すべてを諦めさせられた韓国の若者が最後に縋ったもの。元信者に聞く、新型コロナ禍発信源となった新興宗教「新天地」の内情<2>

すべてを諦めさせられた韓国の若者が最後に縋ったもの。元信者に聞く、新型コロナ禍発信源となった新興宗教「新天地」の内情<2>

元「新天地」信者の若者たち。皆20代だ

◆「教団の外は地獄」が怖くて罰金払っても居続ける

 新天地を長年取材している韓国YTNニュースアンカーのピョン・サンウク氏は、オーマイニュースの取材に対し、同教団を「韓国社会の矛盾が集約されている場所」と指摘している。ピョン氏は、「若者が新天地に殺到する4つの理由」として、以下の4つの点を指摘した。

@自己効力感

A埋没費用の法則

Bトンネルビジョンの罠

C希少性モデル

である。(出典「Oh My News」)。

 これらは自己の能力を発揮できる満足感、支払った労力への執着、情報が限定されることによる視野狭窄、「自分は特別である」という優越感を指す。新天地は、若者たちのこうした欲求を満たしているのだという。

 各種報道では、信者は献金を要求されるとある。24歳の元信者も、このように語る。

 「1年間で新規信者を一人も獲得できなければ、罰金110万ウォン(約9万8000円)。払えなくてやめた人もいますが、大多数の人が払います。私も払いました。『天国である教団から一歩でも外に出たら、永遠の地獄が訪れる』と言われるので、怖くて罰金を払ってでも在籍しようとするんです」

 これも、埋没費用の法則に該当するだろう。

◆若者の好みを30年間研究し尽くしている新天地の勧誘手法

 新天地の勧誘手法は現在ほとんどが解析され対策されているが、未解明の部分もまだ多い。韓国基督教異端相談所や九里教会のウェブサイト、ほか元信者の発言などによると、おおよそ以下のパターンが明らかにされている(以下、既出情報を元に筆者が整理)。

・街頭アンケートを持ちかけ心理テストを行い、結果は後日伝えると言って繋がりを持つ

・各種セミナーや市民講座の形式を取って勧誘

・大韓イエス長老会など、他の教会の名を騙って接触

・社会人サークルや大学の同好会を通じて接触

・ネット上の映像や書き込みなどによる布教

・「神託があったから」などと言って接触

・妊娠、休職などで在宅中の人を訪問

・幼なじみや古い知人などの縁者に、偶然を装って接触

 接触の際は大手企業やマスコミ各社などの名刺を用いたり、有資格者など社会的信用のある人物を装う。そうして4〜5人、時には数十人体制で数ヶ月をかけてターゲットの身辺に入り込み、気づくと周囲の人脈がすべて新天地だったキムさん(前回登場)のようなケースもある。ターゲットの趣味趣向を把握し、それに合わせた催しやサークルを作って誘い出す。また、行きつけの教会の牧師が新天地に入信した場合、そこが新天地の拠点となってしまうのだという。

 奇しくも映画『パラサイト』を彷彿とさせる光景だ。

 「若者が好きそうな恋愛、就業、演劇、美術、音楽、スポーツなどによる勧誘方法を30年間研究し尽くしている。悩みが多い人へのメンタルケアも充実している」(前回登場のキムさん)

 そして頃合いを見て「聖書の勉強をしてみないか?」と誘い、各地にひっそりと設けられた「福音房」と呼ばれる小部屋で聖書の勉強をさせ、プライベートな悩み相談なども行って心理的に離れられなくする。その後、韓国内に1270か所ほどあると言われている通称「センター」で1日3時間ずつ週4日、6〜7ヶ月間さらなる聖書の学習が義務付けられる。これを修了し、上役に認められると晴れて正式な入信となる。

 入信まで負担が多いように見えるが、センターで詰め込み式教育をされる点が大きなポイントだ。努力を認められることにより、自己効力感が満たされるのである。

◆新型コロナがなくても、もとから不健康な環境だった

 新天地が韓国で新型コロナウィルスの感染源とされたことについては、「新天地の礼拝は人との間隔がめちゃくちゃ狭い上に、大声で『アーメン』を言ったり歌をうたうので飛沫感染もする。それに風邪を引いてもマスク着用は禁止されていて、いかに体調が悪くても入院するほどでなければ半強制的に出なければいけない。しかも、毎日です。コロナウィルスがなくても、もともと健康に悪い環境なんです」(22歳元信者)と話す。

 「ただ、信者にとっては新型コロナウィルスに感染するより、自分が新天地であるとバレるほうが怖いんです」(同)

 実際に新天地が不法占拠や脱税、その他派生事件を多々起こしていることに加え、学業放棄、家庭崩壊など社会的混乱をもたらしているという批判が尽きない。

 だが、いかに異端といえど、本人に実害がなければ、信教の自由は保証されるべきではないか。それについて、「日常に支障が出た」と話すのは、昨年の8月に脱会したパク・テフンさん(仮名・22歳)。入信期間は、1年8か月だった。

 「とにかく、自分の生活が何もできなくなるんです。礼拝は毎日義務付けられるし、大学が終わるとセンターに通うというあわただしい生活でした。すぐに、大学の勉強が疎かになり成績に響きました。新天地に入ると、このように成績が落ちていくケースが多い。あと、教団と関わる時間が長いほど俗世間と遮断されるから、友人と話が合わなくなったりもします」

