センター試験の果たしてきた役割とその課題<入試改革のあやまちを繰り返さないために3>

センター試験の果たしてきた役割とその課題<入試改革のあやまちを繰り返さないために3>

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◆失敗から学ぶ今後の入試改革のありかた

 2020年度から実施される共通テストにおける数学と国語の記述式試験が見送られることになりました。多くの専門家と高校生の声によって、入試改革が正常化の流れに近づいたといえます。

 しかし記述式を再度導入しようとする流れもあるなど、今後も予断を許さない状況です。この連載では、記述式の未練をしっかりと断ち切り、今後設計されるであろう入試改革について提言していきたいと思います。

 今回は、センター試験がこれまで果たしてきた役割とその課題について説明します。

◆今、最優先ですべきこと

 大学入試に関して、今、最優先ですべきことは、来年の1月に実施予定の共通テストをセンター試験のままで実施することの発表です。現在の高校2年生は今後どうなるのかが未決定のまま新年を迎え不安に思っています。過去40年このようなことはありませんでした。

 とりあえず「センター試験を継続すべき」とする理由は、共通テストの記述式が見送られたままでは試験にならないからです。数学の場合は「数学I」「数学I・数学A」に記述式が15点分出題される予定でした。したがって、記述式がなくなったままの試験では85点ということになります。85点満点では他教科とのバランス等も考えて不自然ですから、残りの15点をどのようにかしなければなりませんが、15点分を何に割り当てるのかなどの発表はありません。

 国語の場合は、記述式も含めて時間も20分延長し、大問も1題追加される予定でしたが、記述式がなくなってどうするのかの検討が必要です。これは緊急事態なのです。新しい形式にするのであれば、もう一度試行調査からやり直すべきですが、そのような時間はありません。こうなってしまった以上、一番確実で安全なのが、センター試験の継続となります。今月の中旬の検討委員会を待ってからとは言っていられないはずです。まず、「来年度は、センター試験を継続する」と発表して、次の試験をどうすべきかにとりかかるべきです。とりあえずの「センター試験の継続」を主張する人がすべて「センター試験が万能である」と思っているわけではないことにも注意してください。

◆センター試験の役割を再検討する

 最優先事項を終えた後は、まず、これまでのセンター試験の役割の確認と評価が必要です。実は、これまでの大学入試改革の議論ではこの部分が欠けていました。最初から「共通テストありき」で、センター試験を十分に検証せずに「センター試験の廃止」を決めてしまうことで、センター試験の遺産を活用しなかったのです。新しい検討委員会では.まずここから議論を開始すべきではないかと思います。そして、センター試験の役割として次のようなことを認識していただければよいのですが、果たしてどうなるでしょうか。

◆1:重要な役割は、50万人の得点を適度に分布させること

 センター試験は、50万人もの受検者の力を判別し、一定の基準で振り分ける役目があります。きれいに得点が分布して当然のように思われているところもありますが、試験を適切な難易度で作成しなければ得点分布が偏ってしまうのです。

 数学に関しては、数学が苦手な人の中で差がつくような問題と、得意な人の中で差がつくような問題が組み込まれおり、問う内容が面白いかどうかは別にして、50万人の振り分けとしてはよく機能している試験でした。今後も特殊な内容を問うのではなく、標準的な内容で50万人の成績が適度に分布する試験が望まれます。

◆2:国公立大の2次試験とのバランスを知ってもらいたい

 これまで、センター試験と国公立大の2次試験は絶妙なバランスのもとに実施されてきました。数学の試験を例に説明しましょう。

 これまでセンター試験は、その科目の中で学習したそれぞれの分野から必ず何題かを出題してきました。例えば、現行課程では、数学Iの中には「数と式」「図形と計量(三角比など)」「二次関数」「データの分析」の4項目があり、数学Aの中には「場合の数と確率」「整数の性質」「図形の性質」(この中から2項目を選択)を学習することになっています。センター試験の「数学I・数学A」の試験では、これらの項目すべてからの出題になっています。

 これに対し、国公立の2次試験では、特定の分野の特定のテーマを深く掘り下げて思考力を試す問題になっています。そのため、すべての項目に触れるのは不可能であり、例えば、年によって確率の問題が出題されなかったり、あるいは数列の問題が出題されないなどのことがあります。

