大学入試の未来はどうなるのか ―第1回検討委員会と最後のセンター試験を終えて―

大学入試の未来はどうなるのか ―第1回検討委員会と最後のセンター試験を終えて―

1月15日に行われた大学入試の検討会議であいさつする萩生田光一文科相(時事通信社)

◆大学入試のあり方に関する検討会議が開催

 2020年1月19日に共通1次試験から数えて約40年続いた今回が最後とされる大学入試センター試験が終了しました。受験生の皆さまはお疲れ様でした。

 今年のセンター試験の数学に関しては、一部問題表現に不完全なものがあるものの概ね良問でした。特に「センター試験対策」としてこれまでの形式、傾向を強く意識しすぎた「要領型の学習」「試験対策型の学習」だけでは点が取りにくく、真の理解がないと解きにくい問題が含まれていました。

 他の教科も「共通テスト」を意識した問題ではなく、これまで通りの「センター試験」の問題であったと聞きます。このような意味では、今年度の試験はこれまでの蓄積が活かされた出題といえます。

 さて、このセンター試験が来年度はどのようになるかについては、1月22日の段階ではまだ発表に至っておりません。この件も含め、大学入試改革は未だに迷走していますが、迷走している要素として、昨年末に発表された「英語の民間試験の活用」「数学と国語の記述式の導入」の延期があります。事態を改善するために、2020年1月15日に大学入試のあり方に関する検討会議が開催されました。

 この会議の報道は一端落ち着きましたが、来週にはセンター試験の追試も終わり、再び来年度の共通テストあるいはセンター試験について何らかの発表があると思われますので、このタイミングでもう一度会議の内容と方向性を確認し、来週以降の報道に注目していきましょう。

 まず、1月15日の検討委員会について確認しましょう。議題は以下の通りでした。

1.検討会議の議事運営等について

2.これまでの経緯・今後の検討スケジュールについて

3.自由討論

4.その他

◆各委員の発言は

 ここでは、この会議がどのようなものであったかをつかむために、この中の自由討論で各委員がどのような発言をしたかをまず紹介しましょう。その後で、いくつかの解説と今後の見通しを述べます。

 今回の会議に出席された委員が、事務局から紹介されました。それは、三島良直座長から時計回りに座っていた順に、川嶋太津夫委員、益戸正樹委員、荒瀬克己委員、斎木尚子委員、島田康行委員、清水美憲委員、末富芳委員、両角亜希子委員、岡正朗委員、小林弘祐委員、芝井敬司委員の代理として同志社大学の圓月勝博委員、柴田洋三郎委員、萩原聡委員、吉田晋委員、牧田和樹委員、オブザーバーの山本廣基氏の順に行われました。なお、芝井委員の他、宍戸和成委員、渡部良典委員も欠席でした。

 最初に、萩生田光一文科大臣から挨拶がありました。主な内容は以下の通りです。

萩生田大臣:英語民間試験活用は延期となったが、4技能の適切な評価は重要であるので、令和6年度からの実施に向けてできるだけ公平でアクセスしやすい仕組みはどのようなものか検討していただきたい。記述式についても導入の見送りを決定したが、これまで指摘された課題や見送りになった経緯を検証し、それを踏まえた今後のあり方を検討していただきたい。この会議は、高大接続改革の観点も念頭に、なるべく多くの関係者からの声を反映するためヒアリングを行いながら、約1年程度で取りまとめをしたい。

 さて、資料等の読み上げが終わった後で、自由討論は会議が開始されてから50分後の10:50ころから開始されました。発言順にその要旨を紹介しましょう。この中で、吉田委員と荒瀬委員が前回からの会議のメンバーです。なお、発言をわかりやすくする目的で、英語の民間試験、数学と国語の記述試験に対する考えを、私の判断で【推進派】【反対派】と付け加えてあります。

末冨委員(日本大学文理学部教授):提出資料あり【反対派】:教育における貧困格差の改善を中心に研究をしている。内閣府の子供の貧困対策に関わり、高等教育の無償化など進めてきた。経済的格差改善の視点から教育機会均等の保障を求める。オンラインなどを活用して、中高生や保護者など多様なニーズを持つ当事者の意見集約が必要である。

萩生田大臣:一度くらいは会議をクローズにして、悪かった部分を指摘するような会があってもよいのではないか。文科省側も変な数字のマジックはやめて、数字を正しく示して議論の準備をしてもらいたい。11:10頃に退出。

両角委員(東京大学大学院教育学研究科准教授):提出資料あり【反対派】:高等教育を研究している立場から参加する。以前からされてきた指摘がなぜ反映されなかったのかこれまでの経緯を徹底的に検証すべき。「手段」と「目的」を取り違えたことが問題であり、入試によって教育を改革しようという発想がおかしい。多様な現場の声や専門家の声を取り入れるべきである。

