オーナーを苦しめる「コンビニ会計」。そして、「搾取のトリクルダウン」の正体<明石順平氏>

オーナーを苦しめる「コンビニ会計」。そして、「搾取のトリクルダウン」の正体<明石順平氏>

maxwell / PIXTA(ピクスタ)

◆「24時間365日営業」に慣れすぎた現代人

 いまコンビニ業界は大きな曲がり角を迎えている。

  昨年、東大阪のセブンイレブンのオーナーが二四時 間営業に反対し、自主的に営業時間の短縮に踏み切ったことが大きく報道された。コンビニのオーナーたち が人手不足の中、過酷な労働を強いられている実態に注目が集まり、24時間営業や元旦営業の見直しなどが議論されるようになった。

 私たちはコンビニが24時間・365日営業してい ることに慣れ、それを当然のことだと考えてしまって いる。しかし、その裏では多くの人たちが厳しい労働 環境に置かれている。 私たちが当然と考えているものは、多くの犠牲の上に成り立っているのだ。

 真正保守論壇誌『月刊日本 2020年3月号』では、こうしたコンビニエンス業界が抱える問題について、「コンビニの闇」と題した特集を組んでいる。

 今回は同特集の中から、明石順平氏へのインタビューを紹介しよう。

◆「コンビニ会計」とは何か

―― 明石さんは新著『人間使い捨て国家』(角川新書)でコンビニ問題を取り上げ、なぜコンビニが低賃金・長時間労働を強いられているのか、その仕組みを詳しく解説しています。コンビニのどこに問題があると考えていますか。

明石順平氏(以下、明石): 大きな問題の一つがフランチャイズ制です。フランチャイズ制とは、フランチャイズに加盟する人や法人が、フランチャイズ本部から店の名前やサービス、商品を使う権利をもらい、その権利料(ロイヤリティ)をフランチャイズ本部に支払うという仕組みです。コンビニが一番目立っていますが、飲食店やクリーニング、学習塾、介護の業界などでもフランチャイズ制が採用されています。

 フランチャイズ制では、各店舗のオーナーたちはフランチャイズ本部と契約する個人事業主とされ、労働者として扱われません。そのため、オーナーには労働基準法が適用されず、労働時間の規制は一切及びません。もちろん残業代も支払われません。

 しかし、オーナーの実態を見ると、個人事業主と言えるかどうか疑問です。セブンイレブンの例で言うと、オーナーたちは基本的に本部の発注システムを通して、本部の推薦する仕入れ先から商品を仕入れています。仕入れ先への伝票送付や支払いなど、仕入れ先とのやり取りは本部が行っており、オーナーはその取引内容を知ることができません。

 また、オーナーは毎日の売り上げを一旦本部に送金し、オーナーとしての報酬やバイト代は本部から支払われています。本当にオーナーであれば、自分の報酬は自分で決め、賃金の処理もすべて自分で行うはずです。

 ここからもわかるように、コンビニのオーナーは「名ばかりオーナー」にすぎず、実態は労働者そのものです。つまり、セブンイレブンの本部は本来労働者であるはずのオーナーを労働者として扱わないことで、人件費を削っているわけです。

 もう一つの大きな問題は、いわゆる「コンビニ会計」です。オーナーが本部に支払うロイヤリティは、売上から商品原価を差し引いた粗利に一定の割合をかけて算出されます。この割合は契約によって異なりますが、おおむね6〜7割というきわめて高率になっています。

 しかも、この商品原価に含まれるのは、実際に売れた商品の原価だけです。売れずに廃棄された商品や、万引きされた商品の原価は除外されるため、粗利が通常より水増しされ、ロイヤリティが増えてしまうのです。

 たとえば、定価100円、原価70円のおにぎりを10個仕入れ、8個売ったとします。「普通の会計」では、売上は800円(100円×8個)、原価は700円(70円×10個)、粗利は100円(800円−700円)です。ここからロイヤリティが60%とられるとすると、次のようになります。

売上800円−原価700円=粗利100円

粗利100円×0.6=ロイヤリティ60円

 これに対して、「コンビニ会計」では原価の扱いが変わってきます。普通の会計では、原価は仕入れたおにぎり10個の合計700円(70円×10個)でしたが、コンビニ会計では、実際に売れた商品の原価しか原価と見なしません。そのため、おにぎりが8個売れたとすると、原価は560円(70円×8個)になります。ここからロイヤリティが60%とられるので、次のようになります。

売上800円−原価560円=粗利240円

粗利240円×0.6=ロイヤリティ144円

 このように、コンビニ会計は普通の会計と比べ、粗利もロイヤリティも非常に大きくなります。極端な話、一つでもおにぎりが売れれば、そこから粗利が生まれ、ロイヤリティが発生します。つまり、売上がゼロにならない限り、絶対にロイヤリティが発生する仕組みなのです。

◆1年間で43人のオーナーが死亡

―― 都心では同じチェーンのコンビニが数百メートル間隔で並んでいることも珍しくありません。

明石:それは「ドミナント戦略」と呼ばれるものです。ドミナント戦略とは、特定の地域に集中的に出店することで、ライバルチェーンを追い出し、その地域での優位性を確保することが狙いとされています。

 一般に、同じ会社のお店が近くに2つあると、お客の奪い合いが起こり、採算は合わなくなります。しかし、フランチャイズ制の場合、それぞれの店舗は厳しい競争に晒され、売上が落ちていきますが、フランチャイズ本部は儲かるのです。というのも、先程述べたように、コンビニ会計では売上がゼロにならない限り、必ずロイヤリティが発生するからです。

