新型コロナで悩む保育園事業者。「親にも事情がある。でも子どもの命は大切。だから臨時休園を決めた」

新型コロナで悩む保育園事業者。「親にも事情がある。でも子どもの命は大切。だから臨時休園を決めた」

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◆保育園の休園も始まる

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、4月7日に政府は7都府県に対して緊急事態宣言を発令した。さらに16日には対象地域が全国に拡大された。これまで外出の自粛や公立の小中高では休校措置が取られてきたが、保育園は原則として開園を続けてきた。

 しかし緊急事態宣言の発令によって、一部の自治体では認可保育園の原則休園を打ち出す動きが見られたほか、自主的に臨時休園に踏み切る認可外保育園事業者も出始めている。感染リスクを感じながら開園を続けてきた事業者に対策や臨時休園を決めた理由について聞いた。(※取材は4月9日にオンラインで実施)

 取材に応じてくれたのは、東京都新宿区・文京区で認可保育園、企業主導型保育園を合わせて4園運営する辻村人財コンサル株式会社「繭の糸グループ」理事長の辻村あいさん。運営の4園のうち3園を4月8日から緊急事態宣言が終わる5月6日まで、約1ヶ月にわたり臨時休園する。

◆保育園では「濃厚接触」の連続。感染拡大がいつ起こってもおかしくない

 3月初旬から公立の小中高では休校となったが、保育園は「原則として開園」とされた。しかし多くの人が集まり、園児と保育士が近距離で接することから、保育園はあらゆる感染症対策を取りながら園児を受け入れていた。

 「繭の糸グループ」が運営する4園で実施してきた予防対策について辻村理事長は、次のように話す。

「お子さんをお預かりする際、玄関での検温と手指消毒を徹底しました。保育士がお子さんの体温を計り、37.5度以下であることと目に見えて体調が悪くないかをチェックします。さらに手指の消毒と洋服に除菌スプレーを吹きかけてから保育スペースへ入室してもらいました」

 そのほか全ての保護者と約70人いるスタッフ全員に除菌スプレーを配布し、日常的な手指消毒に努めてもらった。

 しかし、どんな対策を講じても「新型コロナウイルスの感染をどこまで防げるかはわからない」と辻村理事長は不安な気持ちを抱いてきたという。

「保育園では、保育関係者とお子さんの濃厚接触が繰り返されています。手を取って一緒に遊びますし、オムツ交換時には便や便で汚れた洋服に触れてしまうリスクはあります。細心の注意を払っても、保育園はいつ感染拡大の場になってもおかしくないわけです」

◆誰かが感染するまで開園するしかない

 3月上旬の段階では、感染拡大を防ぐため「50人以上の参加者がいるイベントを見送る」といった方針を決めたものの、卒入園式は予定通り実施する予定でいた。

 辻村理事長も「3月半ばにとあるメディアに取材をお受けした際には『感染予防対策を行いながら開園しています』とお話していました。まだ気持ちにゆとりがあったのです」と振り返る。

 3月半ばといえば、安倍首相が「五輪を予定通り開催したい」と発言していた頃だ。そこから1ヶ月と経たず、まさか緊急事態宣言が発令されるとはおそらく多くの人は予想できなかっただろう。

 しかし同月下旬にかけて感染者数が急増し、首都圏の都県では週末の外出自粛が呼びかけられるなど、国内に危機感が一気に高まった。状況の急激な変化に不安を覚えたため、辻村理事長は自治体や内閣府に問い合わせたが(※)、両者からは「開けてください」と返されてしまう。

 基本的に保育園は事業者の判断で休園ができない。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、早い段階で臨時休校となった小中高とは対照的だ。

 こうした状況について辻村理事長は「感染を予防しながら開園を続けるか、関係者に感染者が出て休園するかしかありません。言いかえると、誰かが感染するまで開園するしかありません」と疑問を呈した。

(※)認可保育園は自治体、企業主導型保育園は内閣府と、管轄者が異なることから問い合わせ先が違っている。

◆子どもの命は大人が守らなければならない

 4月に入り、辻村理事長の気持ちは休園に向かい始めた。「働く親の事情はわかる。でも、このまま開園を続ければ、子どもたちやスタッフにも感染のリスクがある」。葛藤の末、4月6日夕方に運営する4つの園のうち、3つ企業主導型保育園を臨時休園することを決めた。

 企業主導型保育園は自治体の認可を必要としない認可外保育園に属しており、一定の判断で休園が可能であったためいち早く決断ができた。その後8日の緊急事態宣言の効力発生後は、認可保育園にも休園するケースが見られたものの、自治体によって対応はさまざまだ。

 ただし、医療従事者の親を持つ子どものみは引き続き保育をしている。

「一番大切なのは、子どもの安全です。保育園では細心の注意を払っても、濃厚接触は避けられません。子どももマスクをしたほうがいいのですが、やはり快適なものではないので難しいものでした。人との接触を減らせば感染リスクを下げられるわけですから、そのためには休園が好ましいと判断したのです」

保護者の反応はどうだったのだろうか。休園を決定後、各園の園長が保護者一人ひとりに電話で休園を伝えたが、反応は全て快いものだったという。

「保育園にお子さんを預けられなければ、親御さんは困るはずです。にもかかわらず、私たちへの気遣いのお言葉をくださる方がいらっしゃり、涙が出そうになりました」

 臨時休園の決断に理解を示した保護者に感謝の気持ちを抱く一方で、辻村理事長は複雑な気持ちも感じている。

「親御さんとしても仕事を休めるのであれば、休みたいと思っていらっしゃるのではないでしょうか。でも会社や生活のことを考えると、仕事を休んで登園を控えるのは難しい。

 政治家の方には『今は子どもの命を守るのが一番大切』と思っていただき、休業の補償を含めて親が安心して休めるための支援をしていただけると良いと感じています」

 取材でも繰り返し発せられたが、辻村理事長が一番に考えているのが子どもたちの安全だ。臨時休園すれば、親への影響は免れないが、開園を続ければ、園児・スタッフともに感染のリスクを抱え続けなければならない。

 認可保育園も休園が可能になってきているが、保護者の事情や要望はさまざまであるほか、自治体によって原則休園か登園自粛要請かの対応は異なる。このような状況の中、辻村理事長のように、保育園事業者は今、開園か休園かで葛藤している。

<取材・文/薗部雄一>

【薗部雄一】

1歳の男の子を持つパパライター。妻の産後うつをきっかけに働き方を見直し、子育てや働き方をテーマにした記事を多数書いている。

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