四国電力、伊方原発差し止め異議申し立ての見送り撤回。この決定に見る原子力行政への影響

四国電力、伊方原発差し止め異議申し立ての見送り撤回。この決定に見る原子力行政への影響

約2kmの位置から撮影した伊方発電所2019/06/11撮影 牧田寛 この撮影地点で約1.6kmである

◆四国電力による保全異議申し立て

 去る2020年2月19日午前、四国電力は、伊方発電所3号炉運転差止仮処分決定に対する保全異議申立てと、仮処分執行停止の申し立てを行いました。〈参照:”四国電、伊方原発差し止めに異議 トラブル究明さなか”2020/02/19日本経済新聞、”伊方差し止め異議申し立て 再稼働阻む「三つの壁」2020/02/20愛媛新聞”〉

http://youtu.be/_eK_BnWhIiM

 筆者は、高知県の脱原発系メーリングリストの配信を受けていますが、みなさん「あんな事故連続して許せない!」と激おこです。原子炉好き好きマンの筆者はけっこう圧倒されてしまいました。

 今回は短めになりますが、四国電力による山口ルート*伊方発電所3号炉運転差止仮処分決定に対する保全異議申立てと、仮処分執行停止の申し立てについてご紹介します。

〈*筆者は、愛媛県、大分県、山口県、広島県で行われている運転差し止め訴訟、仮処分審を愛媛ルート等と呼称している〉

◆見送られていたはずの保全異議申し立て

 過去3回に分けてご紹介(1,2,3)した様に、伊方発電所3号炉運転差し止め仮処分申し立て、山口ルート即時抗告審において、2020年1月17日、広島高等裁判所は、本訴判決申し渡しまでを期限として伊方発電所3号炉の運転を差し止めるという決定を行いました。この決定は、筆者にとっては青天の霹靂と言うほどに意外なもので、仮処分審においてある程度の感触を掴んでいた四国電力にとっても虚を突かれる厳しい決定であったと思われます*。通常は、四国電力側は直ちに保全異議申し立てを行い、できるだけ早くこの差し止めをひっくり返しに取りかかります。

〈*広島高等裁判所での抗告審における伊方発電所3号機運転差止仮処分の決定について2020年1月17日 四国電力株式会社〉

 その後、第15回定期点検(定検)中に連続して重大インシデント、重要インシデントを生じさせたことから、四国電力は、保全異議申し立てをしばらく見送る旨コメントしていました*。これは合理的なことで、今、保全異議申し立てを急いでも保全異議申し立て審の決定は、早くて年末です。2021年3月からは特定重大事故等対処施設(特重施設)の完成猶予期限切れで1年ないし2年間の運転停止が避けられない情勢です。長くても2ヶ月半程度しか運転できないなら、原子炉は休止したまま特重施設工事に集中して運転停止期間を短縮した方が遙かにましです。

〈*四国電、不服申し立てを見送り トラブル続き社長が知事に謝罪2020/01/27 共同通信〉

 以前も触れました様に、山口ルート差し止め仮処分即時抗告審における伊方3号炉運転差し止め決定は、原子炉運転事業者にとっては、よりにもよって最悪の時期に申し渡されたものです。例えるならば、ボクシングのエキジビジョンマッチで世界チャンプがランキング外にラッキーパンチ喰らってダウン一つとられた様なものです。まさに「つうこんのいちげき」です。

 しかし筆者が想像するに、8電力からの突き上げや、政府からの圧力、株主総会への準備、弁護士や法務の見解などいろいろな要因があったと思われますが、四国電力はすぐに保全異議申し立てを早々に行う旨態度を変えました。筆者は、どうせ3年くらい時間があるので広島高裁決定での争点について徹底して対策して、来年半ば頃に保全異議申し立てするのも手だと考えていましたが、電力会社には電力会社で事情があるので仕方ないのでしょう。