 コンビニ本部が積極的にドミナント戦略をとっていることもあり、コンビニの店舗はどんどん増えています。2003年と2017年のコンビニの店舗数を比較すると、約1.4倍にもなっています。

 コンビニの増加は小売分野の労働者数増加に大きな影響を与えています。業者別雇用者数について、2012年から2018年の増加数を見ると、高齢化の影響から1位は医療、福祉となっていますが、卸売業、小売業は2位につけています。

 平成28年経済センサスによると、コンビニの就業者数は65万578人、コンビニの数は4万9463となっています。つまり、1店舗あたり約13人働いており、店舗が1つ増えると、オーナーを除けば12人も雇用者が増える計算になるのです。

 安倍総理はアベノミクスによって総雇用者所得が増えたと自慢していますが、それは雇用者が増えたからであり、そこにはコンビニの就業者数が増えたことも関係しています。

―― 最近メディアでは、学生アルバイトへのパワハラやオーナーの自殺など、コンビニの劣悪な労働環境に関する報道が増えています。

明石:オーナーは本部から多額のロイヤリティを搾り取られており、経営が苦しいため、高いアルバイト料を出せません。しかし、条件が悪いと、アルバイトはすぐにやめてしまいます。そのため、退職を妨害する事例が発生しています。また、不足するアルバイトを補うため、外国人を雇う店が増えています。

 これはコンビニに限らず、フランチャイズ制を採用している業界ではどこでも見られるものです。私が弁護を担当したフランチャイズ制の飲食店では、休みなしでの4ヶ月連続勤務の強制や、残業代の不払い、暴行・脅迫が発生していました。被害者は毎日のように暴行を受け、「やめたら家族に数千万円の損害賠償請求をする」などと言われていました。

 もちろんこれはオーナーが悪いのですが、オーナーも苦しい立場に置かれているため、そのしわ寄せが学生アルバイトや外国人労働者に及んでいるわけです。いわば「搾取のトリクルダウン」が起こっているのです。

 他方、オーナーは、人件費を削るため、自らシフトにたくさん入っています。彼らは異常な長時間労働を強いられ、過労死の危険に晒されています。

 実際、セブンイレブン加盟店共済会の資料によると、2012年7月1日から2013年6月30日の1年間で、一般の死亡保険金に該当する弔慰金を支払った人は43人もいます。また、病気やケガで仕事ができなくなったときに支払われる就業不能見舞金は、2012年には490件も給付されています。

 オーナーは開店資金を捻出するために多額の借金をしていることが多いです。途中でやめると借金が返せなくなるため、やめたくてもやめられません。また、契約書に高額の違約金条項があるため、途中でやめると違約金が発生してしまいます。そもそも仕事をやめると生活の糧を失うため、やめることができないのです。

◆本部はオーナーを直接雇用せよ

―― コンビニの現状はとても看過できるものではありません。裁判は起こっていないのですか。

明石:コンビニ会計の有効性をめぐり、オーナーが裁判を起こしたことがあります。東京高裁は、コンビニ会計が普通の会計とは違うことが契約書にはっきり書かれていないとして、オーナー側の言い分を認めました。ところが、最高裁はこの判断を覆し、契約書にはコンビニ会計のことが書かれているとして、オーナー側の主張を退けたのです。

 しかし、会計によほど詳しい人でなければ、契約書を読んでもコンビニ会計の罠に気づくことはできません。そもそも契約書を隅から隅まで読んで契約する人はまれです。裁判官たちにしても、たとえば携帯電話の契約を結ぶときに、契約書を隅から隅まで読んで契約するわけではないでしょう。

 もともと最高裁はこうした杓子定規な判断をする傾向にあります。もし最高裁がコンビニ会計を無効と判断すれば、日本全国のコンビニが大混乱に陥り、多くのコンビニが潰れます。そのため、最高裁は既成事実をひっくり返すような判断は避けたがるのです。

―― いま苦しい立場に置かれているオーナーはどうすればいいのでしょうか。

明石:最高裁がコンビニ会計を認めてしまった以上、オーナーの立場を改善することは困難です。いまコンビニのオーナーたちはユニオンを作り、オーナーの現状を社会に訴えています。あのような活動を続けていくことには意義があります。しかし、ユニオンで活動すれば、本部からにらまれ、契約更新を打ち切られる恐れもあります。だからすべてのオーナーがユニオンに参加することは困難ですし、現にそうなっています。

―― とすれば、フランチャイズを規制する法律を新たに作るしかありません。

明石:その通りです。日本にはフランチャイズそのものを直接規制する法律がありません。コンビニ業界に関して言うと、本部がロイヤリティをとりすぎなので、まずはここに規制をかけるべきです。また、コンビニ会計も廃止する必要があります。24時間営業もやめるべきです。さらに、正当な事由がなければオーナーを解約できないようにすることも必要です。

 こうした規制をかけると、今度はコンビニの本部が苦しくなり、コンビニが潰れ、オーナーが行き場を失う可能性があります。その場合は本部がオーナーを直接雇えばいいのです。本部は雇用責任を果たすべきです。

 私の提言は厳しすぎると思われるかもしれませんが、毎年たくさんの労働者が長時間労働で亡くなっている現状のほうが異常なのです。日本の労働システムは、たくさんの労働者が「仕事に殺されること」を前提に成り立っています。このようなシステムは絶対に改めなければなりません。

(1月27日インタビュー、聞き手・構成 中村友哉)

【月刊日本】

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