「宇崎ちゃん」キャンペーン第二弾、注目すべき点は何か

「宇崎ちゃん」キャンペーン第二弾、注目すべき点は何か

第2弾キャンペーンを告知する日本赤十字社のサイト

 日本赤十字社が、コミック『宇崎ちゃんは遊びたい!』とコラボした献血キャンペーンの第二弾が、今月、始まった。昨年10月におこなわれた第一弾では、コミック単行本の表紙を流用したポスターのデザインが、「過度に性的」などと批判を受け、「炎上」していた。詳しくは、筆者が10月に書いた記事を参照してほしい。

 第二弾キャンペーンを行うことについては、第一弾キャンペーンが「炎上」する前から決まっていた。内容は、献血を行えば、希望者に対して作者の書き下ろしクリアファイルがもらえるというもの。一方、第一弾のようなポスターはない。

◆第二弾キャンペーン、第一弾とどう変わったのか

 前回のキャンペーンのデザインがジェンダーの観点から批判されたことで、今月のキャンペーンはどのようなデザインとなるのかが注目されていた。結論からいえば、クリアファイルに描かれていた描き下ろし漫画は、客観的にみて、前回問題とされていた部分の多くが「改善」されたものであった。(第2弾のデザインは作者である丈さんのツイートを参照)

 たとえば、10月キャンペーンのポスターは、女性キャラクターを「性的客体化」する描写が含まれていたことが問題になっていた。具体的には、キャラクターの胸がいわゆる「乳袋」として描かれていたこと(胸が大きいことではない)、頬を赤らめ煽るような表情であることなどだ。また、挑発的な台詞が日赤の倫理規範に抵触するのではないかという問題も提起されていた。

 しかし今回は、女性キャラクター(宇崎ちゃん)の胸の表現は「袋」にはなっておらず、衣服の縫製や陰の描き方が、より現実的なものとなっている。また、頬を赤らめて煽るような表情もとっておらず、挑発的な台詞についても、男性キャラクターとの掛け合いの中で突っ込まれる「ボケ」であることが鮮明になっている。

 一方、コミック形式にしたことで、キャラクターが単なるアイキャッチのための存在ではなくなり、献血の豆知識などをストーリーに自然に組み込むことができている。「性的客体化」を促す様々な表現が緩和されているだけでなく、献血の啓発のためのコラボレーション漫画としての質も向上しているといえる。第一弾が既存絵の流用(作者の体調が悪く、新規絵を用意できなかったそうである)だったのに対して、第二弾は特別に描き下ろされたものであった効果でもある。

 描き下ろし漫画は、あくまでも希望者に配布されるクリアファイルのためのものであり、ポスターのためのものではない。しかし、この内容であればこれをそのままポスターにすることも可能だっただろう。

◆日本赤十字は批判意見に対してどのように対応したのか

 日本赤十字社はこのキャンペーンについて、「皆様にいただいた貴重なご意見を真摯に受け止め、新たにガイドラインを策定し、それに照らして実施しているものとなります」とコメントしている(「日赤が「宇崎ちゃん」献血コラボきっかけでガイドライン策定、第二弾は漫画仕立てに」弁護士ドットコムニュース2月3日付)。ガイドラインの詳細については明らかになってはいない。しかし、今回のキャンペーンのデザインを見る限り、内閣府や各自治体が定める公共広告のガイドラインに準ずる内容であることが推察されるだろう。

 一方で、『宇崎ちゃん』作者の丈氏は、自分はこのガイドラインについて聞いていないし、描きおろし漫画については描きたいものを描いただけであると自身のtwitterで述べている。さらに、漫画については一発OKで、特に修正の要求もされなかったという。

 もちろん、作者の判断で描かれた表現が、初稿の時点でガイドラインの基準を満たすものであったということも十分考えられるので、赤十字と作者のコメントの双方に矛盾はない。ただし、今回のキャンペーンについて、赤十字のガイドラインがどのように適用されたのかは不透明であることは事実だ。現時点では前回のキャンペーンに対する抗議が、いかなる形で反映されたのかは、具体的にはわかってはいない。

◆重要なポイントは何か

 とはいえ、それはあまり重要な問題ではない。われわれが注目するべきは、日本赤十字という公共性の高い団体が、ジェンダーと表象の問題に対して「真摯に受け止め」、独自のガイドラインを作成するという前向きな姿勢を見せ、具体的な作業過程は分からないが、実際に広告として公開された表現が、その姿勢を認めるのに十分な内容であったという事実だ。このように広告主が表象の問題に対して責任ある態度を示すのならば、表現をめぐるコンフリクトは少しずつ減少していくだろう。

 10月の記事で、筆者は公共団体と漫画・アニメのコラボで「炎上」するのはごく一部であると述べた。責任者の自覚がありさえすれば、広告がジェンダーの問題と向き合うことは、それほど難しいことではないのだ。

◆なお残る疑念と「否認」論者問題

 もちろん、先述したように、赤十字ガイドラインの中身は公開されていないし、それが今回どのように適用されたのかの経緯もほとんどわかってはいない。したがって、献血キャンペーンにおいて、再び問題のある表現が登場する可能性は残されている。だが、そのときは再び抗議の声があがり、赤十字はガイドラインの公表を強いられることになるだろう。

 また、筆者の立場とは異なるものの、「萌え」表象それ自体が「性的客体化」の技法なのであり、そもそもそうした作品とのコラボレーションを行うべきではない、という意見も依然として存在するということは付言しておく。

 ここで大切なのは、以前も述べた通り、不誠実な「否認」論者については相手にしないことだ。今回もネット上では、「前回と今回、何が違うのかわからない」とか「前回はポスターで今回はクリアファイルなのだから内容が違うのは当たり前」とか「作者が好きに描いたと言っているのだから何も変わってはいない」など、愚にもつかない論が溢れかえっている。「前回のキャンペーンでポスターを否定したフェミニストの分が悪くなったため、慌てて肯定に転じた」などの陰謀論さえ広まっている始末である。

 広告とジェンダーの関係について、責任と決定権があるのは「否認」論者ではなく、広告主(今回の場合は日本赤十字)だ。第二弾キャンペーンに際して、赤十字が動くのに、「否認」論者の説得は必要がなかった。「否認」論者を迂回することこそが、議論をよりシンプルに、前に進ませることができるのだ。

<文/北守(藤崎剛人)>

【北守(藤崎剛人)】

ほくしゅ(ふじさきまさと) 非常勤講師&ブロガー。ドイツ思想史/公法学。ブログ:過ぎ去ろうとしない過去 note:hokusyu Twitter ID:@hokusyu82

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