伊方原発3号炉インシデント、報道と公式発表を見て湧く疑問と課題

伊方原発3号炉インシデント、報道と公式発表を見て湧く疑問と課題

インシデントの発端となった187kV伊方南北幹線 2018/10/02撮影 牧田寛 2系統4回路のうち1回路の異常が次々と拡大し、3号炉外部電源喪失に至った。 右端の小さな鉄塔は、66kV平碆(ひらばえ)支線で1,2号炉へ外部電源を供給し続けたが、3号炉へは接続されていなかった。

◆チョーびっくりの共同通信配信報道

 去る1月25日に伊方発電所では、3号炉の外部電源喪失という重大なインシデントが発生しました。この重大インデントでは、報道に大きな混乱がみられ、「ほぼ全ての電源が数秒間喪失」*という斬新な第一報が流れ、多くの市民を恐怖させました。

〈*伊方原発、ほぼ全ての電源が数秒間喪失 2020/1/25 23:06 1/26 04:05更新 共同通信:“四国電力によると、伊方原発内のほぼ全ての電源が数秒間、喪失した。”〉

 この報道には、流石に筆者も驚きました。伊方発電所は、全炉廃止・定検中ですから全電源喪失しても数日の余裕があります。伊方発電所が核攻撃でも受けない限り、第2世代原子炉の冗長性の中で事態は収束します。したがって、荷物をまとめて逃げる準備をする必要が無いことは自明でした。

◆初期の情報で筆者は何を考えたか

 この報道は、極めて簡潔ですが、読み取れることは下記となります。

1)発生は1/25の夜と思われる(実際には7時間近い遅れ)

2)伊方発電所構内の全域である可能性がある(一部誤り)

3)ほぼ全電源が失われた(不正確な表現)

直流電源を含めた全電源喪失か全交流電源喪失か、外部電源喪失か分からない

4)電源喪失時間は数秒

 これらから、ほぼ即座に次のように推測できました。

1)伊方発電所の複数系統ある外部電源が喪失した⇒送電系統の障害か、切り替えの失敗と考えられる

2)おそらく非常用ディーゼル発電機(DG)が起動している

3)航空機突入やミサイル攻撃、テロなどの報がないし屋外も騒がしくないので全電源喪失では無い

4)放射能バウンダリ(閉じ込め機能)喪失の報も無い

5)定検中なので、仮に全電源喪失であっても最低48時間の余裕時間がある(ヤバかったら昼までに逃げようか、取材に行くか?)

6)従って避難を要する状況では無い。四国電力からの続報を待って判断すれば良い

7) 停電対応に深夜でも当直しているので、最寄りの四国電力支店を外から見ればだいたい分かる(見に行かなかった)

 これらの推測に基づき、筆者は伊方発電所の原子力災害対策重点区域内からの避難の準備は必要なしと判断しています。

 なお筆者は、多重防護の第5層に相当する原子力・核防災体制については微塵も信用していませんので判断の条件および選択肢に入れていません。中古で構いませんから、緊急避難用に四輪駆動の軽RVが欲しいものです。常時満タン、ガソリン携行缶1本搭載で九州の安全圏に逃げられますし、安定ヨウ素剤は個人輸入済みです。

◆ 四国電力による発表

 次いで四国電力からの発表をみます。

●伊方発電所18万7千V送電線からの受電停止について2020/01/25四国電力

 発表時間の表記がありませんが、Yahoo! Japan でリアルタイム検索をしますと23:17から検索に現れていますので、23時前後に一般向けに発表したものと推測されます。

 内容は下記となります。

1)インシデント発生は2020/01/25 15:44

2)3号炉の外部電源喪失

3)3号炉は外部電源の切り替えができずDG起動成功

4)インシデントの発生は1,2号炉187kV特高(特別高圧送電線)2系統4回線の受電停止による

5)1,2号炉は66kV予備系統へ切り替え成功(ほぼ瞬断無く行われるのでUPSなどは不要)

6)3号炉は10秒前後でDG起動し、内部の交流電源へ切り替えた(瞬断は避けられない)

7)その後500kV自系統外部電源への切り替え成功

8)187kV2回路4系統の遮断は、母線連絡遮断機(安全装置)の保護装置の動作による

 これだけの内容で、筆者の推測はほぼ当たっており、避難などの特別な行動は一切要らないことが分かります。しかし福島核災害を経ており、市民は「四国電力によると、伊方原発内のほぼ全ての電源が数秒間、喪失した。」という共同通信報道と四国電力発表の違いに強い疑念を持ちます。ある程度の基礎知識を持つ筆者でも「ほぼ全ての電源」という報道における文言が強く引っかかり、喉の奥に魚の小骨が刺さったような不快な状態が続きました。

