余計な一言が部下を萎縮させる。「聞いてるつもり上司」の落とし穴

余計な一言が部下を萎縮させる。「聞いてるつもり上司」の落とし穴

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日ごろの対話や面談や商談で、「ああしろ」「こうしろ」「あれが良い」「これが良い」と指示・命令したり、売り込みをしてばかりいては、同僚であっても顧客であっても、巻き込むことができない。北風と太陽ではないが、うるさく言われれば、誰でもうっとうしく思うものだろう。

◆コーチング話法は瞬発性が肝心

 そこで、指示・命令や売り込みをする代わりに、次の5つの質問を繰り出すと相手を巻き込みやすくなる。相手にどうしても指示・命令したいことは、この5つの質問のあとに伝えると、相手の腹落ち度合が格段に高まる。

●相手を巻き込む「5つの質問」

1:やってみてどうでしたか?

2:うまくいったことは何ですか?

3:うまくいかなかったことは何ですか?

4:どのように改善したいですか?

5:サポートを得たいことは何ですか?

 ところがこの5つの質問も、とっさのとき瞬時に繰り出せるようにしておかないと、肝心な場面で相手を巻き込めないことになる。筆者がビジネススキルを向上させる演習をしていると、とっさのときにはつい指示・命令を売り込みのフレーズが口に出てしまう人が実に多い。

 とっさのときに相手を巻き込む質問を繰りだせるようになるためには、反復演習して体で身につけておくことが必要だ。何も長い年月が必要なわけではない。2時間程度、自撮りしながらロープレし、自分の話法の動画を自分で確認して修正する反復演習をすると、相当程度、いざというときに使えるようになる。

 相手を巻き込む5つの質問は、トップダウンのマネジメントではない、コーチング型のリーダーシップを発揮するための5質問でもある。書店にいけば、コーチング理論書籍は山ほどあるが、「コーチング理論書籍をいくら読んでも、コーチングを実施することができない」という相談を受けることがある。

 頭で理解することと、行動や話法で繰り出せるかどうかということは、まったく別ものだ。そのため、行動や話法で繰り出せるようになるためには、反復演習が必要だ。極論を言えば、仮にコーチング理論書籍を1冊も読んでいなくても、この5つの質問さえとっさのときに繰り出せるようになっていれば、相手を巻き込むコーチングが実践できているということになる。

 理論書籍を読んでも実践できない人と、理論書籍を読んでいなくても実践できる人と、ビジネス実践の場面では後者の人のほうが、コーチング実践力があり、ビジネスに役立っているということになる。

◆実践できるかどうかは、話の順番で決まる

 この相手を巻き込む5つの質問だが、反復演習で瞬時に繰り出せるようになって、実践の場面で活用し始めたとしても、トップダウンのマネジメントに陥ってしまう落とし穴が3つある。その落とし穴の場所をわかっていれば、みずからその穴に落ちてトップダウンに逆戻りしてしまうことはない。

 その落とし穴の1つ目は、相手が質問に答えない場合だ。相手が質問に答えないので、自分から話を始めてしまい、結局、指示・命令、売り込みに陥ってしまうパターンが多い。このように申し上げると、「相手が話さないのだから、しょうがないではないか」という声が聞こえてくる。

 しかし、方法はある。相手が話さなければ、こちらも話さず、にっこり微笑んで、相手の返答を待てばよい。もちろん、いくら待っても返答がなければ、「次回も聞かせてもらいたいので、よかったら考えておいて」と伝えることは効果がある。何度か繰り返していると、相手が返答してくれるようになる。コーチングの質問が両者の間に浸透したという状況になる。

◆余計な一言をぐっと我慢できるかが勝負

 落とし穴の2つ目は、「うまくいかなかったことは?」という質問に相手が答えた直後だ。「これがうまくいかなかった」「あれがうまくいかなかった」と相手が答えた勢いに乗って、ここぞとばかり、「そのとおりだ。だから、こうしろ、ああしろ」と指示・命令になってしまうパターンが多い。

 相手がうまくいかなかったことを答えたとき、それに対して言いたいことがあっても、その場面ではぐっとこらえて、次の「改善したいことは?」の質問に移行することがポイントだ。ぐっとこらえる反復演習を数回すれば、その行動が身につくものだ。

 3つ目の落とし穴は、「改善したいことは?」という質問に相手が答えた直後だ。「これを改善したい」「あれを改善したい」と相手が答えた勢いに乗って、ここぞとばかり、「いつまで、こうしろ、ああしろ」と指示・命令のパターンにそこから移行してしまう。その落とし穴に陥らないように、これもぐっとこらえて「サポートを得たいことは?」の質問につなげると、相手を巻き込む質問が繰り出せるようになる。

 指示・命令したいことは、そこまで5つの質問を繰り出したあとに伝えれば、相手を巻き込むことの効果も発揮でき、なおかつ、指示・命令の効き目も高まる。相手を巻き込めるかどうかは、実は繰り出すフレーズの単なる順番の問題なのだ。

◆部下が萎縮しないよう自制を

 質問:「どのように改善したいですか?」という質問の繰り出し方

 「どのように改善したいですか?」の質問は、具体的にどのように繰り出せばよいのでしょうか?

 回答:改善点を指示したくなる気持ちを抑えて質問する

 「うまくいかなかったことは何ですか?」という質問に答えてもらったあとに、改善したいことを聞きます。うまくいかなかったことを聞くと、上司としては、つい「こうしろ」「ああしろ」と改善点の指示をしたくなるものです。そのまま改善点の指示をしてしまうと、結局、トップダウンの指示になってしまいます。上司として答えを持っていたとしても、あえて質問して部下の口から答えてもらうのです。

●「どのように改善したいですか?」の質問例

1)それを、どのように改善したいですか?

2)うまくいったことをさらにうまくいかせ、うまくいかなかったことを克服するために、どのようなことをしたいですか?

3)努力されたのですね。壁を乗り越えるためにはどうしたいですか?

 上記3つの質問例の中で、1番目のように改善したいことを質問されると「また、詰められるのではないか」と、抵抗感を覚える部下もいると思います。2番目、3番目の例は抵抗感を和らげる表現例です。

【山口博[連載コラム・分解スキル・反復演習が人生を変える]第177回】

<文/山口博>

【山口博】

(やまぐち・ひろし)

モチベーションファクター株式会社代表取締役。国内外企業の人材開発・人事部長歴任後、PwC/KPMGコンサルティング各ディレクターを経て、現職。近著に『チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社新書)、『クライアントを惹き付けるモチベーションファクター・トレーニング』(きんざい)、『99%の人が気づいていないビジネス力アップの基本100』(講談社+α新書)、『ビジネススキル急上昇日めくりドリル』(扶桑社)がある

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