子どものいじめ・自殺・貧困……元文部官僚の2人が映画を通じて訴えたかったこと<寺脇研×前川喜平>

子どものいじめ・自殺・貧困……元文部官僚の2人が映画を通じて訴えたかったこと<寺脇研×前川喜平>

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 2020年2月に公開される映画『子どもたちをよろしく』。子どもを取り巻くいじめ・自殺・貧困などの社会問題を真正面から描いた衝撃作だ。企画したのは、元文部官僚で「ゆとり教育」の旗振り役としても知られた寺脇研氏と、同じく元文部官僚で文部科学事務次官を務めていた前川喜平氏。

 長きにわたり教育行政に携わってきたふたりが、この映画を通して訴えようとした現代社会の闇とは一体何なのか。前編では、子どもたちの直面する現実や大人の抱える問題について話を聞いた。

◆「いじめられたから自殺した」そんな単純なことじゃない

──今回の映画のテーマは、子どもの自殺・貧困です。どうしてこの題材を取り上げようと思ったのですか?

寺脇:私は、あらゆる人権の中で、優先すべきは生存権だと思っています。子どもの生存権が侵されることは、あってはならない。文科省時代、子どもの自殺や貧困などの実態を見てきました。「本来はこうあるべきだ」と思うことがあっても、政治家が思うように動いてくれないとか、役人としては手が届かないこともあった。一方で、私は高校生の頃から映画にハマってしまって、役人をやりながら映画評論もやったりしていて。

前川:映画評論やりながら、役人もやってたんじゃないですか?(笑)。

寺脇:(笑)。映画プロデュースは三作目ですが、やっぱり一度は、子どもを題材にした映画を作りたいと思い、隅田靖監督(2007/松田翔太・新垣結衣主演『ワルボロ』監督)のところに企画を持っていきました。

──官僚というと、どうしても現場からは遠いような印象があります。子どもの貧困の実態を見たり聞いたりする機会というのはあるものなんですか?

寺脇:学校の教員との対話の機会は多くありました。教員は家庭訪問もしますし、ある程度のことは知っていますから。教員に対して「今、一番辛いのは何か?」と聞くと、「貧しい家庭の子どもが朝ごはんも食べずに学校に来て、給食でやっと食事にありついている状況がある」と教えてくれました。

 いじめや自殺についても、どうしてそうなったのか、というのを調べていくと、いじめ以外にもたくさんの要因が複雑に絡み合っているケースが多いですね。「同級生からいじめられたから、ハイ、死にました」というような単純なことではない。家庭の悩み、地域での孤立、貧困等、色々あるけれど、実際はなかなか言えませんよね。学校側が責任逃れしているみたいに映りますから。

◆子どもたちに、大人の本気を見せるのは大事

寺脇:広島県教育長を務めていた頃、自殺予告FAX事件というのがありました。県内の中学生か高校生と思われる子どもが「今日、自殺します」というFAXを地元テレビ局に送ってきたんです。何としてでも食い止めなければと、テレビ局の電波を使って、呼びかけをしました。

 まずはご自身のお子さんの確認をして欲しいということ、そして、それ以外の大人も、橋の上やビルの屋上で思いつめている子どもがいないかよく見ておいてほしい、と。結果的に、なんとか食い止めることができました。

 要は、大人の本気を見せるということが大事だと思うんですね。いざとなったら、大人は子どもたちのためにこれくらいのことはするぞ、と。他にも死にたいと思っていた子どもたちはいたでしょうから、FAXを送ってきた子だけでなく、広島県の子ども全体に届いたと思っています。

◆「普通の生活」をしている人には見えていない現実がある

前川:この映画で描いているのは、いわゆる「普通の生活」をしている人からしたら「見えない」子どもたちなんですよね。僕は霞が関で働くことが多くて、現場と言ったら永田町の国会議事堂といっても過言ではないくらい(笑)、政治家の相手をするのが仕事だったけれど、それが嫌で仕方なくてね。その環境に慣れてしまうと、恐ろしいことに、「政治家の言うことを聞いていればいいんだ」、「現場なんて見なくていいんだ」、というマインドになってしまう。

 ただし、見ようと思えば、見えてくるものもたくさんある。例えば宮城県に出向して教育委員会の運営をする仕事をしていた時、委員でもあった産婦人科医院の女性院長の方が、10代の望まない妊娠がいかに多いかを切実に教えてくれました。

 そうやって、「見えない」ものを「見えている」人たちと接する機会はあるわけだけれど、見ようとする意識・マインドがないと見えてこない。この映画は、それを可視化して、「見えていない」人に対して、見せつけようとしているんです。見えていない、見ようとしていないだけで、確実に存在している人たちを描いているわけなので。

◆分断された社会の中で、道を外した大人をどう立て直すか

──映画の主人公は子どもたちですが、ギャンブル依存やアルコール中毒など、子どもを取り巻く大人たちが抱える問題も丁寧に描かれていました。こうした大人を救う必要もありますよね。

寺脇:子どもを省みる余裕すら無くなってしまっている大人もいる、ということですよね。前川さんが反旗を翻している安倍政権は、経済優先・金持ち中心、弱者に関しては自己責任という政策をとっています。この状況でカジノを作るなんてとんでもないことだと思いますよ。ギャンブル中毒になる大人が増え、子どもたちに更なるしわ寄せがいくことになります。

 今の社会は完全に分断されてしまっていて、人々が手を取り合おう、助け合おうという気が起きない世の中になってしまっています。この映画から、そうした社会の寒々しさみたいなものを感じ取ってもらえたらいい。そこから、政治や社会のあり方を変えなければならない、という考えに行き着くかもしれませんね。

 前川:ギャンブル依存にしろ、アルコール依存にしろ、「病気」ですよね。今の社会では、何か一つ歯車が狂うと、狂ったまま不幸がどんどん大きくなっていくようになってしまっている。それを自己責任と言ってしまっていいのか、というのは甚だ疑問です。どこかで食い止めて、人間らしい生活に戻れるようにする仕組みづくりをしなければいけないと思いますよ。

 虐待する親も絶えないわけだけれど、子どもを救い出すことはもちろんのこと、親をなんとか立て直すというのも大きな課題ですよね。児童相談所がその両方の機能を持っているから、それが難しいというところはあるでしょう。人を大切にするためにもっと税金をかけるべきですね。

※地域での助け合いや政治における女性の力については、近日公開予定の続編をご覧ください。

<取材・文/太田冴>

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