自治体直営の山村留学センター所長が入寮児童と保護者にレリハラ/不適切宗教勧誘か(後編)

自治体直営の山村留学センター所長が入寮児童と保護者にレリハラ/不適切宗教勧誘か(後編)

本郷山村留学センター(岩国市中山間地域振興課HP「岩国 田舎暮らしの道しるべ!」より)

◆善意の陰に潜む歪んだ思惑

 山口県岩国市が直営する『本郷山村留学センター』で起こった施設責任者による児童とその母親への“レリハラ(*立場を利用した宗教勧誘であるレリジャスハラスメント/religious harassmentのこと)”宗教勧誘事件。前編では、食い違う母親の告発内容と施設所長の弁明をお伝えした。

 娘の継続入寮を望む母親に所長が示した天理高校への進学と母娘の天理教入信は、里親の交換条件だったのか。取材の過程では天理教が信者に推奨する「里子登録福祉活動」における里子への教化疑惑も浮上。岩国市、天理教本部、法律家、そして当事者への取材を経て見えてきたのは善意の陰に潜む歪んだ思惑だった。

◆市担当者「事実関係を確認しないとコメントできない」

 施設責任者による宗教勧誘や背景となった施設側の事情について、2019年12月16日、岩国市の担当部署へ問い合わせた。本郷山村留学センターを所管する岩国市教育政策課の三浦成寿課長は、寮の継続希望については施設上・人的・制度上の問題があるため女子中学生の受け入れを断っていると話す。

「センターは仕切りもない施設で男女の区別がない。思春期を迎える男女の中学生が共に暮らすには責任をもってお受けすることができない。一番最初の希望が男子生徒だった。以降ずっと男子で切り替えのタイミングがなかった。指導員も男性ばかりで女子中学生を泊める環境が整えられない」

 女子中学生については里親制度での山村留学は可能であり受け入れてきたという。但し、前編で言及したように、これまでこの所長しか里親をしていない。

「市外から転校希望の方を小中学校に受け入れて、生活についてはセンターで行う形を取っている。山村留学事業自体は里親でもできるので、運用上、中学生の女子は里親、男子はセンターと区分けをして、夕食はセンター、朝食と寝るところだけ分けているのが里親とセンターの違い」

 母親からの宗教勧誘被害の訴えについて三浦課長は当初、母親からの「天理高校への進学希望メール」を見たと発言。これは後ほど「10月23日に母親から留学センターへかかってきた電話の内容を所長がデータ化して市の担当職員に報告したものを読んだ」と訂正があった。

「進路についてお母さんから相談があって『天理高校とかそういう方向に進みたい』と先方から希望があったので、○○さん(所長)はたまたまそういう立場(天理教の教会長)におられるので『私が心配してあげてもいいけど』という形で話をしたことがあるようには聞いている。こちらからではなく向こうから」(岩国市教育政策課三浦課長)

 しかし、母親は「その日の電話でそのような話は一切していない」と否定している。

 センター内で所長が”交換条件”を持ちかけたことの問題性を指摘すると、三浦課長はこう疑念を呈した。

「事実であればそうなのかもしれないが、その辺の事実関係を私も確認してないので。流れとしては先方からそういう話があったので、所長も『この子もいい子なので、そういう方向に進んでいただければ自分も手助けできるな』と。それをこちらから主体的に進めるということはいくら何でもしていないと思う」

 “いくら何でもしていないと思う”ことが行われたから問題となっているのだ

 

 母親と所長の話の食い違いには明言を避けた。

「事実関係を確認しないとはっきり申し上げることはできない」

 今後、自治体側はどのように今回の問題に向き合うのか。同課では12月中に事実関係の確認を行い、市としての正式なコメントを出せるのは年明けになるという。市の見解については後日、追記、もしくは続報する。

