「ヘイトやファシズムはもうゴメンだ」イタリアで若者4人が声を挙げた!広がる「反極右」草の根運動・イワシ運動

「ヘイトやファシズムはもうゴメンだ」イタリアで若者4人が声を挙げた!広がる「反極右」草の根運動・イワシ運動

(Photo by Patrizia Cortellessa/Pacific Press/LightRocket via Getty Images)

◆全ての人を平等に遇する政治のため、若者4人が立ち上がった

 イタリアの次期政権に就く可能性のある極右政党「同盟」の党首マテオ・サルビニに強敵が現れた。「イワシ運動」である。

 これはサルビニの移民排斥、人種差別、嫌悪感に満ちた傲慢で挑発的な政治姿勢に対して「もうたくさんだ。将来に期待ができ全ての人を平等に遇する政治を望んでいる」という考えを表明することから生まれた草の根運動である。

 この運動にイワシという名前が付けられたのは次のような経緯があった。来年1月26日に予定されている人口450万人のエミリア・ロマーニャ州の選挙で同盟が初めて勝利する可能性が生まれている。同州はこれまで左派政党の地盤であるが、その牙城が同盟の躍進の前に崩れる可能性が生まれている。誰もがこの地方選挙は同盟が近い将来政権を獲得するか否かのひとつの目安になる選挙だと見ている。

 サルビニもそれを知っており、11月14日に同首府ボローニャの5700人を収容するスポーツセンターで彼は立会演説を予定していた。そこで、これまでサルビニの傲慢で挑発的な政治姿勢にうんざりしている若者4人(マティア・サントリ、アンドラ、ジウリア、ロベルト)が、サルビニの集会に集まる人たちの数を上回る反サルビニ派の人たちをマヨール広場に集めようと企画したのである。

 それも「缶詰のイワシ(オイルサーディン)がぎゅうぎゅうに詰められているように広場がぎゅうぎゅうに埋まるだけの人たちに集まってもらおう」と願ってネットで招集したのである。当初、スポーツセンターの収容人員が5700人だから、それを僅かでも上回る6000人が集まってくれれば上出来だと若者4人は考えていた。ところが、いざ蓋を開けてみると1万6000人が集まったのである。如何に多くの人がサルビニの嫌悪感を誘う政治姿勢にうんざりしているかということを示すものであった。

 若者4人のリーダー格のマティア・サントリ(32)は集会には「政党の旗や攻撃的な表現などをしたプラカードは持参しないように」と要求した。この草の根運動は独立した活動でどの政党も一切絡んでいないということを表明するためであった。

 また、サントリは「この活動を支持してくれている人たちの99%はイワシが政党に変身することを望んでいない」と語っている。(参照:「ABC」、「El Periodico」)

◆五つ星運動との違い

 五つ星運動も、喜劇俳優のグリッロが、政治特権に甘んじている政治家が支配する政治に反対して起こした運動を発端とするものだ。しかし、「イワシ運動」とは、逆に政党化した。それが前回の2018年の総選挙で32.7%の票を獲得して第一党に躍進して同盟と連立政権を誕生させた。政権発足後、同盟から民主党に連携相手を変えて政権を維持しているが、支持率は徐々に下がっている。今では10%近くまで後退している。一つの政治的運動が政界に入ると五つ星運動のような末路を辿る可能性が高いと見られているのだ。しかも、現在、同党は3つに分裂する可能性が大で今後二度と政権を取ることはないと見られている。

 さらに、五つ星運動の執行部はエミリア・ロマーニャ州での選挙で敗退する可能性が高いことから候補者を擁立しないという方針を打ち出した。それに多くの党員が猛反対して執行部は仕方なく選挙に参加せねばならなくなっている。

 イワシ運動は最初の集会が全く予想外の好成績となって、4日後の18日には同州のモデナ市でも7000人が集まった。そして「ベラ・チャオ」の曲がイワシ運動の活動歌になっている。この曲はナチスに対抗するレジスタンスとしてイタリアのパルチザンが好んで歌った曲であった。

 サントリは「6000 Sardinas」というタイトルでフェイスブックを開設したが僅か3日間でフォロワーは7万人を達成したそうだ。(参照:「ABC」)

◆イタリア全土に広まる「イワシ・ムーブメント」

 モデナを皮切りにイワシ運動の集会はフィレンツェ、ミラノ、レッジョ・エミリア、トリノ、カリアリ、ナポリ、パレルモと広がって行った。同様に外国でもマドリードを始め、パリ、ダブリン、エジンブルグ、アムステルダム、ヘルシンキ、ボルドー、サンフランシスコへと集会は広がった。

 12月14日のローマでは4万人が集まった。参加者の一人ロドルフォは「ファシストが拒絶しようとしている価値や忍耐、平等を守りたい」と語った。クラウディオは「今まで黙っていた人は多くいる。しかし、最近政治で良く聞くばかげたことに耐えるのはもう御免だ」といって集会に参加したという。

 欧州議会の民主党議員で医者のピエトロ・バルトロは「イタリアは嫌悪、人種差別、不平等の国ではない。愛の価値、人権尊重といった面で良い未来づくりにイワシ運動を信じている。我々は抵抗すべきだ。民主主義における冒涜を許すことはできない」と述べた。

 イワシ運動の協力者でケニア出身の記者オゴンゴ・ステフェンは「嫌悪に満ちた雰囲気にはもうたくさんだ。新しい空気を吸いたい。平和に暮らしたい。我々は政党のない政治家で、反ファシスト、反人種差別主義者、反同性愛拒絶者だ。全ての人たちに敬意を払いたい」と述べた。(参照:「El Pais」、「El Periodico」)

◆サルビニも無視できなくなってきた

 イワシ運動での集会に人が多く集まっていることにサルビニもついに意識するようになっている。サルビニと一緒にいる子猫が写真になってツイッターでイワシを食べる猫として掲載されるようになった。 獣とでも評されるような強力は宣伝マシンを持っているサルビニも今回のイワシ運動の群れに対抗するには良いアイディアは浮かばないようで単に魚を好む猫を持ってきただけである。

 また、民主党も同盟に対抗する意味でイワシ運動を味方につけて彼らの支持を得たいと望んでいるようであるがどこまで支持を集められるか疑問視されている。

 また民主党から離党して政党ビバ・イタリアを創設したポリティカル・アニマルのいつものマテオ・レンツィーであればこの動きを政治的にうまく利用したであろう。しかし、現在の彼は、自らの政治団体の脱税問題と、ある企業家から70万ユーロ(8300万円)の資金を借りたことに利権が絡んでいるのではないかという疑いから防戦を迫られている。この二つのスキャンダルの影響で新たな動きは当面控えざるを得なくなっている。

 イワシ運動の今後の政治との関係がどのような展開になるか注目されている。

<文/白石和幸>

【白石和幸】

しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身

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