北朝鮮の外国人留学生に与えられた”特権”とは?<アレックの朝鮮回顧録2>

北朝鮮の外国人留学生に与えられた”特権”とは?<アレックの朝鮮回顧録2>

北朝鮮に滞在する留学生の自由度は高い。だが唯一、難しいのは現地人の学生と友人関係になることだという

  2019年7月4日、北朝鮮の金日成総合大学に通うオーストラリア人留学生アレック・シグリー氏が国外追放された。

 朝鮮中央通信はシグリー氏が「反朝鮮謀略宣伝行為」を働いたとして6月25日にスパイ容疑で拘束、人道措置として釈放したと発表。北朝鮮の数少ない外国人留学生として、日々新たな情報発信をしていた彼を襲った急転直下の事態に、北朝鮮ウォッチャーの中では驚きが走った。

 あれから約半年。シグリー氏が北朝鮮との出会いの経緯から、逮捕・追放という形で幕を下ろした約1年間の留学生生活を回顧する。その数奇なエピソードは、北朝鮮理解の一助となるか――?

◆<アレックの朝鮮回顧録2>

 前回に続き、北朝鮮での留学生生活について書いていきたい。

「留学生」について、なぜ書く価値があるか?

 これについてはまず、北朝鮮政府が実施するすべての外国人管理体制について言及せざるを得ない。読者がすでに知るとおり、北朝鮮政府はすべての外国との接触を「思想的浸透」であると考えており、訪問する外国人たちの自由行動と現地人との接触を厳格に統制している。

 北朝鮮に来た観光客は昨今、比較的に増えたが彼らは滞在中、ほぼ何もすることができない。観光客が行けるのはごく僅かな指定された場所だけで、ホテルの外を出歩くには二人の案内員を同伴させなければならない。

 彼らは道端を自由に散歩することはもちろん、(注:平壌で散歩できる場所は4箇所程度。勝利通り、光復通り、黎明通りと未来科学者拠だけである)理由はわからないが、平壌第一百貨店、「わが故郷」商店、チェソン食堂など、留学生が好んで行く商店やレストランなどにも行くことができない。

◆留学生はタクシー乗車もスムーズである

 短期で訪朝する「代表団」も同様で、「貴賓」や朝鮮親善協会といった「朝鮮の友」であっても、制限されたスケジュールに沿う必要があり、一人でホテルを出ることはできない。

 一方、在北留学生たちは北朝鮮にある外交官と非政府機構の職員たちと似た位置付けにある。北朝鮮に在住する外国人の中では、「留学生」が最も多くの特権を付与されていたともいえる。

 彼らは皆、北朝鮮に非常に長く滞在することができ、平壌にいる限り(平壌以外では他の観光客同様、移動の自由が制限される)市内を自由に出歩き、観光客と代表団訪問客の行くことのできない数多くの場所に行くことができる。

 留学生は優先的に平壌地下鉄を通常の交通手段として利用でき、いつでも安い値段で地下深いエスカレーターを降りて地下鉄に乗ることができる。他の長期滞在外国人と比べタクシーを利用しやすく、時には乗車拒否をする運転手もいるが、留学生であることを告げるとほとんどの場合はOKとなる。

◆宿舎でともに暮らす現地人の学生は「同宿生」と呼ばれる

 そのほかにも、外交官や非政府機関職員たちは平壌の文繍洞外交団村という特別地域で暮らすが、留学生たちは大学近辺の留学生用宿舎で生活をする。そこでは、「同宿生」という現地人の学生たちと同じ建物で暮らし、あるときはルームメイトにもなりうる。

 私は金日成総合大学の最初の学期に、同大学の外国語文学部英語文学科に所属する20歳程度の現地人学生と同じ部屋で暮らした。

 一方、留学生たちは授業を受ける過程で、現地の教員たちとさまざまな接触をすることになる。もちろん留学生は現地の学生と同じ講義を聞くことはできず(実際に同宿生を除くと、現地人の学生と話すあえて話す機会はない)、同じ教室を使うこともない。

 それにもかかわらず留学生たちはさまざまな科目を習い、教員と接する中で体制の公式的な立場を学べるだけではなく、親睦も深めることができる。

 以上の理由から、在北留学生は他の外国人集団に比べ北朝鮮社会に近く、現地人と多様かつ深い交流ができる。留学生の文化的イメージにもそれが反映されており、寄宿舎のロビーに掲げられた写真や教科書の文章によると「首領様の恩徳」によって暮らしていることになっている。

◆現地人が時折見せる、親切と真心に触れて

 しかしどこまでも留学生は、極端な外国人フォビアにかかっている北朝鮮体制の中にいる異邦人である。留学生は全ての外国人と同じく、一般住民の家を訪問することはできず、彼らに電話することもできない(北朝鮮のキャリアである高麗リンクの電話番号は他のシステムに隔離され外国人同士でのみ通話可能となっている)。

 留学生たちも他の外国人と同じく、自分たちを直接担当する現地人以外は接触できない。レストランや商店でお金のやり取りをするときだけだ。現地人も外国人に対しては、あからさまに苦手意識を向けてきたり、恐怖心を間接的に表す。彼らもまた監視されている以上、そのような態度になるのはやむを得ないことであり、私は彼らを責める代わりに体制を責めるしかない。

 また、直接説明されはしないが、監視は前出の同宿生たちの明らかな任務でもある。同宿生たちは我々だけでなく、互いをも監視し合っている。彼らも留学生と交流するたびに厳格な「対外事業」の儀礼にのっとる必要があり、対話を深める代わりに大げさな体制の宣伝を繰り返すのである。

 いずれにしろ、現地人の友人を作ることは事実上、不可能に近い。それでも我々留学生は同宿生、そして宿舎の外にいる人々の中に人間性を発見することもあり、彼らもまた我々に時折、心を開くことがあった。彼らは我々に親切心や好奇心を向け、「朝鮮」に来た我々を歓迎し真心を込めて手助けしてくれた。それが、私の留学生生活において最も幸福で意義ある瞬間であった。

 次回は寄宿舎生活、金日成総合大学の授業、課外活動で得た興味深いエピソードを通じて、北朝鮮の実像に迫る扉を開けようと思う。

<文・写真/アレック・シグリー>

【アレック・シグリー】

Alek Sigley。オーストラリア国立大学アジア太平洋学科卒業。2012年に初めて北朝鮮を訪問。2016年にソウルに語学留学後、2018〜2019年に金日成総合大学・文学大学博士院留学生として北朝鮮の現代文学を研究。2019年6月25日、北朝鮮当局に拘束され、同7月4日に国外追放される。『僕のヒーローアカデミア』など日本のアニメを好む。日本人の妻とともに都内に在住。Twitter:@AlekSigley

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