◆所長「話をすることはない」「切りまぁ〜す」

 所長の弁明への母親の反論、そして三浦課長の回答にあった10月23日の母親からの電話の内容について所長に再確認した。

 2019年12月20日朝、電話に出た所長は開口一番、迷惑そうな口ぶり。

「この前話した通りで他に話をすることはないんですが」

――岩国市の担当者に10月23日の母親からの電話の内容を報告したか

「覚えてません」「知りません」

―「先方から天理高校への進学希望があった」と報告したのか

「希望があったんじゃないでしょ、もしうちに残りたいならうちの嫁さんと相談して天理高校へ行くならば考えましょう、話ししましょうと言っただけ」

――三浦課長への報告については

「それは私はよくわかりません」

――6月に天理高校への進学の話を持ちかけた場所について「寮の中ではない」と答えていたが

「よく覚えてない、車の中じゃないかなと思うんだけど」

――「母親の入信が必要」と言ったことについて

「そんなことは聞いてないですよ、なんで親に電話せにゃいけんのですか、もう話すことはありません、切りまぁ〜す」

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 後日、改めて質問書を送るとFAXで回答があった。

 市の担当者に報告したという10月23日の母親からの電話の内容については、こう記載されている。

「天理高校へ進ませたいとの意見をいただきましたのでその方法等をお伝えしてあります」

 母親へ入信を持ちかけたことは改めて否定。

「天理高校を受験するのであればという仮定のもとにその方法を示したものであり入信を進めた(原文ママ)ことはありません」「子供の受験と親の信仰宗教は関係ありません。したがって、そのようなことを言うつもりはありません」

 母親が言われていないと指摘する「入信するかしないかはご自由です」との発言の有無についても完全否定。

「もちろん、信仰するかしないかは自由ですし、そもそも入信の手続きがありませんから、それを進める(原文ママ)事もしていません」

 そして「預かる以上は天理高校を目指してやってもらいます」と発言したことについては「天理高校を目指すのであれば応援すると言いましたが、本人にその意思が無ければその必要もありません」と意味合いが変化している。

 母親と所長の主張は食い違ったままだが、所長が“条件”を示したという事実自体は録音された当事者のやり取りから明らかである。

◆各種法律にも抵触か

 これまで判明している所長の一連の言動は立場を利用したレリハラ、断りづらい環境の中で入信を迫るレリジャスハラスメント/religious harassmentに他ならない。

 どのような理由があるにせよ、特定宗教団体への入信を“交換条件”として持ち出したことに道義的な問題があることは明白だ。

 では、この所長による不適切な宗教勧誘に法律上の問題はないのか。宗教被害に詳しい田村町総合法律事務所の渡辺博弁護士はこう語る。

「この職員の行為は明らかに憲法20条の信教の自由違反です。民法上は公序良俗違反(民法90条)に問える行為です。さらに、勤務時間内に職場で行われたとすると“その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い”なければならない旨を規定する地方公務員法35条違反となります」

◆天理教が推奨する里親制度との関連は。里子への教化問題も浮上

 この不適切な勧誘は天理教における組織的問題ではなく所長個人の問題なのか。そうとばかりは言えない背景も垣間見える。

 天理教には「天理教里親連盟」という教団内組織があり、信者へ里親になることを奨励しているからだ。この天理教の取り組みは一見美談のように思える。しかしそこにも様々な懸念が指摘されている。里親制度で預かった子どもの「信教の自由(信仰しない自由)」が侵害されている形跡があるというのがその理由だ。

 教団が作成した里親に関する動画『天理教の福祉「里親連盟の福祉活動」tenrikyo』には、里親となった複数の信者が預かった里子に信仰生活を行わせている場面が映っている。

◆『天理教の福祉「里親連盟の福祉活動」tenrikyo』より

http://youtu.be/pU0HHYX4h54

 映像を観た宗教2世問題に詳しい識者は苦言を呈す。

「天理教の里親活動の様子を紹介した動画からは里子たちを教化している様子が伺えます。もし仮に里親という立場を利用して子どもたちを天理教の信者にしているとすると、その目的はサラブレッド信者の養成なのではないのか」

 2世信者の離反と後継者不足は天理教に限ったことではないが、その一方で里子を教化し信者に育て上げているとしたら預けられた里子たちの「信仰しない自由」が護られていないのは明白である。

 天理教による里子推奨については2016年6月、天理教社会学研究所というサイトに掲載された記事『天理教の里親政策がとても重要な懸念を孕んでいるわけ』がいち早く問題提起している。