吉田委員(学校法人富士見丘学園理事長・富士見丘中学高等学校校長、日本私立中学高等学校連合会会長):【推進派】:入試は大学が決めることである。世界からの教育の遅れを取り戻すために提言がなされ、4技能や記述式が必要とされてきた。格差の問題は内閣府がお金をつけてやればすむことだ。今まで何年間も議論してきたことを本当にゼロにするのか?変える方向で進んできたものをきっちりとすすめてもらいたい。

三島座長(東京工業大学名誉教授・前学長):全部元に戻すのではなく、今までの経緯をしっかり検証したうえで安心できるようなシステムを考えていく。

牧田委員(一般社団法人全国高等学校PTA連合会会長):【反対派】:大学選択は自由であり、自由と平等は成り立たない。公平と平等の概念を持ち込むと試験をしないで入るという究極の結論になる。英語の4技能と記述式は二次試験でクリアすべき。

柴田委員(公立大学法人福岡県立大学理事長・学長、一般社団法人公立大学協会氏名理事):【反対派?】:どういう体制にするのか早急に明確にしてほしい。英語成績提供システムはありがたい制度だったが、前提がなくなれば無理だ。記述式採点のために一週間遅れることになった入試の成績提供時期を元に戻してほしい。

益戸委員(UiPath株式会社特別顧問、株式会社肥後銀行社外取締役):【推進派】:これまで外資系企業に勤めており、大学分科会では委員として教学マネジメントなどに取り組んでいる。外資系では専門分野は聞かれても、大学名を聞かれたことはない。日本企業はこのままでいいのかというのが原点だと思うので、教育改革を一連の流れで点検していくべきである。大学入試センターの山本氏にも発言していただきたい。

岡委員(山口大学学長、一般社団法人国立大学協会入試委員会委員長):【反対派?】:これまで議論に膨大な時間をかけてきた。英語の4技能評価は確かに重要だが、スピーキングテストを何千人に等しくやるのは困難である。できるものとできないものを明確にしたい。記述式については個別試験で課してきたが、高等教育が変わるならと容認していた。

圓月氏(同志社大学副学長)芝井委員の代理として:【不明?】:私立大学は大学生の70%が学んでおり、多様な学生を引き受けてきた。経済格差・地域格差に関して公正性を担保する案を示してほしい。私立大学の足並みが揃わないと言われるが、一般入試は多様性があり、一律にするのは難しい。

川嶋委員(大阪大学高等教育・入試研究開発センター長(特任教授(常勤)):【反対派】:大学全入時代がやってくるという前提において、入試によって教育を改革しようとするのは困難。高等学校は多様であり、個別入試やセンター試験においてもすでに格差が生じている。受験機会を完全に平等にすることはできない。大学が受験生の背景を考慮したうえで総合的に評価すべき。

清水委員(筑波大学大学院教育研究科長・教授):【不明?】:数学教育が専門。マーク式というが、センター試験でも数学では多肢選択ではなく数値を選ぶような形で解答するものもある。センター試験と個別試験の守備範囲など、議論の焦点を切り分けながら、何を前提として考えるかをまず交通整理してほしい。

萩原委員(東京都立西高等学校長、全国高等学校長協会会長):【反対派】:決まっていないことが多すぎて、不安である。1年間で次の方向性を決めてほしい。高等教育局だけではなく初中局や英語教育関係の方に入ってもらうことも必要。4技能評価は重要であるが、やり方が問題。

島田委員(筑波大学人文社会系教授):【反対派?】:国語教育が専門。大学入試全体の中で記述式問題の果たす役割は重要であるが、課題の解決に向けた取り組みがあったものの、解決できない点があったという結果を重く受け止めるべき。大学入試で高校教育を変えようとするのは本末転倒。

斎木委員(公益財団法人日本ラグビーフットボール協会理事、前外務省研修所長(元同国際法局長・経済局長):【推進派?】:これまでの外務省での知見を活かしたい。個人が一生を通じて学び続けることができる能力を身に着けさせることが教育の意義である。高校教育と大学教育をつなぐものとして入試の役割は一定程度求められていて、教育を後押しする機能をも有している。

小林委員(学校法人北里研究所理事長、日本私立大学協会常務理事):【不明?】:公平性や経済格差の解消が一番大事。理想と現実にギャップがあり、うまく制度設計におとしこめなかったことが原因。あらかじめ会議のスケジュールが決まっていることで、議論が時間切れになってしまうことを危惧している。意見の集約にインターネットの活用などがあってもよい。

山本氏(独立行政法人大学入試センター理事長):益戸委員からの求めを受けてこれまでセンター試験の安定的な実施と良質な問題提供、採点のノウハウを蓄積してきた。いろいろな専門家の知見を考慮して問題を作成している。個別試験との役割分担が必要である。高校の授業改善に対するメッセージが送れる良問を作成していきたい。既に試行調査のような形のプロトタイプが出来上がっており、記述式見送りに伴う新たな出題方法・作成方針などについては、今週末のセンター試験および来週末の追試験が終了してから今月中に発表したい。

荒瀬委員(大谷大学文学部教授):(これまでの会議の中心的メンバーであったが、今回は発言なし。)

