新型コロナ禍の中、重視される「咳エチケット」。喘息持ちや花粉症の人は困惑も

新型コロナ禍の中、重視される「咳エチケット」。喘息持ちや花粉症の人は困惑も

手で塞いでしまうと手にウイルスが付着し、感染を拡大してしまうから要注意! asaya / PIXTA(ピクスタ)

 今春は、例年ならば気にならない他人の咳やくしゃみが、やたらと大きく聞こえてくるという人も少なくないだろう。

 実際、福岡県の地下鉄車内や都内の山手線で客の咳に関するトラブルが相次いだり、カフェや職場などでも「音」のするほうに多くの視線が向かったりするなどの現象に鑑みると、世間が「他人の健康状態」にピリピリしていることは間違いない。

 言うまでもないが、その原因は「新型肺炎」の感染拡大によるものだ。

 新型肺炎が国内で広がりを見せるに伴い、「咳エチケット」という言葉をよく耳にするようになった。

◆くしゃみで飛散するウィルスは200万個

「咳やくしゃみを人に向けて発しないようにする配慮」といった意味の言葉だが、今回の新型肺炎の騒動では、この「マナー大国」と言われる日本においても、咳エチケットができていないという声が多いことに気付かされる。

 自治医科大学附属さいたま医療センターのウェブサイトによれば、風邪やインフルエンザ患者が1回の咳で放出するウイルスは、約10万個。くしゃみにおいては約200万個にもなるという。(参照:自治医科大さいたま医療センター)

 また、厚生労働省が提供する動画では、「咳やくしゃみのしぶきは約2m飛ぶ」とされており、「マスクをすれば感染している人からの感染リスクをかなり減らせる」と、マスク着用の重要性を訴えている。

◆WHOの「マスク不要」呼びかけが物議

 ところが、こうした国内データがある中で、先日WHOからは「感染予防にマスク着用は不要」、「過度なマスク使用を控えて」といった呼びかけが出され、日本中で物議を醸した。(参照:共同通信)

 共同通信が報じたところによると、WHOは、咳やくしゃみといった症状がない人は予防目的で学校や駅、商業施設など公共の場でマスクを着用する必要はないとして、供給不足に拍車を掛けないためにも過度の使用を控えるよう求めたという。

 これを受け、マナーのためにマスクを装着する人も多い日本国内からは反発の声が続出。SNS上では、

「WHOが何言おうが、マスクするしないは自分で決めるわ」

「マスクに感染防御の機能が全くなければ、医療機関でも誰も使わない」

「WHO、マスク外して発表やり直しなさいな」

 

といった声の他に、

「日本人がどうしてマスクをしているか知らない人たちの戯言」

「マスクをする行為を否定とか馬鹿なの?感染するリスク回避と、周りに感染させないようするエチケットでマスクは必要」

といった「咳エチケット」にまつわる意見も多かった。

◆マスクをして咳をしても、ウィルスは飛び散る

 ただその一方で、マスクにおいては、意味のない付け方をする人や、「マスクを過信しすぎだ」とする声も少なくない。

 マスクは長時間装着するとどうしてもズレたり息苦しさを感じたりする。が、鼻をまるごと出して装着しては意味がないし、着脱を繰り返せば飛沫やウイルスはその効果は半減する。

 また、よく目にするのが、マスクをしているからと堂々と真正面を向いて咳やくしゃみをする人たちの姿だ。

 前出の厚労省の動画でも分かる通り、マスクは飛沫やウイルスを「完全遮断」するものでも、咳やくしゃみ時の免罪符でもない。

 精神面ではコロナに負けず上を向いて歩こうと言いたいところだが、咳やくしゃみをする時だけは、「どうか下を向いてほしい」と個人的にも思うところだ。

◆「くしゃみは片腕で抑える」が国際標準

 余談だが欧米人には、日本人の「くしゃみ時にマスクの上から手で口を押さえる姿」が本末転倒な光景に映るという。

 彼らがマスクをあまりしないのは有名な話だが、くしゃみをする場合も、日本人のように手の平では抑えず、片腕に顔を埋めるようにする。抑えた手にウイルスが付着しないようにするためだ。

