マスコミが報道しない、羽田空港新ルートの被害。品川区では区民投票も

マスコミが報道しない、羽田空港新ルートの被害。品川区では区民投票も

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◆1分20秒ごとに都心を低空飛行する航空機

 1月18日、定員70人の部屋は倍以上の約150人で埋め尽くされ、なんとしても羽田空港の飛行新ルートを撤回するとの熱気を帯びていた。その多くが東京都の品川区民だ。

このままだと、来る3月29日から、都心を低空飛行する飛行機による騒音のなかで区民は生きることになる。

 それを回避するためにも、市民団体「品川区民投票を成功させる会」(以下、「成功させる会」)は「住民投票」で区民の意思を区に提示したいと考えた。だが、品川区には「区民投票条例」がない。そこで始まったのが、その「区民投票の条例制定を求める」という運動で、1月18日はそのスタート集会だった。

 羽田空港を離発着する飛行機は、都心の騒音を避けるため、原則として「海(東京湾)から入って海に出る」ルートを取っている。だが今年3月29日から、それに加えて「陸から入って陸に出る」ルートの運用が始まる。国土交通省の説明によれば、増え続ける外国人観光客への対応策として、羽田空港での増便を可能にするための措置である。

 羽田空港には、南北に延びるA滑走路とC滑走路、そして東西に延びるB滑走路とD滑走路がある。従来はBとDが着陸に使われてきたが、新ルートでは南風の吹く15時から19時のうち3時間に限り、羽田に向かう飛行機は埼玉県から南下して東京上空に入る。

 その都心ルートは羽田に近づくほどに低くなり、品川区で300m、大田区で150mと想定されている。その着陸回数はAに1時間当たり14本、Cには30本と計44本。約1分20秒ごとに1便が都心を低空飛行することになる。

 出発便も、南風時の同じ時間帯でBから1時間に20便が離陸し、川崎コンビナート上空を通過して海に抜ける。そして北風時には、7時から13時半、そして15時から19時の間の3時間を使って、Cから1時間あたり23便が江東区や江戸川区の上空を通って北上する。

◆住民に押し付けられる「騒音」と「落下物」不安

 2014年7月8日にこの計画が明らかになると、すぐに新ルート直下では反対運動が起きた。理由は二つ。「騒音」と「落下物」への不安である。

 埼玉県から南下する飛行機は東京都北区に約1200mの高度で進入するが、徐々に高度を下げ、新宿区で900mを飛ぶが、このときの騒音は70デシベル(db)以下、渋谷区で750m(同75db以下)、港区で450m(同75db)、品川区では東京タワーよりも低い300m以下(同80db以下)、最後の羽田空港を有する大田区では150m以下まで高度を下げて空港に着陸する。

 70dbとは、1m以内の距離でも大声で話さなければならないほどの騒音レベルで、80dbともなるとパチンコ店内のレベルと言われている。また、飛行機は毎年のように、部品やパネル、はたまた上空で機体に付着した氷を落下させている。国交省によると、2017年11月から2019年10月までの2年間で、国内の主要7空港に離発着する航空機から1180個の部品が欠落(落下)している。

 大きな事故としては、2018年9月には、大阪市でKLMオランダ航空の胴体パネルが落下し、車を直撃。また2019年5月25日には、熊本空港を飛び立ったJAL機から98個の部品が落下し、そのいくつかで病院の窓ガラスが破損した。

 これが人口密集地帯である都心ではより頻繁に起きるのではないのか。その不安から、ルート直下では新ルートに反対する10以上の市民団体が発足し、署名、国交省と交渉、デモ、集会、区議会への陳情などやれることはすべてやってきた。

 だが、それら運動が国交省の方向性を変えるには至らず、それどころか、国交省は多くの住民が反対していることを知りながらも、2019年8月8日、「住民の理解を得た」として2020年3月29日からの都心の低空飛行を発表したのだ。住民に残された最後の手段が「訴訟」と「住民投票」だった。

