迫害から逃げて日本に来たクルド人家族がビザを求めて提訴。子供たちの権利と未来を賭けた戦い

迫害から逃げて日本に来たクルド人家族がビザを求めて提訴。子供たちの権利と未来を賭けた戦い

メメット家の5人家族

◆クルド人5組が、ビザを求めて提訴

 2019年からトルコ国籍クルド人で子供のいる家族が5組、日本に居住するためのビザを求めて東京地裁に裁判をおこした。幼いころに日本に来た子供たち、あるいは日本生まれの子供たちの存在がこの裁判の焦点となる。

 弁護団によると、子供たちは長年、日本で生活してきた。いまさらトルコで生活をやり直すことはできず、日本に残ることを主張している。弁護団の1人田島浩弁護士は「自信があるから(裁判を)やるんです」と強い意気込みを見せる。

 メメット・チョラクさんの一家も、裁判を始めた5組の中に入っている。裁判の日には、いつもメメットさん(49歳)と奥さんのゼイネプさん(39歳)、長女ハヌムさん(19歳)、長男ムスタファさん(17歳)、次男オズギュルさん(15歳)という、家族5人で足を運んでいる。

 父メメットさんは、単身で2005年10月に来日。難民申請をしていたが認められず2009年に10か月間収容された経験がある。その後、2010年8月に妻と子供たちがメメットさんを追いかけて来日し、約5年ぶりの家族統合となった。

◆家計が苦しく「お父さんのために」不登校に

 まだトルコで暮らしていた頃のムスタファさんは、父がいないことを学校で友達にからかわれ、辛い思いをすることがあった。また学校ではクルド語を話すことは禁じられているので、うっかり口に出しでもすれば、先生に嫌みを言われたり、時には暴力を振るわれたりすることもあるらしく、息苦しさを感じる日々だった。

 いざ日本に行くと決まった時、トルコを離れることがさみしいとか、日本で暮らしていくことへの不安は考えたことがなかった。ただひとつ「お父さんと暮らせる」という嬉しい気持ちだけだった。

 日本へ来たムスタファさんは、小学校4年に編入した。言葉を覚える能力はとても高く、あっという間に綺麗な日本語を習得した。勉強熱心な優等生で、宿題も毎日頑張っていた。マラソン大会が事前にあれば、学校から帰ってきては近所を走って本番に備えるなど、何につけても一生懸命で、まわりからみれば将来有望な男の子だった。

 しかし中学に入ってしばらくしてから、急に彼は学校に行かなくなってしまった。親のメメットさんにもその理由を告げることはなかった。裁判が始まるようになったあたりから、やっと彼は不登校の事情を話すようになった。生活が厳しい中で、小学校のころから集金を支払うのが精いっぱいだったというのだ。

 中学に入れば、制服、柔道着などの教材費、修学旅行の積立金など、家計がますます厳しい状態になっていった。入学当初は学校に事情を話し「お古の制服はないか」と相談したが、校長先生に「ないものはない!」と冷たく突き放されることがあったという。

 ムスタファさんは「お父さんのために」と考え、自ら中学校に行かなくなってしまったのだった。ムスタファさんにとっては、トルコにいたころの学校に比べたら、よっぽど日本の学校のほうが居心地の良い場所だったという。本当に残念な話である。

「そのかわりに、俺が高校卒業しますから」と、兄弟の中で唯一高校に進学した高校1年生の末っ子、オズギュルさんが勉学への意気込みをみせていて、家族の希望を背負っている。

◆トルコに、私たちの生きる場所はない

 父メメットさんはトルコのアディアマンという土地の出身。幼いころからクルド人であることで差別を目の当たりにしてきた。子供のころ、トルコ兵に銃で頭を殴られることも経験している。

 大人になり、親戚が政府に対抗するゲリラ組織に入ってしまったばかりに、その疑いはメメットさんにも向けられるようになる。警察に連行されては厳しい取り締まりを受け、時には電気ショックを浴びせられるという暴力も経験もしている。

「もうトルコでは暮らしていけない」と考えたメメットさんは、弟のいる日本へ行く決意をする。一方、今度は残された妻のゼイネプさんが呼び出され「夫はどこに行ったのか?」と尋問されるようになる。

 暴力まで受けたわけではなかったが、尋問に嫌気がさしたゼイネプさんもまた夫のいる日本へ子供を連れて来日する決意をする。ゼイネプさんはのちに、入管のインタビューで「トルコに、私たちの生きる場所はない」と答えている。

 ムスタファさんたちをはじめ、今回の裁判はたくさんの子供たちの人生がかかっている。ビザのない現状では保険証も住民票も持てず、働くこともできない。将来、なりたい職業を目指すこともできない。

 このまま大人になれば、子供たちが入管に収容されてしまう可能性も大いにありうる。なぜ罪のない子供たちが裁判をしてまで自分たちの権利を勝ち取らねばならないのだろうか。

 この5組の裁判は、子供たちの未来をかけた裁判なのである。

<文・写真/織田朝日>

【織田朝日】

おだあさひ●Twitter ID:@freeasahi。外国人支援団体「編む夢企画」主宰。『となりの難民――日本が認めない99%の人たちのSOS』(旬報社)を11月1日に上梓

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