 結果、伊方発電所の状況に対して格段の特別な動きは要さないものの、四国電力からの続報を渇望し続けることになりました。なお、前掲の伊方発電所所内電力系統図を見たときにその不安定さを強烈に感じたのは今シリーズ第1回で概説したとおりです。この件は後に解説します。

◆四国電力による続報

 太刀魚の小骨が喉の奥に刺さったようなとても不快な感覚を持ちつつも四国電力による続報を待ったところ、1/27月曜日に四国電力から続報がでました。発表時間がありませんが、Yahoo! Japanのリアルタイム検索からは19:30頃と思われます。愛媛県への報告は、17:40と公表されています。

●伊方発電所 18万7千V送電線からの受電停止について(続報) 2020/01/27四国電力

 この続報には、肝心の時系列に数字が入っていないことから十分なものではありませんが、少なくとも原子炉および使用済み核燃料ピット(SFP)に収束困難な異常が起きるものではないことははっきりしました。

 インシデントは次のような経過をとっていたことになります。

1)1,2,3号炉すべて冷態停止中:(1,2号炉は廃止措置中、3号炉は停止後約1ヶ月)

2)通常と異なり、3号炉は予備回線である187kV送電線に接続されていた:(なぜ3号炉が500kV主回線でなく予備回線である187kVに接続されていたのか分からない)

3)点検時に187kV送電線の1回路で機器故障が起き、開閉所が遮断動作した

4)187kV母線保護装置が動作し、187kV送電線が2系統4回路全て遮断された:(母線は甲乙に二重化されているのが当然で、母線が二つとも遮断されたのはなぜか分からない。母線が二重化されていないなどあり得ないことである)

5)1,2号炉は直ちに66kV送電線に切り替えられた:(切り替えは迅速であるために装置類は悪くても瞬断で済んでいる)

6)3号炉は、主回路である500kV送電線に切り替えられなかった:(1系統2回路ある500kV送電線の状態は不明)

7)約10秒後に非常用ディーゼル発電機(DG)が起動成功し交流電源回復:(設備類の多くは、10秒間の停電で停止、再起動する。更に電気容量の関係ですべての機器が復電するわけでは無いし、起動前の点検を要する機器もある。最重要機器へ優先して給電される)

8)不明時間後、500kV主回線へ3号炉が接続され、DGは停止:(2020/02/07発表でも主回線の回復時間が明らかにされていない)

 この続報によって伊方発電所は、1,2号炉は予備系統による外部電源継続がなされましたので、多重防護の第1層で収束し、3号炉は外部電源がすべて失われたために非常用DGが起動し、多重防護の第2層で収束していることが分かります。

 但し、その後発表された第3報(1/28)、 第4報(2/7) にも情報の抜けがたいへんに多く、単に四国電力による安全の宣伝に留まっています。

 すでに今シリーズ第1回で指摘したように、この重大インシデントからは、伊方3号炉については外部電源に脆弱性があると考えるほかありません。1,2号炉についても甲乙母線が同時に脱落したというあり得ないことが起きており、まさか母線が二重化されていないのではと言う強い疑念が払拭されません。3号炉についてはとくに66kV平碆支線に接続されていないという福島核災害直後に四国電力、愛媛県共々認め解消するはずだった脆弱性が9年目の今も解消されず、それがインシデントを拡大したわけですから、事は重大と指摘するほかありません。

 1,2号炉の外部電源4回路のうち1回路で生じた異常が、3号炉の外部電源喪失に拡大したことは重大な冗長性の欠如であり、しかもそれは9年近くも昔に自ら明らかにしていたことですので、原子力事業者、規制行政組織、立地自治体すべてが原子力安全の基本である冗長性の確保を軽視してきたことになります。これは伊方発電所だけでなく、全原子力・核施設の安全性と信頼を根本から脅かすものです。

 例え1,2号炉が廃止措置中であっても操業中の原子炉の外部電源予備系統が1,2号炉に従属していることはあってはならないことです。今回は、その従属性が故に1,2号炉でのインシデントが本来関係の無い3号炉に拡大したという典型的な冗長性の欠如を示しています。また、通常と異なる運用中に連鎖的なインシデントの拡大を起こして重大インシデントとなったことも極めて教科書的な失敗といえます。ラスムッセン報告(WASH-1400)が指摘しブラウンズフェリー原子炉建屋火災事故(BF-1)やスリーマイル島原子力発電所事故(TMI-2)が実証したように原子炉から遠く離れたインシデントが連鎖的に拡大・波及し、短時間で原子炉を致命的な重大事故即ち過酷事故(SA)に導く可能性は有意にあります。その可能性を潰すために徹底した多重化、冗長化、高信頼化と多重防護の整備を怠ってはならないのです。

