鈴木邦男を通して見えてくる日本の民主主義 『愛国者に気をつけろ!』中村真夕監督

鈴木邦男を通して見えてくる日本の民主主義 『愛国者に気をつけろ!』中村真夕監督

中村真夕監督

 

 雨宮処凛さん(作家・活動家)、上祐史浩さん(ひかりの輪代表・旧オウム真理教信者)そして、オウム真理教の実行犯である麻原彰晃元死刑囚の三女・松本麗華さん……。メインストリームから離れた人たちと対話し続ける人物がスクリーンの中にいました。その人は、政治活動家・右翼団体一水会元代表の鈴木邦男さん。

 そんな鈴木さんを追ったドキュメンタリー映画『愛国者に気をつけろ!』がポレポレ東中野にて2月1日から公開されています。鈴木さんは17歳の時、当時の日本社会党委員長・浅沼稲次郎を刺殺した同じ年の山口二矢に衝撃を受けて政治に目覚めます。大学では左翼と闘い、今の日本会議の前身となる全国学協の代表にまで登りつめるもわずかな期間で失墜。その後、運動を共にした大学の後輩、森田必勝が25歳で三島由紀夫と自決したことに衝撃を受け、政治団体・一水会を立ち上げて代表に就任、今では異なる意見や価値観を持つ人たちに耳を傾け続けています。

 今回は、そんな鈴木さんに2年間密着し同作を製作・監督した中村真夕監督にお話を聞きました。

◆学生運動のあった時代に興味があった

――鈴木さんと知り合ったきっかけについてお聞かせください。

中村:鈴木邦男さんは今はもうなくなってしまったジャーナリスト専門学校で教鞭を取っていたのですが、私の父親である詩人の正津勉もそこで教えていて、父を通して面識がありました。その縁で福島で取り残された動物たちと一緒に暮らす男性を撮ったドキュメンタリー『ナオトひとりっきり』(2015)を公開した時に上映後トークに来てもらったんですね。それ以来、交流するようになって、2017年の夏から撮影を開始しました。

 ――なぜ、鈴木邦男さんを題材にドキュメンタリー映画を製作しようと考えたのでしょうか?

中村:私は団塊ジュニア世代で父親は団塊世代です 。デビュー作の『ハリヨの夏』(2006)は団塊世代の父と女子高校生の娘を描いた作品だったのですが、学生運動のあった時代に対して興味があったんですね。私たち団塊ジュニア世代は、ロスジェネと言われた世代で何も良いことがなかった一方、彼らは好きなことばかりしていて羨ましいという愛憎が入り混じった気持ちがありました。『ハリヨの夏』で左翼を描いたので次は右翼を描いてみようと。

 また、60〜70年代に活躍した映画監督として有名な若松孝二さん が2012年に急逝されてしまいましたが、ドキュメンタリーは誰も撮っていなかったんですね。今、撮っておかないとあの世代の人たちがいなくなってしまう気がして。それで、鈴木邦男さんを撮ろうと思いました。

――この映画は、「思想家としての鈴木邦男」と「人間としての鈴木邦男」の両方を描いています。

中村:鈴木さんを撮ろうと決めた時に最初に思い浮かんだのは、なぜ鈴木さんは、政治思想や宗教思想を越えて様々な価値観の人と交流できるのかということでした。なので、思想遍歴を追う部分と人間的な魅力を追うという2つの柱を用意しました。

――『愛国者に気をつけろ!』には、1970年代に政治的に過激な歌詞で人気のあったロックバンド「頭脳警察」の楽曲が使われています。

中村:頭脳警察のPANTAさんは1950年生まれでやはり学生運動の世代の方で、鈴木さんとは仲が良く、よく一緒にイベントに登壇しています。今回起用した『ふざけるんじゃねえよ』は左翼の歌ではなく、中島貞夫さんの『鉄砲玉の美学』というヤクザ映画のために書いたものとのことでしたが、「まわりを気にして生きるよりゃひとりで勝手気ままに……」「みんな俺に手錠をかけたがるのさ」という歌詞が鈴木さんの生き方と合っていると思いました。物事に対してストイックな姿勢、周りがどう思おうと関係ないという姿勢です。

◆雨宮処凛、蓮池透、上祐史浩らとの交流

――映画には、雨宮処凛さん、蓮池透さん、上祐史浩さん、松本麗華さんらが登場しますが、なぜこの方々を選んだのでしょうか?

中村:誰を選んだというわけではなく、鈴木さんに密着して、2017年夏から2019年秋まで鈴木さんが会って人と対話する様子を撮りました。

 雨宮さんは、元々は右翼運動をやっていた方で、雑誌の対談で鈴木さんと話したところを撮りました。蓮池さんは新潟にお住まいですが、毎年ロフトで行われている鈴木邦男生誕100年祭には必ずいらしていますね。

 上祐さんはオウム真理教にある意味で挫折し、鈴木さんも右翼の政治運動に挫折して、狂信的に信じていたことが壊れてしまったという点で共通点があるんだと思いますね。

――確かにそうですね。

中村:鈴木さんと松本麗華さんとは、彼女が30代半ばということもあり、疑似親子のような関係です。彼女が小学生の時に父親である故麻原彰晃氏が逮捕されましたが、鈴木さんしか父親代わりになれる人はいなかったのではないでしょうか。鈴木さんには覚悟があって、他の人たちが近寄れない人でも普通に接することができるんです。

