線治療』が該当します」(大野氏)

 そのような標準医療の領域外にある、いわゆる「補完代替療法」の中での見分け方はどうだろうか。

「まず『抗がん剤は効かない!』などと、標準治療を否定する広告を掲げているものは間違いなく危険です。あとネットで検索して値段を調べてください。同じ療法なのに他よりも明らかに高額なものは危ないとみていいでしょう。加えて『どんなステージのがんにも効く!』というのもダメ。治療でがん細胞が縮小もしくは消滅した患者の割合を示したものを奏効率というのですが、奏効率100%を謳っているのも絶対にダメ。最後に宗教色が強そうだなと思ったらヤメたほうがいいです。本人はわらにもすがる思いで気づかないかもしれないので、周りが教えてあげてください」(福沢氏)

 パニックになっている患者を支える、周りの冷静な目が必要だ。

◆がん治療の未来を明るく照らすものはあるのか!?

 ’18年に医療広告ガイドラインが改正されたことであからさまに怪しい医療は減少しており、今後はさらに淘汰されていくだろう。

 最後にがん治療の近未来はどうなっているか、お二方に聞いた。

「患者やその家族が病院で受けている治療に納得して不安や悩みがなければ、そもそも怪しい代替医療をやってみようという考えさえ浮かばないはずです。『がん対策推進基本計画(第3期)』に『患者等とのコミュニケーションの充実など、患者とその家族が痛みやつらさを訴えやすくするための環境整備』などの項目があり、医療者のコミュニケーション技術向上のための取り組みを行っている点に希望を見いだしたい」(大野氏)

「日本が世界をリードしているものとして『光免疫療法』があります。非熱性赤色光を照射することで周りの細胞を傷つけずにピンポイントでがん細胞のみを消せるため、体への負担も少ない療法です。楽天の三木谷さんが、大型スポンサーになっているので、承認は早いでしょう」(福沢氏)

 光免疫療法は’21年に国内外で治験が終了し、順調ならば’22年から’23年頃の承認が見込まれている。

 がん治療の未来は明るい!

◆こんな「がん治療」にはご注意!

1.宗教色を感じる独特な治療法

2.「どんながんにも効く」と広告

3.他と比べて値段が高すぎる

4.エビデンス(科学的根拠)が不十分

5.がん3大療法を否定している

【島根大学医学部附属病院臨床研究センター教授・大野 智氏】

’98年に島根医科大学を卒業後、研修医を経た後、’02年に金沢大学に日本で初めて新設された補完代替医療講座に赴任。同時にがんの代替医療の科学的検証に関する研究班に参画した

【一般社団法人日本先制臨床医学会理事長・福沢嘉孝氏】

’84年に愛知医科大学医学部を卒業。’15年に先制・統合医療包括センターを新設。同センターの教授・部長となる。さらに世界中のがん難民や難病難民を救うべく日本先制臨床医学会を設立

<取材・文/上野充昭 撮影/SPA!編集部>

※週刊SPA!12月17日発売号より

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