ファッション、カルチャー。変貌する渋谷の現在とこれから

ファッション、カルチャー。変貌する渋谷の現在とこれから

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◆若年層における「渋谷」ブランドの消失

 全国から若者が集い、流行の発信地として名を馳せていた街・渋谷。

 センター街にはガングロギャルが闊歩し、ルーズソックスをはいた女子高生がこぞってプリクラを撮りに行く。そんな’90年代の渋谷には、“渋谷らしいファッション”が存在していた。

 しかし、現在“渋谷らしいファッション”と聞かれても、いまひとつ想像できないのが現実だろう。事実、109を訪れていた若い女のコは「都内であればどこに行っても似たようなファッションビルが立ち並んでいるから、特に渋谷にこだわる必要はないですね」と言う。渋谷という地にそれほど魅力を感じていないというのが現代の若者の本音なのだ。

◆カリスマ店員の不在が流行を衰退させた?

 では、なぜ渋谷が“流行の発信地”としての機能を失ったのか?「カリスマ店員の転出」が理由の一つと指摘するのは渋谷観光協会理事長の金山淳吾氏だ。

「’90年代、渋谷のトレンドリーダーとしての役割を担っていたのはカリスマ店員です。しかし、事業拡大により、神南や原宿エリアのセレクトショップが丸の内方面に展開しました。彼らは『売れる場所で売ったほうが営業成績が上がり、給料アップにも繋がる』という理由から、売り上げの高い丸の内に移ってしまったのです」

 しかしSNS時代だからこその転機が、今の渋谷に訪れている。

「’13年にZOZO TOWNがお気に入りのコーディネートを投稿できるアプリ『WEAR』を提供し始めました。裏原宿や表参道などオシャレな街を背景に投稿されることが多いのですが、ショップ店員たちは彼らの店の服を発信するのにオフィス街である丸の内がバックだと『イメージが崩れる』と言います。そこで『もう一度裏原宿や原宿、渋谷に戻ったほうがいいんじゃないか』と“里帰り”してくるカリスマ店員もいます」

 また、パルコのファッションとカルチャーのシンクタンクが運営するメディア『ACROSS』の編集長の高野公三子氏は、’80年から’20年現在まで毎月実施している「定点観測」を振り返り、“渋谷らしいファッション”とは“カテゴリーにとらわれない”ことだと分析する。

「ガングロギャルやルーズソックスなどが流行した’90年代以降の渋谷では、ギャル×モードなどの『ミックス』が進み、さらに着用する年齢層にも幅が出てきました。また、男性がウィメンズの服を着たり、女性がメンズを着たりといった『ジェンダーレス化』が近年注目されていますが、そういった傾向がいち早く表面化してきたのは丸の内や新宿ではなく、渋谷です。面白いものを貧欲に取り入れ、年齢や性別、さらにはシーンにとらわれないファッションムーブメントがいち早く取り入れられるのは今も変わらぬ渋谷独自の傾向です」

 さらに’00年代生まれの男女には、“新しいトレンドは過去にある”というマインドがあると高野氏は考察する。

「彼・彼女らは過去のさまざまな時代のファッションをスーパーミックスするという、個性的なファッションに身を包んでいます。’80〜’90年代のシティボーイファッションのリバイバルなど、近年の流行を見ていると、まさに’00年代前後に生まれた若者のマインドを感じます。そんな過去のさまざまな時代のスタイルをミックスし、独自のスタイルを編み出すのが現代の若者のモードなのです」

 “渋谷らしい”とはある特定の流行を指すのではなく、ファッションへの貪欲かつ自由なスタイルそのもののことなのだ。

◆「渋谷系」を生んだ街で今、聴かれる音楽は!?

 東京で「音楽の街」と呼ばれる場所は数あれど、ライブハウス、クラブ、CDショップなどの音楽関係の店舗数が突出しているのが渋谷だ。

 現在、「渋谷の音楽とは何?」と聞かれてイメージするのも、人によりバンドサウンド、HipHop、アイドルなど多種多様だろう。なぜなら、それぞれに「聖地」と呼ばれる場所が存在するからだ。

 このようにありとあらゆる音楽の発信地となってきた渋谷だが、忘れてはならないのが’90年代に音楽業界を席巻した「渋谷系」だ。ピチカート・ファイブ、オリジナル・ラブ、フリッパーズ・ギターなどが一時代を築いた。

 では、音楽ジャンルが細分化し、「みんなが聞いているヒット曲」も生まれにくい現在、渋谷で聴かれている音楽とは何か? 渋谷系アーティストと親交が深く、長年渋谷に事務所を構えるミュージシャン・サエキけんぞう氏に聞いた。

◆一番勢いがあるのは「AOR」!?

「渋谷のアナログレコード店で今、一番勢いがあるのはAOR(アダルト・オリエンテッド・ロック)。大人のボーカルロックですね」

 AORと言っても、音楽通でなければピンとこない人も多いだろうが、「流行に敏感な人たちは今、古めかしい音を求めているんです」とサエキ氏は解説する。

「この傾向は、特に作る側の中で顕著です。アイドルだと、『フィロソフィーのダンス』。よく聴くと、ものすごく凝って作られた’70年代のディスコ音楽が下地になっています。実はこれはかつての『渋谷系』が“誰も知らなかった曲”を元ネタにしたのに通じます」

 音楽マニアをうならせるような作曲方法は「渋谷系」の伝統ということか。ほかにも「WAYWAVE」というソウルデュオアイドルは「曽我部恵一さんや小西康陽さん、遡ると大瀧詠一さんなどを彷彿させるシティポップでソウルですね」とサエキ氏。

 だが、そもそもなぜ渋谷でこういった音楽が生まれるのだろう?

「新宿や池袋は経済力もポテンシャルが高いから、大衆向きの総合的な音楽が生まれる傾向があります。一方、渋谷はかつて『はっぴいえんど』や『はちみつぱい』といったエッジの立った人々が、現在もあるBYGという喫茶店に集まっていましたし、のちにはチーマーやヤマンバギャルもいました。渋谷というのは『変わり者を受け入れる街』なんですよね」

【サエキけんぞう氏】

ミュージシャン、作詞家。’80年、デビュー。パール兄弟で「君にマニョマニョ」等がヒットし、現在はジョリッツで活動。音楽関連著書も多数

<取材・文/櫻井れき Mr.tsubaking 筒井あや>

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