20年悩んだすきっ歯を、40分で解決したタイの歯科の衝撃

20年悩んだすきっ歯を、40分で解決したタイの歯科の衝撃

お目汚しで恐縮だが、筆者のすきっ歯治療のビフォー(左)とアフター。日本だと40万円で数週間かかると言われたのだが、タイでは40分でたったの9000円だった

 「このままではオレ、結婚できない」

 10年前の筆者はどうしようもない劣等感に苛まれていた。問題は「前歯」だった。生え変わった二本の間には、コメ一粒分位の隙間が空いていた。

 一度、渋谷の審美歯科へ相談に行ったこともある。診断は「前歯六本全てをべニア*にして、四十万円ですかね」

〈*歯を薄く削りその上に貼り付けて修復するためのセラミックなどでできた薄片〉

 四十万円も痛いが、まだ健康な前歯を削るというのが納得いかなかった。

◆ひょんなことから、サムイ島全ての歯科を回ることに

 そして10年前、筆者は初めてタイ・サムイ島へ行くことになった。バンコクで飛行機を乗り換えると、約一時間程度の距離である。

 空港に着くと、無料地図をもらうことができる。この「無料地図」により、筆者の人生は永遠に変わることとなる。

 誰かが広告費を払っているから地図を無料にできるわけだが、何気なく地図にある島の周りを見回すと、広告の半分以上が歯医者だった。一体これは何なのか。

 早速、筆者は聞き込みに入った。聞いた相手は、泊まった安宿のフランス人オーナー、日本料理店の店主、オーストラリア人の断食インストラクター、ドイツ人のスキューバダイビングインストラクター等である。

 タイにおいて歯科が重要な外貨獲得源となっており、タイの歯科が優れているのは実は世界的常識であることが判明した。筆者の胸は高鳴った。これなら乳歯が生え変わったときからずっと悩みだったすきっ歯も何とかできるのではないか。

 一日200バーツで借り出した原付に乗り、筆者は目に飛び込む歯科全てに入っていった。

 見立てはどこも同じだった。「すきっ歯の治療は可能です。歯形をとってそれをバンコクのラボに送り、ベニアを作って送り返してもらいます。期間は一週間ですね」

 問題はこの「一週間」だった。滞在は5日間で、すでに二日目だった。間に合わない。筆者は落胆しながら歯科を出るしかなかった。

◆たったの40分、3000バーツ(9000円)

 六軒目か七軒目だったろうか。入っていった歯科でいつも通り歯を見せた。すると、歯科医が「ああ、こんなの簡単ですよ。私なら40分で治せます」と断言した。当然こちらとしては、”How?”と聞くしかない。この医師は歯の模型を取り出した。

 「ここにピンクの素材が入っているでしょう。これがレジンです。要は歯の間にレジンを入れて真ん中を切り、歯の形に整えればいいのですよ。簡単な作業です」

 

 歯科医はやたら「簡単」を繰り返す。そこまで簡単なら次の質問は”How much?”しかない。

 「3000バーツですよ」

 さんぜんばーつ……2010年当時、1バーツは2.8円前後だった。3000×2.8は…つまり、日本円で9000円を切ってしまうのである。

 「や、や、や、やります!今すぐやります!お願いします!」筆者は絶叫した。

 「いや、今日はもう予約が入っておりますので無理ですね。明日の夕方なら空いていますが」

 「絶対来ます!」

 筆者は再び絶叫した。9000円なら、仮に失敗しても笑って済ませられるレベルだ。しかも、今までと違って歯を削る必要がない。こんなにいい話があるのだろうか。

◆待たずにその場で完璧な治療が!

 翌日夕方、スキューバダイビングを終えた筆者は再びこの歯科を訪れた。

 「では、麻酔を打ちますね」

 そして顔の上にタオルをかけられた。したがってその後の動きは見ていない。

 前歯の部分で何やら磨いていたり、こすっていたり、ときどき水を吹きかけたりという感触はあるのだが、実際には見ていないのでよくわからない。

 おそらくは一時間ほどたったころだろうか、この歯科医がタオルを取り外した。

 「出来上がったので、ご覧ください」

 「すごい!」 

 筆者は文字通り絶句した。

 あれほど悩みだった前歯の隙間が見事に消滅し、真っ白な歯が綺麗に揃っている。まだ麻酔がきいており、裏側が少々分厚すぎる気がしないでもないが、審美的には何の問題もない。分厚いものは微調整で削ればいいだけだ。

 「ああ、これでお婿さんに行ける」

 筆者は本気でそう思った。

 冒頭の写真が、実際のビフォアとアフターである。セラミックのベニアと比較すると数年で変色する可能性はあるらしいが、その時点では専門の歯科医や衛生士ならともかく、素人が一目見ただけではまずわからないレベルだ。

 歯を削って一か月以上待って40万円、歯を削らずにその場で加工して9000円、どちらがよいかは言うまでもない。

◆バンコクにはさらなる高度な治療体制が

 もうこれで、日本の歯科よりタイの歯科が優れているということについて、少なくとも筆者的には疑問の余地は全くなくなった。だが、時間的にも金銭的にも当時の筆者にとっては前歯を埋めることが限界だった。

 忘れてはならないのが、この治療を行ったのがタイはタイでも「サムイ島」であり「首都バンコク」ではなかったということだ。

 タイが日本以上の一極集中国家であることを筆者が実感するのはまだ後のことだが、大部分の国において一番優れたものが首都に集まるのは常識である。

 考えてみれば、大部分の歯科はどこも判で押したかのように「歯形をとって、バンコクへ空輸し……」と言っていた。つまり、バンコクには確実にこれ以上の歯科サービスが揃っているに違いないのだ。

 それにしても、である。例の「渋谷40万円クリニック」はなぜこのレジンによる「即席矯正」を教えてくれなかったのか。日本にもレジンを使用する審美歯科治療はあるはずなのに……。

 もし「40万円」を先に提示して筆者に「高いな」と思わせた直後に、「でもレジンなら今日のうちに治せます。六万円で」と説明されていたなら迷うことなく飛びついていたに違いない。営業が下手だった、としか言いようがない。

 歯を治すのはバンコクで決まりだ。何年後になるかわからないが、もう一度しっかり貯金してタイに戻ろう。そしてバンコクで完璧な歯を手に入れるのだ。筆者は固く決意した。

<文/タカ大丸>

【タカ大丸】

 ジャーナリスト、TVリポーター、英語同時通訳・スペイン語通訳者。ニューヨーク州立大学ポツダム校とテル・アヴィヴ大学で政治学を専攻。’10年10月のチリ鉱山落盤事故作業員救出の際にはスペイン語通訳として民放各局から依頼が殺到。2015年3月発売の『ジョコビッチの生まれ変わる食事』は15万部を突破し、現在新装版が発売。最新の訳書に「ナダル・ノート すべては訓練次第」(東邦出版)。10月に初の単著『貧困脱出マニュアル』(飛鳥新社)を上梓。 雑誌「月刊VOICE」「プレジデント」などで執筆するほか、テレビ朝日「たけしのTVタックル」「たけしの超常現象Xファイル」TBS「水曜日のダウンタウン」などテレビ出演も多数。

関連記事(外部サイト)