◆共同通信による第一報には問題がある

 共同通信による初報の「ほぼ全ての電源が数秒間喪失」というものは誤りであることは判明しています。速報であってもこのようであるべきでしょう。

【元文】“四国電力によると、伊方原発内のほぼ全ての電源が数秒間、喪失した。”

【修正案】“四国電力によると、伊方原発の外部電源が遮断されるインシデントが生じた。1,2号機では、ただちに予備の外部電源へ切り替わった。定期点検中の3号機では、すべての外部電源を喪失し、10秒後に非常用ディーゼル発電機が起動した。”

 福島核災害では、原子力工学の高名な学者や原子力産業関係者ですら原子力発電所の電源喪失についてまともな知識を持たない人がたいへんに多く、大きな混乱を生じました。そのため翌年、原子力学会が特集記事を学会誌に掲載しています。

●全電源喪失について 岡本孝司 日本原子力学会誌 Vol. 54, No. 1(2012)

 紙面の都合があり、内容についてはおのおのご一読ください。

 共同通信配信記事の最大の問題点は、「ほぼ全ての電源が(中略)喪失した」というところで、これは工学的な正しさから逸脱しています。またその後現れた「(一時的な)全交流電源喪失」は、13秒以内にDGが起動しており事実とは異なります。非常用DGは、13秒以内で電圧確立するように設計されており、その間は設計の範囲内です。この13秒間を全交流電源喪失とするのは工学的には正しくありません。この場合、DG起動の大きな遅延を「一時的全交流電源喪失」、DG起動失敗を「全交流電源喪失」と称します。

 今回の重大インシデントは、単純に外部電源を喪失し、DGが起動したというインシデントそのものではなく、伊方発電所がいまだに持つ脆弱性が顕在化した点が重要です。そのことには極めて高い報道の重要性がありますが、それは続報で追求するものであって、初報は原子力防災において極めて重要ですので曖昧さによっていくらでも拡大解釈できる表現は金輪際やめていただきたいです。

 この初報は、どのような四国電力のプレスリリースがどのように伝わり、どのように解釈され、配信されたかについて検証を要します。

◆連絡と報道は遅かったのか?

 今回のインシデント発生は、2020/01/25 15:44です。共同通信による初報が23:06ですので、7時間22分遅れており、これは非常に遅いと言うほかありません。

 しかし、愛媛県の原子力情報を見ますと「1月 25 日(土)16 時 32 分、四国電力(株)から、伊方発電所の異常に係る通報連絡がありました。」とされています。

●伊方発電所における所内電源の一時的喪失について 2020/01/25愛媛県原子力安全対策推進監

 愛媛県への情報伝達は48分後ですので、問題は無いと思われます。その後6時間30分、報道までの空白があったことは大きな問題です。四国電力からの初報がインシデント発生から1時間以内に愛媛県に伝わりながら7時間以上遅れた事は不可解で、その間に18時19時21時、22時、23時のTV報道の機会が逃されています。この情報流通の悪さは要検証でしょう。

 公開情報だけを見ると、1/25 22:40頃に愛媛県庁で四国電力が発表*を行っています。これはインシデントから約7時間経過し、四国電力から愛媛県への連絡から6時間を超えています。なぜ愛媛県庁に知らせたあと、6時間も報道発表に時間を要したのかは検証し、改善すべきでしょう。今回の報道発表遅延は、四国電力と愛媛県の信頼を大きく傷つけます。少なくとも重大インシデントの情報が県庁内で6時間も滞るようでは、原子力防災計画など全く体をなしていないと言うほかありません。〈*伊方原発で一時、全交流電源を喪失, 2020/01/26 愛媛新聞|“伊方原発でトラブルが相次いでいることを謝罪する四国電力の渡部浩・原子力本部付部長(左)ら=25日午後10時40分ごろ、愛媛県庁”写真キャプションより引用〉

◆検証すべきは山ほどある

 2020/01/25に伊方発電所で生じた外部電源喪失重大インシデントは、インシデントの範疇で収束しましたが、伊方発電所の外部電源脆弱性、使用済み核燃料ピットの受動安全性、情報流通の問題、四国電力および愛媛県庁の信頼性など重大な問題を表面化させました。

 報道の正確性に関する問題もあり、そろそろヒノマルゲンパツPA(JVNPA)師・団体がウハウハと論点そらしと矮小化をはじめそうですが、はっきり言えばこれは刺身のツマのようなものです。そもそも6時間も情報を握り滞留させる間に正確な発表を随時行えば良いだけです。

 次回以降、これらの表面化した本質的問題について論説します。

◆伊方発電所3号炉第15回定検における重大インシデント多発(4)

<文・写真/牧田寛>

【牧田寛】

Twitter ID:@BB45_Colorado

まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題についてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中

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