無差別のコロナと差別的な人間、新型コロナ経済対策に垣間見える国家主義の台頭

無差別のコロナと差別的な人間、新型コロナ経済対策に垣間見える国家主義の台頭

小野田紀美議員の人種差別発言ツイート

◆自民党・小野田議員の差別発言

 現在、自民党参議院議員・小野田紀美氏の発言がインターネットで物議を醸している。この非常事態の中、日本政府の経済支援について、このようなツイートを残したのだ。

 「選挙権も納税の有無は関係ありません。非課税世帯だろうが、高額納税者だろうが関係なく『日本国籍を持つ成人』が絶対にして唯一の条件。同様に、最終的な生活保障の責任を負うべきは国籍を持つ国です。他国が日本国民を同様に扱っているならば相互主義もあり得ると思いますが。国籍を軽んじ過ぎです」

 小野田氏のこの発言は人種差別的だと批判され、ネット署名サイト「Change.org」では彼女の議員辞職を求め一万人以上が署名している。

◆行動制限と経済支援が必要なコロナ対策

 ここでまず、新型のコロナウイルス対策における経済対策の重要性について触れておきたい。

 各国が新型コロナウイルスの対策で頭を悩ませる中、日本でもようやく「非常事態宣言」が発表され、東京・大阪をはじめとする都市部にて人々の行動を制限することとなった。

 筆者の住む英国・ロンドンでも3月23日付で事実上のロックダウンが宣言され、それは今でも続いている。基本的には、医療従事者やその他、キーワーカーと言われる最低限の社会生活に不可欠な働き手以外の人々は、生活必需品・医薬品、そして1日1回に限られたエクササイズ以外での外出は制限された。

 ここで多くの人々に降りかかって来る問題が、「お金」の話だろう。

 もちろん、コロナ感染拡大を抑制するために外出制限を強いるということは人命にとって大切だ。コロナは罹患者であっても無症状の人が多いという報告があるため、「自分は大丈夫」と思いながら外出して他人を感染させてしまい、その結果身の回りの大切な人たちの命を奪うことになりかねない。

 その一方で外出が制限されるということは、経済が滞るというということでもある。街から人の姿が消えた時、一番の痛手を被るのは飲食・小売店などの中小企業だ。また、各国がそれぞれ国外への渡航を禁止する中、旅行業や航空交通機関など、国内外問わず都市間をつなぐ産業にとっても大きな痛手だ。

 ゆえに、この新型コロナ対策には行動制限と共に経済支援がとても重要な役割を果たすことになる。

 米マイクロソフト社の創業者、ビル・ゲイツ氏は「経済はいくらでも立て直しがきく。でも人は死んだら生き返らない」という言葉を発信しているが、正直、この現状が続くと、生活破綻して別の意味で多くの人が亡くなる状況も全くあり得ない話ではない。

◆英国では給与の80%を政府が保証

 筆者の住む英国では政府が新型コロナウイルスの影響で働くことができなくなった人々の賃金を最低でも3ヶ月間80%払い、その上限は被雇用者一人当たり月々2500ポンド(日本円にして35万)という決断を下した。この支援金自体は英国内の企業に分散されるので、英国内の企業で働いていれば国籍を問わず賃金が保証されるということだ。

 リシ・スナック財務大臣によるこの発表はロックダウン(3月23日)前の3月20日に行われている。ここで鬱積したフラストレーションが少し解消された人々も多い。

 また、当初は支援の対象外となっていたフリーランスや個人事業主として働く人々に対しても、同様の経済支援措置を追って26日には宣言した。また、所得税・他税金等の支払いも延期となっている。こうした措置はもちろん国籍とは関係なく行われる。

 また、社会保障の豊かなドイツでは、申請から2日で給付金が振り込まれていたという。その迅速な対応に驚いた日本人フリーランスの話もツイッターで話題になった。こういう時に政府の迅速な対応は人々を安心させる。これこそ国の統治機関としてあるべき姿ではないだろうか。

 故に、先に述べた小野田議員の心無い発言は衝撃を持って受け止められた。

◆やっと発表された経済対策

 ちなみに日本政府は4月6日付で総額108兆円規模の緊急経済対策を実施すると発表した。

 当初は和牛券や魚券、挙句の果てには各世帯に二枚の布マスクと奇抜な政策で世界中の度肝を抜かしていた日本政府だが、やっと、条件付きとはいえ現金支給という経済対策が出てきて一安心した。

 収入が大幅に減少して住民税が非課税となる水準までになってしまった低所得世帯、中小企業・個人事業者に現金を支給するとのこと。もちろんこれらは国籍関係なく、日本での長期に在留資格があれば給付対象になるという。