 また、東京大学の二次試験ではいまだに数学Iの「データの分析」からの出題はありません。それを出題するかどうかは東京大学の考え方次第で、東京大学に決定権があるものの、もしもセンター試験がなければ、高校生は「データの分析」を全く学習しないかもしれません。

 このように、センター試験がすべての分野から少しずつ大きな偏りなく出題することは意味が大きいのです。ですから、今の役割では、センター試験あるいは共通テストでは強烈な個性を出すことは控え、癖のないフラットな内容が適するのです。

◆3:センター試験だけで入ることのできる大学をどうするか

 共通テストの数学と国語の中に記述式を導入しようしたことの大義として、共通テストだけで入学可能な大学があることがその一つでした。そのような大学があるから、共通テストにマークシートでは測れない記述式が必要なのだという論法です。これに対しては、これまで多くの方が説明してくれているように、実施しようとした共通テストの記述式はお粗末なものでしたので、実施したとしても役に立たないというのが回答です。

 しかしながら、そもそもセンター試験だけで入ることのできる大学があること−自前の入試問題が作成できない大学があること−は、共通テストの記述式がよいかどうかとは別の深刻な問題です。「自前の入試問題が作成できない」ということの理由には、「追加募集であるため、試験を実施する時間がない」、「試験を実施するマンパワーがない」などがあります。このような大学は、少子化が進むこの時代に学生募集に苦労している大学が多いのが特徴です。文科省の役割は、共通テストに記述式を入れてこのような大学の学生選抜を手伝う(実際には役立っていない)のではなく、このような大学を将来どうすべきか(延命していくのか)の方向性をつけることです。これは、私立大学の場合は開学の理念があり、簡単には合併をしにくい状況にあるので、簡単なことではありません。

 なお、大学に入試選抜として、推薦、AOなどの方法もありますが、もともと大学入試改革では、これらが「実質、無試験の選抜制度」であることが問題視されてきました。現状は、形式だけの推薦入試、AO入試が多く、「学生募集に苦労をしている大学が早めに学生を確保したいだけではないか」という疑いもかけられています。もちろん大学の入学方法はいろいろな方法があってよいのですが、推薦入試、AO入試が本来の目的通りに行われ、それで必要があればこの試験の中で「記述式」を行えばよいので、このために共通テストに記述式を入れる必要はないと思われます。

◆センター試験の後継試験の課題

 これまで共通テストの数学と国語の記述式に反対してきた人のほとんどは、センター試験を手放しで褒めたたえてきたわけではありません。共通テストの内容を見て、現状の方が試験の質、採点の公平性、自己採点が確実にできる点で優れているから反対してきたのです。

 さて、センター試験あるいは共通テストが「まっさらな状態」から見直されることとなりましたが、新しい検討委員会の委員が次のような点に気がつくことができるかどうかが一つの指標になります。私は数学の専門家ですので、数学の立場から少し踏み込んだ問題点を指摘しておきます。

◆1:試験の制限時間を長くする

 私は、毎年、東京大学の入学試験の数学の解答速報を担当していますが、1次解答(清書する手前の解答)であれば理系と文系(東京大学では理科と文科という)あわせて70〜90分程度で解き終わります。なお、試験の制限時間は、理系が150分、文系が100分で重複する問題もあります。しかし、センター試験の「数学I・数学A」「数学II・数学B」については、60分の制限時間の中の40分程度かかってしまいます。

 東京大学の入試問題では、制限時間の半分も必要ないのに、センター試験では制限時間の半分以上の時間がかかってしまうことを不思議に思っている時期もありましたが、その後の分析で時間がかかってしまうにはいくつかの理由があることがわかりました。その一つは、やはり設問数が多いのです。もちろん、細かく分けて問い、設問数を増やすことは理解できる部分はあります。また、問題文を読む量が多いことも時間がかかる理由です。表面的には同じ形式の慶應大学理工学部の問題と比較しますと、印刷物ベースで、センター試験の問題は、慶應大学の2倍の分量を読まされます。しかし、慶應大学理工学部の数学の問題の制限時間は120分です。もちろん、慶應大学の問題は、かなり考えさせられる問題もありますから、制限時間の長さを単純に比較はできません。しかし、それを考慮してもセンター試験は読む量も多いので、共通テストで「太郎と花子」の会話文を入れなくても十分に一部の読解力は必要な内容になっています。

