街場の経済は青息吐息。「新型肺炎」恐慌は起こり得るのか?

街場の経済は青息吐息。「新型肺炎」恐慌は起こり得るのか?

新型肺炎の影響で2月25日の日経平均株価は一時、1000円以上下落した。この下げ幅は’18年12月25日以来。さらに28日にも1000円以上下げた 写真/時事通信社

 中国・武漢で発生した新型肺炎は今や完全に「国内問題」になった。東京五輪の中止も叫ばれるなか、すでに日本経済は大打撃を受けていた。各業界への影響と現場の悲鳴をリポート!

◆観光以外でも影響は甚大!倒産や廃業が相次ぐのか

 新型肺炎の感染拡大は、人々の健康だけでなく経済をも蝕み始めている。国際民間航空機関の試算(2月13日)では、感染拡大による中国からの旅客の減少により、日本の観光業界は’20年第1四半期だけで約1兆4200億円の減収となると見込まれている。

 すでに新型肺炎関連で倒産も出ている。東京商工リサーチによると、2月25日に愛知県蒲郡市の旅館が破産申請したという。中国からの団体ツアーのキャンセルが相次いだことが原因だった。

 日本旅館協会の佐藤英之専務理事もこう明かす。

「春節シーズンに中国からの団体客が完全にストップしたことの影響はかなり大きかった。関西のある地域では、1月末から2月にかけての予約件数が前年比で2割以下に減少。日本人の間でも中国人客と同じ宿に泊まることを避ける動きがあり、致命的な状況です。例年だと花見客の予約が増える時期ですが今年は予約も低調で、京都などでは、修学旅行のキャンセルが相次いでいます。宿泊料金も下げざるを得ず、資金繰りに行き詰まる事業者も出てくるでしょう。政府から緊急融資などの対策を出してもらってはいるが、このままの状況が続くと相当厳しい」

 一方、アパホテルを展開するアパグループの広報担当者も「都心部では稼働率はほぼ100%を維持」としながらも、客室単価が下落していることを認めた。

 ホテル不足を補う存在として注目を集めた民泊も大打撃をこうむっている。都心に3つの民泊物件を持つ40代の女性は青息吐息だ。

「昨年の春節期間は、駒込駅徒歩8分の20uの8部屋を1泊2万5000円に設定したのに、全室満室でした。でも、今年は宿泊料を3分の1に下げても、期間中は10泊分しか予約が入っていない。購入費とリノベーションのために13年ローンで3000万円を借り入れたのに、月々20万円ずつの返済も滞りそう。稼働率40%を下回ると厳しく、東京五輪が行われても、当初想定されたほどの訪日客は見込めないでしょうし、撤退も視野に入れています」

 民泊撤退の動きはすでに広がっており、地域掲示板「ジモティ」には2月に入ってから、民泊の営業権の譲渡先を募集する書き込みが急増。なかには「無料」というものもあったほどだ。

 負の影響は、旅行会社にも波及している。都内のインバウンド旅行会社の経営者(60代)は言う。

「1月末に中国政府が海外への団体旅行を禁止して以降、収入はゼロ。4台のバスのリース料とドライバー、ツアーガイドの給与は支払わなければならない。1か月で450万円の赤字です。直前にキャンセルされたものの一部は、発注元の中国の旅行会社が補償するべきですが、まったく連絡が取れていない。この状況があと2か月も続けばウチは倒産です」

 ちなみにこの経営者によると、ツアーバスが立ち寄っていた静岡県内の土産物店から、廃業を知らせる連絡があったばかりだという。

 中国人団体ツアーも頻繁に立ち寄る大阪・ミナミの黒門市場の関係者もこう話す。

「立ち食いスタイルで海鮮を提供していた店で、春節に合わせてタラバガニやフグを大量注文していたところは、60万円以上の海鮮を廃棄処分にしたそうです」

 平日の午後3時、かつては中国人観光客でにぎわっていた銀座三越の免税フロアを訪れてみたところ、客はわずか2人だった。

「資生堂やカネボウなどは中国人向けに高価格帯の商品を出しているんですが、それらが全然売れない。これは相当ヤバいですよ」(別の百貨店の美容部員)

 自粛ムードは、飲食店にも広がっている。江東区で30年続く居酒屋の店主は話す。

「ウチはお客の半分以上が、近所にある上場企業の社員さんだった。しかしその企業が、先週から社員に飲み会の禁止を通達したとのことで、一気に閑古鳥が鳴く状態になってしまった。これからの時期は歓送迎会の季節なのに、早く終息してもらわないと商売あがったりですよ」

 都内の居酒屋チェーンの店長もこう嘆く。

「2月の売り上げは通常の半分以下。最大の理由は、ホールスタッフがみんな、中国人を含むアジア系だから。入店してアジア系のスタッフが接客したとたんに逃げるように帰る客もいます。かといって日本人の代替スタッフを探すのは無理なので、もう諦めています」

◆風俗では客も嬢もいなくなった!?

