自治体直営の山村留学センター所長が入寮児童と保護者にレリハラ/不適切宗教勧誘か

自治体直営の山村留学センター所長が入寮児童と保護者にレリハラ/不適切宗教勧誘か

不適切な宗教勧誘が行われた疑いがある本郷山村留学センター(同センター公式HPより)

 地方自治体による山村留学事業において、施設の責任者が入寮中の女子児童とその母親に対し不適切な宗教勧誘を行っていたことが判った。

 山村留学事業とは都市部の小中学生を農村や漁村など主に過疎地の公立学校で受け入れる地方自治体の事業。問題が発覚したのは山口県岩国市。同市へ山村留学する児童・生徒は自治体が運営する寮『本郷山村留学センター』で指導員と生活し地元の公立学校に通う。同センターでは本郷小学校に通う小学生の男女児童を受け入れているが、本郷中学校へ進む中学生については男子のみ継続入寮可能で女子児童は中学進学後には入寮できない。

 今年春から小学生の娘をセンターに預け、中学進学後も継続入寮を希望していた母親が岩国市職員である施設責任者から受けた”交換条件”による宗教勧誘の被害を告発した。

◆山村留学事業における宗教勧誘被害

 岩国市の山村留学事業では主に都市部から転校した小中学生が緑豊かな山村で留学生活を送っている。保護者が市に支払う委託費は小学生が月46,200円、中学生は月に51,400円となっている。一年ごとの更新で継続利用も可能。山村留学の背景にはいじめや不登校などの問題も指摘されているが、今回宗教勧誘の被害に遭ったのは親の仕事の事情で山村留学を選択した小学校高学年の女子児童とその母親だ。

◆提示された”交換条件”

 娘の小学校卒業後も継続して中学校卒業までのセンター入寮を希望する母親は、施設の責任者である60代の男性所長に今年春から相談していた。この責任者はセンター開設後32年間、市の職員として所長を務め、数年前に定年となって以降も年度契約で準公務員として再任用されている。

 6月上旬、センターを訪れた母親は事務室で所長から思いがけない提案を受ける。娘を中学3年間自宅に下宿させること、つまり里親となる交換条件として自身が教会長を務める天理教への母娘の入信と中学卒業後に娘を天理高校へ進学させると約束することを持ちかけられたというのだ。

 センターに入寮中の女子児童は中学生になっても里親を見つけることができれば継続してセンターを利用することは可能だが、寮として宿泊はできない。地域には高齢者が多く、里親となる世代の民家自体がないため、これまでセンターに通う女子中学生の里親をしてきたのはこの所長のみだ。

 以下は母親の記憶を基に再現したセンター事務室(管理室)内でのやり取り。

母親「所長、女子中学生の受け入れ、何とかなりませんか。いろいろ問い合わせしているのですが、なかなかうまくいきません」

所長「うちで預かってもいいんだけど、決めていることがあるからねぇ。天理高校に行く子だけ預かることにしてるから。じゃあ、○○子(娘の名)、天理高校に行ってくれる?僕は教会長なんだけど。天理高校は天理教の信者じゃないと受けられないんだよね。決まりがあるからね。今度、そういうの(別席)があるから、4人(所長夫妻、母娘)で行きましょう。おやさまという方がいるんだけどね、どういう教えでどうして大事なのか」

 思いがけない提案に面食らった母親は思考停止状態になり固まってしまったという。脈があると思ったのか所長はその後、30分以上天理教についてブリーフィングを続けた。明確な返答ができないまま施設を後にした母親だったが、その後、友人にこの交換条件の提示について話したところ「それはおかしい」と指摘され、立場を利用した宗教勧誘であるレリジャスハラスメント/religious harassment(レリハラ)の被害に遭ったことに気付く。

◆保護者に無断でお参りさせていた

 11月、ある検定試験を娘が受ける際、所長が保護者に無断で試験会場の近くにある天理教の周東大教会にお参りさせていたことが判明、母親は告発の決意を固めた。

 12月初め、母親はレリハラの証拠として所長との会話を録音した。

母親「天理教に入って天理高校に入らないと所長の家には下宿させてもらえないわけですよね?」

所長「だからね、私はそう決めたんですよ。卒業されるんだけど皆それっきりでね。感謝せいとは言わんけども、ただ連絡はしてほしいんですよ、ここを育った子は。留学センターを巣立った子どもたちだからどういう形であれ連絡をしてほしいんだけど、うちで育った子は何にもないんですよ、そういう子に私は育てた覚えはないんだけども、結局家に帰ったらそうなってしまうから。だから私は今度預かる子は天理高校に行くと。天理高校に行けば私も毎月天理に行くから、○○子(娘の名)に会えるわけですよ、どんなことしてる?と話もできるからね、わかります?私自身が安心もする、頑張ってるなと。そういうことを大事にしたいから私は天理高校へ行く子ならば預かることにしたんです。わかりますか、民間の家に帰ると何にもないからね」