 蛇足になりますが、この「太郎と花子」の会話形式の試験内容は、次期指導要領に沿ったものだと思われます。次期指導要領に基づいた試験であれば、まだ一考の余地はありますが、現在の指導要領では、学習する側も教える側も混乱しています。試験に会話文を入れ、「試験を変えることで普段の学習を変えていこう」という考え方は、理解できなくもないですが、果たして国が率先して「試験を変えて、学習内容を変える」と言ってよいのかは疑問です。

 さて、問題の量に対して、制限時間が短いと、問題に対する反射神経が重要ということになりますから、数学の苦手な受験生に対しては「要領」とか「テクニック」と呼ばれるものが重宝されることがあります。今後は思考力を問うのであれば、もう少し問題を減らすか制限時間を長くするかなどの対応をとり、正しい思考でないとたどり着けない問題を入れていくことが望まれます。また、そのような問題を作成できる人は日本国内に多くいます。

◆2:マークの形から答が想像できないように

 以前、私は共通テストで実施しようとしていた記述はマークで問うことにしても変わりはないという発言をしました。確かに試行調査での記述式はそのような問題なのですが、一般のマーク式と短答型の記述式では以下のように少し違いがあります。実は、この違いは、記述式を賛成する人から私に対する反論意見が出ることを期待して、私はその反論を用意していたのですが、記述式に賛成する人からは以下のような意見は出ませんでした。

例えば、ある問題の答が「2√2-1」であったとします。この場合は、現在のマーク式では、「ア√イ-ウ」のようになります。

 これは答の形を教えていることにもなります。なぜなら、もしも誤って、答が「√7-1」になったり、「2√2+1」となった場合は、このマークには入らないので、誤りであることに気がつきます。誤りに気がつくことはそれで大切なのですが、これが短答式であれば間違いと気づかずに答を書き込むことになります。

 このようなことは、マークの欄を工夫することで解消できるので、今後、どのような変化が起こるのか注目したい案件です。

◆3:数学IIIの導入

 数学が苦手な高校生から見れば「余計なことを言うな」ということになるかもしれませんが、共通テストに「数学III」の試験がないのは本来おかしいことなのです。共通一次試験が開始されたときには「物理II」など1次試験に課されない科目がありましたが、現在ではそれも解消され、理系の2次試験の科目になっておきながらセンター試験の科目にないものは「数学III」くらいになりました。

 しかし、「数学III」(次期学習指導要領では「数学C」も含む)については、センター試験および共通テストに課される様子は今のところありません。「数学III」は大学での数学などの自然科学の基礎となる部分が多く含まれる科目です。一部の私立大学の理系学部では、入試にセンター試験だけを課す大学もありますが、これは「数学III」の力は不問ということですから、本来あってはならないことです。そして、このことは「数学I」に記述式を導入することとは比べ物にならないくらい重要なことなのです。これまでも「数学III」を導入しようとしたが、いくつかの理由で見送られたという話も私の耳に入ってはきますが、それらは、本気で解決する気になれば、解決できることばかりでした。

 さて、他にも細かな改善点、専門的な指摘はありますが、それは別の機会に触れましょう。今後、前回と同様に細かい作業を進めるための教科ごとのワーキンググループが結成されることでしょうから、それを見て変化があれば解説していきたいと思います。まずは、1月15日の第1回の検討委員会に注目していきましょう。

<文/清史弘>

【清史弘】

せいふみひろ●Twitter ID:@f_sei。数学教育研究所代表取締役・認定NPO法人数理の翼顧問・予備校講師・作曲家。小学校、中学校、高校、大学、塾、予備校で教壇に立った経験をもつ数学教育の研究者。著書は30冊以上に及ぶ受験参考書と数学小説「数学の幸せ物語(前編・後編)」(現代数学社) 、数学雑誌「数学の翼」(数学教育研究所) 等。 

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