◆隆盛する排外主義と伝統的価値観

 新型コロナウイルスは恐ろしいほどに差別をしない。差別をするのは人間だ。

 前述したように、今回の新型コロナウイルスの影響で世界中、無差別に人が亡くなっている。また、多くの国、多くの人が行動を「自粛」の名の下制限されている中、明日、来週、来月の資金調達に困っている人が大半だ。

 このような文字通りの「非常事態」の時に、国籍主義の精神の下、日本で一生懸命働いて納税し、日本の経済を支えている人々を無視するのはそもそも人の倫理に反するといえよう。ちなみに、小野田議員の言う「他国が日本国民を同様に扱っているならば相互主義」は既に実現されているし、一国会議員なのであれば各国の経済対策などにもしっかり目を通していただきたいものだ。インターネットがあれば簡単にできることだ。

 先日、ターフ論争に関する記事でも差別について触れたばかりだが、このように非常事態時に加速する国家主義的考えや排他的な考えも、やはり自身の社会的秩序・線引きに基づいた自身の存在が危機感を感じるという「恐れ」に依拠するものであると言っても過言ではないだろう。

 ベルリンの壁が崩壊してから1年後の1990年に出版された大前研一氏による『ボーダレス・ワールド』は、現在のグローバル化された経済社会を見据えた革新的な本だ。国境が経済生活においていかに意味をなさなくなるか、という内容だ。

 日本人の大半が中国やベトナムで生産された洋服を着て、アメリカやオーストラリア産の肉を日々食べている。私たちは日本という国にいながら外国の影響を知らず知らずに受けているのだ。

 もちろん、このグローバル化と言うものは我々のアイデンティティにも影響する。人と物の移動がより自由になるということは、既存の伝統的価値観(国家や宗教)が否定されることでもある。

 そうすると、「心の拠り所」を失った人たちはそれによる「恐れ」から伝統的価値観を守ろうとする。また、このような既存の伝統的価値観は外来者からの「安全」のイメージを投影しやすい、とスウェーデン人、政治心理学者のカタリーナ・キンヴァル氏は論じる。

 今、この新型コロナウイルスで世界中が揺れ動く中、グローバル化の価値観も一気に後退してしまったようである。

 実際に、国境が封鎖され、人と物の移動の自由が制限されたこと、そしてそれぞれの国家がまるで新型コロナウイルス対策レースでもしているかのようなこの状況。

 これはグローバル化とは真逆のベクトルである。

 グローバル化の価値観への反発とは、既存の伝統的な価値観、特にこの文脈では小野田議員のような国家主義的な価値観の再興ということになるだろう。これは別に日本に限ったことではない。(無論、筆者はここでグローバル化の全てを賞賛したい訳ではない。グローバル化のおかげで国家間レベルでの貧富の差が拡大しているのは事実である。)

 このようなグローバル化への反発は新型コロナウイルス以前からすでに起こっていた。米ドナルド・トランプ氏のような「大アメリカ主義」を唱える大統領、英国のEU離脱、そして日本の安倍政権の保守化。各国で既にここ10年で保守派が台頭していたが、新型コロナウイルスのパンデミック化を機にこのような保守的な価値観に急激に拍車がかかっていると言っても過言ではないだろう。

 米トランプ大統領が新型コロナウイルスを「中国ウイルス」と発言したり、欧米諸国で東アジア人が差別の対象になっていたりすることも、恐れや危機感に依拠する「外来者」の排除・差別が心理的原因だろう。

 また、筆者の暮らす英国でも、ボリス・ジョンソン首相の演説の仕方はまるで第二次世界大戦中のウィンストン・チャーチル首相の如く、強く国民を鼓舞するような話し方だ。そして遂にはエリザベス女王までもがテレビで演説するという、まるで本当に戦時中のような状況である。

 今、程度の違いはあれど、世界中が困難な状況に置かれている。これは皮肉にも無差別である。

 このような時だからこそ国家間で協力しあって新型コロナ危機の終息を目指すのが筋ではないのだろうか。「他者」を(例えば国籍で)線引きし、自己優越感に浸るのはなんと陳腐で自分勝手な行いなのだろう。

 一人一人が、国と国同士が、協力し合うことで感染の抑止だけではなく、本来の意味での新型コロナ危機、経済・社会的な危機を乗り越えることが可能なのである。

 一刻も早くこの事態が終息することを心から願っている。

【参考文献】

Kinnvall, C. (2004). Globalization and Religious Nationalism: Self, Identity, and the Search for Ontological Security. Political Psychology, 25(5), 741-767. Retrieved April 7, 2020, from www.jstor.org/stable/3792342

大前研一 (1990) 『ボーダーレス・ワールド』プレジデント社

<文/小高麻衣子>

【小高麻衣子】

ロンドン大学東洋アフリカ研究学院人類学・社会学PhD在籍。ジェンダー・メディアという視点からポルノ・スタディーズを推進し、女性の性のあり方について考える若手研究者。

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