 以前日本語を教えていた欧米人駐在員の1人が、「マスクの最もリスキーな部分を抑えてくしゃみをした5分後、別れ際の握手のために差し出された手は、マナーでもなんでもない」と言っていたのを思い出す。

 ちなみに、厚生労働省のウェブサイトでは、口を手で押さえる“日本式”ではなく、この“欧米式”が「正しい咳エチケット」として紹介されている。

◆喘息の人は咳を抑えられない

 こうした中、SNSでは「新型肺炎が広まる状況下、咳やくしゃみが出るならば外出しないでほしい」という声も度々見受けられるが、それはあまりにも極端な考えだろう。

 とりわけ春は「花粉症」の季節でもある。くしゃみや鼻水といった症状は、風邪引きや新型肺炎感染者でなくとも、どうしても抑えることができない。

 また、花粉症以外にも「自分も肩身の狭い思いをしている」と訴える人たちがいる。

 「喘息(ぜんそく)」の持ち主たちだ。

 喘息の主な症状は「咳」。

 通年連続した深い咳が出てしまう彼らにとって、「咳エチケット」は大きな課題で、時には“重症患者”に見られることもあるようで、実際、筆者の周囲にいる喘息持ちからは、

「この春ほど咳がしにくいと思ったことはない」

「咳をするとあからさまに嫌な顔をされる。電車の中やエレベーターでは、なるべく咳が出ないようにこらえている」

 といった声が聞こえてくる。

 さらにSNSでは、

「喘息の人がマスクに書いたという”この咳は喘息です、不快にさせてごめんなさい”(内容少し違うかも汗マーク)

ニュースを見て涙…喘息はただでさえ辛い/なのに喘息の咳で嫌な顔をされるなんて本当に悲しい/早くコロナ終息して!!」(原文ママ)

「咳しただけでコロナ。くしゃみしただけでコロナ。罵声浴びせ睨んでちょっと過剰に反応しすぎじゃないかとニュースを観て思った。もしかしたらその中には喘息持ちの方もいれば花粉症持ちの方も居るかもしれない。もし自分がその立場になった時同じことされたらきっと嫌だと思う…」(原文ママ)

「コロナでもインフルでも重症化しやすいのにマスクは買えず感染の危機に脅かされ、発作で咳するだけでマスクしていても白い目で見られたり避けられたり怒られたりし、とうとう治療薬まで奪われそうな喘息患者、人権なさすぎでは?」

という投稿も見られた。

◆過敏になりすぎず、最低限の配慮を

 そんな中、喘息持ちの人たちの間でにわかに注目を浴びるのが、喘息マークが施された「缶バッジ」だ。

 大きさや絵柄、表現には様々なパターンがあるが、「ぜんそくです うつりません」などと書かれたバッジは、「うつさない咳もあるということを周囲に知ってもらえる」と、頻繁に深く咳込む喘息持ちの人たちの間でにわかに注目を集めており、精神的ストレスを軽減できると評判がいい。

 ただこの時世においては、その「症状」が新型肺炎なのか風邪なのか、花粉症なのか、はたまた喘息によるものなのかは自分自身でも判別がつかないこともある。

 PCR検査が未だ簡単に受けられず、感染しても無症状の期間もあるため、「この咳はうつらない」という決めつけもまた禁物ではあるが、自分が喘息持ちであることを知らせる上では有効なサインだと言えるだろう。

 他人と距離を保ちながらもマナーは守ろうとする日本の習慣が生んだ「咳エチケット」。過敏になりすぎる必要はないかもしれないが、簡単にできるマナーや最低限の配慮は、1人ひとりが持っていて全く損はない。

<文/橋本愛喜>

【橋本愛喜】

フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働環境問題、ジェンダー、災害対策、文化差異などを中心に執筆。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『トラックドライバーにも言わせて』 @AikiHashimoto

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