 天理教が勧める信者への里親登録。全国の25都道府県の同教団教区に里親会があり、今回レリハラが起こった山口県にもやはり教団の里親会がある。

 里子が自立または保護者のもとに戻るまで養育する「養育里親」の場合、ひと月に里親手当として86,000円、一般生活費50,800円が国から支給される。里親には里子にかかる医療費や教育費の負担もなく、独自に助成をしている自治体も多い。山口県にも里親手当の助成制度がある。 

 本郷山村留学センターの所長は自宅に女子中学生を下宿させることを「里親」と表現している。天理教が里親登録を推奨していることと所長が行ってきた里親との関連はあるのか。そして、このような”交換条件”による不適切な宗教勧誘が行われたこと、事実関係と所長への対処、そして天理教の家庭における里子に対する教化について問題はないのか、12月21日に天理教本部へ見解を尋ねた。

 天理教本部の渉外広報部によると年末年始で教団行事が多いため回答は年が明けた1月になるという。こちらも回答があり次第続報する。

◆所長/教会長からの回答

 これまで里親として預かってきた5人の女子中学生に「天理教の話はしていない」と主張する所長。しかし天理教の教会長の家で生活する里子の中学生に天理教の話をしないということがあり得るだろうか。もし仮に意に沿わない天理教の信仰生活を強いていたとすると、彼女たちが卒業後に所長へ連絡を取らなかったとしても無理はないように思える。

 里親登録の有無を含めこれらの疑念について追加の質問書を所長に送ったところ、回答があった。

 所長は、これまで里子として受け入れてきた女子中学生5人への信仰生活の強要や宗教勧誘を改めて否定した。

「宗教は何を信じようと自由です。また、天理教には入信させるというような制度はありません。したがって天理教を無理に信仰させるようなことは一切ありません」「自宅と教会施設は別でかなり離れています」

「朝は朝食を済ませて学校へ行き、夜は夕食まで山村留学センターで過ごし帰宅するという生活をしており、朝夕の参拝はしておりません」

 天理教が勧める里親登録と本郷での里親としての手当についてはこう説明がなされている。

「山村留学センターの入居条件とおり」

「国やその他からは受け取っていません。山村留学センター経由で受け取っているため内容も明確です」

 岩国市教育政策課に確認した。里親宅に泊まる形で山村留学を続ける女子中学生の里親には、保護者が月ごとに市へ支払う委託費51,400円がそのまま支給される。その中から里子の中学生がセンターで摂る食事(平日は夕食のみ、休日は3食とも)の代金を里親がセンターに支払う仕組みだという。

 所長が里親として女子中学生を自宅に下宿させる際の手当を「山村留学センター経由で受け取っている」のであれば、尚更、天理高校への進学や天理教への入信を里親の条件として提示したことには改めて問題があると言わざるを得ない。

 

◆娘を思う母親の気持ちにつけ込んだレリハラ

 離れた地で暮らす娘を思う母の気持ち、そこにつけ込むような“交換条件”を持ちかけた所長の言動は糾弾されて然るべきものだ。立場を利用した宗教勧誘・レリハラはいかなる理由があろうとも容認されるものではない。

 自治体は直営施設で起こった今回の不適切な宗教勧誘に対し、事実関係を調査した上で厳正に対応すべきである。そして天理教は教会長という地位にある者が起こした今回のレリハラ問題にどう対処するかで教団としての姿勢が問われることになる。

※岩国市及び天理教からの正式な回答が得られ次第、本記事に追記もしくは続報する。

<取材・文/鈴木エイト(ジャーナリスト)>

【鈴木エイト】

すずきえいと●やや日刊カルト新聞主筆・Twitter ID:@cult_and_fraud。滋賀県生まれ。日本大学卒業 2009年創刊のニュースサイト「やや日刊カルト新聞」で副代表〜主筆を歴任。2011年よりジャーナリスト活動を始め「週刊朝日」「AERA」「東洋経済」「ダイヤモンド」に寄稿。宗教と政治というテーマのほかに宗教2世問題や反ワクチン問題を取材しトークイベントの主催も行う。共著に『徹底検証 日本の右傾化』(筑摩選書)

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