◆民間試験の利用率、実際の数字は

 さて、以上の発言にいくつか説明をしておきます。

 萩生田大臣の発言の中の数字のマジックについてですが、今回新しい資料として、国立大学と私立大学のどのくらいが民間試験を利用したかを表したものが提示されました。その中の一つを説明します。

 その資料によると、令和元年10月25日の段階で国立大学82大学の民間試験利用が78大学(95%)だけあるとされていました。その時点ではこの95%という数字が使われて議論されていました。しかし、78大学の中には学部あるいは学科の1つでも民間試験を利用していれば、その大学全体が民間試験を利用している大学とカウントされているのでこれでは実態に合いません。

 そこで、今回は選抜区分数の割合を発表しました。その結果、同じ日(令和元年10月25日)の段階で、国立大学82大学の選抜区分数3857(推計)中民間試験を利用している選抜区分は2010(52.1%)であり、95%からは程遠い数字であることがわかりました。民間試験を推進していた人たちは、意図してこの95%を利用してきた可能性もあります。

 なお、令和2年1月8日の段階では民間試験を利用する大学は47大学(57.3%)となり、まだ半分が利用するのかと思わせるものの、選抜区分では13.3%に激減していることとなりました。

 今回の資料の「発掘」は大臣の指示によるもののようですが、まだまだ埋もれている資料や誤った使い方をしている資料もあることでしょうから、今後の大臣のリーダーシップが期待されます。

 英語の4技能については、会議では4技能は必要であることは程度の差はあれ認める流れでした。しかし、問題は、4技能が試験で測ることができるものなのか、試験で測るべきものなのか、そして、それほどまでに必要ならば、なぜ大学に進学しない高校生にも測らないのかということです。これは、委員の中からも指摘がありましたが、「大学入試を変えて、高校教育を変えようとするのはおかしい」という考え方にもつながります。いつまでも「4技能は必要だ」とだけ主張するようでは、話が噛み合わなくなるでしょう。

◆月に1回の会議で充分に検討できるのか

 最後に会議の進め方についてです。次回の会議は、2月7日ということですが、1か月にほぼ1回のペースでは1年間でどれだけ進むでしょうか。また、文科省での会議は、いつも予定されていた時間通りにピタっと終わります。これでは、なかなか進みません。

 今回の会議では、前回の失敗を反省し、理念だけではなく実務の方も検討すべきですが、これだけの重要なことを決めようとしているのに、なぜ毎週会議を開こうとしないのでしょうか。「そんなに委員を招集することはできない。委員にも都合がある。」というのであれば、集まることのできる人を委員にすればよいのです。今回の委員を否定するわけではありませんが、まだまだ力になれる専門家は多くいます。

 文科省は、これまでも、最初にデッドラインを先に決め、その日が近づくと、「間に合いませんからこの案(文科省側が用意した案)でいきましょう」といって、委員に考える時間を与えずに自分たちの案を推し進める手段をとってきました。今回の委員の中にはそれを心配する委員もいました。

 今回の委員にはあらかじめ資料を作成して臨むなど、大変熱心な委員もいらっしゃいました。前回の会議とは少し違う様相もありますので、来週に発表されるであろう来年度の共通テストの実施要項とその後の会議の流れに注目していきましょう。

◆来年度に向け明確にすべき点とは

 来年度の共通テストの発表がどうあれ、来年度の試験に関しては、実施まで1年をきっていることも考えると、これ以上、「来年度の試験」に関して必要以上の賛成、反対の議論をぶつけ合いは今の高校2年生を不安にさせます。ですので、発表後は「来年度の試験」については速やかな実施ができるようにしたいものです。そのようになるように、以下の点はしっかりと発表してもらいたいと思います。

・「数学I」「数学I・数学A」の記述がなくなった15点分をどのように補うのか。

・共通テストを実施する場合、記述式で問う予定であった「表現力」をどこで問う予定なのか。

・「数学I」「数学I・数学A」の試験時間を70分のままにするのか、60分に戻すのか。

・国語の現代文は、記述式を入れる場合は3題(文学国語・論理国語・実用国語)出題される予定であったが、2題にするのか。2題にするのであればどの2題にするのか。

・「国語」の試験時間は記述式にあてた20分を削り80分に戻すのか。

・新たな試行調査を実施するのか。

 新体制になり、萩生田大臣もこれまで以上に熱心に取り組んでいただけそうですから、今後の動きを見守っていきたいと思います。

◆入試改革のあやまちを繰り返さないために4

<文/清史弘>

【清史弘】

せいふみひろ●Twitter ID:@f_sei。数学教育研究所代表取締役・認定NPO法人数理の翼顧問・予備校講師・作曲家。小学校、中学校、高校、大学、塾、予備校で教壇に立った経験をもつ数学教育の研究者。著書は30冊以上に及ぶ受験参考書と数学小説「数学の幸せ物語(前編・後編)」(現代数学社) 、数学雑誌「数学の翼」(数学教育研究所) 等。 

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