 例えるならばチャンプといえどもダウンしたらカウント9まで体力回復して、それから「かいしんのいちげき」で、ルーキーを伸してしまうのかと思っていましたが、2カウントで立ち上がったということです。

◆四国電力の報道発表を読む

 四国電力の報道発表は次の二つです。

●広島高等裁判所での抗告審における伊方発電所3号機 運転差止仮処分決定に対する異議申立てについて2020年2月19日 四国電力株式会社

●社長会見の概要(広島高裁への異議申立て)2020年2月19日 四国電力株式会社

 一つ目は、保全異議申し立て(第三審)をしたという報告ですので字義通りのものです。二つ目の社長会見の概要が四国電力の主張です。本稿では、社長会見の概要について検討します。

 本シリーズでも指摘した様に、山口ルート差し止め仮処分審広島高裁決定における高裁差し止め判断の根拠は次の二点です。

◆差し止め決定の根拠その1

1)地震

 地震については、2km以内の至近に存在する活断層の有無が争点になっています。佐田岬半島沿岸にある海底急谷部について、申立人側は、伊方発電所操業開始後に発見された下灘-長浜沿岸活断層の延長ないし、同様の活断層ではないかと主張しています。この海底急谷部は、西側末端が伊方発電所2km以内に存在する可能性があります。仮にこの海底急谷部が活断層であると伊方発電所は、「活断層が極めて近い場合の地震動評価」を行い、NRAによる審査に合格せねばならなくなります。

 高裁決定では、この海底急谷部が活断層である可能性を拭えないとして差し止め決定の一本目の柱としています。

 ここで注意すべきはこの海底急谷部の活断層認定は、筆者一番のお気に入り推し原子炉である日本原子力発電敦賀発電所2号炉(原電敦賀2, PWR1.16GWe) を一撃でノックアウト (現在8カウント) した浦底断層と異なり、伊方発電所の存立を直ちに脅かすものではありません。しかし要求される耐震性の実証水準が大幅に上がるために時間と大きな費用を要します。

 筆者は、将来の司法リスクや許認可判断の変更への備えとして特重工事の期間をフルに活用して2年程度で徹底調査・分析し、活断層でなければ万々歳、活断層であるならその後の投資について経営判断をすることでリスクを払拭することが最善であると考えています。本質的問題解決を避け続ければ60年操業どころか40年操業すら危ういのではないでしょうか。

 詳細は、前記事にて解説していますのでそちらをご覧ください。

◆差し止め決定の根拠その2

2)火山

 第二争点の火山は、第一争点よりもやっかいです。まず、火山の噴火予知は、現在の人類には不可能です。この大前提を誤ると未来永劫司法リスク、大きなバックフィットのリスクが付き纏います。

 伊方発電所の立地する四国には、第四期火山が存在しないために四国における火山噴火はあり得ません。これは日本国内でもたいへんに特異的な立地です。しかし九州にある久住、阿蘇が最寄りの火山で、しかも歴史ではなく地球史の尺度ですが巨大噴火によって西日本を壊滅させてきています。

 原子力発電の内包するリスクは、この地球史的尺度で測らねばならないリスクを許認可行政に組み入れるという一大変更が新規制によってなされ、これが多くの原子力事業者、とくに九州電力と四国電力を苦しめています。

 差し止め審では、地球史的時間軸で発生するVEI7級*の超巨大噴火(破局分噴火)こそ社会通念上、考慮する必要は無いと原審を踏襲していますが、人類の歴史的尺度で生じ得るVEI6級の巨大噴火については、四国電力の評価が過小であり、それを是とした原子力規制委員会(NRA)による審査も不合理であるとすることで差し止め決定の二本目の柱としています。

〈*火山爆発指数(Volcanic Explosivity Index, VEI。火山噴出物の量で区分される火山の爆発規模の大きさを示す指標)

