新型コロナを巡る「世代間闘争」の不毛さ。問われる「利他的行動」

新型コロナを巡る「世代間闘争」の不毛さ。問われる「利他的行動」

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 新型コロナウイルス感染症に関するトピックで目立つのが、繁華街などへ繰り出し高齢者などへウイルスを媒介させるリスクを高めている若者に対する非難だ。しかし、そんな若者を糾弾する大人の世代は、妊娠初期の女性に風疹ウイルスを感染させないために抗体検査やワクチン接種を受けているのだろうか。

「新型コロナウイルス感染症を高齢者に媒介する若者」

「風疹ウイルスを妊娠初期の女性に媒介する中年男性」

 どちらも無意識・無自覚なままウイルスの媒介者となってしまいかねないという点においては同等だ。

二つの感染症を巡る事象から、如何にして人々が利他的な行動を取るべきなのかを考えてみた。

◆新型コロナウイルス感染拡大抑止のキーとなる世代

 世界各地で猛威を奮い、日本でも東京など都市部を中心に感染拡大が続く新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。日本国内における潜在的な感染者は膨大な数に上ると見られ、感染経路の不明な発症者が増えている現在、医療崩壊を防ぐために感染拡大のスピードをいかに減速させるかというフェーズに移行している。

 感染拡大を抑える対策として東京都の小池百合子知事は3月下旬、平日夜間や週末に不要不急の外出を控えるよう都民に要請。近接の県の知事とともに出した1都4県知事共同メッセージの中で「特に感染の発見が難しい若年層」に「慎重な行動」を取るよう求めた。

 感染症対策について医学的な見地から助言等を行う政府の専門家会議『新型コロナウイルス感染症対策専門家会議』も、3月2日と19日に出した「見解」や「状況分析・提言」において「お願い」として若者世代の行動に注意を促している。

 若者世代に対してこのような呼びかけがなされているのは、若年層は新型コロナウイルスに感染しても重症化しにくいとされるものの✴?、媒介者として重症化のリスクが高い高齢者や基礎疾患を持つ人たちにウイルスを感染させてしまう惧れがあるからだ。

〈✴?ただし、若者の重症例も報告されており、海外では基礎疾患の無い10代の男女の死亡が複数例確認されている〉

◆非難の矛先は「無自覚な若者」へ

 そのため非常事態宣言や外出禁止令などが出された世界各国でも、感染拡大抑制のキーとなる世代として若者への呼びかけが行われている。

 しかし、欧米においては行動を制限されることへの反発から「老年世代のためになぜ自分たちが我慢しないといけないのか」と自由を謳歌する若者たちの存在がクローズアップ。若者たちが感染リスクの高いドアノブや便器などを舌で舐める動画に「#コロナ・チャレンジ」なるハッシュタグを付けSNSに投稿し拡散するという事象が発生、実際に感染した事例も報告されている。

 アメリカでは1940年代に生を受けたベビーブーム世代の高齢者を指す“Boomer(ブーマー)”という言葉を用いて新型コロナウイルスを「Boomer Remover/ブーマーリムーバー(老害排除剤)」などと呼称し、高齢者へ積極的に感染させようとする若者の運動まで起こっている。

 大都市圏を中心に外出自粛が要請されている日本においても繁華街や観光地へ繰り出す若者のインタビュー映像が報じられ、無自覚な若者を非難する声が沸きあがった。ワイドショーではコメンテーターが繁華街などに出かける若者に対し「意識が低い」「無意識にウイルステロをやっているようなもの」などと糾弾する場面が目立つ他、ネット上でも危機感を持たない若者への非難の声が散見される。

 これらは言わば「大人が自分勝手で無責任な若者に呆れている」という構図だ。

◆若者を非難する大人は風疹の抗体検査や予防接種を受けているのか

 だが、ちょっと待ってほしい。海外での「#コロナ・チャレンジ」や「老害排除運動」といった極端な若者の行動が非難・糾弾されるのはもっともなことだ。しかし、単に「自分とは関係ないこと」「感染してもたいしたことにはならない」などと嘯き外出を続ける若者を非難する資格が大人世代にあるのだろうか。

 筆者が想起したのは風疹にまつわる事象だ。感染症への無自覚や危機感のなさ、そして周知の不徹底はこれまでも風疹に関する問題で指摘されていた。

 風疹自体は感染しても合併症を伴わない場合はそのほとんどが軽い症状で済むが、妊娠初期の女性が罹患すると風疹ウイルスが胎児に感染し先天性風疹症候群(CRS)の子どもが生まれる可能性が飛躍的に高まる(風疹のワクチンは生ワクチンのため、妊娠している女性は接種できない)。日本では5年周期で風疹の流行が起こっており、2012〜13年に流行した際は約1万7千人が感染し45人の乳児がCRSにより心臓や視覚・聴覚に障害を負って生まれてきた。2018〜19年の流行時には5252人が感染し5人のCRSの乳児が報告された。今年も第12週時点で73人の感染が報告されている。

 この最も気遣いが必要な妊娠初期の女性にウイルスの媒介者として風疹をうつしてしまいかねない世代が4月1日現在、41歳から57歳の男性たちだ。この世代の男性は公的な予防接種の対象外となっていたことから風疹の抗体保有率が約80%と低く、後述する「集団免疫の閾値」に達していない。そのため風疹ウイルスに感染するリスクや媒介となって他者を感染させる可能性が高い。しかし、その重大さや深刻度についてこの世代の男性が正確に認識できているとは思えない。それはあるクーポン券の利用率の低さに表れている。

