新宿駅で強制わいせつした男。結婚前提の恋人が涙の証言<裁判傍聴記・第2回>

新宿駅で強制わいせつした男。結婚前提の恋人が涙の証言<裁判傍聴記・第2回>

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 性犯罪者と善良な市民の境界線はなんだろうか。それは、頭の中の妄想を行動に起こしてしまうのか否か。たとえば、電車のなかでムチっとしたお尻が目の前にあったとしよう。善良な市民であれば、つい目がいってしまったとしても、間違っても触れないように両手を上にあげて、時間をやり過ごすもの。しかし、なかには理性が効かない人もいるのだ。

◆裁判傍聴マニアと性犯罪裁判

 東京地方裁判所に向かう途中、法務省の前を通ると複数のカメラクルーが寒さに耐えながら、ひたすら誰かを待っている。この日は、東京地検特捜部が収賄容疑で秋元司議員を逮捕した当日。いつかこういった大きな事件の裁判も傍聴してみたいものだ。

 裁判所に入り電子掲示板で本日の裁判一覧を見る。元犯罪者である知人によれば、「裁判傍聴で盛り上がるのはやはり殺人事件です」とのこと。しかし、殺人事件の裁判は毎日行われているわけではない。やはり、レアな事件の部類に入る。

 それに比べ、詐欺事件の裁判は非常に多い。今日も日本のどこかで誰かが誰かを騙している。騙されていることに気が付いていないパターンもあるだろうし、「騙されました!」と一方的に騒いでいる人間が裁判を起こしているかもしれない。ただ、前出の知人によると、「詐欺の裁判は冗長でつまらない」とのことなので、無難に「強制わいせつ罪」の裁判が行われる法廷へ。

 この強制わいせつ罪。電子掲示板ではよく見かけるし、レアな事件ではないようだが、法廷に入ってみると意外にも傍聴席はほぼ満席。裁判傍聴マニアにはいくつかのコミュニティがあるようで、性犯罪事件の裁判ばかりを好んで傍聴する「マニア」たちの姿もチラホラ。一同、静かに開廷を待っているのに対し、彼らは笑みを見せながら、仲間で集まり、井戸端会議を開いている。

 傍から見れば、なんて悪趣味で性格の悪い連中なんだろうと思ってしまうが、人間やはりこういった生暖かいリアリティのある人の不幸話は好物なのだ。わたしも内心、どんな顔をした男がどんな性犯罪をしたのだろうと、被告人がやってくるのを待っているではないか。

◆夜の新宿で後ろから抱きつくキス

 検察官が被告人の男に対し、罪を追求する。当時の状況が映像となって浮かび上がるくらいこと細かに、男が犯した性犯罪を言語化していく。

「あなたは11月某日の深夜近く、ナンパをしようとJR新宿駅東口周辺を物色していた。目星を付けた女性の腕をつかみ、ルミネエストのエレベーター前まで無理やり連行した。そして耳元で『遊びに行こうよ』とささやいた。被害者は下を向いたまま『嫌です、帰りたいです』と何度も断った。あなたは後ろから抱きつき、片手で被害者の尻をわしづかみにし、再度、『いいから飲みに行こうよ』などと言いながらディープキスをしようとした。被害者は口を閉じて拒否をしていたため、結果的にディープキスでなく被害者の唇を舐め回すかたちになった」

 傍聴席は満席。こんな醜態を見ず知らずの傍聴人たちに聞かれる気持ちといったらないだろう。さらにいうと、傍聴人の多くは、「強制わいせつ」に惹かれた半分冷やかし、半分好奇心の人たちだろう。しかし、傍聴席には目もくれず、男は真っ直ぐと前を見て、「間違いございません!」と宣言する。やけにすがすがしい。反省しているというよりも吹っ切れているような感じだ。

