コロナ禍の中、物流を担うドライバーへの理不尽な差別が横行。それは決して許されない

コロナ禍の中、物流を担うドライバーへの理不尽な差別が横行。それは決して許されない

インフラを守るために昼夜走るトラック

 「トラックドライバーが一般ドライバーに知っておいてほしい“トラックの裏事情”」をテーマに紹介している本シリーズ。

 前回は新型コロナウイルスによる混乱がトラックドライバーや物流に及ぼしている実質的な影響を伝えたが、今回はコロナによって降りかかるトラックドライバーたちへの言われなき「職業差別」について述べていきたい。

 

 新型コロナウイルスの症状には、風邪やせき、呼吸困難などという感染者に起きる症状の他に、もう1つ多くの人間にもたらす深刻な症状がある。それは、「人間性疾患」だ。

 冷静な判断ができず、デマの拡散やそれによる買いだめ、買い占めを生み出す心理的不安などが挙げられるが、中でも顕著なのが「差別」だろう。

 外国に滞在しているアジア人の知人たちからは、「通りを歩いていたら突然唾を吐きかけられた」、「すれ違いざまにHi, Corona(やあコロナ)と声を掛けられた」、「電車で袖が触れただけで腕を何度もはたきながら席を立たれた」など、テレビで報道されるような差別的言動が日常的被害として届けられる。

 こうした毎日に嫌気が差し、一時帰国や完全撤退を決断する人まで出てきている。

◆「トラックドライバーの子供は学校に来させない」

 しかし、このような差別的言動が起きているのは、何も海外だけに限ったことではない。筆者が普段から取材しているトラックドライバーたちの間では、ある小学校で起きた「職業差別」に強い非難の声が上がっている。

 先日、愛媛県新居浜市の小学校の校長が、新型コロナウイルスの感染を防ぐ目的で、東京や大阪などの感染拡大地域を行き来する長距離トラックドライバーの親をもつ子ども3人(新1年生含む)に学校へ登校しないよう要請していたことが分かった。(参照:<新型コロナ>トラック運転手の子に「自宅待機を」 愛媛の小学校で入学式など3人欠席|東京新聞)

 市の教育委員会はその数日前、市内の全小中学校を通じて各家庭に「春休み中に感染拡大地域を訪れたか」を問うアンケートを実施。その際、当該ドライバーの家庭から「仕事で感染拡大地域を訪れたが子どもを登校させていいか」と問い合わせを受けたという。

 これに対し、市教委から「今回の出張場所を考えるとリスクが高い」と回答を受けた学校が、同生徒らに2週間の自宅待機を要請。

 当該ドライバーは仕事先での感染防止対策を十分にしており、子どもたちにも健康上の影響はなかったが、結局3人はこの要請を受けて入学式と始業式を欠席。

 が、その保護者が勤務する運送会社から「運送業者の子どもはずっと学校に行けないことになる。職業差別だ」との指摘があり、学校は同生徒たちの翌日からの登校を認め、保護者に謝罪したという。

 これに対し、現役のドライバーからは、

「これは悲しい。私も東京‐大阪間の大型ドライバーだけど、物流を止められない使命感で働いてるのに、この扱いかよ」

「子供には勉強を受ける権利がある。それはいかなる者であっても妨げることはならないはず」

「子供たちがいじめの的にならないように願うばかりです」

「私も含め多くの長距離ドライバーは首都圏や関西圏に行く際は特にマスクや手洗い消毒等を徹底して、強い責任感を持ち地元にコロナを持ち帰らないようにしています」

 

 といった声が上がった。

◆他にも、多くのドライバーが心無い言葉を浴びている

 また今回この報道を受け、トラックドライバーをはじめとする物流関係者に「コロナ騒動によって職業差別を受けたことはあるか」とSNSで問うたところ、ある地方から関西・中京・関東方面へ食品関係の荷物を運んでいるドライバーから「自分が長距離ドライバーということで、妻がアルバイト先から2週間の自宅待機の要請を受けた。子どもたちも通学停止になりそうだ」という報告があった(新居浜市の事例後の顛末を聞いたところ、撤回されたという)。

