森林火災、スーパー台風、洪水……。深刻化する環境問題、原因を作る金持ちは逃げ切り、一般人ほど割を食う現実<斎藤幸平氏>

森林火災、スーパー台風、洪水……。深刻化する環境問題、原因を作る金持ちは逃げ切り、一般人ほど割を食う現実<斎藤幸平氏>

Photographer: Simon Dawson/Bloomberg via Getty Images

◆「大分岐の時代」−気候変動対策が人類の未来を決める

―― 斎藤さんのベストセラー『未来への大分岐』(集英社新書)は、気候変動問題が大きなテーマになっています。日本でもスーパー台風や酷暑といった気候変動の影響が身近な問題になっていますが、国際社会ではどのような議論が行われているのですか。

斎藤幸平氏(以下、斎藤): 世界の気温上昇をいかに抑えるかという具体策について、各国の足並みがそろわず、政府間レベルでの協議は手詰まりな状況に陥っています。

 5年前に採択されたパリ協定では、産業革命を起点に考えた気温上昇を2℃までに抑えることが目標とされました。しかし当初から、その対策内容が不十分であることが批判されており、温室効果ガス削減の2030年目標値の見直しを求める声が高まっています。ところが、昨年末の国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP25)は、そのような声に応えられませんでした。

 海面上昇にさらされる小国の島国は強い規制を求めており、EUが支援しているものの、アメリカ、中国、ブラジル、インドといった大国が消極的だからです。日本は、そもそも存在感すら示せていません。

 気候変動の対策には、2020年代の10年が決定的な意味を持ちます。このままの二酸化炭素の排出ペースでは、2030年には1.5℃を超えてしまい、かなり危険な段階に突入することになる。どんな行動を起こすかで未来が決まる「大分岐の時代」を私たちは生きています。

 それなのに国連会議では毎年同じような議論をして、結論を先延ばし。だからこそ、グレタ・トゥーンベリのような若者たちは怒っているのです。

 抗議活動をしているのは「未来のための金曜日」(グレタさんが毎週金曜日に学校を休んで環境問題を訴えてきたことから始まった、政治家へ環境問題に対する積極的なアクションを求めた抗議行動)だけではありません。ロンドンを中心とする「絶滅への反逆」(「Extinction Rebellion」、略称「XR」として知られる温暖化に対する政治的な決断を促すために非暴力の直接行動を用いる社会・政治的な市民運動)やアメリカの「サンライズ・ムーブメント」(若者主導の気候変動に関する政治運動)のように、世界各地で直接行動を重視する環境運動が盛り上がっており、そうした下からの運動が、政治にも影響を与えています。アメリカのバーニー・サンダースらが提唱しているグリーン・ニューディールなどは、そうした下からの運動の力によるものです。

 トランプを次の大統領選で当選させてはならないのです。彼は気候変動が起きているのを知っていながら、「否定」しています。気候変動を認めると、さまざまな規制を市場にしかねばならず、自分たちのような資本家が不利になるからです。

 グレタさんがスピーチで「システムを変えなくてはいけない」と強調していたのは、そのためです。

◆気候変動で金儲けするビル・ゲイツ

―― 2019年に日本は台風15号・19号によって大きな被害を受けましたが、被害が集中したのは都心ではなく地方でした。日本では都心と地方の経済格差が深刻な問題になっていますが、気候変動がもたらす被害にも格差が生じています。

斎藤:それは気候変動をめぐる「正義」の問題です。気候変動の原因となる二酸化炭素を多く排出している先進国や都市部の人々、とくに富裕層に属する人たちほど気候変動によるダメージを受けにくく、あまり二酸化炭素を排出していない貧しい人たちほど気候変動の影響を受けやすいといった構造が生まれています。

 たとえばトランプ、ビル・ゲイツやパリス・ヒルトンのようなスーパー富裕層は、プライベート・ジェットに乗ることで、一般の人たちの1万倍もの二酸化炭素を排出していると言われています。それにもかかわらず、富裕層はお金や技術を持っているため、現在の生活レベルを大方維持しつつ気候変動の影響を免れることができます。彼らは気候変動がもたらす災害に対して大きな責任があるにもかかわらず、その影響を受けないのです。トランプの気候変動否定を信じて、最終的に損をするのは支持者だけというわけです。

