震災や原発事故は「過去」ではない。原発事故に翻弄された飯舘村を描いたドキュメンタリーの続編、公開へ

震災や原発事故は「過去」ではない。原発事故に翻弄された飯舘村を描いたドキュメンタリーの続編、公開へ

震災や原発事故は「過去」ではない。原発事故に翻弄された飯舘村を描いたドキュメンタリーの続編、公開への画像

 2月29日からポレポレ東中野で、映画『サマショール 〜遺言 第六章〜』(監督=豊田直巳・野田雅也)が初公開される。

 2011年の福島第一原子力発電所の事故で村民が避難した福島県飯舘村の住民に密着したドキュメンタリーで、『遺言〜原発さえなければ』(2013年製作)の続編。前作が5章立て(3時間45分)の超大作だったため、本作は作品としては2作目ながら「第六章」にあたる。上映時間は1時間53分。

◆原発事故に翻弄された飯舘村

http://youtu.be/vKXW5ykJY6c

 飯舘村は福島第一原発から約40キロ。浪江町や大熊町などと比べて遠いものの、事故直後の風向きの影響などから汚染がひどく、全村民が避難した。2017年3月に「避難指示」が解除され、帰村が可能となっている。

 豊田・野田両監督は、原発事故直後から村民に密着。前作とあわせ10年にわたる長期取材を行なってきた。本作は、そのうち2013年製作の前作以降、避難指示解除の前後をまたいだ現在までの記録だ。

 前作と同様に本作も、「反原発」を訴える内容ではない。活動家の記録でもない。原発事故後の農村の風景、人々の避難生活や帰村後の生活、その間の状況の変化や人々の葛藤を、黙々と映し出している。

◆チェルノブイリの「現在」を見た飯舘村の人々は……

 住民による東電への申し入れ、専門家による空間線量の調査、住民が自主的に行なう土や植物などに含まれる放射性物質の測定、無人になった自宅の手入れなどに戻る一時帰宅の様子、避難指示解除をめぐる村民と村長との話し合い、避難指示解除後の農作業、村民の自宅で監督自身が酒を酌み交わしながら語らう様子。村民が、チェルノブイリ原子力発電所の事故で廃墟となったプリピャチの町を訪れ、飯舘村の数十年後に思いを馳せる場面もある。

 チェルノブイリ周辺30キロ圏内は現在も立ち入り禁止だが、そこには複数の村や集落がある。中には自らの意思で村に戻り、現在も住み続けている老人たちがいる。ウクライナ語で「サマショール(自主帰還者)」と呼ばれる。本作のタイトルとなっている言葉だ。

「チェルノブイリに行くまでは、俺は(飯舘村に)帰ると思っていた。でもチェルノブイリを見て考えてね……。でも帰る」

◆帰村か避難継続か、迫られる村民

 記録の中心となっているのは、飯舘村の元酪農家、長谷川健一さん・花子さん夫妻だ。前作で酪農を廃業。今作では帰村してそば栽培を開始する。

 畑を汚染土の仮置場として貸したり、帰村して農業を続けたりすれば国などからカネが出る。帰村しなければカネは出ない。畑などの土地を持たない村民・元村民にも金は出ない。飯舘村の線量が安全か危険かという単純な話ではなく、様々な事情との兼ね合いで村民たちは帰村か避難継続(村外への移住)かの判断を迫られる。

 2020年1月時点で、帰村した村民は避難時の3分の1に満たない。帰村して農作業をするにも、用水路の手入れなどが必要だ。用水路は、帰村しない村民が持っていた畑も通過する。以前は共同で維持してきたが、今後は帰村した村民だけでやらなければならない。

「子供には戻ってこいとは言えない」

「遊びにもこないと思う」

「(自分の子供が)、生まれたばかりの子供を連れて遊びに来ると言ってたけど、ちょっと考えろと言ったら来なかった」

 家族の間にも距離ができてしまう。

 こうした一つ一つの事情、出来事とともに、その時点その時点での、人々の行動や言葉が記録され、「放射能」が人々の生活や心に重くのしかかっている様がありありとわかる。美しい農村風景が映し出されるシーンですら、そこにある「見えない怪物」の存在を意識させられる。

 起伏のない静かな作品だが、時間の流れを追体験させられるためか、冗長さを感じない。むしろその静かさが、問題の根深さや複雑さ、当事者の苦しみや悲しみを際立たせている。

◆震災と原発事故は決して「過去」ではない

 今年は東京オリンピック・パラリンピックが開催される。招致の際に安倍晋三首相は福島第一原発の問題について「アンダー・コントロール(管理下にある)」と語り、安全性をアピールしたと報じられた。今年に入って政府は東日本大震災について、政府主催の追悼式を来年までとする方向で検討に入ったことを発表した。

 震災と原発事故を過去のものであるかのように扱う日本。一方で本作は、そんな日本における飯舘村の現実を突きつける。

 にもかかわらず作品そのものは、主義主張や善悪などの評価の提示を目指さず、またインタビューという形式に依存せず、現実を映すことに徹したストレートな作りだ。長期にわたる密着取材のなせる業だろう。

 良質なドキュメンタリーに触れるという意味でも、前作(DVDあり)と合わせて多くの人に観てもらいたい。

 ポレポレ東中野では、2月29日の公開日から3月11日まで、毎日1回、上映後のトークショーも開催される。

<文/藤倉善郎>

【藤倉善郎】

ふじくらよしろう●やや日刊カルト新聞総裁兼刑事被告人 Twitter ID:@daily_cult4。1974年、東京生まれ。北海道大学文学部中退。在学中から「北海道大学新聞会」で自己啓発セミナーを取材し、中退後、東京でフリーライターとしてカルト問題のほか、チベット問題やチェルノブイリ・福島第一両原発事故の現場を取材。ライター活動と並行して2009年からニュースサイト「やや日刊カルト新聞」(記者9名)を開設し、主筆として活動。著書に『「カルト宗教」取材したらこうだった』(宝島社新書)

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