 その他にも、

「弊社のドライバーが『皆が行動を自粛している中、お前らはよく色んな所へ行けるな。お前らが全国に撒き散らしているのと違うか』と罵られたとの報告があった」

「近所の人から『外出自粛要請が出ているのにウロウロするな』と言われた」

など、多くのトラックドライバーに心無い言葉が浴びせられている実態が分かった。

 実際、トラックドライバー目線で取材や執筆をしている筆者自身にも「仕事があるだけいいと思え」「全国走り回ってウイルスをまき散らすな」といったドライバーを非難・差別する内容のメールが送られてきている。

 前回にも紹介した通り、新型コロナウイルスの影響で、物流は現在ひっ迫している。

 世の経済活動の減退によって荷量が減り、仕事と生活費を失いかけるドライバーがいる一方、社会インフラに直結する備蓄品や「巣籠り消費」に携わるドライバーにとっては、毎日が戦いだ。

 物流・運送業はカタチとして残らず、自分たちの依頼した荷物がどうやって運ばれているかも世間にはほとんど意識されることがない。

 とりわけ一次輸送(いわゆるB to B)を担うドライバーにおいては、消費者と直接的に関わることが全くといっていいほどないため、悲しいことにその存在が意識されるのは、居場所がなく停めた路上駐車時と、運転マナーが悪いと文句を浴びせられる時くらいだ。

 日々の努力は「送料無料」という表現でコスト扱いされ、商品そのものの原価よりも前に「値引交渉の対象」とされる始末。

 が、貨物輸送の9割はそんなトラックが担っている。これは、今顔を上げて目に映るモノのほとんどが一度はトラックに乗ってきたことを意味している。

 インフラを下支えしているドライバーたちは、コロナ禍で感謝されこそすれ、差別など到底あってはならない。

◆トラックドライバーの実態は「3密」とは程遠い

 今回のようなコロナ禍による差別的言動は、消費者が普段どれだけ「目に見えない人」に支えられていることを意識していないかが分かる典型的な例と言える。

 そもそもトラックドライバーが感染拡大地域、またはその他の地域で感染する率は、下手に「東京から他県へ旅行し、50人もの団体と神社を参拝する」よりもはるかに低い。彼らはどこに行こうとも、1人で行動することがほとんどだからだ。

 また、荷主先ではずいぶん前からマスク着用義務や検温検査がなされており、荷積み・降ろし作業も幸か不幸か、1人でさせられることが多い。

 こうした実態も把握せず「長距離トラックドライバー=高感染率者」と決めつけ、健康状態に問題のないその子どもに通学させないとするのは、完全なる偏見でしかないのだ。

 今年初め、筆者が新居浜地区のトラック協会で講演会を行っていた縁で、関係者にその後の話を聞くことができた。

 後日、新居浜市長と教育委員長が、トラック協会の同地区協会会長の元を訪問。同席した関係者が要求していた顛末書と、小中学生やその保護者に向けて作成した「いじめ防止」に対する文書が提出されたという。

 説明を受けた当該の子どもも、自分の父親の仕事を「すごい仕事なんだよね」と誇らしげに語っていたそうだ。

 物流はリレーだ。決して自宅の玄関は「どこでもドア」ではない。

 この記事の原稿執筆中、ある荷主元の作業員からこんなメッセージが届いた。

「自分の会社にドライバーさんが集配に来られた際は、微力ですがサポートさせて頂いています。普段は赤の他人ですが、もので繋がっている、必ず届けるという責任は同じですので」

 我々がこうした有事の只中でも普段通りに買い物ができるのには、見えずとも確実になされているこうした荷のリレーがあることを忘れてはならない。

<取材・文・写真/橋本愛喜>

【橋本愛喜】

フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働環境問題、ジェンダー、災害対策、文化差異などを中心に執筆。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書) Twitterは@AikiHashimoto

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