北朝鮮で留学生が受ける教育内容とは? 作文に「ドワーフ」と書いて赤点!?<アレックの朝鮮回顧録6>

北朝鮮で留学生が受ける教育内容とは? 作文に「ドワーフ」と書いて赤点!?<アレックの朝鮮回顧録6>

留学生が授業を受ける、金日成総合大学3号舎の内部

◆金日成総合大学3号舎7階での記憶

 “想像力豊かな”国家安全保衛省は、私をスパイに仕立て上げたが、私が北朝鮮に留学した本来の意図はもちろん学業のためだった。私は長い間、北朝鮮の小説文学に関心を持っていたし、金日成総合大学でそれを専攻することを夢のように思いとても期待していた。

 留学生が現地人の学生たちとともに授業を受けるのは許されないが(これはもちろん、留学生たちの“ブルジョワ思想”の浸透を遮断するためである)、受ける教育は現地の学生と同じく革命的である。

 金日成総合大学の留学生の教室は、明らかに違う文化が交流する場所でもある。留学生の講座を行う金日成総合大学3号舎7階の留学生たち自体は、さまざまな国から来ており、外国人と朝鮮人の二分法、つまり金日成総合大学の教員と留学生の違いが浮き彫りになる現場でもあった。

 我々の教員はほとんどが情が深く、愛すべき人々であった。我々留学生の朝鮮に対する唯一、幸せな記憶は彼らと話をし、冗談を言い合い授業の内容だけでなく違いに対し教育する過程で形作られた。

 私は今回の記事で、留学生たちの授業と教員ついて綴ろうと思う。

◆例文はすべて社会主義のスローガン

 朝鮮語文法は本科の必須科目である。ここでは連結詞、終結詞、格助詞など文法的構造要素について習う。

 先生は黒板に文章を一つ書く。学生たちはその文章の文法を解析し、各部分を指し示さなければならない。何が名詞で、動詞で形容詞か、どこが格助詞であり、どんな助詞を使うべきかというようにだ。先生はチョークをざらついた表面に滑らせ、黒板の片側に立つ。そうして書かれた文章は以下のとおりである。

「社会主義を守れば勝利である、捨てれば死である」

「社会主義を守らん」という朝鮮の歌の歌詞である。朝鮮語文法や講読の授業の例文やテストはほとんどがこのように“革命的”である。

 社会主義に関心のない留学生は、あくびをしながら問題を解く。

 また、留学生に対し漢文の授業は現在、行なっていないが我々は2014年に出版された留学生用教科書を別途購入した。

 漢文といえば「有朋自遠方來,不亦樂乎」といった孔子、孟子、壮子などの言葉を難解な中国語古文で読むことと思われる。しかしこの教科書に載っている漢文は古代の賢人の教えではなく、朝鮮労働党機関紙である労働新聞の政論のテストのような内容であった。

 以下、原文を載せる。

第二十九課. ???? 美國式生活樣式

偉大? 領導者 金正日同志??? 美國式生活樣式? 本質的特?? ????? 極度? 個人主義? 利己主義? 基礎? ?金萬能主義, 詐欺? 挾雜, 悖論? 悖コ, 人間憎惡心, 野獸性? 野蠻性??? ??????.

(第二十九課 腐り切った米国式生活様式

偉大なる領導者金正日同志は米国式生活様式の本質的特徴とは極度の個人主義と利己主義に基づいた黄金万能主義、詐欺と挾雜、悖論と悖コ、人間憎悪心、野獣性と野蛮性であると教えられた)

 第29課はそのようにして始まった。

◆「朝鮮は退屈だ」を「朝鮮は素晴らしい」に書き換えられる

 朝鮮語作文も、本科必須科目である。留学生はこの授業において、先生が提示した幅広いテーマで作文を行わなければならない。

 その中で、「君たちの国の小説について書け」という問題があった。私の友人の韓国系カナダ人学生は妖精、ドラゴン、魔法などがあるハイファンタジーと『ダンジョンズ&ドラゴンズ』といったものにハマっていた(私も同じで、この共通の趣味があってこそ彼と親しくなった)。

 彼は先生に、カナダの小説は退屈だと言ったが先生は「ではトルストイの『戦争と平和』のような古典文学について書け」といった。カナダ系韓国人の彼はここに、彼の趣味であるトールキンの指輪物語について書いた。彼は宿題の中で、「指輪物語」のストーリーをぎゅっと縮めて「中つ国」「妖精」「ドワーフ」といった単語を細かく翻訳して説明した。

 宿題を見て先生は「指輪物語」など聞いたことがない、「ホビット」「ゴーレム」などという概念は話にならないと言った。結局韓国系カナダ人の彼は低い点数しかもらえなかった。

 また、他の宿題では「朝鮮での留学生活について書け」と言われた。ある中国人留学生はバカ正直に「朝鮮の生活は退屈だ」「平壌には遊ぶ場所がない」「留学生の宿舎ではお湯が出ない」などと書いた。

 宿題の返却時、先生は低い点数を与えつつ、内容を修正していた。

 「朝鮮の生活は退屈だ」を「朝鮮の生活は素晴らしい」、「平壌には遊ぶ場所がない」を「革命の首都平壌は元帥様の懐の元で幸せだ」、「留学生の宿舎ではお湯が出ない」を「留学生宿舎は万端の設備を備えている」などに書き換えられていたのだった。

◆国際援助を受けている事実を削除

 また私が聞いた話では、ある留学生が金正恩について書いた。特に批判的な内容でもなく、「私は金正恩元帥様を好きだが、仮説的にいうならば権力に制限がなく、万が一悪事を働いても誰も止めることができず、危険な状態になりうる」といった文章であった。金正恩は独裁者ではないが、北朝鮮の制度のせいで独裁者になりうるというものだった。

 先生は宿題を見て、他人に見せるな、燃やせと勧めた。領導者が悪となる可能性を考えることは許容されず想像もできないという、北朝鮮社会を表すエピソードである。

 スウェーデンの留学生も一度、「国際親善」というテーマについて書く宿題で、スウェーデンが北朝鮮に行っている開発援助を提起した。この援助資金は莫大で、北朝鮮経済の0.1%程度に相当する。返されてきた宿題ではこの事実が削除されており「スウェーデンの進歩的な人間も元帥様を天のごとく仰いでいる」といった内容に書き換えられていた。

 これが主体朝鮮である。他者の援助はいらず、仕方なく受ける際は感謝する必要もないのだ。

<文・写真/アレック・シグリー>

【アレック・シグリー】

Alek Sigley。オーストラリア国立大学アジア太平洋学科卒業。2012年に初めて北朝鮮を訪問。2016年にソウルに語学留学後、2018〜2019年に金日成総合大学・文学大学博士院留学生として北朝鮮の現代文学を研究。2019年6月25日、北朝鮮当局に拘束され、同7月4日に国外追放される。『僕のヒーローアカデミア』など日本のアニメを好む。Twitter:@AlekSigley

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