全国1位のトップ企業から税理士へ転身。キャリア開発成功の秘密とは?

全国1位のトップ企業から税理士へ転身。キャリア開発成功の秘密とは?

長谷川正和税理士事務所所長・税理士・株式会社オペレーション代表取締役の長谷川正和氏(左)とモチベーションファクター株式会社代表取締役の山口博氏(右)

 就職人気ランキングトップ企業から税理士に転身、ベンチャー企業の株式上場(IPO)を支援する、異色なキャリア開発を実現した経営者がいます。今回は、税理士であり経営者である長谷川正和氏に、本連載「分解スキル反復演習が人生を変える」でお馴染みの山口博氏が迫ります。

◆失敗しないようでは仕事をしていないも同じ

山口博氏(以下、山口):「長谷川さんの経歴を知って、がぜん興味がわきました。誰もがうらやむ就職人気ランキングトップ企業だった東京海上日動で、営業や人事業務に従事した後、税理士事務所へ転じていらっしゃいます。心境の変化がおありだったのでしょうか」

長谷川正和氏(以下、長谷川):「はじめから直球で来られましたね(笑)。一言でいえば『独立起業というチャレンジへの想い』なのです。新卒で最初に配属されたのは千葉県郊外の営業支社でした。支社に所属する損害保険代理店の営業サポートと代理店を増やす新設活動が主な仕事内容です。そこで初めて『相手を通して仕事をする』ことを学んだのですが、入社1年目秋の全国キャンペーンで私が担当する企業代理店が全国1位になったのです」

山口:「デビュー戦で全国トップとは、素晴らしいですね。最大の要因は何ですか」

長谷川:「企画提案やコミュニケーションのとり方、ツール活用などそれまでのやり方にとらわれず工夫し、『まずやってみる』姿勢で臨みました。失敗もありましたが『新人が失敗しないようでは仕事をしていないも同じ』と上司から励まされました。

 難しいと言われた相手にも『何でも勉強させてください』という姿勢でいかに相手の役に立てるかを考え飛び込んでいくと、胸を開き迎えてくれることも経験から学びました」

山口:「その後、営業から人事部に異動されますね。保険会社ではエースが集まる部署ですよね」

長谷川:「営業担当者として自信も自負もありましたが、異動から1週間もしないうちに高い鼻を折っていただきましてね(笑)。ひとつひとつの報告に、上司から『お前の思想哲学は何だ』と返されました。『その本質は何か』『それでお前はどうしたいのか』と問われていたのですね。

 採用業務のなかでは、学生さんたちに『会社の魅力』『仕事のやりがい』などのメッセージを発信することも担当しており、『仕事を通じて自己実現するとは?』をテーマに原稿を作成していたある日、胸のなかにしまっていた『何か』のふたが開いたような気持ちになりました」

山口:「それは、何ですか」

◆挑戦と試行錯誤の姿勢がカギに

長谷川:「一言でいえば『自分の足で立つ』というチャレンジへの想いです。担当した代理店には会社を起こし社会を良くしたいと夢を語る経営者もいました。『チャレンジした結果、自分の能力や努力不足で失敗しても受け入れらけれる、だが決断できなかった自分を後悔することは受け入れられない』と時間をかけて自らに問い、30歳目前の冬に転職を決意しました」

山口:「チャレンジする思いと試行錯誤の姿勢が転身のカギだったように思えます。長谷川さんは東京海上日動時代、税務や財務経理の仕事をしていたのではないようですが、そこから、税理士事務所への転身とは、大きなジャンプがあったのではないでしょうか」

長谷川:「何かの『専門性』を身につけなくてはと考えました。そして税務や会計は相手を選ばない広いマーケットをもっているだろうと。代理店を励まし、時に苦言を呈し、経営を成功に導く営業担当の仕事は、経営者を支援する税理士やIPOサポートの仕事とつながりますね」

山口:「以前、対談した山形座瀧波の南浩史CEOは、高級官僚から造船会社社長、旅館経営者というように、やはり大きな振れ幅のキャリア開発をしているのですが、そこには国や顧客に貢献するという共通のミッションがあったわけです。キャリア開発に制約はありませんね。