 一方、インバウンド関連だけでなく国内の自粛ムードも深刻な影響を与えている。

 大手旅行代理店の社員が明かす。

「ちょうど卒業旅行のシーズンで、業界にとって書き入れ時なのに、ツアー商品は前年比で4割以上ダウンしている。アジア以外への旅行も敬遠されている印象で、感染リスクだけでなく欧米でのアジア人差別を心配している人も多い」

 夜の街への影響はどうだろう?「歌舞伎町案内人」こと作家の李小牧氏はこう証言する。

「新宿・歌舞伎町では接待や会合が減って、キャバクラやガールズバーで客が激減しています。風俗も濃厚接触を嫌がって客が減り、かつ風俗嬢も感染リスクを警戒して出勤しないコが増えている。客側としては、万が一感染したら、行動経路をトレースされるので風俗に行ったことがバレてしまう。誰も行く気はしないでしょう」

 横浜でデリヘルドライバーを務める男性も「客の数は3分の1に減った」と言い、風俗業界も各地で苦戦を強いられているようだ。

 集客減にあえぐ声は、映画館やパチンコ店などのレジャー業界からも漏れ聞こえてくるが、桁違いの損失となりそうなのはイベント業界だ。政府がスポーツ・文化イベントの開催中止・延期を要請したことで、騒然としている。

 イベントの照明・音響設備を担う企業の関係者はこう明かす。

「ウチは月平均で1000万円ほどの売り上げがあったんですが、しばらくは無収入になりそう。夏まで続くと廃業ですね……」

 トークライブハウス「LOFT 9 Shibuya」の松丸彰氏も「直近でいくつかイベント中止や延期のご相談があり、対応に追われています。終息の見通しもつかない状況のため、今後どうなっていくのかと不安」と話す。

 消費増税と暖冬で昨年の第4四半期は年率換算で6.3%のマイナス成長となった日本。経済がさらに冷え込んで自殺者が増えたのでは、笑い話にもならない。

◆最悪シナリオは米国での感染拡大!

「まだまだ序の口の段階」

 新型肺炎が経済へ与える悪影響についてこう話すのは経済評論家の加谷珪一氏だ。

「’03年に発生したSARSは、終息まで約8か月かかりましたが、その間に香港ハンセン指数は15%、ダウ平均は11%、そして日経平均も18%下落しました。しかも、日本経済の基礎体力は当時より今のほうが低い。今後は外食産業や小売業、製造業まで不況の波が波及していくでしょう。また、アメリカがくしゃみをすれば日本は大風邪をひくと言われますが、今後、米国で感染が広がれば、日本経済はどん底にまで冷え込む可能性もある」

 日本は2四半期連続で経済成長率がマイナスを記録する、テクニカルリセッションに入ることはほぼ確実だと加谷氏は見ている。

 一方で、やや楽観的な見方をしているのはマーケットアナリストの藤本誠之氏だ。

「現在の縮小ムードは一時的なもので、感染者数の増加ペースが低下すれば、人々も冷静さを取り戻し消費も戻ってくるはず。’11年の東日本大震災では、目に見えない放射能への不安によって外国人観光客がなかなか戻ってこなかったが、今回は感染拡大が食い止められればすぐに戻ってくる」

 藤本氏はまた、一部で囁かれる日経平均2万円割れは「ありえない」と一蹴。五輪中止という最悪のシナリオについてもこう話す。

「東京五輪がたとえ中止されても、日本経済にとってそれほどの損失にはならない。五輪の景気刺激効果は、箱モノ建設などによるものがほとんどで、その意味ではもう役割を終えている。五輪目当ての観光客が2週間の間に落とすお金に、大した経済効果はない」

 われわれの生活に影響が出ないことを祈るばかりだ。

【経済評論家・加谷珪一氏】

日経BP社、投資ファンド運用会社を経て独立。テレビ・連載などで活躍中。近著に『日本はもはや「後進国」』(秀和システム)など

【マーケットアナリスト・藤本誠之氏】

複数の証券会社を経て、財産ネット企業調査部長。著書に『週55分で、毎週5万円儲ける株』(明日香出版社)などがある

取材・文/奥窪優木 広瀬大介 大橋史彦 アズマカン 写真/時事通信社

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