 被害者は当時の事件を、「吐き気がするほど思い出したくない記憶」と形容し、心療内科にまで通うハメに。30万円ですでに示談が成立しており、ベタに執行猶予3年、という流れになるのだろうが、男の情状酌量を求めるべく、ひとりの女性が証言台に立った。

◆結婚前提の恋人が証言台に立った

 法廷に入った時から気にはなっていたが、傍聴席の最前列、被告人にいちばん近い席にスーツ姿の女性が座っていた。裁判が始まっていないにもかかわらず、背筋を伸ばして座っている。もしかすると被害者の女性だろうか。裁判の中盤になると、その女性は証言台に立った。被告人と結婚を前提に交際をしているという女性だった。

「どうしてこんなことになってしまったのか、悲しいです。事件後、何度も彼と話し合いをし、被害に遭われた方に誠実な対応をしてくださいと伝えました。今後は私が身元引受人となって彼を支えていくと決めました」

 ナンパをして自分を裏切るような人だとは思っていなかった。しかし、彼を突き放すのではなく、自分にできることならなんでもしてあげたいと涙ながらに訴えた。

 交際相手が強制わいせつ。しかも結婚を前提にした付き合いだ。それでも何度も話し合いを重ね、男を支えるという決断を出した。彼女には脱帽だ。そんな雰囲気が法廷を包むなか、事件当時の行動や動機を再び検察官が追及する。ちょっとくらい間を空けてやってもいいんじゃないのか。

◆もうナンパはしないとここに誓います

 検察官の問いに男が答える。証言台を降りたばかりの女性はまだ目に涙を浮かべている。

 事件当日、男はイヤホンを購入するために新宿駅を降りた。決して、ナンパをするために新宿に来たわけではないと強調する。しかし、男の家は新宿から電車で1時間半以上はかかるであろう茨城県の片田舎。なぜイヤホンを買いにわざわざ新宿まで。

「彼女の家が近くにあるので、その日も泊まることを彼女に伝えていました」

 家で彼女が待つなか、男は家電量販店でイヤホンを購入した後、沖縄料理店で夕食を済ませ、ひとりでダーツバーに。そこでカクテルを3杯ほど飲み、酔い覚ましに新宿駅東口周辺を歩きながら女性を物色。「お酒に酔って気分が高揚しており、これだったら女性に話しかけられると思った」とこれ以上ない、酒を言い訳にした言い訳…。さらに検察官は「被害者はうつむいて首を振りながら拒否していたのに、なぜ止めなかったのか」と追い詰める。

「嫌がってはいましたが、少しくらいは同意をしていると思い、周りに人がいる状態でも構わずしてしまった」

 そう、事件現場は新宿駅東口改札のすぐ横にあるルミネエストのエレベーター前。いくら深い時間だといってもそれなりに人通りはある。お酒のせいにしてはいけないけど、酒の力で大胆になったのだ。「結婚を前提にしているほどの相手がいるのに、なんでナンパを?」と検察官が追い打ちをかける。「やはりお酒に酔って気持ちが高まっていたので……」。交際相手の女性は下を向き、手で目頭を押さえる。

 そして男は最後に法廷で宣言した。「保釈金まで親に払ってもらった自分が情けない。感情的にならず冷静だった彼女を見て、大切にしないといけないと思った。もうナンパはしません!」

 犯行をすべて認めていること。計画性はないこと。被害者に対し、損害賠償・慰謝料を支払い、謝罪文を書き、反省の色があること。交際相手の女性の存在があること。これらを考慮して、懲役1年6カ月、執行猶予3年の判決が下った。しかし、もしこの男が証言台に立った女性と結婚したら……。死ぬまで「あのときは……」と嫌味を言われ続けるのだろう。となれば懲役50年といったところだろうか。

<取材・文/國友公司>

【國友公司】

くにともこうじ●1992年生まれ。筑波大学芸術専門学群在学中よりライター活動を始める。著書に『ルポ西成 七十八日間ドヤ街生活』(彩図社)。Twitter:@onkunion

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