 しかし、営業、人事から税務の世界への転身ですから、ご苦労もおありだったのではないでしょうか』

長谷川:「家庭をもち実務をしながら資格取得に10年、決して楽ではありませんでしたが、それも『想定の範囲』であったと言えるでしょう。実務の習得、資格取得、そして起業へと、あきらめることなく続けることが出来たから今があるのだと思います」

山口:「そのような苦労を、本日もですが、普段から、決して表に見せませんよね。何か気持ちのコントロール、言動のコントロールをするスキルを駆使されているのですか」

◆対人スキルを高める4つの方法

 長谷川:「その10年間の私の姿を知る方からは、『大変でしたね』と言われますが、営業や人事の仕事を通じて『あれだけのことを経験してきた』『逃げることはなかった』という自身が知っている『限界』から比べれば、まだまだこんなものではないと客観視している自分がいました」

 山口:「私の演習経験をふまえても、客観視する人は、スキルが向上しやすいということがわかっています。あくまで一般には、ということですが、資格をお持ちの方は、対人スキルに苦労されている方が多いように思います。しかし、長谷川さんは、いつもレスポンスが早く、内容もわかりやすく、そして相手の立場に立った言い回しをされていて、一緒に仕事をしたり話をしていて、ストレスを感じることがありません。顧客を巻き込むために、どのような対人スキルを高めていらっしゃるのですか」

 長谷川:「『面談ストーリーはひとつではない』『反論せず代案を示す』『クローズが面談の印象を決める』『プロこそ専門用語を使わない』ということです。

 『クローズが面談の印象を決める』ので、『何を決めたのか』『今から互いに何をするのか』をはっきりさせ、ポジティブな言葉で結ぶことを心がけています」

 山口:「大賛成です。私の言葉で申し上げれば、人それぞれで異なるモチベーションファクター(意欲を高める要素)を見極めて、対話をしたり、代案を提示したり、クローズしていけば、相手を巻き込みやすくなるわけです。そのことを長谷川さんは実践されているのだと思います。

 起業を志す若者にこのスキルだけは身につけておいたほうがよいというものがありますか」

 長谷川:「強いリーダーシップだけで事業や組織を引っ張っていくことが難しい時代になりました。ビジネスモデルの構想やノウハウの蓄積だけでなく、日々受けているマネジメントの巧拙や上司の言動、組織のルールや使っているツール、将来の経営に無駄なものはひとつもありません。モチベーションを下げられるようなマネジメントを受けたのであれば、『自分ならこうする』というカードを増やしておく機会です。

 ですから、いまの会社で日々経験していることは自身を成長させるチャンスととらえ、全力で臨み吸収しておくことが必要です。そうした姿勢を見せていると、自ずと周囲から支援者が現れるものです。それは今あなたが離れようとしている職場関係者や取引先かもしれません。そうした人の縁もまた事業発展の糧になるのです」

◆ポジティブな思考がキャリア開発や成績に直結

<対談を終えて>

 モチベーションを上げることが個人や組織のパフォーマンス向上につながるということはよく言われることですが、組織の中ではネガティブな言動が氾濫しています。長谷川さんのキャリア開発を実現した根底には、チャレンジする想いも、試行錯誤の姿勢があり、その根底には、ポジティブ展開スキルがありました。

 それもネガティブなマネジメントを受けたとしても、自分が学ぶ機会だと捉えるほどのポジティブさが、お客さまの支持を集めているのだと思います。(モチベーションファクター株式会社・山口 博)

 筆者はビジネススキルを向上させる演習プログラムを実施している。なかでも、顧客や他部門の人、上司や同僚や部下を巻き込む言動を身につける演習では、話し手と聞き手の2人一組でロープレをする演習を繰り返す。

【山口博】

(やまぐち・ひろし)

モチベーションファクター株式会社代表取締役。国内外企業の人材開発・人事部長歴任後、PwC/KPMGコンサルティング各ディレクターを経て、現職。近著に『チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社新書)、『クライアントを惹き付けるモチベーションファクター・トレーニング』(きんざい)、『99%の人が気づいていないビジネス力アップの基本100』(講談社+α新書)、『ビジネススキル急上昇日めくりドリル』(扶桑社)がある

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