◆区民投票に臨むのは現時点では品川区だけ

 集会では、住民投票に詳しいシンクタンク「国民投票広報機構」の南部義典代表が講演に立ち、地方自治が守らねばならないポイントを2つ紹介した。

1.国から負担や不利益を教えつけられないこと。

2.地域のことは地域で決めること。

 この真逆になったのが、たとえば原発や米軍基地であり、これら施設が固定化されると被害はその地域だけに限られてしまうと強調した。この指摘には参加者の多くが頷いた。そして南部さんは、住民投票を具体的にどういう順番で行うかを説明した。大雑把には以下の流れだ。

@請求代表者(署名の責任者)を決めて、地域の選挙管理委員会に届ける(現在11人)。

A署名を始める。期間は1カ月間。有権者の50分の1(6721人。2019年12月2日時点)以上を集める必要がある。

B署名を選管に提出して、有効と認められれば、請求代表者は区長に直接請求する。

C20日以内に区長は区議会を招集する

D区議会が「羽田新飛行ルートの是非を問う区民投票条例」案を可決する。

E区民投票条例を施行し、区民投票を実施する。

 ここで区民がもっとも気になるのが、Dだ。果たして区議会が条例案を可決するのかということだ。というのは、現在、品川区議会には40人の議員がいるが、条例案に賛成するとみられるのは15人に留まっているからだ。これをどう突破するのか。

 品川区では、数年前から市民団体「羽田増便による航空飛行ルートに反対する品川区民の会」が新ルートへの反対運動を続けているが、そのメンバーの大村究(きわみ)さんが集会の様子をビデオ撮影していたので、この点を質問するとこう答えてくれた。

「だからといって残り25人が絶対反対ということでもない。グレーゾーンの議員もいるんです。これら議員が気にするのは、署名が多く集まったときに自分が反対すれば、次の選挙に響かないかということです。だから、署名はなるべく多く集める必要がある。ギリギリの6721人じゃダメ。3万人は狙いたいです」

◆署名成功の鍵は「受任者」

 これを成功させるのにキーとなるのが、署名収集協力者である「受任者」だ。「成功させる会」には1月18日現在で約200人の受任者がいるが、これを1月末までに500人に増やしたいとしている。受任者になるための説明会が1月24日から順次開催されているが、詳細は「支える会」のHPを参考にしてほしい。

 羽田空港新ルートでの一つの問題は、マスコミ報道が少ないことも一因だが、騒音被害がイメージできないのか、危機意識のない住民が少なくないことだ。南部さん(前出)はこんなアドバイスもした。

「区民投票の実現には3か月はかかります。大切なのは、どのタイミングで署名活動をするかです。今から始めるのか、それとも、実際に3月29日に新ルートの運用が始まり騒音が起きると問題意識が高まるので、その時点から始めるかです」

 実際の署名活動の開始時期は未定であるが、「成功させる会」は受任者を集めるためにすでに街角に立っている。1月19日のフェイスブックにも関係者が「1月25日(土)の受任者説明会への案内と受任者募集のチラシを撒きました。マンションの住民がポスティングしてくれると言って半分以上のチラシを持ち帰り、受任者を受けてくれました」との報告を寄せている。

 また、区民の有志は同時に国を相手取る訴訟も考えているが、詳細は決まり次第報告したい。

 そして、東京23区の半分以上の区では羽田空港新ルートに反対する市民団体がいるが、区民投票に臨むのは現時点では品川区だけ。だが、集会には他の区民も顔を見せていた。今後の運動の広がりを注視したい。

<文/樫田秀樹>

【樫田秀樹】

かしだひでき●Twitter ID:@kashidahideki。フリージャーナリスト。社会問題や環境問題、リニア中央新幹線などを精力的に取材している。『悪夢の超特急 リニア中央新幹線』(旬報社)で2015年度JCJ(日本ジャーナリスト会議)賞を受賞。

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