母親「所長の自宅に下宿していた子たちは天理高校に進学されていないんですか?」

所長「いない。皆家に帰ってしまうとそれっきりになるから嫌でね、それでもう天理高校に行く子だけを預かることにしたんです。そうしたらお母さんにも一回は天理教の話が聞いてもらえるでしょ、今まで預かった子には誰も天理教の話はしていない、一般的な家だと思っているからここが。私はあくまでも天理教の教会長だからね、これではいかんなと、せっかく預かるなら私も天理教の信者だから、せっかく預かる子どもさんの保護者の方にぜひ天理教のお話を聞いてほしいなと、それでこのようにさせてもらったんですよ。別に強制的に信者になれってことではないですよ、間違えないでくださいよ。ただ話の順番として(信者に)なってもらわないと天理高校を受けられないから」

 天理高校の保証人システムを力説する所長。

所長「天理教の信者でないと天理高校を受けられないんですよ、天理高校を受けるためには話を聴いてもらわんと受けられないというシステムがあるんですよ。親が保証人じゃないんですよ、(天理)高校の保証人は。天理教には大教会というのがあって、大教会長がその子の保証人になるんですよ。だから何かあった時には親に行くんじゃないんですよ。大教会の会長のところに行くんですよ、これこれこういう子が来てますけれどどうなってるんですかと、だから天理教の話を聞いてもらって私がこの子は天理高校を受けますからって、印鑑が要るんですよ、願書を出すのに」

◆無断で参拝させたことも「問題ない」

 さらに娘を天理教の大教会へ連れて行き参拝させたことも「問題ない」と弁明した。

所長「(11月の検定)試験を受けに来ましたよね。その時も、駐車場がないから大教会の場所を借りて駐車場に行ったんですよ。そこでちょっと参拝して行こう、せっかく受けるんだから試験前に神様でもお祈りしとこうということで行って。まあ(試験に)通ったから別に問題ないんだけども」

 母親は“交換条件”の決定的な言質を取った。

母親「6月にお話しした時に、娘と私が天理教に入信して天理高校に入ると、」

所長「約束ちゅうか、うちで預かると」

母親「下宿させていただいて山村留学を続けられると仰ってましたよね」

所長「そう、そうです」

 所長から「12月26日に天理教の最初の信者になる人の勉強会(別席)に行きましょう」と言われていた母娘だが、後日理由を付けて断っている。

 天理教関係者に確認したところ、確かに天理高校の応募資格には「天理教信者の子女で」と明記されているが「親も保証人で大教会長は連帯保証人」との位置づけだという。また「印鑑」には「確かにうちの信者です」という証明の面もあるとのこと。

◆渦中の施設責任者に電話取材

 12月16日、この所長に電話取材を行い、事実関係を確認した。

――6月に母親から相談された時に「天理教へ入信するのであれば」と言ったのか

「入信をするとは言っておりません。なんか間違えてませんか」

――具体的にどのように言ったのか

「だから天理高校に行くためにはどうしても話を聴いてもらわないといけんから、それで天理教の話を一回聴いてくださいと。入信するかしないかはご自由ですと言うとります」

――具体的に「天理教に入らないと中学1年から外に行っていただきます」と

「そんなことは言ってません。うちで預かるときには天理高校に行かせたいんですよ、里親するんですよ、要するに。皆高校でダメになるから。高校行ってない。辞めてるんです。そういう子にしたくない。天理高校なら寮もあるし、ひと月に1回天理に行くので顔も見れる。天理教の教会長やってますから。できれば天理高校に行かせたいんですよ。それでね、預かる条件として天理高校に行かす条件として一応預かりますけれども、ただ本人が意思が変わってどうしても天理高校を受けられないと言われればそれはしょうがないですねという話をしたんですよ。この前も」

 所長はこれまで5人の女子中学生を預かってきたが、一度も天理教へ連れて行ったり天理教の話はしていないという。

所長「好き好んで預からない、頼まれて」

――11月の検定試験の際、母親に無断で娘を天理教の教会にお参りさせた

「(天理教の)駐車場に停めただけですよ、駐車場がないから」

――お参りはしてないんですか

「お参りはしましたよ。受験するんだから合格してほしいでしょ、だから」

――親の承諾は取ってないんですよね

「取ってないですそれは、本人が嫌がればさせませんけど。せっかくだから天理教の教会に参拝していきましょうと言っただけですからそれだけのことですよ。何が言いたいんですか?」

――6月に母親から相談された際に「うちで預かってもいいけど決めていることがある」と

「それはそうですよ」

――交換条件として提示されたんですよね

「交換条件ではないです。酷い言い方されますね。交換条件じゃなくてうちで里親するんですよ」

「この前、メールが来て来年受験させるので来年はこっちにおらない(いない)と聞いている。よく聞いてください○○さんから。私もわかってませんけど」

◆「もう面倒くさい」「問題なんでしょう」

「いろんな情報が行ってるんですねそっちにね、ほんとのこと聞いてください、もう面倒くさいね」

「天理教は関係ないですから、私の気持ちを言うたわけですから」

――天理高校に入らないと下宿させてもらえないとお母さんが確認された

「確認というか、そうじゃなくて『入信して天理高校に行かなきゃいけませんか?』と言われて、できればそうしてほしいと。本人が3年預かるんだったらそりゃ気持ちも変わるかもしれないからその時には仕方がないですねと言ったわけですから。預からんとは言ってませんよ」