 オーストラリアで火災がかなり深刻化しています。モリソン首相は何をしていたか? ハワイでバカンスです。この呑気さは、誰かのゴルフみたいですよね。

 他方で、ボランティアの消火隊員は家族や自分の故郷を守るために消火活動をして、命を失っている。一部の人々の豪華な暮らしを可能にする石炭の既得権益を維持するために、一般の人々や多くの動物たちが犠牲になっているのです。

―― 富裕層は気候変動まで金儲けのために利用しています。まさにナオミ・クラインの言う「ショック・ドクトリン」です。

斎藤:その典型がビル・ゲイツです。SNSでも最近彼のインタビューが話題になっていました(参照:「Bloomberg」)。

 彼も途上国の人々の苦しみをもたらす先進国の責任を語っている。けれど、動画をよくみればわかるように、彼が関心あるのは、二酸化炭素の排出量削減ではなく、気候変動への「適応」にむけた技術開発がもたらすマーケットです。

 例えば、ビル・ゲイツは地球工学(ジオエンジニアリング)と呼ばれる気候変動対策に多額の資金援助をしています。これは硫黄の小さな粒子を大気圏に散布することで、太陽光を遮断し、地球を冷却するといった技術です。

 このプロジェクトは地球規模のものですから、膨大な研究費がかかります。しかし、プロジェクトがうまくいけば巨額のお金が入るわけです。

 もっとも、地球工学は未知の技術なので、成功するかどうかはわかりません。大気システムに人為的に介入した結果、取り返しのつかない事態を招いてしまう恐れもあります。このような重大な政策意思決定に、スーパー富裕層の個人的な意向が大きな影響力を持つ。これは民主主義的ではありません。

 他にも、海水を飲めるようにする技術の開発や、干ばつや熱波に強い遺伝子組み換え作物を販売するといったことも考えられます。あるいは北極の氷が全て溶ければ、その下に眠っている石油やガスを掘ることもできますし、欧州とアジアの最短ルート(北極海航路)として利用することもできます。資本はこうした危機を利用して新しい市場を開拓していくのです。

◆「グリーン革命」の限界

―― 地球温暖化を防止するためには、二酸化炭素を排出しないグリーンエネルギーを推進する必要があります。しかし、たとえば太陽光パネルを設置するために山林を切り開くといったことが行われる場合もあります。また、ドイツは福島原発事故をきっかけに脱原発へ舵を切りましたが、ここにきて二酸化炭素を出さない原発が再び注目されるようになっています。これでは本末転倒です。

斎藤:グリーンエネルギーの全てが全て良いわけではありません。太陽光パネルを作るためには非常に多くの資源が必要ですし、リチウムイオン蓄電池の原料であるリチウムやコバルトはチリやコンゴなどから輸入しており、その採掘が環境を破壊し、搾取の温床となっています。

 アメリカのジャーナリスト、トーマス・フリードマンは「グリーン革命」を掲げ、脱炭素社会へ移行するために必要な公共投資や、そこで生じる新たな雇用によって経済成長が可能だと述べています。しかし、経済規模が大きくなれば、二酸化炭素の排出量を削減することがさらに困難になります。結局のところ、グリーンエネルギーに転換することで、地球環境を維持しつつ、さらに豊かで快適な生活を送ろうという発想自体が間違いなのではないでしょうか。

 私は脱成長を実現し、持続可能な社会へ移行しなければならないと考えています。脱成長という言葉が反感を呼ぶのであれば、自然の限界や地球の限界に重きを置いた生産に転換していくと言い換えてもいいでしょう。有限な地球で、無限の経済成長を求めることは、長期的には不合理です。

 こんなことを言うと、貧困に苦しむ人たちの生活がますます苦しくなると思われるかもしれませんが、富裕層トップ10%の二酸化炭素排出量をヨーロッパ人の平均まで削減するだけで、世界の二酸化炭素排出量を3分の1削減できます。そのため、まずは富裕層の生活レベルから落としていけば、その他の人々への影響を抑えることができます。

