「科学的」知識を都合よく吹聴する経営者は実力がないといえる理由

「科学的」知識を都合よく吹聴する経営者は実力がないといえる理由

科学や学問の知識を都合よく使い回す経営者の手腕は疑うべきである

◆科学的・心理学的という言葉を多用するインフルエンサーの不都合な真実<4>〜経営者編〜

 こんにちは。微表情研究家の清水建二です。

 今回の経営者編は、大企業・中小企業の経営者や社団・財団法人の理事など、自身の言動が部下や会社関係者、会員、その他周囲全般に影響を及ぼし得る方々を広く含んでいます。

◆「科学的知見」を誤用する経営者と活かす経営者の違い

 経営者の方々が科学的という言葉を使うのを多々耳にします。ある科学理論が自身の経営手法や生き方に適っていることがわかれば、嬉しくなり、「自分の方法は科学的にも正しい」と主張したくなる気持ちは十分に共感できます。

 しかし、経営者自身の経験則と科学知見とが相反するとき、どんな態度を示すでしょうか。数十年の経験則の方が正しく、それを支持しない科学知見は問答無用で捨て去る、見なかったことにする。もしこうした態度をとるならば、それは科学知見の恣意的な利用となります。

 こうした経営者の方々は科学を権威付けに利用している、あるいはバイアスのかかった目で科学を捉えていると考えられます。一方、自身の経験則と反する科学知見に出会ったとき、自身の経験則を放棄あるいは修正する、科学知見の方が間違っていることを論理的に指摘する、あるいは、経験則と科学知見との統合を試みる、そんな態度が見られたら、科学を適切に扱っていることがわかります。

 長年の経験則に基づく成功法則を持つ経営者の方々は、科学的知見がどうあれ、堂々と自身の見解や経験則を語られるのがよいのではないでしょうか。

 経験則の方が正しく、現時点での科学が経験則の正しさを検証出来ていないだけかも知れません。科学知見を経営に利用したい、あるいは自身の経験則を検証・補強したいと考える経営者の方々は、科学的思考や科学知見に詳しく、ビジネスに応用できる能力を持つ参謀やコンサルタントを雇い、科学を適切に利用されるのがよろしいかと思います。

◆経営者と宗教伝道者は似ている?

 ちなみに、科学知見を誤用する経営者の方々の言説と似たようなことが宗教団体の言説の中にも見出されます。

 宗教の場合は、教祖自身というよりも信者の方々に見られ、「うちの信仰は科学的にも証明されている」とか「私たちの宗教が説く真理に科学が追いついてきた。いずれ全ての正しさが証明される日が来るだろう」と言った言説を聞きます。

 そして、信仰に否定的な科学理論があれば、それを単に否定するか、科学が不完全ゆえに信仰の神髄を解明できないのだと指摘します。宗教は、絶対帰依の世界だと思います。したがいまして、宗教の目指す絶対という概念と水と油の関係である科学の概念を混ぜず、教祖や信仰そのものを信じ、布教されるのがよろしいかと思います。

◆自著で他人の言葉を堂々とパクる経営者

 さて、一見して科学知見を、意図してか意図せずして誤用している経営者の方々がいますが、経営者の中には明らかに自己顕示欲や承認欲求を満たすために科学から生み出された言葉を乱暴に取り扱う人もいます。それは科学者や知識人の述べた・書いたことの無断使用です。

 評論文(高校受験や大学受験の現代文の問題に採用される文章が典型的です)には、現代の複雑な問題を理解したり、世の中をよりよく理解するための視点が、秀逸なたとえ話とともに説明されます。

 そうした現代評論に書かれているたとえ話ですが、有名なものは様々な媒体で繰り返し使われることがあります。問題なのは、その話をあたかも自分で考え出したかのように使う経営者がいることです。たとえ話を紹介することがダメなのではなく、自分の創作ではないのに自分の創作だと人に思い込ませ、伝えていることが問題です。

 実名は避けますが、某経営者によって書かれた書籍の中に、ある現代評論に書かれているたとえ話が、あたかもその経営者が考えたかのように書かれているのを目にしたことがあります。

 そのたとえ話がやはり秀逸だったのでしょう。その話は、その経営者とは異なる方が書いたある書籍に、その経営者の言葉として引用されているのを見つけたことがあります。その言葉を引用した著者は、自分を賢くみせる経営者の手口に引っかかってしまったのでしょう。

 過大な自己顕示欲・承認欲求は科学の乱用・誤用につながります。こうした欲求の強い経営者の口から発せられる科学的という言葉には気を付けましょう。

 次回は4回に渡ってお送りして来ました本シリーズの最終回です。科学的・心理学的という言葉を多用するインフルエンサーの不都合な真実<5>〜Youtuber・知識人タレント・その他エンターティナー編〜をお送り致します。

<文/清水建二>

【清水建二】

株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役・防衛省講師。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16・19」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『ビジネスに効く 表情のつくり方』(イースト・プレス)、『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。

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