 この火山影響評価はたいへんにやっかいです。VEI6級の巨大噴火にはその大きさに幅があり四国電力は、過小評価をしているというのが高裁判断です。

 高裁判断に従えば、VEI6級の巨大噴火(1991ピナツボ火山噴火*を大きく超える規模)のなかでも大きな想定を評価せねばならず、伊方発電所、川内原子力発電所、玄海原子力発電所の設置認可に甚大な影響が出ます。

〈*【AFP記者コラム】ピナツボ火山の死神から逃げ切る2016/08/08 AFP〉

 高裁判断に従った場合、工学的な対策は不可能ではないでしょうが、工業的には経済性という一点から対策には大きな疑問が生じます。根本的には、火山学の見地から人類史的尺度においてどの程度の影響までを考慮すべきかの同意を得ねばなりません。しかし司法判断と異なり、VEI7級まで考慮すべきと言う考えも強く合意は困難でしょう。

 筆者は、少なくともVEI6級巨大噴火について社会・経済活動にどこまで影響を許容できうるかという社会的合意(Public Acceptance)を形成するしかないと考えます。しかし、こういった社会的合意形成は1年や2年では形成不能で、合意ができたときには40年で炉寿命終了となりかねませんし、電力会社の手におえるものではありません。政治による判断と民主的合意形成が求められます。

 たいへんに残念ですが、この点について筆者は解を持ち合わせません。えらいことになったと思う限りです。詳細は、前記事にて解説していますのでそちらをご覧ください。

◆道は遠し山険し

 四国電力は、山口ルート広島高裁差し止め決定について保全異議申し立てを行いました。四国電力社長会見にある様に、差し止め決定の既成事実化を避けるために保全異議申し立ての事実を作るという考え方は社会通念としてはあり得ます。

”ただちに効力が発生する仮処分案件で異議申立ての時期が遅れ、当社の意思が法律手続きの俎上に載らないままでは、

・発電所の敷地から2km以内の佐田岬半島沿岸部に活断層が存在しないとはいえないなどとする、明らかに事実とは異なる広島高裁の認定内容を放置することとなり、地域の皆さまの不安につながること

・当社がこれまで主張してきた伊方発電所の安全性や必要性について、裁判所に誤ったメッセージを伝えかねないこと

などから、本日、当社は異議申立てを行い、このたびの司法判断に対し、法廷の場において主張すべきことを主張していくこととしたものであります。”(四国電力社長会見要旨より)

 しかし、現在2県で進行中の差し止め仮処分、4県で進行中の差し止め本訴が将来、四国電力の意図通りの結論を出すとは限りません。また仮に今回の司法リスクを乗り越えたとしても、そのときに経済的に原子力発電が成立しているか否かは、たいへんに危ういものがあります。合衆国の電力会社が日本の原子力発電所についてその経済的将来性を判断すれば、殆どの原子炉が直ちに廃止されてしまうであろう現実が眼前にあります。

 筆者は、電力会社の将来をかけるには余りにもリスクが高くなってしまった原子力発電に莫大な投資と司法対策への資源配分をすることが妥当であるかに強い疑問があります。過大なコストカット圧力が生じれば、原子力発電は安全を維持でできなくなります。それが沸騰水型原子炉(BWR)陣営が陥り福島核災害に至った悲劇の歴史です。

 国策のドグマ(教義)は、原子力推進ですが経産省が石炭政策で見せた大失政とその後の逃げ足の速さと徹底した無責任、見捨てられた石炭業界、労働者、産炭地の悲惨な歴史と行政災害と言うほかない北炭夕張新炭鉱ガス突出事故*を考えると原子力国策も全く当てになりません。

〈*北炭夕張炭鉱で事故 犠牲者93人 NHK名作選、北炭夕張炭鉱の事故と閉山 日本石炭産業に致命的打撃2018年7月松本克夫 日本記者クラブ〉

◆伊方発電所3号炉運転差止仮処分決定に対する保全異議申立てについて(1)

<文/牧田寛>

【牧田寛】

Twitter ID:@BB45_Colorado

まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題についてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中

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