◆早稲田入学後に右翼の活動家に

――鈴木さんは生長の家を信仰する家庭に育ち、高校時代に同じ年のテロリスト、山口二矢の生き方に衝撃を受け、大学に入学してからは政治運動に身を投じます。

中村:鈴木さんは早稲田大学に入学後は生学連(生長の家学生会全国総連合)の書記長となり、右翼学生として学内の左翼学生と殴り合いを含めた政治闘争をするんですね。そして大学院へ進み、全国学協(全国学生自治体連絡協議会)を結成し、初代委員長に就任しますが、反対勢力と対立しわずか1ヶ月で退任させられてしまいます。その反対勢力の人たちが後の日本会議を結成します。

 本当に数奇な運命だと思います。あのまま全国学協にいたら日本会議にいたかもしれません。ちなみに、今回、当時からいる保守の人たちに取材を申し込みましたが「対談相手として不適切である」などの理由で断られてしまいました。

――鈴木さんは現在、右も左もなく様々な価値観を持つ人たちの意見に耳を傾けています。

中村:今の保守の人たちの考え方と違って、鈴木さんは自分の国だけを愛するという「愛国」ではなく、もう少し人類愛的な「愛国」の精神があるのではないかと思います。

 17歳で当時の社会党委員長だった浅沼稲次郎を殺害し自らも少年鑑別所で命を絶った山口二矢、三島由紀夫と共に自決した森田必勝、出版物の内容に抗議して朝日新聞本社で自決した野村秋介、鈴木さんが憧れている人は政治的な殉教者ばかりです。映画の中にもあるように、毎年、必ず森田必勝の墓参りに行っています。

 現在の保守の人たちは、「愛国心」の名の元に本当は自分の地位や家族、仲間を守ろうとしているだけ、自分がかわいいだけなのではないか、と鈴木さんは言っていますが、彼らにはそうした私心がなくこの世を去って行ったことが鈴木さんを惹きつけるのかもしれません。

◆威張らないから女性にモテる

――鈴木さんは女性に人気がありますね。「男は面子と沽券が大事でそれが満たされないからパワハラをする。でも鈴木さんにはそれが全くない」と雨宮処凛さんがおっしゃっていましたが、その通りだと思います。

中村:あれぐらいの年齢の男性(鈴木さんは1943年生まれ)は大概の人が威張りますよね。「俺はこんなにすごいんだぞ」と。人の話は聞かないで自分の話ばかりしている人もいます。

 でも、 鈴木さんはその逆なんですね。「どうしていつも本を読んで勉強しているんですか?」と聞くと「自分がバカだからです」と答えるんですよ。

 女性にもモテると思います。女性たちは威張るおじさんたちにうんざりしていますが、邦男さんといると癒されます。私もそう感じていますし、邦男さんの周りにいる女性たちは皆そう言っていますね。

 ――かつて殴り合いの政治闘争をしていた鈴木さんがなぜ今、物腰の柔らかい人物になったのでしょうか。

中村:かつては怖い人だったと聞いています。なぜいわゆる「右翼」を止めたのか、そして、物腰柔らかい人になったのか。それは私も撮影を続ける中で考えていましたが、鈴木さん自身が「これが正しい」と信じ込んでやってきた政治運動が途中で挫折してしまったからではないかと思っています。

 鈴木さんは「自分自身が正しいと思い込んで自滅した人がたくさんいた」とよく言っていました。他の人を蹴落とそうとして起こった内ゲバなどにうんざりしたようです。

 自分が正しいと思って来たことは果たして正しかったのかと。そう振り返ったところから偉ぶれなくなったのではないかと思っています。自分が正しいと信じていないと偉ぶることはできませんが、鈴木さんは常に自分を間違っているのではないかと疑っています。

◆様々な価値観の人がいてこその民主主義

――映画に登場する方々の他にも世の中から断罪されている数多くの方々と交流を持っています。

中村:鈴木さんにその理由を聞くと、自分がマイノリティーだからという答えが返ってきました。鈴木さんのファンはたくさんいますが、公安からは危険視されて何度も警察が自宅に来ていることもあり、世の中から持ち上げられてはいません。自分がそういう人だから、マイノリティーの声に耳を傾けているというんですね。

――上映後のトークイベントに錚々たる面子が揃っていますね。

中村:鈴木さんのためならと言ってひと肌脱ぐ人たちがたくさんいます。森達也さんも「オウム真理教を題材にしたドキュメンタリー『A』(1997)を上映して批判があった時、誰もが委縮して取り上げてくれない状況の中、鈴木さんだけが守ってくれたと言っていました。

――鈴木さんには正義の暴走を疑い続ける強さがありますね。『愛国者に気をつけろ!』を作り終えて中村監督の中で変化はありましたか。

中村:このドキュメンタリーの撮影を開始する前から、今の日本の社会が息苦しいと感じていました。ネット社会が弱い者いじめをし、他者に対する不寛容さがはびこり、現在の政権も自分たちと違う意見の人は排除しようという雰囲気を感じます。

 それから、オリンピックが近いこともありますが、民放を中心に「日本は凄い!日本は良いところ!」という感動を煽る番組、国粋主義的な番組が多いことも気になっていました。

 鈴木さんは分け隔てなく、さまざまな価値観の人と話をします。さまざまな価値観、意見を持った人がいてこその民主主義だと考えています。鈴木邦男さんから日本の民主主義を考えるというと大風呂敷を広げるようですが、この映画が民主主義を見直すきっかけになればいいと思っています。

※中村監督の取材対象との向き合い方や海外における映画制作については、近日中に公開される続編をご覧ください。

<取材・文/熊野雅恵>

【熊野雅恵】

くまのまさえ ライター、クリエイターズサポート行政書士法務事務所・代表行政書士。早稲田大学法学部卒業。行政書士としてクリエイターや起業家のサポートをする傍ら、自主映画の宣伝や書籍の企画にも関わっています。

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