 そんな彼の様子を見た行きつけの教会の人が牧師に伝え、牧師から親に伝わったのが脱会に繋がった。

◆サムソンに内定するも、新天地の活動のために辞退

 「教団では『カネや名誉を捨て、世俗から遠ざかるほど神に近づける』という旨を教えられる。『就職もするな』と言われます。サムソンに内定していたのに、新天地に専念するため辞退した26歳の男性もうちの教会にはいます。今は脱会して、再就職を目指していますが」という。

 ほとんどは、親やなじみの教会に気づかれることが脱会のきっかけとなる。一方、子供が新天地信者であることを認めようとしない親や、親自身が信者であるケースだと脱会は絶望的だという。親に入信させられた聴覚障害者が、教団の「障害者に対してまったく配慮がないシステム」に疑問を抱き自ら脱退するという例もあるが、あくまで特殊なケースだ。

 新天地に入っていることが親や周囲に知られると新天地側から出家を促されるため、親や介入者は短期決戦で連れ戻しに臨むことになる。前出のキムさんの両親はそのために仕事を辞め、キムさんの携帯を取り上げ外に出ないよう監視したという。

 出家をすると、共同生活をすることになる。前出のパクさんは在家信者だったが、一度だけ共同生活を体験したことがある。

 「中に入ると何もなくガランとしていて、朝から晩まで説法や聖書、伝道の上手いやり方などを学ばされます」

◆恋愛は禁止。ただし別れるのも禁止

 共同生活では、酒、タバコ、恋愛、カラオケなど世俗的なことは禁止される。

 「破ると警告を受け、3回受けるとしばらく謹慎を命じられます。特に恋愛は、26歳までは禁止(※27〜30歳までという説もあり)。別れたり三角関係になると活動に支障が出るからという理由です。こっそり付き合う人も中にはいますが、バレると集会のスクリーンで二人の顔がドーンと映し出されてしまう。でも、大体はバレます。晒されるくらいなら……と、バレる前に自己申告するカップルもいます」

 さらに不可解なことに、別れるのも禁止だとか。

 「理由はよくわかりませんが……別れて気まずくなっても宗教活動に支障をきたすから、付き合った以上は別れるなということなのだと思います」(同)

 教団内で仲が良かった人たちもいるが、「裏切り者」との連絡はご法度。3回警告を受けたら退会処分となるため、パクさんからの連絡に彼らが応じることはもうない。

 「彼らが気の毒で、心が痛い。直接話しても効果がないので、どうすることもできません」

 元信者らによると、「脱洗脳」が完了するまでの期間は「大体2〜3日」。

 期間には個人差があるだろうが、やけに短かい。筆者の目には、彼らは“洗脳”されていたのではなく、「より信じられる何か」を求めて迷走していたようにも思えてならない。

 教団に入ってしまう深いところの理由を、元信者らは「確かに社会への不満や、現実逃避があったと思う」と話す。

 「新天地が聖書どおり完成されれば、ここで栄華を極められるのだと思ってしまう。頑張れば教団内で格が上がるし、『福』がもたらされるのだと。それが具体的にはよくわからないんですけどね」(25歳元信者) 

◆若者に降りかかる、近代韓国の矛盾

 実際に、韓国の若者が直面している苦境は世界に類例がない。代表例が、未曾有の就職難だ。

 1997年のIMF危機を境に経済の低迷が続き、2000年からは青年失業率が上昇の一途を辿っている。原因は複合的だが、世界トップレベルの社会格差と、学歴による過当競争が挙げられる。

 昨今活躍する韓流スターの派手さとは裏腹に、韓国では「大学を出て、安定した良い職(大企業)に就く、または公務員になる」ことが一番の成功とされる向きが今だに強い。

 

 ただし、大企業は国内のわずか0.1%で、確実に就職できるのは上位数大学の卒業者のみというのが現実だ。

 そのため国内の7〜8割を占める大卒者の多くが中小企業に就職するか、非正規雇用の職に就く。ちなみに中小企業は、30代で年収300万円台がやっと。多くの若者が学業に費やした労力に見合わない収入に甘んじ、不平を募らせることになる。

 さらに韓国の賃貸制度では、家を借りる際に数十万円〜数百万円のデポジットが必要になるため、結婚も容易ではない。

 このような八方塞がりの中、韓国の若者は「恋愛、結婚、出産」の3つを放棄せざるをえない「3放世代」と呼ばれていたが、昨今はそこに「就職、家、夢、人間関係」を加え「7放世代」とされるようになった。

 そんな中、新天地が社会的に虐待を受けているといっても過言ではない、韓国の多くの若者のニーズを満たしたのは事実である。特にリーマン・ショック後の2009年から爆発的に信者数が伸びていることからも、その一端を窺うことができる。

 社会不安心理をどう鎮静化するのかも、韓国社会が直面する課題だといえる。

<取材・文/安宿緑>

【安宿緑】

ライター、編集、翻訳者。臨床心理大学院在学中。 韓国心理学会、韓国女性心理学会正会員。日本、韓国、北朝鮮など北東アジアの心理分析に取り組む。心理学的ニュース分析プロジェクト「Newsophia」

(現在準備中)に参加。ライター安宿緑のブログ

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