◆伸びない抗体検査クーポンの利用率

 この世代の男性には、自治体から風疹の抗体検査と予防接種を受けることができるクーポン券が届いている。厚労省は2019年から3年の区切りをつけて抗体値の検査と(値が低い人には)予防接種を無料で受けることができるよう自治体を通してクーポン券を送付している。これは自己負担額もなく公費で抗体検査や予防接種ができるということだ。にもかかわらず、このクーポン券利用者はまだまだ少ないのが現状だ。

 昨年10月に厚労省が発表したクーポン券の利用率は抗体検査が16%でワクチン接種も14%と低く、抗体検査の利用率では数%しか利用していない県もあった。大都市圏においても10〜13%と低い利用率に留まっている。

この世代に該当する筆者にも自治体からクーポン券が届いている。しかし筆者は麻疹風疹混合(MR)ワクチンをかかりつけの医療機関で接種済みだ。予防接種は保険が適用されず、クーポン券配布前だったため接種費用の約8千円は全額自己負担だったが、自分がウイルスの媒介者・加害者になってしまわないための対価としてみると決して高い費用ではない。

◆“無責任な傍観者”に外出する若者を非難する資格はない

新型コロナウイルス感染拡大に無自覚・無責任な若者を非難する人は風疹の抗体検査や予防接種を受けているのだろうか。特に前述の風疹予防接種“谷間の世代”の男性はどうか。もし仮にこの世代の男性が風疹の抗体検査やワクチン接種も受けずに、新型コロナウイルス禍の中で外出を続ける若者を非難しているとしたら、その齟齬には首を傾げざるを得ない。

 風疹ウイルスの媒介リスクがあるのはこの“谷間の世代”だけでない。その下の世代、現在32歳から41歳の男性(1979年4月2日〜1987年10月1日生まれ)も風疹ワクチン接種率が低く、同世代の女性を含め接種自体も一度だったため抗体が下がっている可能性がある。さらにその下の世代である現在20歳から30,31歳の世代(1987年10月2日〜1990年4月1日)の男女は幼児期に接種しているがやはり接種は一回のため抗体が下がっている可能性もある。また4月1日現在58歳以上の世代は定期接種前のため、その多くが自然感染し免疫を得ていると見られるが全員に免疫があるとは言えない。要は各世代で確認が必要ということだ。

 大きな企業の中には風疹を含む代表的な感染症の集団接種を行っているところもある。そのような”恩恵”を受けられない人であっても風疹クーポン券を受け取っているなら、この期間限定の制度を活用しない手はない。

◆集団免疫と「利他的行動」の重要性

 新型コロナウイルス拡大阻止と風疹クーポン券に共通するキーワードが「利他的行動」だ。

 風疹無料クーポン券を受け取ったにも関わらず抗体検査すら受けない人がまだ多くいるという現状。時間的な余裕がないなどの理由のほかにそもそもの周知の少なさや重大性の認識不足等様々な要因があると思われるが、キーポイントはどうすれば人は利他的な行動を積極的に取るのかということだ。

 ワクチン接種をリスクとベネフィットの関係から自己選択の問題と見る向きもある。その側面は否定しないが、こと風疹に関しては社会の一員として、集団免疫を維持し妊娠中の女性や胎児を護るためにも積極的に抗体検査やワクチン接種を受けるべきだ。

風疹ワクチンの接種や抗体検査推進については当事者グループの『風疹をなくそうの会/hand in hand』やCRSの当事者である風見サクラコ氏(Twitter ID:@withCRS)が貴重な発信を続けている。

一人から他者に感染させてしまう人数を「基本再生産数」と呼ぶが、この基本再生産数から集団内で感染症を封じ込めることのできる集団免疫の獲得率・集団免疫閾値(集団免疫獲得のために達成すべき集団内の抗体保有者の割合)を代表的な感染症で見ていこう。

 新型コロナウイルス感染症に近いと想定されるインフルエンザで67%、風疹では85%、感染力が非常に高い麻疹においては94%必要とされる。

 新型コロナウイルス禍についても前述のように、感染拡大のスピードを抑え医療体制の崩壊を招かないようコントロールし、治療薬とワクチンの開発を進めながら抗体を持つ人を増やして集団免疫を形成するという長期戦の様相となっている。ワクチンが開発され接種した人や罹患して回復し抗体を持つ人が増えれば集団免疫によって感染の拡大化を封じ込めることができ、収束に向かうと見られているからだ。また、たとえワクチンが開発されても先天的にワクチンを接種できない人がいるため、そのような人々も集団免疫で護る必要がある。

◆如何にして「利他的行動」を取るか

自己の選択一つで他者を護ることにも、また逆に他者を危険に晒すことにもなる。先天性風疹症候群、そして今回の新型コロナウイルス禍によって「利他的行動」の重要性が改めて提示された。我々に問われているのは社会の一員としての理性的な判断だ。

<取材・文/鈴木エイト(ジャーナリスト)>

【鈴木エイト】

すずきえいと●やや日刊カルト新聞主筆・Twitter ID:@cult_and_fraud。滋賀県生まれ。日本大学卒業 2009年創刊のニュースサイト「やや日刊カルト新聞」で副代表〜主筆を歴任。2011年よりジャーナリスト活動を始め「週刊朝日」「AERA」「東洋経済」「ダイヤモンド」に寄稿。宗教と政治というテーマのほかに宗教2世問題や反ワクチン問題を取材しトークイベントの主催も行う。共著に『徹底検証 日本の右傾化』(筑摩選書)

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