「子どもの叫び声を聞くと死にたくなる」……子育ての愚痴を言える自由

「子どもの叫び声を聞くと死にたくなる」……子育ての愚痴を言える自由

起きたから寝るときまで常にどちらかの泣き声が聞こえている状況では、親も愚痴をこぼしたくなるものだ

 33歳独身の筆者が、欧州ポーランドの子育て事情をレポートする本記事。前回に引き続き、2歳と0歳、2人の男の子を育てている義妹(29歳)に最新の育休制度や日本との違いを尋ねた。

◆育休後の仕事復帰も支援

 小泉環境相の育休が注目されている日本だが、こうしたことが話題になること自体、ヨーロッパでは考えられないようだ。ポーランドでの育休制度は次のとおり。

「育休は一年で、片方がフルに使った場合、もう片方は2週間をその一年のうちいつでも好きなときに取れる。フルに使わない場合は、夫婦で半年ずつ取ることもできる。親の仕事や収入、家族からの支援で割り当てることができるから、すごくいいと思う」

 では、育休を取ったはいいものの、仕事に復帰することができないという問題はないのだろうか?

「実は私がちょうど妊娠中に仕事の契約期間が切れたの。ただ、上司は口頭でだけど『必ず仕事に戻れる』と約束してくれて、実際にそうなった。ポーランドでも育休制度が浸透し始めた当初は、就職してすぐ妊娠して周りから文句を言われるみたいなこともあったけど、基本的に妊娠中はクビにできない。あと育休が終わる人向けのプログラムもたくさんあって、国が職場復帰とか再就職を手伝ってくれる」

 育休は取れるが、同じポストに就けない。取ったきりで仕事に戻れないのでは、利用する人が増えるはずもない。育休を使う/使わない以前に、まずは職場環境を国全体が整備していくべきだろう。

◆「育メン」がありえないワケ

 ただ、こうした夫婦の割り当てや育休事情について、文化的な違いがあることにも理解を示した。

「日本だと子どもが寝る20〜21時にはまだ会社って人も多いだろうし、通勤時間も長いでしょ。ポーランドではだいたい16〜18時ごろに仕事が終わるから、そこもちょっと違う。あと親が仕事よりも子どもの世話をしようって意識が強いこともあると思う」

 日本では男女の育児に携わる分量にまだ開きがあるように思えるが、「育メン」についてはどう思うのか。

「えっ、だって親でしょ? それは当たり前のことじゃん。育児は父親か母親、どちらかがするものじゃないし。ポーランドでは母親の収入のほうが多ければ、父親が一年間育休を取って専業主夫になるケースも普通だよ。男性の育児についても、“意識高い系”みたいな扱いじゃなくて、男女どちらからも敬意を持って見られる。昔は男性が子育てに専念することが少しタブー視されていたけど、今はそんな言葉が生まれるような環境がない」

◆愚痴を言えるのが健全な環境

 最後になるが、筆者がもっとも違いを感じたのは、育児について両親が自由に愚痴を吐いていることだ。それも「疲れる……」という素直な感想だけでなく、家族や友人の前でラッパー並みの強烈なディスを放つことが当たり前なのである。下記は筆者が耳にしたものの一例だ。

「(授乳期間中でお酒を飲めないが)今キンキンに冷えたビールを飲むためなら、人を殺せる」

「(こめかみに指を当てながら)『ママ〜!』って叫び声を聞くと死にたくなる」

「ハリーポッターに出てくる吸魂鬼みたいに、子どもと過ごすと生命力を奪われる」

「朝から晩までずっと一緒だと気が狂いそう」

 こうした言葉はネガティブなようにも思えるが、こういった正直な気持ちを周囲とシェアできる環境も、育児に疲弊した両親には大事なようだ。

「母親が2人揃えばすぐ愚痴を言ったり、子育ての意見を交換できる。それは家族間でも同じで、周りの顔色を伺わなくてすむのはすごく助かる。こうやって文句を言っても、家族や知り合いから『子供の面倒を見るから、2人でご飯を食べておいでよ』と申し出てくれるから、本当にありがたい。ポーランドでも核家族化が進んでいるけど、家族や周りの人が一番最初の助けになってくれることが文化的に根づいている」

 公共機関による金銭やインフラ面での支援はもちろん、周囲が悩みを聞いたり、わずかな間でも面倒を見ることによって、育児環境は大きく変わってくる。

 「自分が生んだ以上、育てるのは親の責任」と自己責任論を主張するのは簡単だが、そうした姿勢はひとつひとつの家庭に対しても、社会全体に対しても無益だ。

「子連れや子どもをヘイトする奴はいつでも出てくるから、助け合うことのほうが大事だと思う。愚痴をこぼしたり、周りに迷惑をかけた人をすぐリンチするのは病気。親としては、ただ愚痴を聞いて共感してくれるだけでも助けになる」

◆小さな共感が大きな力に

 日本は、まだまだ育児環境に対して親が大きな声で愚痴や文句を言える状況にあるとは言えないだろう。それは一人一人の意識もそうだが、社会全体の舵取りにも理由がありそうだ。

「共同体とか公共団体がしっかりサポートしていないから、親や子どもに対して厳しい人が多いのかもしれないね。社会全体が『母親は黙って子育てしろ』って論調なら、黙っているのも仕方ない。堂々と愚痴を言えないのは、そういうワケがあるのかも。個人レベルだと、『子どものせいでなかなか寝れなくて大変だね』とか、『人前で騒いじゃって疲れるよね』とか、少し共感してくれるだけでも、すごく力になる」

 今まさに泣きわめく次男をあやしながら、本稿を執筆している筆者。これを毎日繰り返し、付きっきりで子育てをしつつ、その悩みを誰にも話せない。さらに愚痴をこぼせば後ろ指を指されると考えただけで気が滅入ってしまう。

 子どもたちの泣き声に寛容で、親たちの愚痴にも聞く耳を持つ社会……。それは騒がしいようでいて、実は穏やかなのかもしれない。

<取材・文/林 泰人>

【林泰人】

ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン

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