自動車期間工、面接で“反復横跳び”の屈辱。入寮して知った衝撃の事実「過去に殺人事件が……」

自動車期間工、面接で“反復横跳び”の屈辱。入寮して知った衝撃の事実「過去に殺人事件が……」

EFA36 / PIXTA(ピクスタ)

◆元商社マン、2回めの期間工就職へ

 大手商社や大手広告代理店の系列企業勤務のエリートサラリーマンから自動車期間工へと転職せざるを得なくなった山田啓二さん(42歳、仮名)。

 起業の失敗から日々の生活もままならくなっていた中、借金300万円を抱え、かつて務めた商社の系列自動車メーカーで期間工として3か月間勤務し、100万円は返済できたことは前回記事で紹介した。その劣悪な職場環境を小林多喜二のプロレタリア文学小説『蟹工船』から「現代の蟹工船」と評した山田さんだったが、残る借金200万円の返済のめどは立たず、再び期間工として働くことを決意した。

 「期間工デビューした時は、アベノミクスの恩恵で自動車需要が伸びていたので、人手不足傾向でした。だから40歳を超えていても、すぐに雇ってもらえたんです。しかし、景気の先行きが不透明になり、状況が変わってしまいました。30代ならともかく、40代は期間工でも採用されにくくなってしまったんです」

 いくつかの自動車メーカーの期間工採用に応募し、どれも年齢を理由に書類で弾かれてしまった山田さんだったが、とある自動車メーカーの面接に何とか漕ぎつけた。しかし、その面接は元エリートの彼にとって、あまりにも屈辱的な内容だったという。

◆反復横跳び、片足立ち、小学生の算数問題……

「かつては人材派遣会社による形だけの面接と健康診断のみだったのですが、その面接ではパリッとしたスーツを着た自動車メーカーの社員も面接官として来ていました。そして、理由も告げられずに“1分間の反復横跳び”を命じられたんです。驚きましたが、どうしても採用されたかったので無我夢中で必死に跳び続けました」

 その他にも片足立ち90秒間、イスに座って立つを1分間繰り返す、いくつもの小さなネジを外して締め直す、小学生レベルの算数問題をひたすら解くなどのテストも行われた。

「40代なので恐らく体力や器用さを確認されたのだと思いますが、正直言って悔しいですよ。反復横跳びや片足立ちを無表情で見つめる視線も屈辱でしたが、かつては商社で巨額の先物取引を担当していたのに算数かよって。面接の帰り道は、怒りというか悲しみがこみ上げてきました。唯一の救いは、もうプライドなんて残ってないと思っていたけど、自分にもまだ残っていんだって分かったことくらいですかね」

◆人間関係のトラブルで寮内で殺人事件や恐喝が

 面接でプライドはズタズタになった山田さんだったが、無事に自動車期間工として採用され、広島の工場で勤務することが決まった。しかし、彼の受難はこれだけでは終わらなかった。

「新幹線代がもったいなかったので、東京から夜行バスで広島に行き、工場の近くに用意された寮に入りました。やっぱり長距離のバスはあまり眠れないし、体が疲れますね。でも入寮したら、眠気が一気に吹き飛ぶような出来事があったんです」

 それは寮生活の注意事項の説明を受けている時だった。「基本的には迷惑にならないように大声を出さない、テレビのボリュームは下げるとか、ありきたりな内容でした。だいたい聞き流していたのですが、その中でとんでもない発言が飛び出したんです」

 耳に入ってきたのは「過去に寮内で殺人事件が発生した」という衝撃の事実だった。

「『寮内での金銭の貸し借りはしないように』の後に、『それが原因で過去に殺人事件が起きていますから』とサラッと言われたんです。でも、それ以上詳しいことは何も聞かされませんでした。その工場では過去に、同僚にストーカーされているという妄想に取りつかれた期間工が、工場のゲートに車で突っ込み、十数人を死傷させた事件があったんです。新聞や週刊誌、ワイドショーなどでも盛んに取り上げられたので、そのことは知っていました。でも、それはあくまで例外的な事件だと思っていたんです」

 自分の部屋に入り、すぐにスマホで検索してみると、先ほど告げられた内容であろう金銭の貸し借りをきっかけとした殺人事件のほかにも、期間工が同僚から300万円もの金品を脅し取られた恐喝事件などが発生していることも判明。

◆労働者同士が潰しあう地獄

「どうやら表沙汰になっていないだけで、その寮では恐喝やちょっとしたトラブルは頻繁に起きているようなんです。そんなこと面接では一言も言っていなかったのに…。とんでもなくヤバい所に来てしまったと、初日からものすごく後悔しました」

 小林多喜二の小説『蟹工船』では、劣悪な労働環境に耐えかねた工員たちが蜂起する“労働者の団結”という救いも描かれている。しかし、団結どころか、労働者同士が食い物にし合う自動車期間工の救いのない闇に、山田さんは気づいてしまったのだった。

<文/中野龍>

【中野龍】

1980年東京生まれ。毎日新聞「キャンパる」学生記者、化学工業日報記者などを経てフリーランス。通信社で俳優インタビューを担当するほか、ウェブメディア、週刊誌等に寄稿。

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