下からの社会運動の重要性

―― ヨーロッパではグレタさんやローマ教皇などが積極的に気候変動問題に警鐘を鳴らしていますが、日本は自然豊かな国だと言われながらも、こうした動きはほとんど見られません。その違いはどこから来るのでしょうか。

斎藤:あまり文化論的になるのは良くないのですが、ドイツ人の哲学者マルクス・ガブリエルと『未来への大分岐』で対談をしたり、昨秋も1週間ほど話し合ったりした過程で、ヨーロッパ人が自由や人権、文明といった啓蒙的な理念をいかに大切にしているかを再認識しました。

 彼らはそれをヨーロッパだけに留めるのではなく、人類全体に広げようとする姿勢を持っています。そうでないと、この「大分岐の時代」を乗り越えられないと、ガブリエルのような知識人だけでなく、市民活動家たちも真剣に考えています。

 もちろんこうした考え方がかつて植民地主義をもたらしたことは否定できませんが、その一方で、たとえば難民問題が生じると、多くの人たちが人権問題として難民を受け入れなければならないとヨーロッパの人々は考えるわけです。ここが難民問題を冷笑的に扱う国とヨーロッパとの違いです。

 これに対して、日本の場合は台風や酷暑に直面しても「自然現象だから仕方ない」と受け入れてしまう傾向があります。しかし、現在の気候変動は明らかに人間が引き起こした問題です。自然現象だから仕方ないという議論に騙されてはなりません。

―― アメリカでは民主党のサンダースが温暖化対策に熱心に取り組んでいます。これに対して、日本ではれいわ新選組の山本太郎さんが「日本版サンダース」と見られていますが、れいわ新選組は気候変動に関して目立った政策を掲げていません。

斎藤:日本ではサンダースの反緊縮運動は「どんどんお金を刷って再分配し、みんなで豊かになろう」という考え方だと思われていますが、欧米の反緊縮運動の根幹には気候変動問題があり、必ずしも経済成長を目指しているわけではありません。

 実際、サンダースは大統領選に向けたマニフェストの中で気候変動問題に詳しく言及し、具体的な数値まで上げて野心的な対策案を打ち出しています。このマニフェストは1人や2人で書けるものではありません。サンダースの後ろには数十人単位の学者や専門家たちがついており、それをまとめ上げるチームが存在していると推測されます。

 他方、日本の反緊縮運動は単に減税によって景気を良くしようという発想にすぎません。学者やシンクタンクがシステマティックに政策をまとめ上げているわけでもありません。

 気候変動問題を視野に入れているかどうかが、欧米の反緊縮運動と日本の大きな違いです。

―― 国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC) によれば、 2100年までの気温上昇を1.5℃以内に収めるためには、二酸化炭素排出量を2030年までに45%削減しなければなりません。2030年まで、残りわずか10年しかありません。国家権力を強権的に発動することで気候変動問題を一気に片付けようという考え方が出てくる可能性もあります。

斎藤:残り時間があと10年、20年ということになってくると、強権的とは言わないまでも、国家の力をある程度使わざるをえません。現実問題として、二酸化炭素を排出する企業に対してブレーキをかけられるのは国家だけです。

 とはいえ、国家だけに頼るのが危険であることも確かです。気候変動に対処したいという意図自体は良いものですが、そのために特定の政治リーダーに権力を預けてしまうと、「エコ・ファシズム」のような独裁的な権力が生まれてしまう恐れがあります。

 こうした事態を避けるために必要になるのが社会運動です。社会運動によって絶えず闘争を行っていけば、国家の力に歯止めをかけることができます。その意味で、これからの10年は気候変動問題とともに下からの社会運動がきわめて重要になると思います。

(1月6日インタビュー、聞き手・構成 中村友哉)

斎藤幸平(さいとう・こうへい)

1987年生まれ。大阪市立大学大学院経済学研究科准教授。ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。Karl Marx’s Ecosocialism:Capital,Nature,and the Unfinished Critique of Political Economy(邦訳『大洪水の前』)によって、2018年度ドイッチャー記念賞を日本人初、歴代最年少受賞。ベストセラー『未来への大分岐』(集英社新書)では、マルクス・ガブリエル、マイケル・ハート、ポール・メイソンら、欧米の一流の知識人と現代の危機について議論を重ねた。

【月刊日本】

げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。

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