――6月の時点で、「うちで預かってもいいけど天理高校に行く子しか下宿させない」と

「そのようにしたいんですよ、私としては」

――という話はしたんですよね

「それはしましたよ」

――中学に進んでも寮に残れないと悩んでいる親にそういう話をすることは条件を提示されたと受け取られても仕方ないのでは

「それは仕方ないでしょ、うちで預かるわけだから、(それが嫌なら)よそで預かってもらえばいいだけだから」

――ならそれは条件を提示したと受け取られても仕方ないのでは

「それはそうかもしれないが」

――条件を提示したという意識はなかったと

「それはないですよね、その時点ではね」

――女子児童が中学生になったら寮に残れないという状況の中でそういう話をしたことは問題があるのでは

「何の問題があるのかよく分からんけど。じゃ、問題があるんでしょう」

――職場で宗教勧誘をしたわけですよね

「勧誘をしたわけでではないです、里親は個人になるんですよ、だから別問題でしょ、職場とは」

――職場でそういう話をされたわけですよね

「中ではないですからね」

――話をしたのは寮の中だったと聞いている

「寮の中ではないと思いますけど」

――母親に伺った話では場所は寮の中だったと

「私にどうしてほしいわけですか、よくわからんけどその意図が」

――事実関係の確認をしたいんですよ

「事実関係?」

――場所はセンターの中じゃなかったんですか

「それをどうしたいんですか、記事に出されるわけですか」

――事実関係を確認出来て記事にできると思えば出します

「出してどうされるわけですか、私を責めるわけですか、そのようにしたゆうて」

――事実として山村留学センターの中で娘の進学に悩む母親に対して天理教への勧誘をしたのかどうか

「天理教の勧誘ではないって言ってるでしょ。私は天理高校に行かしたいがために言っただけですから、勧誘とは全然違いますと言ってるじゃないですか」

――天理高校に行かせたいという意思はあったわけですよね

「それはあったですよ、天理高校に行かせたいという。だから天理高校に行かすためには話を聴いてもらわねいけんという条件があるから、皆そうですからね、天理高校に行く子は」

――お母さんも入信しなければいけないということなんですよね

「それ言ったやん、別に入信はしなくてもいいですよと、それ違いますよと」

――「大教会の保証人が」と

「大教会の保証人がどうしても要るからね。親が私らもなれないわけなんですよ。だから天理教の話を一回聴いてもらって、こういうことで信者さんになってもらってますから天理高校を受けさてけさせてくださいと言う風に印鑑をもらいに行くわけなんですよ。それだけのことです」

――お母さんの入信については

「ないです別に、それは言ってません」

――お母さんは「言われた」と

「言ってないです」

――誤解があったと

「それは話をしようと思ってます、ちゃんと」

「別に強制的に入信はしてませんので」

◆母親の反論と無念

 所長の弁明に対し母親は以下の反論をしている。

・意思の変更について

所長の弁明「ただ本人が意思が変わってどうしても天理高校を受けられないと言われればそれはしょうがないですね」

→「続きがあります。『でも預かる以上は天理高校を目指してやってもらいます』つまり、選択肢はないということです」

・入信の選択の自由について

所長の弁明「入信するかしないかはご自由です」

→「言われてないです」

・”交換条件”を示した場所(と時間)

所長の弁明「寮の中ではないと思いますけど」

→「話をしたのは寮の中です、日中です。事務所です」

・母親の入信について

所長の弁明「別に入信はしなくてもいいですよとそれ違いますよと」

→「『親が入信しないと受験できないんですよ』」と言ってました」

 母親はつい先日も所長から「天理教に入っていただけないなら中学から他のセンターに移ればいいでしょ、他にもたくさんあるんだから」と告げられたという。

 親の承諾なしに無断で特定の宗教施設に連れて行かれたことについて娘は母親に「試験の前に突然連れて行かれてお祈りした」と話しているという。母親は吐露する。

「娘を教会へ連れて行ったこと。これを思うと苦しいです」

 後編では、この所長から送られてきた回答FAXの驚くべき内容、“交換条件”の法的問題、岩国市や天理教本部の対応、天理教が”福祉活動”として行っている天理教里親連盟の問題についてレポートする。

<取材・文/鈴木エイト>

【鈴木エイト】

すずきえいと●やや日刊カルト新聞主筆・Twitter ID:@cult_and_fraud。滋賀県生まれ。日本大学卒業 2009年創刊のニュースサイト「やや日刊カルト新聞」で副代表〜主筆を歴任。2011年よりジャーナリスト活動を始め「週刊朝日」「AERA」「東洋経済」「ダイヤモンド」に寄稿。宗教と政治というテーマのほかに宗教2世問題や反ワクチン問題を取材しトークイベントの主催も行う。共著に『徹底検証 日本の右傾化』(筑摩選書)

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